21話

エレーンに連れられ、男三人は食堂へと移動した。外は城からでも分かる程、広場は人で賑わっている。此方で挨拶が終わってから、自由に街を見て回ると良いと提案され、ルーカスの悪意満点な悪戯も忘れ、アレクシスは気分が高揚していた。


食堂ではかなりの数の兵士が集まり、まだかまだかと、開催宣言を待っていた。王子殿下の登場に歓声が上がる。


「?!」


初日とは打って変わって、歓迎ムードにアレクシスは困惑した。


「王子~!遅いです!俺ら待ってたんですよー!」

「早く早く!待ちきれねぇー!」


歓迎の意味が王子そのものではなく、王子殿下の登場でこれで呑めると喜んだだけだった。それでも、優しい雰囲気に自然と顔が綻ぶ。やはり、何と逞しい者達だろうか。


アレクシスの着席を待って、座っていたサイラスが徐に立ち上がる。


「えー、今回の海賊退治も誰も死ぬ事無く、無事に終えたのは一重に皆の協力が有ってこそ……」


「主!長ーぞー!」

「いーよいーよ、何時も同じだから!」


口上中の野次にサイラスは顔をしかめる。が、ふっと唇の端が上がる。


「ええい煩いわ!……ったく、お前たち、今回もご苦労!乾杯!!」



「 「「「かんぱーい!!」」」」



掛け声と同時に焼かれた肉が次々運ばれる。

アレクシスも目の前の料理を早速食べ始める。開始十分で、ルーカスは兵士の輪の中へ入って行ってしまう。


「さー、呑むぞー!おら、根性入ってる奴は来い!!」


一緒に戦ったからか、兵士達に大人気で瞬く間に囲まれている。お陰で今日は無理矢理呑まされる事も無さそうで、アレクシスは一安心だ。ロバートもサイラスと、城の側近方と挨拶合戦に行ってしまった。自身も本来なら行かなければならないが、昨日の今日で遠慮した。別に公爵が怖いわけでは無い。決して。


そして、エレーンもバタバタと手伝いに行ってしまった。


この城は従者が少なすぎると思うんだが。


そう思いながら、端に寄って一人でゆっくりと食べていると、イザベラがワインのボトルを携えアレクシスの目の前にやって来た。グラスにイザベラ自らワインを注ぐ。


「お食事中にごめんなさいね?隣宜しいかしら?」


アレクシスは快く椅子を引いた。

二人は乾杯をして、ワインを一口含む。その様子をイザベラはにこにこと見つめてくる。あまりの視線に、顔に穴が開きそうな程だ。


「……あの?」


「あら、やだ。そうよね、お話ししないといけないわよね!可愛らしくて、つい。」


うふふと笑う公爵夫人は、当初挨拶ぐらいしかしていなかったが、独特な方だとアレクシスは思う。可愛いだなんて、失礼だが夫人の方がよっぽど似合う言葉だろうに。


少し姿勢を正し、イザベラへ向き合う。ここは毅然とした態度を見せるべきだと思ったのだ。


「きちんと挨拶もせずに今日まで来てしまい、大変失礼した。昨日の対海賊戦では、此方の我が儘で側近を前線に参加させて頂きー」


「王子殿下だと、晩餐会みたいな優雅な方が良いのかしらね?」


「はい?」


話しの途中に突然聞かれ、一瞬戸惑ってしまう。


「イスベルの祭は何時もこんななの。晩餐会や夜会なんて畏まった行事、年に一度有るか無いかなんですもの。宴は多いのだけど……でも、殿下はそういった催しの方がお好き?」


「い、いや、実は夜会が一番苦手で。こういった祭は初体験だが、俺はこっちの方が落ち着くかも。」


言って、しまった!と後悔する。釣られて言葉使いも何も無いではないか。


「そうなの、良かったわー。男臭い宴会だけど、本当に楽しいのよ!」


良かった、言葉使いも特に気にせず夫人はにこにこと笑っいる。アレクシスがほっと胸を撫で下ろしていると、イザベラが横を通った兵士に何かを頼んでいる。と、直ぐに両手に持てるだけ沢山の料理が運ばれて来た。


