28話

「こんにちは。綺麗なお嬢さん?またお会いしましたね。」



エレーンを出迎えたのは、宿屋で会った赤髪の男性だった。


高めの身長に、ガッチリとした肩幅。

端正な顔には、やはり魅惑的な薄墨色の瞳が浮か ぶ。男性はにっこり微笑んで、会釈する。エレーンも慌ててお辞儀した。


珍しく用意が遅かったのか、後から入室して来たルーカスが声を掛けた。


「あれ、ライルさん。もう着いたんだね、お疲れ様~。」


また髪をきちんと乾かさずに、タオルを頭に被って大雑把に拭きながら、定位置なのか揺り椅子が有る窓側に向かう。ライルが居ることに差して気にも留めていないらしい。

ライルはにこっと笑って、目の前を通り過ぎようとしたルーカスの頭を掴み、わしわしと乱暴に拭いてやる。


「久々会っても相変わらずつれないなお前は!」


まるで愛犬を撫で回すかの様な豪快さで、タオルをくしゃくしゃにする。


「毎回会うと子供扱いするから、距離を置きたくもなるでしょ。俺、今年二十四になったんだけど?立場も有るし、止めてくれない?」


言われてライルは手を止めたが、またすぐにわしわしとやり始めた。


「そんなの気にしてる間は、まだまだガキだよ!」

「ちょっと!……おい、ほんとマジ止めろ。」


エレーンは初めて見るルーカスの弄られっぷりに、どうして良いのか分からずオロオロする。


「ライル、エルさんが困っているので、その辺にして席に着きなさい。」


入り口に、お茶のセットを片手にロバートが立っていた。後ろにアレクシスとロイが驚愕の表情で固まっている。一同、ルーカスの子供扱いされるのを見た事が無かったのだ。






アンの料理が出来るまで、皆一同に居間の席に着席した。


アレクシスはルーカスのあんな姿は初めてで笑いが止まらない。そんな主人の様子に、ルーカスは苦虫を噛み潰した様な、なんとも苦渋に満ちた表情になる。


「……ライルさん。責任取ってくださいよ。」


ルーカスに睨まれ、ライルは苦笑いする。


「えー、……何かすまん。」


「俺は人を弄るのは大好物だけど、弄られるのは死ぬほど嫌いなの!」


「最低な発言だな、それは。人としてどうなんだ?」


二人の終わり無きやり取りに、ロバートがパンパンと柏手を打つ。


「ルーカスの自尊心など放って置いて良いから、自己紹介しなさい。」


酷い!と抗議するルーカスを何時もの通りに華麗にスルーする。ライルは立ち上がり、ペコリとお辞儀した。


「ロバート様付きのライル・ペルナドと申します。先日は宿屋でお会いしたにも関わらず、挨拶もせずに大変失礼しました。外でお会いしても他人の振りをする決まりになっておりますので、お許しを。」


そんなにツボだったのか、ルーカスの弄られ振りに一頻り笑ったアレクシスは、ライルに視線を向ける。


「ライルどのは、じいに仕えてどのくらいなのだろうか?」


「どのなどと、畏まらないで下さい、殿下。気軽にライルとお呼び下さい。自分は今年で十二年程になります。」


ライルの言葉を聞いて、アレクシスは目を大きく見開いた。ぎぎぎっと軋む音がしそうな程、ゆっくりとロバートに顔を向ける。


「……じい。俺に仕えて何年になる?」


「はい?十一年……という所ですか。」


「……その十一年間、一度も紹介されていないのは、どういう理由があるのか言ってみろ。」


アレクシスの様子に、ロバートは動じない。


「……本来なら、坊には一生報せなくても良いと思っておりましたので。ライルは私の言わば密偵です。正体を知る者が少ない程仕事がしやすい。しかし、今回は坊の周りに人員も増え、加えてライルの下でリン君を鍛えたいと思いましたので、隠しておくには限界を感じました。良い機会なので、これから宜しくお願いします。」


