第27話以仁王2号が現れ定家、命拾いする

「さあ、下郎ども!かかってこい!」

と叫ぶと、以仁王もちひとおうそっくりの僧侶は

目にもとまらぬ速さで、黒狐の集団を

バタバタ切り捨てた。

「かっこいい!あのひ弱な宮様が

 こんなに強かったなんて!」

定家さだいえはすっかり以仁王本人が助けにきたのだと

思い込んで感心することしきりだった。

 僧侶の姿の以仁王もちひとおうの正体は、

変化の術で顔を替えた守覚法親王しゅかくほうしんのうであった。

「弟よ、無事だったのか!すぐ近くに

 妹の御所があるから一緒に会いに行こう!

 毎日泣き暮らしていてかわいそうで

 見ていられなかったが、おまえが

 生きているとわかったら、どんなに喜ぶことか。

 おれは出家の身でありながら、

 お前を助けるために妖術を使って飛んできたのだぞ!」

と守覚法親王は涙を流しながら、

以仁王に化けた定家の手を取った。

「えッ!このかたは高倉宮様本人じゃなかったの!」

と驚いた定家が僧侶の顔をよく見ると、

以前、犬に化けた自分の正体を見破った守覚法親王しゅかくほうしんのうではないか。守覚は以仁王より一つ年上の兄である。

「困ったなあ。この坊さん苦手なんだ。

 正体がばれたらどんなにお怒りになることか。

 また変な呪文で呪われるかも。

 二人きりで姫様(式子)に会う計画だったのに。」

と定家は困惑することしきりだったが、

大人しく守覚法親王と一緒に式子内親王の御所に向かった。

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