20話

追いかけっこも程々に切り上げ、王城組三人は部屋で昼食を取っていた。ミートパイとクラムチャウダーは絶品で、付け合わせのパンとデザートも美味しく、三人共大満足だった。


ルーカスは台所へ食器を片付けつつ、ご婦人方に満足した事を伝えると、また作ってくれると約束してくれた。やけに笑顔だったのが気になったが、構わずアレクシスとロバートを連れて港へと降り立った。







港へ抜ける門を潜ると、昨日の惨たらしい情景がありありとアレクシスの目に飛び込んで来る。全ては夜の闇で目隠ししていただけに過ぎず、日の光の元では白い街に血の赤や黒く焼けた焦げ跡がはっきりと映る。それでも、嵐で大分流れた筈だ。


アレクシスは口許に手を宛てて、歪む視界で何とか踏ん張る。昼食が逆流して来そうなのを気合いで堪えた。

今までに盗賊狩りは経験している。処刑を最後まで見届けた事だって有る。が、これは数が違う。油と何か焼けた匂いに、血の鉄臭さが混ざり合う。



地獄が有るのならば、ここがそうかも知れない。

などと思う程、目の前の光景は酷いものだった。アレクシスは何だかんだ、数を相手にする戦を経験した事の無い世代なのだ。


思い返せば、確かにイスベル城の付近は安全だった。ルーカスは此処でこの惨状を相手に戦っていた。認識した現実の落差に、何故だか己の非力さも重なり、悔しさと虚しさが滲んだ。それなのに、自分はエレーンにも守って貰って……。


何と情けないことか。


ルーカスに苛つきをぶつけるのさえ、お門違いだ。こんなに、……こんなにも違うのだから。


まだぐらぐらとする体を必死で押さえつけ、アレクシスは拳を握り締める。焼け焦げた船に大量の死体と焦げた木材が積み上げられ、異様な佇まいを見せる。無理矢理括られている縄が、大きな帆船に繋がってギシギシと軋んでいた。匂いから、油も大量に撒かれているだろう事は分かった。


港の真ん中で、サイラスが指揮を取る中、帆船はゆっくりと沖へ進みだし、半焼した船は引っ張られ、波に逆らい追随する。


どれだけ眺めていたのだろう、暫くの間アレクシスは帆船から目を離さずにいた。


沖に小さくなった頃、炎が上がるのが分かった。全てを一手に処理とは、豪快なやり方だ。その炎が小さくなるまで、視線を外さない。ルーカスとロバートは何も言わず、只アレクシスの後ろ姿を見ていた。


もう戻りましょうとロバートに言われる迄、アレクシスは微動だにせず海を見ていた。


気を取り直して何か手伝えないかと動くが、処理の大半を占めていた死体が片付いた事により、街は粗方いつもの状態に戻りつつ有るので必要無いと、サイラスに断られた。


城へ戻り、怪我を負った兵士達が運ばれた大広間に顔を出すが、組合の女性陣に囲まれて騒がしくなってしまい、手は足りているとイザベラに追い出された。


そうやって、何もする事が無くなり、渋々部屋に戻る。ルーカスは午前中に報告を済ましたらしいし、ロバートは何時の間にかサイラスと話しをしたとして、三人は時間をもて余していた。


「あいつは何がしたかったんだろうな。」


ミルクティーの入ったカップを、不作法にもスプーンでぐりぐりかき混ぜながら、アレクシスは呟いた。ロバートは目を通していた本から、此方に視線を向ける。


「……話題に出すのが遅いですな。」


ぴしゃりと苦言を呈され、アレクシスはつい憮然とした態度が出てしまう。


アレクシスのベッドでごろごろしていたルーカスは、ころんと寝返りを打って二人の会話に混ざる。主人の寝台の上で寛ぐなど以ての外なのだが、ルーカスの自由さに既に慣れっこな二人は特に何も言わないでいた。