しれっとするロバートに、アレクシスは脱力しながら、ルーカスへと視線を移す。


「……ルーカスは何で知ってるんだ。」


ライルは片手で頭をボリボリと掻いた。


「何年か前に、報告で王城に忍んで行ったとき、空き部屋でロバート様と二人で居たら、気配を察知されて見付かったんですよね。いや、動物並の感で驚いたのなんの。」


「……誰が動物だっての。」


ルーカスは機嫌も悪く、そっぽを向く。


「いや、それより王城に忍び込んで?駄目だろ、うちの警備!」


慌てるアレクシスに、ライルは笑う。


「幾つか警備のパターンを把握してですよ。しかも、制服だって着て行きましたし。普通はそんなに簡単には行かないです。」


「……不安になるな。」


自身の城の警備の惰弱さに、一度きちんと把握しなければならなそうだ。と、アレクシスは心に留めた。


「そこはほら、ロバート様の助言もありきですし。」


不安がるアレクシスをなんとか宥めようと、ライルは何でも無い様に両手を振る。


「……ライルは私の従者として王城に席を作りますので、ザルな警備も彼の巡回には逆に有り難いのです。くれぐれも、変な進言などしないで下さい。」


よりにもよってザルとは……。ぴしゃりと思っていた事を先に言われて、心の中でアレクシスは剥れた。


一方、ライルの入城を聞いて驚いたのは、ルーカスだ。


「……え、この人王城に来るの?」


「とは言っても、仕事内容は変わらず殆ど各地への派遣が主になりますので、リン君に一通り教えたら、常駐はしないでしょう。」


「……王城でさっきみたいな真似したら、切って捨てるからね?」


「なーに、俺だって上手くやらなきゃいけないんだから、そうそう構ってられないさ。心配するなよ。」


はははっと笑って、ルーカスの背中を乱暴に叩く。


「……。」


ルーカスの顔が不安で曇るのを、エレーンは心配しつつ見守った。


アンの料理はどれも美味しく、白身魚の香草パン粉焼きも美味だったが、特に牛筋のトマト煮込みはトロトロにとろける柔らかさで、エレーンは滞在中に教えて貰う事に決めた。

次の日にパイにすると、とろけたチーズと相俟って更に美味しいらしく、今から楽しみだ。




食事が終わり、少し機嫌の悪いルーカスに、言葉通り引き摺られてアレクシスは王城へと送還された。

客人として王城に来る様に何度も念を押されて、入城までの後三週間中に何度か顔を出す約束もした。

明日はロバートも帰城し、エレーンとロイの面倒はライルとアンがする事になった。



「私も、出来るだけ此方に戻る様にはしますが、難しいでしょう。門番に連絡しておきますから、王城に来る場合はライルと一緒に来て下さい。此方のおおよその予定は彼が把握していますから。」


ロバートが提案する今後の予定に了承して、其々が部屋へと戻る。





部屋へと戻ったエレーンは、長旅と稽古で疲れている筈なのに、興奮しているのか目が冴えて眠れない。遂に、自分は王都までやって来たのだ。興奮するのも仕方ないのかも知れない。


ふと思い立ち、部屋のバルコニーに出てみる。

イスベルよりやや北側に位置するからか、やはり夜風は肌寒い。上着を取りに戻ろうかと踵を返すと、隣のバルコニーにロイが出て来た。


「ロイ!貴方も眠れないの?」


ロイはエレーンに気付いて一瞬驚いた様子で目を大きく見開いた(様だ)が、こくりと頷いた。


「お嬢、風邪ひきますよ。そんな薄着で。」


エレーンは上着を素早く取りに戻り、再びバルコニーへ飛び出すと、そのまま隣のバルコニーに近付いた。


「疲れている筈なのに、眠く無くて。きっと明日に響くわね、これは。」


貴族街はやや高台になっており、バルコニーからは、下側の街の灯りが良く見える。

湖も月の光を反射させて、海とはまた違う静かな夜を演出している。


「キラキラと綺麗ね、この街は。」


「……イスベルも綺麗ですよ。俺にとっては特別に。」


ロイも見下ろしながら、小さく呟いた。その横顔を覗き込む。


「ロイは、王都に来たく無かった?」


「んー……。いや、お嬢が居たら、俺は何処だってやれると思う。それに、結構……かなり?イスベルの皆には甘えて居たから、良い機会だと思うんだ。ちょっと、名残惜しいのは有るけどね。」


