3.311 それはつまり命題で表せる

【トモヤ&アヤカ@現実:ファミレス】

 アヤカとトモヤは近くのファミレスで夕飯を食べていた。一般的な高校生の事情はわからないが、アヤカたちはこのように夕飯を一緒に食べることが多かった。しかも二人で。

「だからさ、ユウコは学校の内部の誰かに殺されたんだよ!」

 アヤカが熱っぽく語っている。

「マコトがクラスチャットで言ってたじゃん。E-schoolの中で起こった事件なんだから、E-schoolのアカウントを持ってないとおかしいって。だから少なくとも学校の誰かが関わってるんだよ。」

 それはどうかな、とトモヤは思った。たとえばハッキングを考慮すれば、なにもE-schoolのアカウントを持っていなくても、E-schoolにログインすることはできるだろう。だれか適当な人のアカウントを乗っ取って、犯行に及んだということも考えられる。ただそこまで考えているとキリがない。自分たちで話し合うときは、「学校内部の誰かがユウコを殺した」ということを前提にするしかない。

「んー、つまり『学校内部の誰かがユウコを殺した』って形の命題を考えればいいんだね。」

「メイダイ?よく分かんないけどそれは正しいと思うよ。」

 真、かな。とトモヤは考える。命題は必ず真偽がつけられる。

 アヤカの口から「命題」なんて言葉が出てくるとは意外だった。誰かの入れ知恵だろうか。

「また明日学校でみんなと話してみようぜ。リョウもミキも考えがあるかもしれないしね。」

 そこでユウコの話は打ち切りになった。


「そういえばさ、トモヤってリョウの恋愛事情とかって知ってんの??」

 ぶっ。いきなりやめろよ。トモヤは悪態をつく。コーラを吹き出してしまった。

「し、知らないよ。な、なんだよ急に」

「いや、あのさ、ミキがさ……」

 なるほどね。アヤカも腐っても女の子だ。そういう「カン」は働くのだろう。

 トモヤもうすうす気づいていた。4人でいるときも、なんとなくミキはリョウの方ばかり見ている気がするし、話すときの声づかいも(少なくとも)トモヤに向けるそれとは異なっている気がした。

「ん?ミキ?ミキは恋愛とか興味ないだろ〜」

「そ、そうかな?あたしの勘違いかな……?」

 こういうときには「気づかないフリ」がいちばんだ。触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。そう思った。トモヤは恋愛に関することには割と気づいてしまうことが多いが、僕ら4人に関しては波風立てず友達でいたい。トモヤはそう切に考えていた。

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