「て、言っても謎過ぎて、考えても無駄でしょー?」


うつ伏せで足を上に曲げ、交差させて遊ばせているルーカスを、ロバートはじろりと睨んだ。


「貴方がとっとと捕まえていたら、謎でも何でも無い筈でしたが?」


ルーカスはうへぁと声が漏れた。小言の矛先が向いてしまったのだ。パッとベッドから飛び降り、二人を見下ろす。


「止めやめ!!考えても無駄な事を考えたって仕方無い!それを考えるのはロバじいの仕事じゃん。」


ロバートはにっこり笑顔だったが、背負うオーラは完全に怒りに満ちていた。今なら、年の差など感じさせない程で、剣術でルーカスに簡単に勝てるかも知れない。


「そういった物事を考える力を付けるのも、上に立つ者の役目。坊も貴方も身に付けず、どうするつもりです!」


「役目……」


ぼんやり復唱して、まだスプーンを動かす。


「そもそも、私は嘆かわしくて仕方ないんですよ!坊は後先考えずに敵へ向かおうとする。ルーカスは前線へ行っておいて首一つ上げられない。私の教育は間違っておりました。これからはどんどん厳しくして行かないと。」


昨夜も聞いたのに、また長引きそうな説教に二人は今にも胃の中身を吐きそうな、苦い顔をした。


「エルさんと私が居たからこそ、今坊はぴんぴんしてられるんです。そこは感謝して頂きたい。」


「!、あれくらいなら俺だって回避くらい出来る!」


「そんな事を言ってるのでは無いのです。何のために貴方を直ぐに城へと隠さなかったと思いますか?」


じっと睨まれ、アレクシスは思わず縮こまる。そんな事、分かり切っているじゃないか。


「……敵に俺が王子だとバレない為……」


「そうです、せっかく相手が貴方を分かっていなかったと言うのに、わざわざ目立った動きをして……!エルさんもきっとハラハラしたに違いありません。」


「うっ……。」


エレーンの事は申し訳無さが込み上げて、押し黙った。自分がもう少し大人しくしていれば……。でもそんなの格好悪い気もするのだ。


「じいは老い先短いんです。とっとと一人前になって頂かないと、死んでも死にきれませんよ。」


堂々と宣言する辺りが、まだまだ達者で元気だろうと、若者二人は内心思った。しかし、この雲行きは……経験上、説教が長引きそうだ。


すると、三人が居る部屋の扉がノックされる。


開けると、ダニエルがひょっこり顔を覗かせた。ルーカスはすかさずこの殺伐とした空間に現れた救世主を抱き上げる。


「何、坊主良いところに来たじゃーん。ダニエルまじ天使!」


遅れて、後ろからリンも顔を覗かせる。


「えっ!じゃあ俺も天使?」


キラキラとしたリンの目を見て、ルーカスははしゃいだ己を悔やんだのだった。





「すんません!怪我しちゃって、暇で暇で!」


リンとダニエルは三人の部屋へとお邪魔して来た。リンは昨日城前で相対した装束から受けた拳で、肋骨に軽くヒビが入ってしまい、業務が出来ないらしい。

服を捲り、わざわざ怪我を見せてくれたのだが、どす黒く内出血していて、見ていて痛々しい。城と港を何往復もして、体力空の所をやられて、恥ずかしいと笑う。いや、笑い事では無いのだが……無事で何よりである。


「でも、暇だから坊っちゃんと遊ぶにも、痛くて出来ないんですよ。」


それはそうだ。怪我にも悪いだろう。寧ろ寝てなくて良いのだろうか。だがー


「何で俺が延々と馬をやらなきゃなんないんだよ!」


アレクシスはダニエルを背中に乗せ、テーブルセットの周りをもう何周したのかも分からない。難を逃れたルーカスはニマニマ笑う。それはもう楽しそうで、アレクシスの苛立ちは一層増した。


