第7話 親友と姉の想い

僕は文句を言う。

「破壊族が、たくさんこの位置まで居やがる」

「ということは、キツキツ町は戦場かもな」

と、キツキツは予測する。クルミはその話には参加しない。自分の出生の秘密がこたえているのだろう。僕はどうでもいい。大切なのは、僕とキツキツ、クルミついでにヘルもみんなが存在することだ。僕は、この空間が

多分好きなんだ。初めてだよ。仲間がいるってのは、いいもんだ。

売る者のメンバーはどうだろう? 仲はあまり良くなかった、というより接点がなかった気がする。姉さんは僕を支えてくれていた。今になって、ようやく解ったよ。僕は気持ちを言葉で示すタイプではない。リサ姉さんに僕は何が返せるだろう? 僕は何も持っていない。僕より姉さんの方が、多くのことで優れている。年齢によるものを差し引いてもだ。才能、心……どれも僕には足りない。

データソードは進化していく。まるで滅びに向かうとでもいうように。僕に生きろというかのように。破壊族とは、悲しき運命に逆らえなかった元弱者の集まりだ。パワーはあっても、心は失っている。クルミのような例外もいるけれども。

キツキツ町が見えてくる。やはり、反乱軍が一般人を守っている。サッツの命令で、破壊族は動いているのか? その時、キツキツは僕とクルミに呼びかける。

「敵の様子がおかしい。まさか、新しいパワーフードの力か?」

「キツキツにしては、いい読みね」

と、クルミが言う。ヘルは戦力外だ。

僕は戦うんだ。かつて姉さんの言っていた、『失いたくない者』。僕はきっとそれにすがるんだ。だから、ここに居ていいというカードのために戦うんだ。これでも僕は、達のエリートさ。キツキツの虹のビームも、エネルギーが切れてきたか。キレが悪い。データソードよ、友という証を守るため、いくぞ。あれから、一部の敵もデータソードの量産型を持っている。油断できないな。

クルミの本能開放は控えめだな。前回痛い目に合っているからだろうか。まあ、いい。クルミが突然声をあげる。どうした?

「サッツの目的は、法律だけではないみたい。コピーの実験のため、ミルクを副官にして利用している。ミルクはミルクで、得るものがあるんだろうけど。今は手を組んでいる段階。ウシダさんの技術が、こんなことに使われるなんて……」

くっ、キツキツ町を実験台にして、最終的には潰す作戦かよ。たこ焼き屋のおっさん、元気かな? 破壊族達に新種のパワーフード、つまり感情のタイプを操っている。生まれ持った性格までは、サッツや売る者でも、技術不足で操れる段階ではないということか?

クルミの話から推測すると、『生きた大地』と『死んだ大地』のコピーも上手く使い分けている。どういうことかと言うと、生きた大地は、例えば森林や動物の元気なところは死んだ大地は、汚染された土地。自分には利点を、敵には苦しみを! これがサッツの目的の第一段階。ミルクの力を利用している。彼女は、ウシダさんの科学の力をかなり受け継いでいる印象だ。戦闘能力だけじゃない。キツキツは堪らず文句を言う。

「感情を持った破壊族は厄介だぜ」

キツキツは再生を望む。かつて大いに繁栄したキツキツ町は、今見る影もない。町とは住民の心である、とキツキツは言っていた。しかし、僕の考えは少しばかり違う。住民の心を反映した町にするためには、町長であるキツキツの器が重要であろう。僕は、キツキツにこそふさわしいと思う。

かつてはキツキツ町ではなかったらしいがな。キツキツの両親が築いた町。キツキツはそれを自ら壊したと思っているみたいだ。それでも、町の名が住民の支持を集めている証拠だと、僕は勝手に考えている。現実もゲーム内も、僕には解らないことだらけだ。

そんなことを考えていると、町がざわつく。どうしたんだ? 反乱軍のメンバー達が叫ぶ。

「クライだー! しかし、逃げる訳にはいかない」

「何だって!」

と、キツキツ。

「まずいわね」

と、少しトーンを落としたクルミ。クライとやらは、破壊族も反乱軍も見境なく仕留めていく。みんなの話によると、サッツの部下に成りたかったニセ売る者のトップらしい。

クライは言う。

「サッツのヤローに今は従ってやるよ。いくら強いと言っても、サッツも人間のデータに過ぎない。完璧な存在ではない。俺がトップに立つチャンスは、自分で作る!」

クライは、好き放題に暴れる。一般人の被害もでかくなってきた。

キツキツは虹のビームを放つ。クライは、剣で全てを弾く。そして、データソードは更新される。キツキツが危ない。キツキツは叫ぶ。

「来るなー、大岩!」

しかし、行かない訳にはいかない。んっ、クライはやけに僕を警戒している。どういうことだ? 解らないが、まあ、いい。クライがひるんだ。今だ、行けー!

