第7話 入れ替わり

「さて、この本の事は朝にも話したが、まず孤児みなしごにしか開くことができない。この本を開いたら君の新しい人生がスタートする。本に書かれている内容は大雑把なものが多いだろうが、ストーリー通りにこなそうとすれば必ずその通りになる。当然怠けて何もやろうとしなければストーリーは破綻はたん。ただのゴミになるから気を付けて」


 ノンジは夢の本を受け取り、タイトルを見た。そこには『入れ替わり』と書いてある。夢が入れ替わりとはどういう事か。怪訝けげんな顔つきでアラガネを見ると彼はニヤリと笑った。


「この夢の本のタイトルは『入れ替わり』。文字通り、君は既に本を持っている人と入れ替わるんだよ。その本にも書かれているはずだから、俺の説明は重複になってしまうが、念の為あらすじを説明しておくよ。君はこれから君に似ていてかつ夢の本を持っている子供を探し出し、頃合を見計らって殺し、本を奪う。そうすれば入れ替わりは成功。後は、その子が元々持っていた本の通りにストーリーを進めて行けば、その夢の本の通りの夢を叶える事が出来るという寸法さ。殺して入れ替わったときに自分に親がいたらきっと親が探してしまうからね。孤児にしか開けないとはそういう事。理解できたかい?」


 ノンジは自嘲気味に笑って見せた。


「また殺すのか」

「最初に俺は言っただろう。相応の覚悟が必要だと。そんな簡単な話ではないんだよ。持たざる者が夢を叶えるという事は。無いものを産みだす能力があるなら産み出せばいいが、その能力がないのなら奪うしかないんだ。それが君が生きているこの世界だし、それは俺の所為せいではないんだよ」

「アラガネの所為だとは思っていないよ。ただ僕はまた人を殺すのかと思って、嫌になっただけだから」

「今ならまだ孤児のままで終われるけれど、どうするね」

「もうここまで来たら、引き返せない。……いや、もとより引き返すつもりはないよ」


 本を開きかけたノンジの手をアラガネは手を添えて首を振った。


「今日はもう遅い。夜更かしの読書は夢見心地で魅力的だがね。明日開くと良いよ」


 言われてノンジは夢の本を開くのを止めた。


「今夜はどうする? 家に居ても寂しかろうし、ここに泊っていくかい? 俺も明朝には次の街へ旅立つ。見送りが居るのも悪くないと思ってね。提案させてもらったんだが」


 ノンジはしばらく考えて、首を横に振った。


「折角の提案だけど、やめておくよ。僕が夜泣きでもしたら大変だろう?」


 アラガネはハッハッハと笑う。


 笑い声を背に歩き出したノンジだったが、しばらくして振り返る。


「今日はいろいろ有難う。リンゴに魚に夢の本。沢山貰ったね。次の街に着くまで晴れていると良いね。お達者で」

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