「だって、王子の方がなつかれてるんですもん。俺の出る幕じゃないでしょ。」


次いでロバートへ視線を投げるが、逸らされる。


「な!」


あまりの所業にアレクシスは声が漏れた。


「先程も言いましたが、私もう歳でして。」


そっぽを向いて笑いを噛み殺すロバートに、苛立ちを通り越して殺意すら湧いてくる。


初日も確かに揉みくちゃにされたが、子供の体力は何て無限なのだろう。それとも、自分の体力がへぼなだけなのか。意地で進むが、流石に息が切れて来た。


「何時も坊主は坊っちゃんと何して遊んでるのー?」


お菓子を頬張るリンに、頬杖を付きながらルーカスは訊ねた。


「んー……馬か外で追いかけっこか……たまにチャンバラやったり……。あ!てか、俺リンて名前が有るんだって、言ってるじゃ無いですかー!」


もーっと言いながら、リンは頬を膨らませる。さながらリスの様である。リンとリス…似てるな、とアレクシスはどうでも良い事を考えていた。


「……全部体力勝負だね。本とか読んであげないの?」


ルーカスはリンの要望も介さず、お茶を啜る。もー!っとリンの不満が聞こえるが、お構い無しだ。


「絵本はセシルさんが読む方が好きみたいで。ピアノとかバイオリンは俺教えられないし。」


「必然的に体力勝負になる……か。」


ルーカスは暫し考え、パンと膝を叩いた。







「もっと面白みの有る提案だと思ったのにー。」


一番後ろをゆっくりと付いて来ながら、リンは文句を垂れた。結局、皆で参加出来る散歩に決定したのだ。陽は傾き、夕陽が街を染める。


「本当に綺麗な街だよね。此処は。」


ルーカスがぽつりと言う。

高台から海を見つめる。まだ沖で船が燻っているのが見えた。昨日戦闘が有った事など無かったかの様に、白い街が赤く照らされ神々しいまでの景観を見せる。


まるで全てを塗り潰す様だな、と赤々とした夕焼けを眺めてアレクシスは一人感慨に更ける。


「今日はね、お祭りなんだよ!」


道に石で絵を描きながら、ダニエルはアレクシスを見上げた。一緒にしゃがんで絵を見つつ、お祭り?と尋ねてみる。


「そう、悪者を倒すと皆でお祭りするんだよ?」


知らないの?と続いて、アレクシスは笑ってしまった。頭を撫でながら、ダニエルの絵を観察する。これは…随分と独創的な絵だ。夕陽を堪能していたリンが、アレクシスの隣にしゃがむと、ひそひそと内緒話しでもするかの様に顔を寄せて来た。


「今回はヤバイんですよ。」


「ん?」


脈絡の無い話しに、ダニエルに視線を向けたまま、アレクシスは上の空で返事をする。


「お祭りが10日続きます。」


リンの言葉に理解が追い付かない。其れの何がヤバイのか。確かに、王都でも祭りは長くても一週間程度だが。意図を理解してないアレクシスは小首を傾けてリンを見つめる。リンは立ち上がり、大きく両手を挙げた。


「朝から晩まで呑み放題!!俺、今回怪我したから、見張り程度しかやらなくて良いらしいし、すんごい嬉しいんですよー!」


にこにこと嬉しそうなリンを見て、アレクシスはあの悪夢を思い出した。わいわいするのは楽しいし、イスベル流の呑み方も気にはなるのだが、あの二日酔いはもうこりごりだ。が、リンの話しを聞いて、大喜びしたのはルーカスだった。


「何?すごいじゃん!よーし、呑むぞ~!!」


生き生きしているルーカスを尻目に、こっちは気が重くなった。何のお祭りですかな?ロバートに聞かれ、リンは意気揚々と説明しだした。


「今日は一先ず賊退治のお疲れ会。明日は海で鎮魂祭をやって、また次にお疲れ会。明々後日は春の嵐が来たので、春祭り。それから最終日まで続いて、最後は街を挙げてのお嬢送別会です!」


「なんとまあ…。」


説明を受けて、ロバートは驚きを通り越して呆れの声を出した。


「仕方無いです。ここ二日間でイベントが全部来ちゃったので、やるしか無いんです。」


「イベント……」


イスベルでは、賊退治も立派なイベントらしい。

その方が、街の雰囲気が沈み込まずに前に進めるのかも知れない。街の人間は、多かれ少なかれ大事な人が傷付いたり、死体を目の当たりにしたりする。それが年に何回も有るならば、年中暗いまま過ごす他無いのだ。