前向きな発言に、エレーンはにっこりと微笑む。


「ロイとの付き合いも五年……六年に突入したのかな。まさか、一緒に王城に来るとは、夢にも思わなかったね。」


ロイも微笑する。風が強く、ロイの前髪は目を隠してはいなかったが、気にしてはいない様だ。


「あの時は、生きて行くのも精一杯だったからね。ちゃんと剣を握れたのも、ついこの間みたいな感覚なのに、イスベルは悩んでる時間をくれないから。」


ロイの言葉に、エレーンは反射的にクスクスと笑う。


「そうね、毎日何かしら有るんだもの。」


ロイはそんなエレーンの笑顔を、眩しそうに眺めていた。


「……。……さて、そろそろ寝ないと、体が冷えて本当に風邪をひくよ。お休みなさい、お嬢。」


「確かに、ちょっと冷えたね。お休みなさい、ロイ。また明日ね。」


二人は同じタイミングで部屋へと戻った。




エレーンの部屋の反対側のバルコニーに、ライルがこっそり隠れて居た。雰囲気に出られず、かと言って部屋にも戻れず、密偵とは言え盗み聞きの形になって、この寒空の下、一人冷や汗をかいていた。


アレクシスの微妙な気持ちを知る由縁も無いライルは、若者の青春特有の甘酸っぱさにうんうん頷いて、自室へと戻ったのだった。







次の日は、朝からロバートが帰城し、エレーンとロイの二人は朝食の後、ライルに連れられ王都を巡る事になった。

アンが昨日の牛筋を使った特製のキドニーパイをお昼に持たせてくれる事になり、エレーンは誰よりも喜んだ。


居間のテーブルに、大きな地図を広げ、三人は囲む様に集まる。


「今日は、王都でもメインの商店街を歩こうか。一日じゃ全部見て回れ無いからね。」


「あの……徒歩でですか?」


「自分が住む街の事は、細い裏路地全てにおいて知るべきだと俺は思うんだ。何処に何が有って、逃げやすいか、敵が潜みやすい所とか。地図見ただけじゃ絶対分からないからね。」


