第2話 異形種襲来

月の救世主たるアニス様とドラゴン族の長ドランとの戦闘は、圧倒的な力の前にドランが敗れた。

このことを遠くから見ていたビースト族の長であるライオは、救世主たる少女に関心を示していた。

また、この少女には、絶対に勝てないという野生の勘が物語っており、戦いを挑むことはしようとは思っていない。


僕は、遠目で見ていたのを『千里眼』で知っていたので、ライオに念話テレパシーで話しかける。


『やぁ、ライオ。久しぶりだね。君から見た月の救世主様の感想は?』


『ラストか...。相変わらず、勘のいい奴だな。俺が遠目で見ていたことに気付いていたとは。あれには、手を出すなと野生の勘が告げておる。それにしても、あの少女が月の救世主とは、驚きだが、あのドランをも瞬殺できる戦闘力以外の力も持っているとなると怖ろしい限りだな。』


『あぁ、彼女は、僕の力をも凌駕している。君の野生の勘は鋭いから、正にその通りだと思う。ただ、彼女はその力を間違った方向には使わないのは、僕が保証するよ。』


『ラストの保証か、物足りない気もするが、月の最後のヒトたる君の意見を聞いておくとしよう。ところで挨拶は必要か、不要であれば、そろそろ来る頃なので、持ち場に戻るが...。』


『そうか、そろそろ時間か...、うん、持ち場に戻って、迎撃の準備をしてくれ。僕たちもあとから参戦するから。』


『ふっ、参戦の機会は無いと思うがね。君いない間に俺らも力を付けているのだ。見くびらないでおくれよ。では、さらばだ。』


こうして、ビースト族の長たるライオとの念話テレパシーを終えるとアニス様が話しかけてきた。


「ねぇ、カボチャさん、あそこにいたライオンみたいな獣さんと話してたの?」


「はい。そうですよ。よくお気づきになられましたね。」


「だって、ずっとドランさん達からの襲撃をずっと見てたからね。ただ何もせず、私を観察してたみたいだけど。」


「彼は、ライオと言ってビースト族の長です。アニス様のことを警戒しつつ、見ていたようです。」


「まぁ、警戒されて当然よね。それにしても、隙を見て襲ってくるのかと一応、意識はしてたけど、ドランさんを気絶させても、敵意は無かったから大丈夫かなって思ったけどね。」


「彼曰く、野生の勘がアニス様には、手を出すなと知らせたそうです。」


「野生の勘か、なんだか、おじいちゃんも同じようなことを言った時があったなぁ~。それにしても、ライオさんも防衛の位置に向かったのかしら?」


「アニス様、なんでそれを?」


「うーん、月の大樹の結界に綻びを感じるのよね。たぶん、出てくる異形種と呼ばれるモノは3体かしらね。」


「3体もですか!それでは、ライオ達が危ない。急がないと。」


「でも、3体とも一箇所から出てくる訳じゃないのよ。まずは、ここに2体。ライオさん達の所に1体って感じかしら。」


「ここに2体ですか?それはアニス様を狙ってということですか?」


「たぶん、そうね。結界の向こう側で、私と言う此処では、異形の存在を敵視したみたいね。なので、カボチャさんは、ライオさんの所に向かって。この場所は私が何とかするから。」


