第5話 買い物デートにて

 まぁ、女子会については詳しく知らないが男子会なるものは駅の近くにある洒落た喫茶店で行われた。始めは、生徒会やあの爺さん関連についてをシリアスな雰囲気で話していた。あの爺さんからは色々と仕事を回された(結構危険なのもあったな、いろんな意味で)。


 「前から気になってたんだけど、なぜ涼は携帯を二個持っているんだ?」

 

 とこの疑問からシリアスな雰囲気はどこかへ行ってしまった。そう、俺は携帯(スマホ)を二つ持っている。一つは俺のプライベート用で色はシルバー、そしてもう一つは爺さんとのホットライン用で色は漆黒である。まぁ、家にはそれと同調しているタブレット端末もあるが触れないでおこう。

 事実をそのまま伝える。

  

 「五十六氏にかなり信頼されている様だね。」

 

 「買いかぶりすぎだ。零もそうだが、俺はこれと言って何もしていない。まぁ高校生のバイトと考えれば、かなりの高給取りになれた点では感謝してるけど。」


 「僕の父もいつも言ってるよ、ここ最近は五十六氏の機嫌が良いし、あの男とは誰なのかっていうある種の犯人捜し状態になっていると。」


 「ほぅ、その犯人に会ってみたいものだ。」


 「ははっ(笑)。今度、父に言っておくよ。五十六氏のお気に入りは高校生だって。」


 まぁいつかはバレるだろうな、その犯人とやらは。その後も色々と雑談なり、雅への不満とか言いつつ惚気を聞いて、お開きとなった。まぁ、雅から女子会も終わりそうだから迎えにこいとのことらしい。そして、俺には二つの携帯から通知が来た。


 「部活に参加する際の経費としてお主に半年前に渡したクレジットカードに金を入れておいた。色々と必要なものを買うと良い。先だってはグローブあたりかの~、知っての通り硬式用じゃからな。零の分も買うのじゃぞ。では」


  硬式かぁ、痛そうだな。まぁ少し楽しみだから良いだけど。クレカとかくれた時はビビったけどこういう使い方するのね。


 「涼さん、いまどちらにおられますか?」

 「雅さんから駅の近くにいるはずと言われたのですが、もし近くにおられるので  したら一緒に帰って頂けますか?」

 「もし宜しければ、駅中のカフェまで迎えに来ていただけると嬉しいです。カ   フェはひとつだけですのでわかりやすいと思います。」


 うーん、これは行かないとまずいやつだね。うん。まぁ良いんだけど。

 零に「オーケー、これから行くから少し待ってて」となんとも無難な返答を送った。即座に「ありがとうございます♡」と返ってきた、早すぎるよ。そして♡を加えるあたり、慣れてしまったが、女の子ってそんな♡使うの?


 そして、周囲が暗くなっていくのを見つつ、5分程して、零のもとに着いた。零は一人で店先の長いすに座っていた。なんでも、雅は葉山と一足早く帰ったらしい。


 「零も迎えに来てほしかったの?」


 零と一緒に帰るのは普通だが、迎えに来てというのはなかったな。雅と葉山、いや雅とのやり取りで何かあったと推測し、確認してみた。


 「いえ………その、はい。雅さんがこれから葉山君に迎えを頼んだと仰って、そしたら涼さんもいると聞いて、その羨ましいなぁ~と。」

 

 少し俯き、立ちながら答えてくれた。少し、顔を赤くしながら遠慮がちに。こんな姿をみて、揺らぐものはいないだろう。


 「そう。じゃあ、これからも迎えに行くとするね。」


 「はい!」


 満面の笑顔で言われてはね………どこへでも迎えに行けそうだ。


 「少し暗くなったけど、これからZEBIOに部活で使うもの、まぁ最初は野球だからグローブとか見に行きたいんだけどいいかな?」


 「はい!もちろんです。私も買いたいものがありますので。」


 ZEBIOとは大手のスポーツ用具の販売店である。この近くに大型の支店があり、品ぞろえも非常に良いのでよく利用している。

 俺の左腕はホールドされ、目的地へと向かう。「あれとあれと……」などぶつぶつ言っていたが気にはしないこととした。

 そして、到着しそのまま野球エリアに向かう。零はウェアのエリアに向かった。本職はショートであるから、内野用は自腹で買おう。あとそれなりに経験している捕手用と外野用も買うが、これは爺さんの奢りだな。硬式だから値段もまぁまぁする。好きなメーカーとデザイン、機能が一致するものが運よくあり、即決である。