「これも、これも美味しいのよ!どんどん食べてね?」


並べられた料理は確かに美味しそうで、アレクシスは遠慮無くばくばく食べる。もう、体裁を整えた所で、手遅れな気がしていた。


「それね、全部エレーンが作ったの。」


何が楽しいのか食べる姿を見ながら、イザベラは嬉しそうだ。自身も流れる手付きで良く食べているが。


「エレーンは私に似ないで、料理も出来るしとても良い子なのよー。」


「はい。や、ええと、夫人がどうと言うわけでは無くて、その……エレーンどのは、素敵な方だと思います。」


慌てて頷く。ちょっとしか凄していないが、エレーンの人柄が良い事は分かっているのだ。そもそも、公爵夫人は料理が出来なくても誰も咎めないだろうが、マルシュベンでのエレーンを見ていると、必要な技術なのかも知れない。


「そうでしょう?そうなの!だから、あの子が単身王城に行くのが心配で心配で。」


アレクシスは途端にぐふぉっ!と大きく咳き込んだ。びっくりして気管に入るかと思ったが、何とか回避出来た。そっちの話しに持って行かれるとは。まさか、夫人は入城に反対なのだろうか。そんな話はしていなかったが……と、ちらりとイザベラを盗み見る。


「だから、殿下、くれぐれもあの子を宜しくお願いしますね?」


反対では無かった事で、アレクシスは内心安堵した。これからまた説得しなければいけないなんて、日を跨いでしまいそうだし。


「ああ、任せー」


「だから、社交会で浮気とかしないでね?」


被せ気味で明後日の方向にお願いされて、気を取り直して飲んだワインに益々噎せる。慌ててワインをぐびぐびと呑み干す。


何を言っているのだ、この夫人は!


ワインのせいか顔はどんどん熱くなる。


グラスをテーブルへ戻して、アレクシスはイザベラを真っ直ぐ見る。これはきちんと話し合う必要がある。早急に。


「あの、何を……。」


イザベラは相変わらずにこにこしている。何とも喰えない御婦人である。


「私の可愛いエレーンを連れて行くんですもの。他に目移りしないわよね?」


この状況は……一体全体何なのだろう。本当は反対なのだろうか?アレクシスには夫人の意図が図りかねた。だって、このやり取りってまるでー……。そう思って、アレクシスは言葉を口にした。


「あの、そういった相手に連れて行くのでは無いので安心して頂きたいのだが……。」


「あらー!エレーンじゃお相手にならないと??」


いやいや、だから違うって!と叫び出しそうなのを、ぎりぎり堪えた。が、違う人物が大きな声で二人の会話を遮った。


「か、か、母様!!なな何をお話しなさっているの?!」


顔を真っ赤にしながら、エレーンは肉の乗ったトレーを手にテーブルの近くで仁王立ちしていた。イザベラはあらー、と呟いていたが、エレーンは乱暴にテーブルへトレーを置いて、自分の母であるイザベラに向き合った。


「アレク……じゃない、殿下に失礼な事を言わないで下さい!もう酔ってらっしゃるの??」


イザベラはうふふと笑う。この夫人は……楽しんでいるな?少し状況に置いて行かれ、アレクシスは二人の様子を眺めていたが、


「わっ私の上司なのよ?!そんな不純な感情、一切!微塵も!これっぽっちだって持ち合わせておりません!第一、殿下に失礼だわ!」


「?!」


エレーンのはっきりとした言葉に、何故だかハンマーで殴られた様な衝撃が走った。何だ?落ち着け。そう、水分を取って、一呼吸しなければ。

アレクシスは自らボトルを掴み、中身をグラスへと注ぎ、一気に飲み干した。


「?!」


アレクシスの一連の動作に今度はエレーンが驚いた。イザベラはあらあらー、と言いながらも、こっそりと席を立った。


「ちょっと!母様?!」


逃げ足速く、イザベラは人に紛れてしまう。流石は戦姫。人混みの中でも進みが早い。


取り残されてエレーンは戸惑っていた。


長年の経験上、この飲み方は不味い。これは、絶対ー…!



「エレーン、ここ座って。」


真っ赤な顔で、アレクシスはエレーンを見据えていたのだ。エレーンの危惧した通り、……絡み酒だった。


仕方無く、エレーンは席に着いた。宴会が始まってから食事もゆっくり取っていなかったので、有り難く食べ始める。それをアレクシスはポヤーっとしながら見つめて来るので、あまりの視線に少々食べ辛い。


