第三話「悩める英雄」


…真面目に困っている。俺は俺、ああああああ。

 これはプレイヤーネームであり、本名では無い。

だもんで、アロクという人物とは別人である。


 で、あるが、本当に頭打っておかしくなったのかもしれない。

 そう、思えてきてしまいそうで、怖い。


頭上から降り注ぐ威圧感。足元では泣き崩れているマリアヴェル。

 これ、どう対応すればいいんだろう。

これなら無限ポップしている敵とやりあってた方が楽だ。

 考え、悩むも答えが出る筈もなくな俺に、更に追い討ちでも

 かけようと言うのか、声が聞こえる。


 「アロクさーん!!」


ん?聞き覚えの無い声。いや聞いた事あるような無いような。

 それでいて、多く亀裂の入ったブリガンダインに、皮製の服。

 レムリア…だよな?


 「…レムリア…か?」

 「はい。あ…でも、ルリアマールでもあるんです」


どゆこと? 首をかしげ、違和感の元である髪の色をみやる。

 金髪だったのが、少しエメラルドに近い感じに…???


 「それは、どういう…」

 「それは私がお答え致しましょう、我が主」


突然、影から出てきたゼシュタルが、語り部口調で事の顛末を説明してくれた。


 俺と別行動を取ったあの後、マリアヴェルに傷を癒して貰い、

 王城へと辿り着く。犬門はジャバウォックと戦風ちゃんが容易く破壊。


城内は異界化、触れると異界種となるがそもそもに異界種となるには条件が

 必要。非常に稀ではあるが、彼女はその条件に別の形で満たされていた。


ゼシュタルは両手を広げ、空を仰ぐように呟く、さながら熾天使のようだったと。

 そこからレムリアが獅子奮迅の戦いを繰り広げ、同時にナイトオブロードの

 三人が彼女をサポートし…あー、養殖しちまったか。


レムリアに策はなくとも、ゼシュタルにはあった。異界種と化した存在は

 決して元には戻れない。『ただ一つの例外を除いて』


レムリアが、強敵との連戦に継ぐ連戦で瞬く間にCR99に到達。

 そして、ルリアマールもCR99だ。だが…そんなことが可能なのか?

と、首を傾げると、可能でした。と、結果論だった。

 

互いに異界種と化した二人が戦う。その最中でもレムリアはルリアマールに

 呼びかける。嘘偽りの無い言葉で。


 『貴方をずっと見ていた、これからも貴方の為に生きたい』


…両親の仇であるが、それを許し、受け入れる慈悲深さ…と。

 ここでまたゼシュタルがオーバーアクションしている。

 好きなんだな芝居がかった語り方。レムリアが何か恥ずかしそうに

 俯き。涙を忘れたマリアヴェルも見入っている…ああバードだ。


そんな嘘偽りの無い言葉に、ルリアマールの自我が反応したのか、

 自分のした事の後悔を口にし、大粒の涙を流した。

そこに剣を下ろしたレムリアが歩み寄り、優しく涙を拭う。

 王族に生まれた故、個人として見てくれない孤独…か。


俺には理解しようにも出来ない。そんな辛さや重責がルリアマールを

 歪めていったのだろう。そんな彼女を見てきたレムリアだからこそ…か。


そのまま二人は抱き合い、CR99に到達した者のみが行える転生回帰を

 ゼシュタルより教わった手法で行うと、朱と緑が交わり、

 一人の人間に生まれ変わった…か。


あれ、俺、ちょっと損した気分。お使いクエストじゃないよねこれ!!

 そういうシナリオなら喜んで行ったよ!? 畜生!!