「しかし、例え、アニス様でも異形種2体を相手にするのは、些か無謀かと。」


「じゃあ、危険だと思ったら、援護してくれるかな。でも、邪魔はしないでね。」


邪魔か...。この方の戦闘力は、正直、未知数だから何とも言えない。

僕以上の力を持っていたとしても、この月には、精霊が皆無に等しい。だから、精霊に関する力は使えないに等しい。

古式術に関しては、一族に伝わる秘奥とも言われる技だから、その全ては謎のままで、僕も知らないことが多い。

一体、見たことも無い異形のモノと戦うと言うのだろうか...。

7体の内の誰が出てくるのかも、わからないというのに。


「そろそろ来るわ。カボチャさん、正直言うと邪魔だから、軽く離れてくれないかな?」


「わかりました。でも、危険と判断したら、すぐにでも援護しますからね。」


「もう心配性だな~。大丈夫だって、泥舟じゃなかった…大船に乗ったつもりで見ていてね。」


「では、軽く離れてますね。」


僕は渋々、その場から少し遠めの場所に離れた。

それでも、瞬間移動テレポートで、すぐにどちらにでも反撃できる距離に陣取っている。

ライオ達も気になるけど、ビースト達は特有の力を持っているし、ドラゴン族もすぐに駆け付けるだろうから、問題は無い。

問題は、こっちに現れる2体だ。1体であれば、奴以外の誰が出て来ようと相手はできる...。

もし、2体の内、1体が奴なら、幾らアニス様でも、危険なはず...。


何もない空にひびが入り、空間が裂け始める。

そして、2体の異形種が現れる。

最悪の2体が、アニス様の眼前に現れた。


7体の異形種を総括している『太陽サン』とその副官たる『ムーン』の2体。


この2体が現れるのは、予想外だった。

いずれも同時には現れない。

何故なら、奴らをまとめられるのは、この2体しかいないからだ。


『フフフ、ツイニ現レタカ、我ラヲ滅ボスものヨ。』


「別に滅ぼすつもりは無いけど、この月を滅ぼそうとするのなら、相手にするだけよ。」


『小娘ガ我ラガ王二対シテ、無礼デアロウ。ソコ二跪ケ・・


「ふん、そんな言霊程度で、私が跪くものですか!」


さすがアニス様と言うべきなのだろうか...、

あの2体を目の前にして、まったく憶することがない。

大抵の者なら、あの『ムーン』の言霊の前では、為す術がないのにそれすらも無効にするとは。


「それで、私を殺しに来たのかしら?」


『様子見デ来タノダガ、死ヲ望ムノデアレバ、我ガ全力デ応エヨウ。』


『コノヨウナ小娘、私ノミデ問題アリマセン。』


「別に私は、二人掛かりでも構わないわよ。」


『小娘ガ我ラガキングノ前デ、ツケアガリオッテ…。』


そういうと『ムーン』がアニス様に攻撃を始める。

ムーン』が得意とする敵対者に対して広範囲収束バリアからの全周囲からの光速連撃。

アニス様は、わざとそのバリアに誘い込まれ、光速連撃を全て弾き返し、バリアを内部から破壊する。


『小癪ナ小娘ガ調子二乗リオッテ。』


「つまらない攻撃ね。じゃあ、こっちから行くわよ。」


そういうとアニス様が一瞬にして、『ムーン』へ一撃を加える。

何が起こったのか、『ムーン』は解ってない様子で月の大地に落とされる。


『何ヲシタ、小娘...。』


「古式術武闘技、瞬天撃っていう技だけど、簡単に言うとただ一発、殴っただけよ。」


『オノレ、コレデモ喰ラエ!』


ムーン』がアニス様の全周囲からのビームレーザーを瞬時に放つ。

しかし、ビームレーザーはアニス様をすり抜けていく。


『馬鹿ナ、コノ攻撃ガ通ジナイダト...。』


「面白い攻撃だけど、相手が悪かったわね。じゃあ、そっくりそのままお返しするわ。」


ムーン』の周囲に結界が展開され、繰り出されたビームレーザーが『ムーン』の身体を貫いていく。


「さて、王様が残ってるけど、私と戦ってくれるのかしら?」


『流石ワ月ノ救世主ト呼バレルダケアル、アノムーンガ手モ足モ出ナイノダカラナ。』


「なんて、あの女王様、本気を全く出してないじゃない。私のことを観察してるみたいで嫌な感じだわ。」


『ホウ、流石ワ救世主ト呼バレルダケアル。ナラバ、失礼二値スルナ、ソロソロ本気ヲ出サセヨウ。ムーンヨ、本気ヲ出セ!』


「本気で相手をしてくれるなら、精一杯、お相手をしないとね。」


ムーンと呼ばれる異形種が変態していく。

ヒト型の形態から天使の羽根を広げ、悪魔のような体格と冷酷な表情に変化する。

僕は、あの姿を何度も見ているから、知っているがあの姿になるとスピードもパワーも何万倍にも変化する。

アニス様は、あの姿についていけるのだろうか...。

しかし、表情からして、まだ余裕な感じに見える。普通の人なら失心するレベルなのに...。


『行クゾ、ソシテ、死ネ!』


「死にたくないから、それなりの力でお相手するわ。」


一瞬にしてムーンの姿がその場から消える。

アニス様の目の前に表すと、瞬時に攻撃に入る。

それでも、アニス様は、その全ての攻撃をかわしている。

あのスピードに余裕でついていってる。何かの力を使ってるのだろうか...。

何かしらの力を使ってる気配は、全く見えない。


『オノレ、何故、攻撃ガ当タラナイ。』


「そんな単調な攻撃で本気なの?さっきみたいな技を使いながら攻撃した方がいいんじゃないかしら?それとも余裕を見せてるの?」


『ナラバ、本当二本気ヲ出サセテ貰オウ。』


すると、閃光が放たれ、光の速さの攻撃が始まる。

この世の最速とも呼ばれる光の速さの攻撃が開始される。

それでも、アニス様の表情は変わらない。

光の速さを見切っている様子。

流石は、「精霊の女王クイーン・オブ・エレメント」、全ての精霊の女王。

光の精霊王すら、凌駕する力の持ち主。

閃光など、何も意味が無いのだろう。


「さて、そろそろ、私も反撃させて貰うわね。」


ニッコリと笑うと無情なカウンターがムーンに入る。

攻撃に全ての力を費やしてるので、防御ががら空きなのだ。そして、その力の反動も相成り、思いっきり吹っ飛ばされる。


「古式武闘術奥義 反閃撃って技なんだけどっていうんだけど、あら?気絶しちゃったかしら?」


『アノ形態ノムーンガ一撃ダト…。』


「ねぇ、王様、いえ、カグヤって呼んだ方がいいかしら?貴女の娘のルナさんを助けなくていいの?」


『何故、ソノ名前ヲ知ッテイルノダ。』


カグヤ?その名は、「超能力者隊エスパーチーム」が「月光の守護者ムーンライト・ガーディアン」と呼ばれていた時の初代隊長であり、最強の超能力者エスパーとも呼ばれた存在。


「私、月の書ちゃんの持ち主なのよ。知らない訳が無いでしょ。この月のことは、ここに来る前に全て読み込んできたもの。」


『フフフ、ハハハ!ナラバ、ココハ一旦、退却スルトシヨウ。マタ、会オウ。月ノ救世主ヨ。』


そう言うと、自らムーンを連れて、次元の狭間へと帰っていく。

僕には、わからないことが多い。これは聞くべきなのだろうか?

でも、知らない方がいい場合もある。僕は月の最後のヒトなのだから…。

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神々の庭園 ~月の小庭園~ 永久乃刹那 @eta000

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