第8話 渡りに船

 ノンジの父親が居なくなったという噂は街中に知れ渡ったが、街には近しい血縁関係も居なかった為、親戚がこぞって家に押しかけるというようなことはなかった。元来寂しい事なのだが、今のノンジには都合が良かった。これで自分が居なくなっても、誰も自分を探さないという事だから。

 本に書かれている通りなら、まずは本を奪う子供を探さなければいけない。

 しかし探す前からノンジには当たりを付けている子が居た。ステワニだ。

 身長も体重もほぼ同じで、体格も変わらない。顔は違うが、髪型が似ているから遠くから見ればあまり差はない。それに声質も似ている。何より、ノンジはステワニの事を良く知っている。それ故、彼の立ち振る舞いをそっくり真似る自信があった。後はパパの愛に勝てるかどうか。

 本に書かれている通りなら、対象の子供と入れ替わったら、まずばれる事はないそうだ。勿論、性別が違ったり、背丈があまりにもかけ離れていたり、性格が全く違えば、似ている定義からは外れるのでばれてしまうようだが、逆に大きく差の無い程度に似ていて、それなりに似る努力が出来れば絶対にばれないということである。厄介なのは、どれほど努力をしても本人ではないという事で、それをパパは見抜いてしまうのではないかという心配があった。


 ステワニに対する愛情。


 欲しいと言ったら1億円でも躊躇ためらいなく払い、生き死にすらも息子の為に操作できると豪語するパパ。ノンジはそれをハリボテなどと疑う事は出来なかった。自分の父親ができない事を軽々にやってのけるパパを、友達のパパながらに尊敬していた。本物の愛を感じていた。そのパパを騙し切る自信があると言えば嘘になるが、しかしノンジはやるしかなかった。


 ノンジは普段の生活の中で、わざと元気が無いように振る舞い、ステワニの気を惹いた。自分の父親が突然失踪したのだ。寧ろ元気がある方がおかしい。それゆえ、その演技を見抜ける者は誰一人おらず、ステワニも殊更ことさらノンジの事を気に掛けた。

 ある日ノンジはステワニからキャンプへ行こうと誘われた。渡りに船だった。

 夢の本にも自分と風体ふうていの似た子供から遊びに誘われて付いて行くと書かれていた。

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