第3話

ーーピロリ。


夜遅くにスマホが鳴った。

持ち主は訝しげにそれを見る。

通話、メール、対外的なツールは未使用である。

もっぱら『ソシャゲ専用機』として活用していたが、最近は妙なイタズラまで受信するようになっていた。


「私メリーさん。これからあなたの所へ行くの」


やっぱりお前か。

そんな呟きも、雪崩のように押し寄せてくるメッセージ音にかき消されてしまう。



ーーピロリ。


「私メリーさん。今度はタクシーに乗って行くの」


ーーピロリ。


「私メリーさん。お母さんからたくさんお金もらったの。心配しないで」


ーーピロリ。


「私メリーさん。道路がすごく混んでるの。事故があったんだって」


ーーピロリ。


「私メリーさん。運転手さんが迂回するって。大回りするから遅くなるね」


ーーピロリ。


「私メリーさん。メーターがすごい回ってるの。どうしよう」


「思ってたよりずっと高くなっちゃった。生田まで行けない。どこかで止めて貰わないと」


「唐木田に着きました」


「お金どうしよう。ちょっと足りない」


「すいません、どうしてこんなに高いんですか? すごくメーターが上がりましたよね。ポチっていじくって」


「詐欺ですか? 子供舐めてませんか? 私こう見えて怒ると怖いんですから」


「あ、深夜料金……はい。すいません、知りませんでした。子供なんで、普段は夜中に出歩かないんで」


「えっと、あと420円ですか? どこかに無いかなぁ。ポッケにないし、ポシェットも空だし……ええと、ええと」



そこで多量のメッセージが止まる。

しばらくして……。


ーーピロリ。



「私メリーさん。唐木田まで迎えに来てください」



親御さん唐木田ですよ!



ー完ー

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メリーさん、たどり着けない おもちさん @Omotty

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