それにしても10日か……。


アレクシスの心だけが暗くなった。






「10日……。」


洗濯物を取り込み、エレーンは台所へと舞い戻った。

今回は賊と嵐が重なり、大々的に行われる様だ。自分の送別会など、しなくても構わないと提案したが組合の幹部からは断られた。何が何でもやるらしい。


イスベルでは、春祭りは領民の為のものとして、旅の観光客はあまり呼ばず、門は堅く閉ざされる。

祭りを行う際は、近くの町や村に連絡を入れて、関所に規制をかける。唯一、港側は街道側のみ機能するが、この時期は春の嵐を避けてあまり船の往来は無い。


勿論、領内の町や村から皆こぞってイスベルへと祭りに参加しに来る。春の祭りはマルシュベンでは種蒔きの合図とされ、皆祭りを楽しんだ後畑仕事に取り掛かるのだ。

大抵は三日、四日で終わるが、十日間……。これにはご婦人方もどう転ぶのか不安になっていた。


「問題は食事なのよね~。」


セシルも流石に気が重いのか、溜め息を付く。

祭りは街中全てが会場になり、料理も皆作って出し合う。テーブルというテーブルが広場や道に並べられ、大きな立食パーティーだ。祭り様の豪快な料理や、凝った料理も出て来てそれはそれは盛り上がるのだが、今回は流石に気の遠くなるような話しだった。


「これは組合だけじゃ無理ね!ちょっとあたしご近所の奥さんと相談してくる!これじゃ隣町の婦人会も頼まなきゃいけないかもね!」


アニスはバーン!と扉を開けたまま、駆け出して行った。


「大物は男らに任せよう。ちょっと行ってくる!」


パーシーも飛び出した。


残されたエレーンとセシルは、頼りになる二人を見送り、用意を始めた。




心なしか、街全体から料理の良い匂いがする。


散歩も限界を感じて、アレクシス達は城へと戻った。城の中も肉の焼ける良い匂いが充満する。匂いに誘われ、中庭に行ってみる。豚の丸焼きと子牛の丸焼きがダイナミックに行われている最中だった。アレクシスとリン、ダニエルがおおーっ!と声を上げた。


アレクシス達に気付き、焼き手の男が手を振る。


「おー、王子さん!!どうだい、凄いでしょ?」


見れば、昨日高台の見張りをしていた男だった。名前をピーターと名乗る。奥に食堂で会った覚えの面々がちらほら見えた。が、その中の一人を見て驚いた。


「クロードどの?!」


クロードはラフな格好に手袋を嵌めて、額に汗して火の番をしていた様だった。苦笑いしながら、アレクシス達に近付いた。


「いや、人手が足りなくて。もう少しで焼きあがりますよ!」


爽やかな笑顔に、アレクシスは何だか顔が綻ぶ。色々と有りすぎて、正直ご飯は喉を通らないかと思っていたのに。マルシュベンの人達の、何と逞しい事か。一人噛み締めて、頷く。


「なーに、ニヤニヤしてるんです?」


ルーカスに突っ込まれて、はっとする。いかんいかん、ちょっと感傷に浸りすぎだ。


「では、支度しないとな。昼間稽古で汗もかいたし、風呂に入って来るか。」


アレクシスの言葉に、何時の間に稽古してたんです?とブーブー煩いルーカスを無視して、部屋へと戻ろうとした時、ダニエルが騒いだ。


「僕も一緒に入る~!!」


どうするか困惑していると、焼き手の方から声が掛かる。


「若も、此方は粗方大丈夫なんで、皆で風呂に入って来たら良いですよ!」


「えっ!」


「じゃあ、そうしようかな!」


「えっ!」


初見の堅苦しさは何処へやら。裸の付き合いが、ぽんぽんと決定した。


兵舎に大浴場が有ると言うので、皆でそちらに移動した。思っていたよりも、城の敷地は広い。兵舎も三階建てでどっしりとした建て構えで、浴室も立派だった。浴槽だけで、小さい部屋くらいすっぽりと収まりそうな位大きい。


ダニエルははしゃいで、歓声が浴室に響く。ルーカスが走り回るダニエルを捕まえて、体を洗ってやる。こんな時は、基本面倒見が良いのだ。

大きな風呂の一番風呂はやはり気持ちが良い。リンは昨日の今日で打ち身に響くからと、浴槽には入れずさくさくと体を洗って行ってしまった。


ロバートは深く肩までお湯に浸かる。

クロードもふーっと大きく息を吐き出し、揺ったりと腰を据える。細身かと思いきや、やはり剣士だ。無駄の無い、鍛えられた体に大小傷痕が浮かぶ。


「そう言えば……。」


アレクシスは呟いて、クロードの足を盗み見ようとしたが、お湯で今一要領を得ない。アレクシスの様子に、クロードは不思議そうに首を傾げる。


「どうかしましたか?」


アレクシスは自分の端無い行動に手を大きく振ったが、やはり気になるので、正直に打ち明けた。

エレーンの剣を持つ切っ掛けの話しを聞いた事。其れで益々エレーンの人となりが分かって入城して欲しい気持ちが強くなった事。クロードは黙って聞いていた。ロバートも、珍しく口を挟まない。