 「という事で御座います。ご静聴、誠にありがとう御座いました」


と、胸に右手をあてて一礼するゼシュタル。

 いつのまにか、紙に内容を書き留めているマリアヴェル。

 職業病というか、うん。まぁ泣かなくなったので助かった。


 「何か、恥ずかしい…ってマリアさん!? 書き留めないで下さい!」

 「あら、私とした事がつい…」

 

和やかな雰囲気が辺りを包むが、それも束の間。

 どこに隠れていたのか、街の人が一斉に集まってくる。

 ま、まぁ、危険も去ったし、後は壊れた街の復旧だな。

などと、周囲を見回すと、小さな子供が二人かけよってきて…。


 「おじさんすごい!!」

 「あんなにたくさん、あんなにたのしそうに」


おじさ…いやまだ21!!!!お兄さんだお兄さん!!!

 

 「俺も家から隠れて見てたよ…もうどちらが化物かわからなくなっちまった」

 「ああ、まさか英雄の誕生をこの目で見るとは…」


口々に俺を褒め称えている。悪い気分では無い。むしろ心地いい。

 然し、少し恥ずかしい。そんな俺にゼシュタルが小耳を挟む…成程。

俺はレムリアの所にに歩み寄り、彼女の事を皆に伝えた。


 「聞いてくれ。彼女は、彼女こそがこの国を救いし英雄。

   罪を受け入れ浄化する器。異界点の天敵。名をレムリアルナ・ウェザー」


辺りから、おぉっ…という歓声じみた声があがる。


 「ちょっ…アロクさん!? って…」


彼女の右手を、むんずと掴み天高く掲げた。いわゆる勝ち鬨という奴だ。


 「皆の者、英雄レムリアルナ・ウェザーの活躍により、危機は去った。

   …勝ち鬨だ」


と言うと、空気が震える程の勝ち鬨が、街を揺るがした。

 いつのまにか、現れたジャバウォックが子供達を担いで、

 勝ち鬨をあげ、ゼシュタルは満面の笑みでその場を見ている。

戦風ちゃんに、エルクレアはいないな。騒がしいのが苦手なのか。


ともあれ、これにて一件落着…と、思われた数日後。


街の復興を手伝い、その休憩中。


 「成程。ルリアマールの意志も共有しているのか」

 「はい。ですので、亡き王に代わり国を治める方が必要です」

 「ふむ。君なら出来るだろう。二人で頑張れば」

 

レムリアとルリアマール。二人が一人になったことで、少しレムリアの

 言動に変化が見受けられた。以前は少し控え気味だったのだが…。


 「いえ、ルリアマールも私も、同じ思いです」

 「と、いうと?」

 「アロクさん、貴方が騎士王となり、この国を治めて欲しい」


き…騎士王。そそる響きではある。あるが、それはまさか。


 「それは…まさか」

 「はい。王族であるルリアマール、そして私と…その」


互いの長所と短所が微妙にせめぎあっているようだ。

 暫し、まごついていると、ルリアマールの長所が勝った。


 「私と、こ、婚約を!!」

 「…ぶは!?」


いやまて、ゲームだぞ。NPC相手にそんな真似事。

 一歩後ずさるが、彼女も一歩、歩み寄る。

 それを繰り返す事、数分。周囲から微笑ましい視線が…。


ただ一つの例外を除いて。


 「あらアロク。仲が宜しいです…ね?」


鎧は着用しておらず、皮の服。後ろから声をかけた存在が

 俺の肉をつねりあげてくる。この声の主は…マリアヴェル。


 「痛!! こらマリアヴェル、つねるな痛い!!」

 「ほんっと、記憶を無くしても、何も変わりませんね…。

   確かあの時は、54人の女性を無意識に虜にしていたようですけど」

 

「「…え?」」


 「今回は、記録更新でもなさるおつもりかしら…ね!?」

 「ぎゃぁぁぁぁぁああああっ!!」


ぎゅぅぅぅぅぅっと、強くつねられた所から血が滲む程に痛みを訴える。

 流石にたまらんと、返事は後で!と、ブーストダッシュを使い、

 一目散に逃げ出した。


 「あ、アロクさーん!!!」

 「こらアロク!待ちなさい!!!」


女って…怖い! 全力でブーストをかけつづけ、街の外れの貧民街へと。

 貧民街…というわりに、意外に豊か。もっとこう汚くて、道の真ん中で

 死体かそうでないのか、判らない何かが転がってたり、そんなイメージ

 なんだが…ああ。成程、あの時の金貨か。


小さな広場で炊き出しなどをやっており、毛布も配られている。

 …それでも、住む家までは手が回らないのか。


 「いつの世も、光と影はあるものでござる。にんにん」

 

お前等出入り自由なの? いつのまにか影から出てきた戦風ちゃんが、

 にんにんって言った。ツッコミいれるべき?