クライから血が噴き出す。データのはずなんだがな。って、それどころではない。クライは叫ぶ。

「ちっ、サッツから大岩には手を出すなと言われてんだが、これ以上邪魔をするなら消す!」

くっ、キツキツもクルミも破壊族との戦いで全てを消耗している。どうすればいいんだ。

ここは、僕が盾になるしかない。クライも反撃してくるが、明らかに手を抜いている。しかし、実力差はそれ以上だ。データソードは進化し続ける。そして、爆弾も。僕達は何処へ向かう? 誰も失いたくない。キツキツがデータだとしても。みんながそうだとしても……。ここに存在するのだから。

リサ姉さんが、傷薬を大量に送ってきてくれる。さすがだ。頼りになるぜ。しかし、班長の仕事はいいのか? それに、クライは何時までいる気だよ。もう、五時間ぐらい過ぎてないか。時計を持っていないので、正確な時間は解らない。今度は持って来よう。

だが、クライのせいで町が壊れていく。民家も結構やられた。キツキツもクルミも倒れそうだよ。その時、キツキツが前に出る。

「クライの目的は、俺なんだろ?」

「そうなんだが、サッツは町を壊すなとは言わなかったぜ」

と、クライ。どうなる? クルミが叫ぶ。

「キツキツを止めて、大岩!」

そんなこと言われても、僕はフラフラだ。

その時、町が炎に焼かれる。さらにキツキツ町の被害は拡がる。町を守って消えた数人の反乱軍の兵士達。クソッ、しかもキツキツは、そんなこと望んではいなかったはず。しかし、それは僕達の助け船になる。

クライが剣を構えて言う。「ナツかよ。サッツのイヌが俺に勝てるとでも?」

「クライのスケジュールを管理させられている私の身にもなれ! 撤退だ。目的は十分達成した。もういいと判断する。次の任務につけ、クライ」

「仕方ねえ」

ナツと呼ばれた三十歳ぐらいと思われる女性と、クライは去っていく。

キツキツ町は、再生どころかかなり悪化してしまった。住民達も傷ついているだろう。ここは反乱軍の拠点だ。今後も十分ありうる事態だ。諦めて去っていく住民もいるだろう。僕にもっと能力があればなあ。くっ、キツキツは明るく僕に声をかける。

「大岩のおかげて、被害はこれくらいで済んだ。礼を言うぜ」

「そうか」

空元気でなければいいのだが……。

それから、一週間が経過した。キツキツ町は、形だけは元気を取り戻した。戦力の強化と言っても、あんな化けものが来たらまずいよなあ。ところで、キツキツはどうしたんだろう? おっ、誰かと通信中か。相手は誰だ? まあ、どうでもいいか。すると、姉さんの声が微かに漏れてくる。キツキツとリサ姉さんとの組み合わせは少し珍しいな。

姉さんの声が聞こえる。

「町はどうなんだ、キツキツ?」

「大岩のおかげて、ギリギリ持ちこたえた。あんたの弟は利用させて貰うぜ、今後もな」

キツキツの言葉に、姉さんは苦笑いしたようだ。

「素直ではないな、キツキツ。まあ、これ以上からかうのは止めておこう。大岩の大切な人だ。私はな、売る者の実態を知っていたんだ。それを大岩に前もって言うことも出来なかった。言うべきだった。私はこの腐った世界に、希望を見つけたんだ。もう古い話だよ。私は班長を能力だけで勝ち取り、人望もなかった。そんな中、大岩だけは売る者のメンバーで慕ってくれたよ。アイツだけは腐った人間には見えなかった。少し鬱陶しいと思ったこともあったがな。大岩は私の腐った心を、浄化してくれるのだ。大岩が私の近くに居てくれなければ、私の心は腐り続け、他のヤツと同じだったさ。下らない年下の弟の幼稚な遊びも、全く苦にはならなかった。幼い子供の心は、私には勿体なかったよ。今も変化し続けるデータソードの改ざんと同じように、大岩の心は何処へ向かうかは解らない。それでも、失う訳にはいかない大切な存在だ。だからこそ、私は売る者に従う」

「どういうことだ、リサさん?」

姉さんの、売る者に従うという言葉に、キツキツがかなり驚いている。

姉さんは何を考えている? 姉さんはキツキツの問いに答える。

「私は班長として、大岩を全力で支援する。大岩が売る者の期待に応えているうちは、売る者も大岩に逆らうことなど出来ないからな」

「そういうことか。俺も大岩を利用する。リサさんは売る者を利用する。そしてリサさんは、大岩の成長の果てが見たいというんだな」

「成長かどうかは知らんが、大岩がこれから見るもの、そして答えこそ私の全てだ」

「まあ、リサさんも考えているわけだ」

姉さんとキツキツの会話は続いた。

あの二人は、そういうことを考えていたのか。クルミもばっちり今の会話をチェックしたようだった。知識の果てとはなんだろう? 解らないけれど、僕はかつてそれを見たらしい。そこで何が待っているか解らないけれど、姉さんの全てとやらにつまらない答えが訪れても、僕は進み続けるよ。

私は妖精ヘル。サッツの乱の重要人物『クライ』もまた、人々を『守る』ため戦っていた。それこそが、クライを守るからです。ミルクさんは、勇者にこだわり続ける。それはきっと、勇者とは信じられる普通の人間だから。ミルクさんと大岩さんは、信じ合えるハズだから。

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