第6話 お初にお目にかかります。 

 買い物も無事?に終わり、家にも着いて現在午後7時である。いつもは零が晩御飯を作り、食べている時間帯である。しかしながら、今日はリビングのソファ、俺が小説を読んでいる隣、俺の肩に頭をおいてファッション誌と睨めっこである。顔が真剣であるからに話かけずらいのである。いつも笑顔で当たり前のように家事をしているからにおかしいと感じる。せっかくのお気に入りの作者の小説も、この俺にとっての非日常には霞んでしまう。そんな俺の視線を察したのか、零は凄いことを言った。


 「今日は晩御飯作りませんので。」


 「えっ?」


 はて、俺はどん底である。どうした、俺は何をした。いや、やらかしたのか。深く理由を聞こうにも、零はまた真剣な面持ちで雑誌に目をやる。聞けないのである。どうした?、何をした?。と、俺は10分ほど内なる自分と葛藤を演じたが、結論は出ない。すると、家のチャイムが鳴る。こんな時間になんだ?。


 「こんな時間になんだ?」


 と訪問者よりこの空気感からの脱出を試みた。リビングから出て、玄関へ、そしてドアを開ける。


 「はい」


とそこには、夫婦と思しき二人がいた。両者とも若めで、女性の方は心なしか零に似た雰囲気?感じがある。


 「こんばんは、あなたが萩原涼君かしら?」


 「はい、そうですが?」


 「こんな時間にごめんね。零の親父してます。東雲仁です。」


 「妻で零の母の東雲麻衣です。」


 零とは一年ほどいるが、ご両親に会うのは初めてである。零からは、親は海外かなとか聞いたな。


 「あ、お父さん、お母さんお帰り~。」


 と零がドタドタと迫ってきた。お金持ちのところの人って様付けかと思ったが、俺の偏見が過ぎたのか、零はなんとも一般的である。ドタドタと来た零は俺の右腕をホールドして、笑顔で家に入るように手招きをする。


 


 テーブル席で軽く挨拶を済ませると、なんと料亭に向かうとのこと。零と俺は制服のために私服へと着替えることに。二階の自室(書斎)で着替えながら、先ほどの挨拶内容を思い出していた。


 仁さんは婿入りのようである。そう、つまり、あの爺さんの娘が麻衣さんである。麻衣さんの一目ぼれらしく、まさかのデキ婚。二人とも30代前半。仁さんはまぁイケメンの部類だろう。ここ一年は宝くじの当選金で海外旅行三昧だったようだ。


 金持ちには金の方から寄ってくるのか。嫌な世界だよ。


 なんて思ううちに着替え終了。やはり、黒の服は良い。無難かつしっくりくる。

先に下の階に降りる。


 「零もまた変わった子を好きになったもんだな。」


 「そんなことはないと思いますよ。仁さんもあの頃は変わってましたよ。面白いことないかなぁ~ていつもいつも。」


 「そんな日もあったな。」


 俺の姿を見ての感想をいただいたが、俺は評価になしかなこれ。すると、零も降りてきた。


 白のワンピースに淡い赤色のカーディガン、そして白のタイツ。まるで、アニメキャラのようである。少し、薄化粧をしたのか見惚れてしまった。


 「ちょっと遅れてしまいました。」


 と、俺に対して頭を少し下げる。ご両親を前にして、俺は身の程知らずにもこんな事を口走った。零の頭を上げたところで。


 「待ってないよ。話題のアイドルとかより全然可愛いし、綺麗だ。傾城傾国とは、零のことだね。」


 「そんなことは………。」


 「零、良かったじゃない。未来の旦那様に褒めてもらって。」


 「お母さんまで」


 零は湯気が出そうなほどに顔を赤くしていた。仁さんは、固まってるし。


 


 なんてことを済ませ、老舗の料亭に向かう。仁さんの車に乗り込んだ。後部座席で零は、これでもかと距離を詰め、俺の左腕をホールド。座っていることは良いことに、零は俺の左手を自らのうち腿に挟み、擦りこんでくる。ご両親が前にいるのよ、俺はどこのセクハラ親父なんだよ。



