第二話「ナイトオブロード」


…。目がマジだ。本気で街の人達や、

 レムリアを殺そうとしてやがる。慌ててテラスから街を見る。


地竜が4体に、小型の魔物らしきものがかなりの数だ。

 更に上空にガーゴイルやらワイバーン…この姫さん、何者だ。

 確か地竜召喚サモン・ドレイク…CR85以上の、

 ビーストサマナーが習得した筈。

ともすりゃ、ルリアマールがCR85以上のビーストサマナーか。

 つか、それどころじゃない。助けに行かないと、街が壊滅する。


 「私トの契約、お忘レ…でスか?」

 「悪いが、契約破棄だ。勝手に行かせて貰う」


そう言うと、テラスから飛び降りようとした瞬間、城内に無数の魔法陣が…。


 「…。下級召喚詠唱破棄ロー・サモン・キャンセラー

        多重召喚フル・マルチサモン

 「こりゃとんだお転婆姫だ。ビーストサマナーCR99かよ」

 

 軽く首を左右に振り、溜息を吐く。然しまだ自我はあるのか。


片手直剣を腰から引き抜き、足元から出てきた下級モンスター…多分コボルドだった

 筈の群れを一撃で薙ぎ払い、テラスの腰壁に立つ。


 「アロク様…貴方様モ、ルビーが良いと仰るのでスか…?

   貴方様も、私を見て下さいまセんか…?」

 「いや、アンタも捨てがたいが、レムリアのご家族の仇と判ってしまった以上、

   彼女に助力する」

 「そう、ソウですノ。貴方モお父様モ聖騎士モ…皆、皆、私を、

   認めナい。見てクださらないト…」


あれ、何か地雷踏んだ?


 「お前、まさか…ってうぉ!?」


先程より多いあの紫色の瘴気が、姫さんから!? やべぇ、確か触れたら…。

 ここは逃げるべき、そう判断して城の中庭へと飛び降りるが。


 「なんじゃこりゃぁぁぁぁああああっ!!!!」


数多の魔法陣が、次から次へと、雑魚とはいえ、数が…。

 PT用のインスタンスか!流石に無理だぞ!

コボルド・ゴブリン・オークにオーガと雑魚テンコ盛り。

 加えて召喚者のクラスブースト補正かかって、結構硬い!!

畜生、ソロでこれはキツいが…。


 「おらぁぁぁああっ!! 斬・城・キャッスルスレイヤー!!!」


カンストスキル舐めんじゃねぇ!! と、ばかりに前方の敵を

 城壁も纏めて両断すると、最早お約束の如きスプラッター。

両断された胴体から解放された内臓が、血液がこれでもかと

 飛び出し、断末魔を上げてのた打ち回る魔物達の地獄絵図。

流石に気分が悪く…臭いまで、ちょっと眩暈までしてきた。

 アメリカの方はリアル重視と聞くが、やり過ぎだ!!

 せめてモザイクいれろモザイク!!


胃から何か熱くて痛いモノが喉にこみ上げそうになるも、

 背後から迫る紫色の瘴気に巻き込まれまいと、必死で

 血と内臓と生肉の海を走るしかなく。

なんとか城門前にまで辿り着いたが…糞がぁぁぁああっ!!


 「お、おぉぉヲヲ…」

 「犬門とか面倒臭いもんが…」


攻城戦などでビーストサマナーが

 使える火を噴く門。ケルベロスゲートで、犬門ともいう。

ちなみに確かHP10万だったはず。

かなり硬く、ソロでこれは…クソ! もう瘴気が後ろまで…。

 もう一分もしない内にここまでくる、かといって…ああそうか。

慌てて損した。隣の城壁にブーストジャンプ+突撃系技で更に延長させ      

 城壁を飛び越えた。あぶないあぶない。焦って冷静さを欠いたらいかん。


そのままの勢いで、街中へと辿り着くが、既に数多くの犠牲者と、

 勇敢にも戦っている人達もちらほら。そんな一人にレムリアの居場所を

 尋ねるが、知らない上に、そんな暇も無いとの事。

確かにまぁ、相手が雑魚でない場合、悠長に会話してらんねぇわな。


 …ふと、レムリアの仇は姫さん。なら、地竜の居る場所がそうだろう。


無茶してなきゃいいんだが…と、出来るだけ早く、

 テラスから見えた場所周辺へと急ぐが…先回りか。

最早魔物のカーペット! しかもまだまだ湧いてきてやがる。

 あの姫さんのMPどんだけだよ!? と、一人突っ込みつつ、

 斬城剣を使用…出ない。クールタイム終わってねぇぇぇっ!!

