第3話


 激しい嵐の夜だった。

 鋭い稲光が窓を怪しく光らせて、雨音あまねは悲鳴をあげて、猫を抱きしめた。

 呼び鈴が鳴った。

 抱きしめられた猫には、雨音の身体が一瞬固まったように感じた。

 嵐よりも激しく、強く、ドアを叩く音がする。

 雷の音よりも、雨音はその音を恐れた。しかし……。意を決したように、ドアに向かった。


「晴美、やっと見つけたぞ! 俺から逃げるなんて、何考えているんだ、このあま!」

 雷神のごとき声の男が、ドアが開くのと同時に飛びこんできた。

 恐怖にひきつる雨音の顔はほんの一瞬、次の瞬間、男に殴られた顔は苦痛に歪んで、雨音は床に飛ばされていた。

 猫は、雨音の下敷きになりかけたが、猫らしいすばやい身のこなしでよけると、フィーッと毛を逆立てた。

 猫の鋭い瞳が男を捕らえた。恐ろしい声が喉から響いた。

 しかし男は、死に至るまで踊り狂うことはなかった。

「なんだ! こいつは! シッ、あっちへいけ!」

 男はいきなりスリッパを拾うと、猫めがけて投げつけた。

「やめて! やめてちょうだい」

 雨音がヒステリックに叫んだ。

「もう、あなたとはおしまいにしたいの! 帰って! 帰ってちょうだい!」

 稲光に照らされて、男の顔はもののように怪しく光った。口元が笑っていた。

「え? なんだって? わかれるって? はっ!」

 床に座りこんでいる雨音に、男は優しく手をかけた。

「そんなつもりはないだろう? さびしかったんだろ? だから電話してきたんだろう?」

 男は笑いながら、雨音を助け起こすと、再び平手で張り倒した。


「フィギィィィーーーー!」


 激しい威嚇の声を上げて、猫が男の腕に噛みついた。

 しかし、男は、あっという間に猫の首をつかんで、激しく壁に叩きつけた。

「この汚い猫が!」

 男は、朦朧もうろうとしている猫をつかむと、どしゃ降りの玄関外へと運んでいき、茂みの中へ再び投げつけ、ドアをバシンと閉めた。

 雨の中、茂みの枝で猫は怪我した。

 猫は痛みをこらえて、となりの家の軒下に逃げ込んだ。

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