「あの、アレクシス?お水飲みましょう?」


堪り兼ねて、エレーンは恐る恐るアレクシスの顔を覗く。同時に彼はにこーっと笑顔になった。


「んー、いらない。今良い感じだから。」


思う程酷く酔ってはいなかった様で、安心する。が、また手酌でグラスへと注ぎ始めるでは無いか。


「ちょっ……アレクシス、もう止めた方が……」


エレーンは手を伸ばして制止しようとするが、何故かその手を取られてしまった。


「?!」


「エレーンも呑もう?」


とろんとした眼差しでじっと此方を見つめる。


途端にエレーンはどうして良いか分からなくなってしまった。もっときつく言った方が良いのか、それよりもこの手をどうしよう?!皆が居るのに!(?)と、心臓はバクバクで、顔は既に真っ赤だ。頬の熱すら感じる。

加えて大混乱で言葉も出ない。完全にパニック状態だ。


不意にぐいっと手を引っ張られ、二人の顔が近付く。青い瞳に真っ直ぐ見つめられる。潤んで何とも艶めかしい。


「ね?」


駄目押しに笑顔を向けられ、もう心臓は爆発してしまうのでは無いだろうか?耳の中で鼓動が早鐘を打つ。自分はここで倒れるかも知れない。そう思って、エレーンがぎゅっと目を瞑った刹那、


「チョーップ!」


後ろからルーカスがアレクシスの脳天に手刀をお見舞いする。言葉とは裏腹に、それはチョップと呼ぶには激しかった。お見舞いされたアレクシスはそのまま倒れ込む。エレーンはこっそり薄眼を開けて見た目の前の光景に、ええぇー!と心の中で大きく叫んだ。そんな、まさか主を手にかけるなんて。

エレーンの動揺を他所に、ルーカスはそのままアレクシスを担いだ。諸葛、俵担ぎスタイルだ。


「このセクハラ王子は庭に捨てて来るから、エレーンちゃんは気にせず宴会楽しんで?」


言いながら、スタスタ行ってしまう。途中、あっ!と言って、くるっと此方を振り返る。


「遠慮しないで、嫌な時は嫌って言わないと分かんないからね?」


にっこり微笑むルーカスに、エレーンは黙ってこくりと頷いた。しかし、嫌だったのかどうか自分自身良く分からない。嫌と言うより、困ったと言う方がしっくり来るからだ。とにかく、顔と手が熱いのは分かっていたが。


悶々と考えていると何となく視線を感じ、その先を見る。セシルがにこにこしながら、此方を見ていた。


「?!」


手招きされて、自然と身構えてしまう。ああ、またガールズトークなるものが始まってしまう……。エレーンは渋々と席を立つのだった。





少し肌寒く感じ、アレクシスは目を覚ました。

何だかぼーっとする。気持ち、頭も痛い気がする。ぼんやりしていると、ルーカスが覗き込んで来た。


「あ、起きました?」


言って素早く顔が横へとずれる。いきなり下に何も無くなり、アレクシスは強かに頭を打った。


「?!」


痛さのあまり、悶絶する。何が起こったのか理解出来ない。取り合えず、ルーカスが悪いという事だけは分かった。直ぐにガバッと起き上がる。その瞬間、くらりと目眩がして椅子から落ちそうになり、ルーカスは強引にアレクシスの腕を掴み、引き揚げた。


「何で?」


夫人と呑んでいた筈だが、その後の記憶が曖昧だ。項垂れるアレクシスの横で、ルーカスはボトルのまま酒を呑んでいる。


「王子、覚えて無いの?」


意味ありげな視線を向けられ、嫌な汗が額に滲む。何だろう。何かとんでもない事をしてしまった気がする。アレクシスのその様子に、ルーカスはにやりと笑う。


「エレーンちゃんに、あーんな事やこーんな事したのに?」


エレーン?!


聞いて、何となく思いだす。エレーンが何かとても怒っていた様な……?椅子の上で這いつくばったまま、ぐるぐると思考を巡らせるが、やはり何をしたのか思い出せない。


「お……俺は何を……。」


ルーカスの顔を盗み見る。無礼な男は視線に気付き、鼻で笑う。それが余計にアレクシスを不安にさせた。


「直接聞く事だね。」


多くを語らず満面の笑顔を向けるルーカスの態度に、更に汗が滲んだ。這いつくばったままでいると、ルーカスはしゃがんで目線を合わせて来た。


「良いですか?王子。」


ルーカスの雰囲気に、ごくりと息を飲む。何を、そんな真面目な顔をして言うのか。大きく息を吸ったと思うとー


「弱い奴は一気しない!」


「は?!」


「はい、復唱してー!」


「ちょっ、何?」


何が始まったのか訳が分からない。


「良いから!はい、弱い奴は?」


「……一気しない?」


「声が小さい!はい!弱い奴は?」


「一気しない……。」


正直テンションに付いて行けない。ルーカスは立ち上がり、いきなりアレクシスの頭を掴む。


「はい、酒に弱い癖して一気したもんだから今!こんな事になってるの!分かった?!」


ぎりぎりと頭が締め付けられる。分かった!と慌てて返事をする。解放された頭をさすり、アレクシスはルーカスを睨む。相変わらず力が強いんだよ!