アレ無しだと、範囲攻撃無いぞ…一匹一匹相手するにも…。


 「はぁあああっ!! ブレードライン!!」


お? あれ確かレディ・ブレーダーの横一列範囲の攻撃技。

 なのに、何でか炎の壁!? 特殊能力?


 「バースト!!!」


小型の魔物達が一列に上空に吹っ飛びながら、丸焦げに。

 というか、あの声、レムリアか?


 「ああもう!後から後から湧いて出て、なんなのよー!!!」

 

わかる。キリが無くて鬱陶しい。が、並みの範囲技ではこの無限ポップを

 突破できないぞ…。つか、そっちに地竜居るのに、

 雑魚がこうもワラワラと…。


それにさっきの大技は確か、クールタイムが長かった筈。

 ブレーダーは単体攻撃メイン…やばいな。

 こっちも4つのサブ職に範囲攻撃は無し…4つ?


 …そうだ。あったじゃないか!! 

  しかしどう使うんだ? コンソール出ないから、説明も。

  サブ職の使役召喚だったはず。


 「くそ、出て来てくれ、頼む!!ナイトオブロード!!!」  


 一瞬辺りが静まりかえる。

 …ですよねー。…出るわけないよねぇ。


 「はっはぁー!!!呼ばれて飛び出て大地炸裂グランドバースト!!!」


お、俺の影から出たっつか。

 その暑苦しい容姿に赤の無造作ヘアー…ジャバウォックか!!

アームドウォリアーであるジャバウォックの一撃は、

 円形範囲攻撃。地面に拳を打ち付けるその一撃は、

 一度に大多数の魔物を消し飛ばす。その後、右腕をぐるんぐるん

 回してコッチに歩み寄ってくる。

 

 「よ~う大将。ようやく出番か! ずっと中から見ててイライラしてた所だぜ」

 

などと明るく剛毅な…ジャバウォック。こんな性格だったか?

 もっとこう、草不可避を連発する…。悩む俺の視界に今度は小規模とはいえ、

 爆発がいくつも巻き起こった瞬間、またも魔物が宙を舞う。


そんな魔物達を背に、いかにも忍者。いや、

 ポニテな黒髪くノ一が、影を落としながら静かに歩いてくる。


 「ナイトオブロードが一つ。戦風そよかぜ、推参にござる」


やはり戦風ちゃんか。にしても、ござるって…ござるって何!!


 「我等が主に立ちはだかる愚者は、貴方達ですか…。

    蟻のように踏み潰して差し上げましょう。竜転身ドラゴン・フォーム


おぉぉ。巨大な火竜に変身…確か、トリックスターの悪威、変身スキル。

 文字通り蟻の如く、可哀想なまでに踏み潰されていく。…え、悪威?

おかしいな。悪威や善威は転生回帰30からの筈…。


 「ふん。湿気た面しておるわ。黒虫。不細工が尚更不細工に見える」

 

…。残るは雷撃師ライトニングキャスターで、名前は恐らく。

 

 「エクレアか」

 「その呼び方はやめよ、黒虫。我が名はエルクレア・アリステイン」


で、君は何にもしてくんないのね。プンとむくれた桜色の髪の黒ゴス少女。

…そういや、 ログアウト手前で、エクレアに酷い事いった筈。

…もしかして反映されてたり?言わなきゃよかった。


 「先に言っておく…我は、貴様が、死ぬ程!嫌いじゃ!!

   雷撃ヴォルト!」


いきなり雷撃!? まぁ下級魔法なぞ容易くヒラリ。


 「うぉっ!あぶなっ!! そんなもの人に向けるんじゃありません!!」

 「はぁ!?貴様は虫じゃ、黒虫じゃ。人に向けてはおらぬぶぁ!?」

 「おらおら、エクレア。いつまでヘソ曲げてんだぁ!?」

 「ヘソなぞ曲げておらぬわジャバウォック!!」


金髪ゴスロリ&幼児体型のエクレア、その頭をワシワシとするジャバウォック。

 性格は違うが、やる事は変わらないのか…、ともあれ、これならば!

