第38話 暇な神々の囚人

 破壊神の聖寵なくとも、誰もが世界の壊れる音を聴いた。

 一方が人の器を通しているとはいえ、このまま最高神同士がぶつかり合えば世界が傷つくのは明白であった。

 

 ゆえに、多くの人々が創世記の真実に気付くことになる。

 

 原初神は神の理から外れた人間を恐れたのではない。

 神々の争いが熾烈に過ぎるから、世界を切り離したのだと。

 

 しかしながら、人間が偶発的に誕生した事実に相違はない。


 間違いなく、神々の争いの予期せぬ影響から人間は生まれた。

 なれど、唯一神を持たぬ人間が生き続けたのには理由がある。

 

 ――神々の代理戦争の道具。

 

 その為だけに人間は生かされた。

 遥か昔。原初神は忘れているだろうが、そういった事情で人間の存在は認められた。

 争いをやめることができなかった、創世神たちに対する慈悲だ。

 

 そうして、この世界〈小さな世界〉と人間〈争う道具〉は五柱の神に分け与えられたのだ。

 

 創世神の成聖者たちは漠然とその事実を知っていた。

 かつて、自分たちが神の囚人であったと。

 

 そう、かつて――

 

 悠久な歴史の流れの中のほんの僅かな一時、

 

 ――人間の運命は神々が決めていた。

 

 だからこそ、三柱の創世神は争いを好まない。

 成聖者に何も求めず、なんの干渉もしない。

 

 ――後悔しているのだ。

 

 どこかしら漂う悔恨の念を、成聖者たちは常に感じ取っていた。

 同時に、破滅の匂いも。

 

 三柱の神が女、子供を器に選ぶのは、本心では滅びたがっているからなのかもしれない。

 

 邪神を止める存在がいなければ、いずれは原初神が姿を現す。

 そして今度こそ、創世神は罰せられる。

 狩猟神、豊穣神、創造神にとっては存在の消滅か、箱庭世界からの追放こそが真の望みなのだ。

 

 しかれども、三柱の神々は幾度となく人間たちに力を貸してくれた。

 過ちは繰り返すまいと、人間の願いに応えてくれた。

 

 ――人の世の運命は人間が決める。

 

 それゆえに、創世神の争いは終わらない。

 二柱の邪神が自らの行いを悔い改めない限り、何度でも繰り返される。

 

 そう、何度でも――

 

 此度の成聖者たちだけではない。

 彼女たちはこれまでも、立ち上がってきた――

 

 そうして再び、三柱の神々は集結する。

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