「確かに……。」


「でも、行く前に少し予習してから行こう。ある程度頭に入ってた方が理解も早いからね。」


二人で地図を覗き込む。


地図で見ると、湖の大きさが如実に表れる。

街は網目状に区分けされており、賊対策で道がうねる造りのイスベルよりは覚えやすそうだ。


「この地図だと区分けぐらいしか載ってないから、単純な造りって思うけど、建物の高さや、露店商が出て道幅が狭い所なんかは見てみないとね。」


確かに、イスベルの兵士は皆、街の地図や地形、建物の造形まで全て頭に叩き込んでいる。


「折角時間が有るんだし、湖の先まで見に行きたいな。あ、山側の兵詰め所とかも場所を知って貰いたいし……流石に一週間みっちりやれば頭に入るよね?」


ライルがにっこり微笑んだが、二人は恐らく勉強詰めになるだろう事態を見越して、内心震え上がった。









「来るのが遅い……。」


本当に一週間みっちり叩き込まれ、三人が王城へと訪ねたのは王子が送還されて十日も経っての事だった。


第二王子専用の執務室に通され、直ぐに人払いした後、不機嫌そうなアレクシスが文句を言い出す。


「ごっごめんなさい……。」


エレーンは一人しゅんとする。途端にアレクシスは慌て出した。


「いや、エレーンが悪いんじゃない。」


「え、俺の所為ですか?!」


ライルは心底意外そうに、自身を指差した。

それを受けて、アレクシスは黙ってライルを見る。


「……。……誰が悪いとかでは無いが、もっと早く来られなかったのか?一体何をしていたんだ?」


「えー、王都をぐるっとくまなく探索して、それから馬で遠乗り。湖の奥まで行けて、結構充実してましたね。」


「遊んでた風に聞こえるのは俺だけか?」


エレーンとロイはブンブン首を振る。あの強行日程を遊んで居たと思われるのは心外だ。


「ライルの事です。大方、地理、地形の勉強を叩き込んでいたに決まってます。遊んでいたと疑っては、お二人が可哀想ですよ。」


ロバートの助け船に、二人はほっとする。


「……。それならば仕方無いな。」


頬杖を付いて、溜め息を吐く。心無しか、アレクシスの元気が無い様子。


「……大丈夫?ちゃんと休んでる?」


エレーンの言葉に、アレクシスは今にも泣きそうな悲しげな表情になる。それは、年相応に見て取れて、エレーンは何だか可哀想になって来る。


「……戻ってから、視察の報告書をまとめて、溜まっていた書類のチェックに諸々の勉強、正直食事もまともに取る時間が無い……。」


うわぁ……。


エレーンとロイの二人は心の中でを不憫に思う。二人ですら、ライルの指導は厳しいものがあったのだ。それが王子なら、なおのことだろう。


「……何を仰いますやら。坊の出来る仕事の範疇などたかが知れる。時間を取るのはほぼ勉強が多いでしょう?一ヶ月以上城を空けた代償は大きいのです。」


「城を空けたのは兄上の指示なんだが?」


アレクシスはロバートを睨む。今にも噛み付いてしまいそうな勢いだ。

何やらここに来て、主人と参謀二人の雰囲気は殺伐としている。お茶らけたルーカスの姿が見えないのも、原因の一つだろうか。お邪魔したら一番に飛び出して来そうな御仁は、未だに顔を出して来ないのだ。


「あの、先輩は……?姿が見えませんが……。」


エレーンは何とかこの雰囲気を打破出来ないかと、恐る恐る二人に割って入る。


「あー……あいつは……。」


アレクシスが話すのを遮る様に、ノックの音が響く。


人払いした筈なのに、返事を待たずに、扉が静かに開かれた。


「失礼致します。遅くなり申し訳ありません。殿下、此方の書類の資料についてですが……。」


ルーカスが書類片手に執務室に飛び込んで来た。


「!、……げっ!……何だ、エレーンちゃんだったの?人の気配が多いから、畏まっちゃったでしょ。」


三人に気付いて、ルーカスは間の抜けた声を上げる。


「げっとは、エレーンちゃんに失礼だぞ、ルーカス。」


ルーカスのたじろぐ姿に、ライルが笑う。


「いや、ライルさんに言ったんだよね。」


途端に素っ気なくなるルーカス。どうしても、ライルとは反りが合わないらしい。


ライルは笑顔を固定したまま、素早くルーカスの頭を脇に抱え込み、拳で頭をグリグリする。あの動きの速いルーカスを捕まえるとは、ライルも中々侮れない。

何だか一瞬体術の試合の様な攻防が垣間見えたのだが、ルーカスは何とか逃げ出して、髪を整える。


「遊びに来るの遅かったね?」


ライルを無視して、何事も無かったかの様にエレーンに笑いかけた。


「は、はい。ライルさんから色々と教わっていたので……。」


ルーカスの雰囲気の変化に思わず身構える。何となく、ルーカスは何処に居ても、あのままだと思っていたのだ。


「?どしたの、エレーンちゃん。」


一方ルーカスは不思議そうにエレーンの顔を覗き込む。


「……お前の猫かぶりに驚いたんだろ?」


「えー?会わない内に俺の男前が益々上がって、驚いたんでしょ?」


アレクシスの嫌味にも、どこ吹く風だ。


「……。」


……何時ものルーカスで、エレーンは少し残念な様な、損した様な、複雑な気持ちになったのだった。


「もう予定は詰まってるし、じいもこいつもこんな調子で、息苦しくて仕方無い。もう、お茶にしよう!お茶!」


アレクシスは立ち上がり、ロバートを見る。

ロバートはちらりと時計を確認し、静かに首を振る。


「……無理です。後十分後に、アロイス伯が来ます。」


「げっ!!」


「今だって、ぎりぎり詰めて空けた時間なんです。これ以上の余地は無いですな。」


一気にアレクシスのテンションがだだ下がり、部屋の空気は重く沈んだものとなった。


「アロイス伯は面倒……。いえ、頑なな方ですので、申し訳無いですが、貴女方はお帰りなさい。ルーカス、門まで見送りお願いします。」


ロバートに帰る様に促され、四人は執務室を後にした。ルーカスはライルを警戒して少し渋り、アレクシスは自分が送ると駄々を捏ねたが、ロバートに睨まれて二人共渋々従った。