と、彼等から敵の海に視界を向けると、そこにあるのは既に死体の山。


 「さぁ、ご命令を。我等が主。アロク様」

 「へっ!こいつ等じゃ、ちとモノ足りねぇぜ?」

 「君主。ご命令を。でござる」

三人が、俺の目の前で跪くが、何故かそっぽ向いてるエルクレア。

 「なんじゃ」

 「いや、エルクレアは、どうなのかなーと?」

 「ふん!」


ふん!て、口で言ってどっか消えてしまった…。ま、まぁ戦力十分だろう。

 「じゃ、じゃあ、ジャバウォック、ゼシュタル・戦風ちゃん、

   すまないが、レムリアを助けたい、手伝ってくれるか?」

 「OK大将!まかせときな!」

 「了解しました我が主」

 「何故、それがしだけ、ちゃん付けでござるか…。 承知にござる」


戦力増強つか、攻城戦でこの性能ヤバくね!?

 CR99のNPC使役とかバラブレとしか!!まぁ、今回は助かった!


彼等三人と共に、いまだに戦い続けているだろうレムリア…居た。

 流石に地竜+取り巻きはキツいだろう。単体でも逃げる事を選択していた

 彼女が、地竜+αを辛うじて引き止めているが、もう少し遅ければ

 やばかっただろうと。部分だけつけていたブリガンダインは亀裂が

 入り、皮製の鎧も所々がやぶけ肌が露出し、血が滲んでいる。


然し、それでも逃げずに戦う…か。


 「くそっ…くそ!これまでなのか。アロクさんがいてくれたら…」

 「はい、そのアロク参上。遅れてすまないな」

 「…嘘」

 「いや、嘘じゃない」


おっとと、RPRP。左手を前方に翳し、一言。


 「ナイトオブロード…周囲の敵を撃滅せよ!」

 

その言葉に、それぞれが応の意で返し、レムリアの見ている前で、

 かつて、彼女が一体でも逃げ出そうとした地竜を瞬殺する。

もう、見た目グロい死に方してるので、あえて視界にいれず、

 満身創痍のレムリアを抱きかかえて、安全な場所…は、無いようなので、

 この広場で、彼らに周囲を守らせ、少し待機。


待機していると、夜空に暗雲が立ちこめ、いくつかの雷が落ちた。

  その直後、離れた場所で多くの断末魔が聞こえ、トドメとばかりに

  一際大きな稲妻が、ゴロッという轟音と共に落ちると共に、

  飛行系モンスターが次から次へと黒煙を上げて落ちてくる。


魔法便利だよなぁ。と、握っていた剣を軽く握ると、

 ほんの僅かな違和感…あれ、おかしいな。本当に僅かだが軽くなった?


 「雷の上位か…。エクレアの奴、素直じゃねぇからなぁ。

   ま、許してやってくれよ大将」

 「ん?ああ、問題無い。俺にも非がある。で、

   レムリア、君は動けそうか、どうして逃げなかった?」

 「感じたの…あの時の視線。地竜を呼んだ奴…が、

  この街のどこかに…居る。それに何より、皆を、守らないと」


意識が朦朧としてるのか、目の焦点あってないな。

然し、成程、召喚されたと分かってたから、地竜を仇として認識は

 していなかった…か。然し、

言うべきか、言わざるべきか…レムリアの体力がこれ以上の

 連戦に耐え切れるか…。


 「私は、仇を、家族の…皆を、守りた…い」

 「駄目だ。自分の考えが、言葉が纏まらない程に疲弊してるじゃないか」


これ以上、彼女は戦わせられない。相手がCR99のビーストサマナー。

 無理過ぎるだろうし。む、ゼシュタルが俺の肩を軽く叩いて、

 レムリアに…。まぁ、任せてみるか。


 「お嬢さん、貴方の憎き仇は、この国の姫君、ルリアマール姫」

 「お、おいゼシュタル」

 「ひ、姫様が…そんな、嘘、でしょう?彼女は、家族を失った私に

   剣を、仕事を与えてくれていたのに…」

 「ふぅ。事故で貴方が死ぬ事を望んでおられた。

   そう、考えては見ませんでしたか? 下民の宝石、輝く紅玉さん?」

 「まさか…そんな、在り得無い。私は、私は何も」

 「昔から言うじゃないですか『美しさは罪』と」

 

ひでぇド直球…あの剣は姫さんに下賜されたのか。

 然し、これじゃ、死地に向かわせかねないぞ!

ああああ…、俺から無理矢理体を離して、痛いんだろう、無理するなよ。

 足元もおぼつかない。剣も震えて満身創痍。


 「家族の…仇が…あの方」


ゼシュタルが、いかにも芝居がかった身振り。両手を広げ、夜空を仰ぎ、

 まるで物語の一つに怒りを現すかのように、身を震わせて。


 「そうです。許しがたい『傲慢にして強欲の罪』!