一頻り話しを聞き終え、クロードは姿勢を直して顔を向ける。


「……そうでしたか、それは俺も初めて聞きました……。……殿下も昨日体感したとは思いますが、イスベルは本当に戦闘の多い街です。ここでは弱い者は生きて行けない。心も体もです。殺らなければ此方が殺られる。でも、いくら悪党だとしても、やはりあれだけの死体を見てしまうと、ちょっと負担ですよね。まして、己で手を下してるんですから。尚更剣を握る事を考えてしまう時が有ります。」


その言葉に思う伏が有った。静かに頷く。


「……皆通る道です。」


クロードは苦笑する。


「だから、マルシュベン家の子供だと言って無理に剣を握らせるつもりは無い。それは一貫しています。エレーンも其れで最初は剣に興味も無かったんです。しかし……その手に剣を取った。」


俺のせいかも、とクロードは笑って言った。それを受けてアレクシスはかぶりを振る。


「近衛兵隊に入った時に、初めて水葬を見せたんですが……言ったんです。この山が街の人で無くて良かった、そう思ったら剣を振れると。ガクガク体を振るわせて。」


アレクシスは自身の掌を見る。あの時握った爪の後が、まだうっすら残っている。


「……あいつは、真面目で不器用です。正直、入城して色々とご迷惑をかけるかも知れない。……それでも、エレーンを信じてやって下さい。宜しくお願いします。」


お湯に浸かったままだったが、クロードは深く頭を下げた。アレクシスは慌ててクロードの肩を掴み、頭を上げさせる。

体を洗え終えたダニエルがバシャバシャと波立たせて浴槽に入って来た。直ぐにクロードに飛び付き、パパ大丈夫?と心配している。


アレクシスとクロードは顔を見合わせ笑う。


「任せておいて欲しい。」


微笑んで、隣にいるダニエルの頭を撫でた。


「任せておいて下さいよー!俺が居るんで!正直、王子よりも頼りになりますよ?」


ルーカスも続いて浴槽へ入る。ドヤァとした顔がアレクシスを苛立たせる。さっきまでの穏やかな気持ちを返して欲しい。


「お前は何時もいつも俺を怒らせるのが天才的に上手いな!!何なんだ?!」


しかし、ルーカスはきょとんとした顔だ。


「え、趣味?」


全く、こいつと来たら!


アレクシスはだーっ!と叫んでルーカス目掛けてお湯をかける。ルーカスも反撃する。ダニエルもきゃっきゃと参加する。暫くしても、三人は全く落ち着かない。


「いい加減にしなさい!!」


見守っていたロバートの雷に、三人は固まる。お恥ずかしい……と謝るロバートを横目に、クロードは一人笑うのだった。



風呂から上がり、三人は取り合えず部屋に戻りだらだらしていた。


「大体さー、王子も俺を怒らせるの天才的に上手いからね?」


ソファの背もたれに首をだらりと預けたアレクシスは、天井を仰ぎあっそーと生返事する。その様子に、ルーカスは半目でアレクシスを見ていたが、はっと何かに気付いた。ロバートは、普段ならば不作法なアレクシスを嗜めるのだが、一人静観している。


「!。……俺を怒らせるとどうなるか見せてやんよ!」


ルーカスは突然立ち上がり、扉を思い切り開けた。


「きゃっ?!」


今まさにノックしようとしていた手をそのままに、エレーンは驚いて固まっている。アレクシスはまさかと思い、驚いて飛び起きた。


「エッエレーン!!どうした?」


行儀の悪い所を見られてしまった。恥ずかしい……。と、アレクシスが慌てていると、何故かエレーンも慌てだす。


「あの、食事の用意が出来ました!」



あたふたとする二人を眺め、ルーカスはエレーンの後ろでにやりと笑って見せた。その悪い顔と言ったら。


……こいつ、本当に腹立たしい。


今度はアレクシスがルーカスを半目で見る(睨む)番となったのだった。

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