 内なる自分と葛藤し、15分ほどで到着。高そうな所だが、支配人などの言葉から察するに常連のようだ。あらかた料理の用意された個室の席へと通される。そして、食事会の開催である。


 「涼君といったかな。話は聞いてるよ。凄いらしいね、あの爺さんや零からの評価と言ったら俺とは桁違いだ。」


 「いえいえ、そんな事はないっすよ。」


 「俺なんて金欲しさに色々と爺さん手伝ってるくらいだし、君は結構リスクのある事も簡単に遂行するらしいじゃないか?」


 「自分なりに頭をひねっただけですし、自分でもそこまでうまく事がいくのかと思ったものもありましたし………。」


 「君に興味がわいてきた。俺の会社に入ってほしいくらいだよ、零についても問題ないだろうね。」


 なんか評価されてるらしい。


 「なんでも、お父様が「お主」や「あの男」と呼ばれるくらいですからね。零も凄い方を捕まえたわね。」


 「うん、本当に涼さん凄いもん。全身血だらけで私のこと守ってくれたし、スポーツ万能で学年一位だし、体も凄いし、優しいし、カッコいいし、………」


 「零、もっと詳しく。」


 なんか、母と子の会話になっていったぞ。カッコいいは違う気がする、あと体が凄いはまずいんじゃないの未成年よ。まぁ、襲ってしまったのは事実であり、犯人俺だしね。


 「君、もう手を出したのか早いな。」


 「すんませんでした!」


 「まぁ、いいよ。だって俺の時もそうだし。どうせ、風呂とかで色々やられたんでしょ。涙目で、魅力ないですかみたいな。」


 「えっ、なんでそれを?」


 「女は凄いのさ。まぁ、麻衣が入れ知恵してるってのも考えられるが。」


 「なるほど。」


 「どうせ、結婚するんしょ。まぁ、妊娠とか気を付ければいいから、自由にして。娘はやらんとか頭ごなしな事は言わないから。」


 「そんな、あっさりと………。」


 「麻衣に似ると、結構ヤンデレまがいなこともあるからそっちもケアしておいて。」


  「はぁ、なんかそんなことがあったような、ないような。」


俺は相手方の父という理解者を得た。料理もおいしく話も盛り上がっている。女子会、いや女性陣はだんだんと声が大きくなっている。耳は傾けない。

 そろそろお開きのところでまたしても想定外な事が起こる。


 「明日から温泉旅行行くもんで、朝早いからよろしく。」


 「はっ?」


 仁さん、何を言い出すのか。


 「明日から土、日、月の三連休。そして、君らの学校は創立記念だかで火曜日も休みだろ。そんなわけで、3泊程度を予定している?よろしく」


 「お父さん、場所は?」


 「星宮リゾート。」


 「やったー。」


 「零は小さい頃から好きよね。」


なんか、この親子の会話についていけない。しかも、麻衣さん「あなたもそこで出来たのよ」とか小声で言わないでください。やばいからね。


 「涼さんも一緒に行ってくださいますよね?」


 「あ、はい。行きます。」


 この状況がすごい。娘は隣である俺の席により距離を詰め、もたれかかりながらの上目遣い。母親は凄い笑顔。父親は、頑張れという眼差し。


 もう、絶対になんかあるフラグじゃん。そして、料亭を我々は出た。


 「涼さんと温泉♡」


 「いや、風呂で一緒に入ってるじゃん」


 「いえ、雰囲気が大事なんですよ。」


 「あぁ、そう」

 

 帰りの車でそんな会話があった。

 家に着き、風呂は仁さんと入った。爺さんの悪口に花が咲いた。


 零の両親は二階の空いているゲストルームに、俺らは普通にいつもの寝室に。はしゃぎ過ぎたのか零はすぐに寝てしまった。いつもは、頭を撫でてくださいませんか?とかぎゅっとしていたただけませんか?とかあるのに珍しい。学校など色々あって俺も疲れたせいかそんな疑問も意識と共に消えてしまった。




 現在 金曜日午後10時 出発まであと9時間




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