 「で、この国をどうするで御座るか?」

 「どう…するってもなぁ」

 「拙者としては、一国一城の主となって欲しいでござる」

 「うんまぁ、気持ちは判る。主人が住所不定じゃな」

 「ござる」


国政など絶対無理と言い切れる。安請け合いは出来ない。

 しかもだ、異界化した城の影響で、城に居た人間は全滅。

つまり、現状ルイガルトは、国としての機能を失っている。


 「だからこそ、容易く国を乗っ取れるではないのかの?

   何、心配ない。ゼシュタルがその手は得意じゃろう」


 「また勝手に…つか心を読むな心を。

   そうか、ゼシュタルに宰相をまかせれば…」

 「うむ。黒虫は己の欲望のままに動けばよかろ?

   国中の美女を独占するも良し、他国を攻め落とすも良しじゃ」


お、おおう。悪魔の囁き。前者に後者は却下だが、ふむ。

 勝手気ままにレベリングしたい放題は、そそられる。


 「今後の行動に支障がなさそうなら…まあな」

 「ふん、所詮雄よの? このド助平が」

 「君主…手当たり次第はダメで御座るぞ」

 「いやお前等、変な解釈しないでくれるか」


あらぬ方向に認識した二人が、一定距離をあけてこちらを見つつ

 ひそひそ話。内容は理解するに容易い。


 「自由にレベリング出来るなら問題ないということだ」

 「判ってるで御座るよ。我が君主は朴念仁でござるゆえ」

 「ぼ…朴念仁」

 「ま、今後の言動に気をつけるのじゃな黒虫。

   貴様の発言力はルイガルトでは絶大。ゆめゆめわすれるでないぞ?」

 「お、おぅ」


何のかんの、心配して出てきてくれたんだろうか?

 おちょくりにきたのか? 微妙なラインで帰ってしまった。

その後、レムリア達に出くわし、返事をせがまれるが、

 簡単に決めて良い問題でもなく、暫く待ってもらう事にした。

 

答えが出るまでは、レムリアが国を治め、宰相にゼシュタルを配置。

 レムリアの護衛に戦風。兵の訓練にジャバウォックを置いた。


俺か? 俺は異界点のある森で毎日のようにレベリングに勤しむ。

 筈なのだが、リポップしないのか? 僅か三日で狩りつくした。

その後も、近隣警護を兼ねて、周囲の魔物を退治してまわっている。

 いるのだが…CRが余りに低く、雀の涙ほどの経験値しか入って無い

 だろう絶望感。


この周囲だと、もう、限界だよなぁ。居る意味無いよなぁ。

 絶望の混じった溜息を漏らす俺の前に、戦風ちゃんが。


 「そんな君主に朗報にござる」

 「む?」

 「ここより東の異界点。いや、異界化した国でござるな。

   ルアルガルティアが大群を率いて侵攻中との事にござる」


 「まじ?」

 「まじにござる。既にいくつかの町や村が壊滅。

   勢力を増やしつつ、こちらへきているらしいでござる」


異界種増やしながら…か、絶好のレベリングイベントじゃないか。


 「嬉しそうでござるな」

 「勿論嬉しいさ、よし。城に戻って防衛網を張らないとな」


国としての機能が損なわれたルイガルトに、

 異界化したルアルガルティアが侵攻。


敵勢力不明のまま、俺達はルイガルト防衛のクエストを

 開始する事になる。


         第一章 完



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ああああああ きたさん @kitasanb667

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