「何か最近態度酷くないか?お前。」


「…あ?」


ルーカスは上からギロリと睨み返して来る。殺伐とした迫力は流石に場数が違ってアレクシスは押し負ける。何か知らないが、機嫌が良くは無さそうだ。ルーカスはぐびっとボトルを煽り、一気に飲み干す。続いてぷはっと息を吐いた。


「危機管理出来ない子供のお守りは、ほとほと疲れるんですー!」


「はー?!」


そのままルーカスは水を持って来るからそこを動くな。と言い残して、食堂へ入ってしまった。


一人涼しい中庭で、ぼんやりと空を仰ぐ。昨日とは真逆で、空には月が出ている。眺めながら思考する。本当に、己は何をしてしまったのか。……エレーンに会うのが少し怖い気がする。


城の向こうからも音楽が流れて、楽しそうな声が聞こえる。ゆったりとした時間が流れる。アレクシスは目を閉じ、聞こえて来る様々な音に耳を傾けた。そうしていると、少し眠くなって来る。



「お・う・じー♪何してるんです?」



耳元で息を吹き掛けられ、アレクシスは飛び起きた。薄く寝ていたらしい。その横で、あっはっはと笑い声が響く。


リンがいつのまにやら横に座っている。ロイは目の前で立っていた。…こっちもいつの間に。リンの方は顔が真っ赤だ。かなり呑んでいるらしい。全く気配に気付かなかった事に、自分の酔い加減が知れる。


「下に降りないんですか?何か、靴屋のおっちゃんがわざわざ家からハープ出して来て、これから演奏会らしいですよ?」


上機嫌で笑いながら、時折腹に響くのか痛て……と踞る。すかさずロイがリンの背中を摩る。


「……呑むの止めたらどうだ?痛いんだろう?」


リンを伺うが、本人は笑いながら首を振る。


「この祭が終わったら、俺達この街とさよならなんで、目一杯楽しまないといけないんです。」


リンはどこか淋しそうに呟いた。アレクシスは少し心配になり、顔を覗き込む。何処かへ配置換えでもあるのだろうか?



「あっ!そうだった。」


音も無くルーカスが戻って来ていた。突然声を張り上げるので三人共ビクッと反応し、リンはまた悶えた。腹に響いたらしい。水の入ったグラスを渡して来ると、リンを見下ろした。


「この前の、あれ!街で言ってたやつ、どういう事になってんの?」


この前の?何の事か分からないまま、アレクシスは水を飲む。胃に染み渡って、何とも有り難い。ルーカスでは無く、水の存在が、だが。リンは痛がりながらも顔を上げ、ルーカスを見上げる。


「どうもこうも……、俺達お嬢に付いて行くんです。」


えっ!!と叫んで立ち上がる。リンの発言に、アレクシスの酔いが一気に吹っ飛んだ。






ロバートはサイラスとクロードと共に食事を楽しんでいた。先程、なにやら夫人とアレクシスが騒いでいたが、エレーンもいたし、途中でルーカスも動いていたので放置していたのだ。食事も酒も美味しく、良い時間が過ごせそうだった。が、どかどかと此方に足音が向かって来る。