 「いやぁ、使うのが楽しみだな。あとは、一応の零の分と。」


 そして、ウエアのエリアへ向かう。女性用のところで少し気が引けるゾーンでもあるが、零を見つけたので仕方ない。


 「零、ちょっといいかな?」


 「うーん、やっぱり新作のモデルで、もう少し可愛い感じの、あっこれだと露出が………確か野球部には女子マネジャーは3人で涼さん好みの子が………、ひあ、はい!」


 「あぁ、ごめん。取り込み中申し訳ないんだけど。一回グローブのところに来てくれない?零のを選ぼうと思って」


 「はい!」


 と素早く、それまで悩んでいたものをもうすでに選んだもので一杯のショッピングカゴに入れ、ついてきた。


 「零はまぁオールラウンド用で良いと思うけど、何かめぼしいのある?」


 「私のも買うのですか?」


 「爺さんから言われたんだよ、一応零の分もって。多分、合間とか休みの日に遊べってことだと思うけど。」


 「なるほど~。」


 小声で「お爺ちゃん、ナイス」とか聞こえたがまぁ無視だな。グローブを見ては、はめてみていたりと………なんか可愛い。「うーん」とすごい顔をしていたのが気になった。


 「どうした?」


 「いえ、これ硬くて私の力では………涼さんとキャッチボールが………(泣)」


 「大丈夫だよ、俺も厳しいし、まぁ俺は自分ですこしいじるけど。スチームとか型を作るとかで柔らかくなるから。俺も一応できるけど店の人にやってもらった方がいいかな。」


 「涼さんにやってもらった方がいいです!」


 「いや、うまくできる保障が………」


 「涼さんのが………(泣)」


 「あぁ、俺がやるから。ね。はいはい、泣かないの。そんで、お気に入りは見つかった?」


 「はい! これです。」


 わお、この子、ウソ泣きうますぎると言わんばかりにグローブを差し出してきた。ピンクが主でそこに白がアクセントになっている、なんとも女の子らしいものであった。


 「わかった。じゃあそろそろ会計に。」


 「すぐに行きますので、お先にお会計の方に。」


 「他になんか買うの?」


 カゴに目がいってしまったのは、零も気づいたようで。

  

 「ちょっと、女の子に必要な………。」


 「あぁ、うん。分かった、じゃあ先に行ってるね。」


  と俺が言うと零は恐ろしいスピードでどこかへ消えた。会計では、なんか目立ってしまった。まぁ、硬式のグローブを4つも買えばな。爺さん、あざっす。

  零もすぐにまた姿を現し、大量に買っていた。袋詰めされてしまったのであまりよく見えなかったが、女の子らしいものとそうでなくかなり大きいものもあったのは見えた。そして、手には黒い輝きを持つカードが………そしてレジの数字が0となった。お金持ちってすごい。



 「あぁ、持つから頂戴。」


 「あ、お願いします。あっ、涼さんの腕に抱きつけなく………。」


 「そこを気にするのね。」


 そう、俺の手はそこそこデカい袋で取られていており、零は俺の腕をホールドしたいができないという状態になったのだ。


 「はい、私の特等席がなくなって………」


 「家まで我慢しような。」


 「はい⤵、せっかくの買い物デートが⤵」


 とまぁ、そんなことを繰り返しつつ、家に着いた。


 「私が買ったものは、私の部屋にもっていきます。涼さんのグローブも使える状態まで仕上がったら、私に一旦預からせてください。あ、私のもよろしくお願いします。」

 

 「わかった。んで何を買ったの?」


 と俺が零の買った袋を開けようとすると、凄まじいスピードで袋を零に奪われ、零の部屋へと持っていかれた。


 「これからのお楽しみです。」


 と階段を下りてきた零は言った。俺は、零の部屋に入ることが許されていない。下着姿とか自ら見せようとしてくる割には部屋は立ち入り禁止であり、理由も聞かされていない。まぁ、世の中知らないことの方が良いなんてのは結構あるからな。





 「危なかった。この機会にもっと涼さんと仲良くならないと。涼さんは自覚がないようですが結構人気あるんですよね。女子マネジャーからはそれが顕著です。あんな感じの部長だったらなとか優しい感じで仕事とか手伝ってくれそうとか………。そのためにまずはウエアで誘惑、いえ他に目移りしないようにしないと。あとは、刺繍で………。」


 こんなことを零が思っているとは、涼は知らなかった。

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