城の廊下は長く、床材は白と濃い灰色、黒の三色の大理石を幾何学模様に嵌め込み、壁紙も金箔で細やかに柄が入り、天井には端から端まで精巧な絵が描かれている。


「豪奢な内装ですね。とても素敵です。」


柱の一つですら、彫刻が施されていて見ていて飽きない。


「ここは賓客も官職も通る、一番人通りが多い通路だから、見せ付ける様に派手に出来てるだけだよ?裏なんて地味地味。そうだ、中庭の通りに行けば良かったかな?」


「まあ、どうせその内また来るから 、その時でいいでしょ。」


「ライルさんには言ってません~。勝手に会話に入って来ないで下さい~。」


「お前は子供か!」


相変わらずのやり取りをしていると、前方から官職の制服を着た男性二人がやって来た。


「これは、ルーカスどの。そろそろアロイス伯との約束のお時間では?この様な場所でどうされました。」


ルーカスの眉毛が一瞬歪んだのを、三人は見逃さなかった。


「殿下のお客人をお送りしているのです。見送り次第、直ぐに戻りましょう。」


非の打ち所が無い、鉄壁の笑顔がそこには有った。

しかし、二人組みは見向きもしないでエレーンをちらりと盗み見る。


「何と、殿下の客人とはこれまた美しいご婦人ではありませんか。仕事の合間に息抜きが出来て、ルーカスどのも役得と言うもの。いや、私が代わりたいくらいです。」


話しが此方に向かいそうで、エレーンは身構えるが、ルーカスがそっと緊張しているエレーンの前に体を寄せた。


「いやいや、女性のエスコートは慣れた者の役目。ですから私が選ばれたのです。私の他に、この城で勤まる者が少ないというのは、何とも嘆かわしい事態だと思われませんか?あまりに酷すぎて、講師でも務めようかと思い悩む程です。貴殿方も、今後の為に精進なされた方が良いでしょう。まあ、淑女の方々に何と噂されているのかご存じ無いとは、反って幸せと言うものかも知れませんが、紳士として恥ずべき事実だと私は思いますね。そもそも、羞恥心をお持ちなら…………ああ、もっと話して居たいのはやまやまですが、時間が押しておりますので。それでは。」


ルーカスが早口にペラペラ話して去って行ったので、官僚二人は煙に巻かれたかの様にポカンとして突っ立っていた。




二人を残し、四人はずんずん廊下を突き進む。


ライルは官僚に背を向けた瞬間から、笑いを堪えて肩を震わせている。


「何時もあんなやり方してんの?面白過ぎだろ。」


ルーカスはライルをジロリと睨んだ。


「あの、あんな言い方で大丈夫なんですか?」


エレーンが心配していると、丁度通路の分岐点に差し掛かり、ルーカスは無言で進路変更を手で合図した。



進むと、中庭が見える外通路に出る。


外通路は、屋根が掛かって柱と手摺で中と外は区切られているが、壁が無い為にこの時期だとまだ肌寒い。

必然的に、人通りが無くなった。



「……全く、タイミングが悪いったら。」


ルーカスは歩く速度を緩め、溜め息を吐く。

ライルは我慢してた分、大きな声で笑い出した。


「殿下を仕事せずに遊んでると言って来る何て、良い根性してるな、あいつら。」


「まあ、王子と言うより俺に言いたかったんでしょー。俺に絡むと何倍にもなって返って来るのに、懲りなくてさー。本当、脳ミソ入ってんのかな、あいつら。」


「モテない奴は引っ込んでろ!だもんな。」


ライルはまた笑い出した。


回りくどい嫌味の応酬に、ロイはイスベルでの特訓を思い出していた。大袈裟にやっていると思っていたのに、現実だったとは。一人身震いして腕を組む。


「何だか、私が切っ掛けを与えたみたいで申し訳無いです……。」


エレーンはイスベルの城内とは雰囲気が雲泥の差に、激しく落ち込むと、ルーカスは勢い良くエレーンの背中を叩く。


「?!」


「何言ってんのー?あれは稀な人種!あんなんで凹まない凹まない!……確かに、エレーンちゃんが居なかったら、後十倍長ったらしく嫌味を言ってたとは思うけどねー?」


笑うルーカスの周りが、ほの暗い、淀んだオーラに覆われた様な錯覚を覚える。


「結構面白いんだよね、何て言ってやろうかって考えるの。次いつ鉢合うかなー。」


ニヤリとした笑顔は、先程の二人組よりも悪役が似合いそうな程、邪気を孕んでいる。


「……何とも良い性格してるよ、お前も。」


ライルは呆れながら、もう笑いはしなかった。





その後、すれ違う人達は、ちらちらと見る者も居たが誰も話し掛けては来なかった。やはり、先程の二人が稀な人種……というものなのだろうか。



門まで辿り着き、ルーカスに見送られて王城を後にする。





「……思ったより、王城勤務楽しそうだな。」



ライルの爽やかな顔に、エレーンとロイはライルの底知れぬ闇を見た気がして、弱冠引いたのだった。


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