アレクシスが先頭切って、ずんずんと近付いている。


テーブルの前まで来ると、サイラスの方に頭を下げて、直ぐにロバートを睨んだ。


「じい!何か俺に言う事が有るな?」


「……ああ!」


アレクシスに続くメンバーを見て、ロバートは大事な話を思い出したのだった。






一行は応接間に移動した。


サイラスとクロード、レオナルドも呼び出した。ロバートが口火を切る。


「えー、この度、リン君とロイ君がイスベル親衛隊を脱退して、王子殿下付き騎士として王城に入城致します。」


その言葉にサイラスとロバート以外が驚愕した。

リンとロイも驚いているのが引っ掛かり、ルーカスは問いただす。


「ん?知ってたんじゃないの?」


リンもロイもブンブン首を振る。相変わらず息がぴったりな二人だ。


「俺達はお嬢に付いて行くんで有って、王子付きになるとは聞いて無いです!」


レオナルドはそれこそ驚いていた。


「……おいおっさん。また勝手にそんな事考えてたのか?」


冷ややかな視線に、サイラスは目を合わさない。


「親父……」


クロードも呆れている。ロバートはまあまあと場を諌めた。


「そうです。元々エルさんに付いて行く筈でしたが、流石に新人が部下連れとは悪目立ち過ぎます。それこそ、在らぬ争いを招いてしまうでしょう。かと言って只付いて行って見張るなんて王城では無理です。ですから、王子のお付きにすればいつでもエルさんと行動を共に出来ると、私が提案しました。」


サイラスは少し驚いた顔をしたが、直ぐに戻った。


「えー!でも俺達お嬢に忠誠を誓ってるのに、主を別に持てって事ー?」


リンの発言に、これにはアレクシスとルーカスが驚いた。それを受けて、ロバートは静かに首を振る。


「いいえ、貴殿方がエルさんに忠誠を誓っているならそのままで良いんです。只の配置だと思って下さい。今だって、エルさんに関係無い部署に所属しているでしょう?組は一緒ですから、問題無いでしょう。」


ロバートの言葉にリンはうーんと悩む。黙っていたロイがリンを見る。


「……俺はそれで構わないよ?」


ロイの言葉に、リンはえー、と不満気に返したが、直ぐにうんと頷いた。


「お嬢とロイが良いなら良いです。俺も。」


ロバートは笑顔で頷いた。


肝心のエレーンは居ないし、アレクシスの承諾も然して求められず、勝手に大幅な増員は決定した。





決定事項はエレーンには後日伝えるとして、今日は解散となった。新王城組の四人はとぼとぼ廊下を歩く。


「王子元気ー?」


ルーカスが突然聞いて来て、アレクシスは取り合えず、うんと答えた。さっきから、内心少しもやもやとしているのを誤魔化して。


「よし、呑み直そう!酒が抜けた。」


ルーカスの提案に、リンはよっしゃー!と叫んで、食堂の方にずんずん向かう。続いてロイを確認する。ロイも無言でこくりと頷いた。流石に酒が抜けていたが、そんな気分では無かった。しかし、ルーカスに肩を掴まれ、ズルズルと引っ張られてアレクシスは廊下を後にしたのだった。








「さて、何考えてんだよ、お二人さん??」


残った四人も、酒を呑みながら顔を会わせる。レオナルドが一番サイラスに苛立っている様だ。


「お嬢を快く送り出すとか何とか言ってた気がするが、ありゃ何だったんだ?空耳か?」


グイグイ行くレオナルドに、ロバートは気のせいかアレクシスとルーカスが重なって見えた。歳は真逆だが。既視感に襲われ、一人微笑する。


「ロバートさんに言うまで、本当にこっそり二人を付けるつもりだったの?」


クロードも呆れながら詰問する。


「甘い甘いと思っていたけれど、何を考えてるの、俺もびっくりだよ。」


クロードは、はーっと溜め息を吐く。息子の態度を横目で見つつ、サイラスはぐびっと酒を一口呑み、タンとグラスをテーブルへ乱暴に置いた。


「……いや、元々あの二人はエレーン付きの兵士だぞ?エレーンが自立したら、ちゃんと小隊として席も作る予定だった。それが、まさか……」


サイラスはじろりとロバートを見る。ロバートは視線に気付き、そっとグラスを置いた。


「おや。これは、内情も知らずに申し訳有りません。」


「……確かに、それを目標に二人はやってきた部分もあっからな、離れるなんてなったら、自分たちだけでも付いて行くかも知れねえ。」


レオナルドはうんと頷く。そこまで、二人の忠誠は厚いのだろう。


「それにしたって……マルシュベンからお付きが固まって出るのは不味いのでは?」


クロードの問いに、ロバートは頷く。偏りが出ては、他の貴族に何を言われるか分からない。


「ですから、あくまで此方が引っ張って来た。と云うことにしなければなりません。第二王子の我儘で。」


クロードはロバートの言い種に驚いた。自身の主の評判を落としてどうする。サイラスも、先程そこに驚いていたようだ。


「女性を側役に召し上げるだけでも城内は大問題になるのです。ならば、とことん騒いでしまいましょう。」


にっこり微笑むロバートに、イスベル組は只黙って見つめていた。

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