第26話定家、式子内親王をだまそうとして罰が当たる

 式子内親王しょくしないしんのうの兄宮である以仁王もちひとおう(1151~1180)の姿に変身した定家さだいえ

式子内親王しょくしないしんのうの御所目指して

一目散に走っていったが、黒ずくめの武装集団が

どこからともなく現れて、取り囲まれて

身動きが取れなくなってしまった。

「おまえは謀反人、高倉宮(以仁王のこと)だな!

 まだのうのうと生きておったのか!

 皇太子どころか、親王しんのうですらないくせに、

 よくも我々黒狐くろぎつね一族が仕える偉大な平家に対して

 やいばを向けてくれたな!

 八つ裂きにしてくれるわ!」

とリーダー格の男が叫ぶと、

首をき切ろうとした。

「おれはもうだめだ。高倉宮様は平家に逆らって追われる身であると

 いうことを忘れていたのはうかつだった。

 自ら影武者になってしまうとは、なんと愚かなことよ。」

と定家は嘆いたがもう遅すぎた。

涙を流しながら定家はその場にしゃがみ込んだ。

 ちょうどそのころ、以仁王や式子内親王の兄である、

守覚法親王しゅかくほうしんのう(1150~1202)が器に水を満たして

中をのぞきこんでいた。

「千里眼の術を使って都の様子を見るとしよう。

 おや、何だあれは!弟(以仁王)が黒狐どもに包囲されて

 殺されそうになっているではないか!

 今すぐ助けに行かなくては!」

と叫ぶとひらりと敏捷びんしょうな動きで身をひるがえして

小さな器の中に飛び込んで姿を消した。

 今まさに定家は首を切られようとしていたが、

急に矢が飛んできて、刀をもっていた男がその場に倒れた。

「だれだ!曲者くせものめ!」

と黒ずくめの男どもは騒然となった。

「おれが本物の高倉宮だよ!弱虫ども、かかってこい!」

ともう一人の以仁王が太刀たちを振りかざしながら

名乗ったので、定家は唖然とした。

もっとも新たに現れた以仁王は頭を剃髪ていはつし、

墨染すみぞめころも袈裟けさを着ていた。

「まさか、本物の高倉宮様が助けにきてくれた?

 勇敢なお方だ。」

と定家は混乱する頭で考えていた。

 

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