   国で唯一でありたいと、そう願う愚かさに、貴方のご家族は殺された!!」

 「お父様、お母様…」


先程の怒りはどこへやら、まるで母親のような優しい笑みを浮かべて、

  身を震わせるレムリアの肩を優しく叩く。


 「許す必要は皆無です…。然し、貴方に異界点に飛び込む勇気は、

   ありますか?」


そういや、もう城が紫の瘴気で囲まれていて、手も足も出そうに無いな。

 というか、ノリノリだなゼシュタル。邪な笑いとでもいうのか、黒い。

 

 「行きます、行かせて…下さい。

 「どうやら、おありのようですね。アロク様?」

 「そこで俺に振るかよ!! …」

 「アロクさん…」

 「判った。ナイトオブロード、彼女を絶対死守。

  異界種ルリアマールの元へと送り届けてくれ」

 


なんつーか、このクエストのラストがようやくってか。

 然し、俺はお使いとかクエ嫌いなんだ。

ただ敵を倒して経験値を大量に稼ぎたいんだよな。

 それに、先程の違和感が本当なら…。


 「承知。我が主、貴方様はどうなされるのでしょう?」

 「俺か?俺はこの城下街の敵全てを相手取る」

 「アロクさん、それは無茶です!死ぬつもりですか!?」


あ、まぁ。普通に考えたら無理なんだろうが…まぁいけそうだ。

 何より彼女を城まで無事に送り届けるダメ押しでもある。


 「レムリア殿は、我等が君主を過小評価しているに御座るな」

 「し、しているつもりは…」

 「しているにござる。御方は万夫不当の絶対強者に御座る」


君は、過大評価してるんじゃないか?と、まぁいい。

 まだ自我があったルリアマールなら、彼女が説得出来る。

そんなフラグだったのかも知れない。急いで向かわせないとな。


 「良し、お喋りはそこまでだ。ナイトオブロード、レムリア。

  ここは俺が引き受けた…行け!」


そういうと、互いに顔を見合わせ、城へと駆け出して行った。

 

おし、やってみるか。ヒーラーいねぇのが厳しい所だが、

 なんとかなるだろう。先ずは黒騎士の悪威の一つ、

 超広範囲のヘイト独り占めスキル。闇の咆哮ダークハウル


片手剣を地面に刺し、両手を左右に広げ…吼えた。


 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!」


瞬間、全身から闇が全方位へと広がっていく。

 さて、効果範囲はどれだけか知らんが…きたきたきたぁぁぁあっ!!


まるで津波の如くに360度全てから敵が押し寄せてくる。

 360といったのは、土中にも居たらしく地面の中から、

 図太い腕が出てきて、不意を突かれた俺は空へと跳ね上げられた。


 「ちっ…地面の中にもいやがるか。然し好都合」


浮いた体の姿勢を正し、左手を地面へと向ける。

 本来、盾を装備するべきだが、俺はコイツを盾にしている。


 「黒壁ダークウォール発動!からのー…ブースト!!」


左手の先から巨大な黒い壁…っておい!ここまでデカいのかよ。

 最早城壁かと思われる壁を前方に構え、ブーストを併用し地面へと

 急降下。当然ながら足元に居た異界種どもは圧死。


なるべく見ないようにはするが、地面に立つと内臓やら肉やら、

 踏みつけた感触が最悪だ。余りの気持ち悪さに鳥肌が立つ。


だが、これで終わったわけでもなく、数が減ったようにも思えない。

 加えるにワイバーン等、飛行性能を持つ敵がウザったい。

さて、どうしたもんか…。


 「ふん…空は任せよ黒虫。 


      上級雷撃詠唱破棄ハイライトニング・キャンセラー

      対象識別付与レコグニション・オール

      雷撃連鎖ライトニングチェイン


 「エルクレア? 言う事きかねぇな…まぁいい助かる」


 「愚物どもが、見るが良い。神討つ雷…その、力を。


     来たれ、雷の檻。ライトニングケージ!!」


 お得意の雷撃の雨きたこれ。こいつこれ好きなんだよな、

  呼んだ暗雲が、雷を降らせまくる。広範囲遠距離魔法。

  威力もさることながら、数が凄まじい…上に。


 「チェイン!!」


 雷撃喰らって終わりではなく、そこから跳ねるように次の獲物へと

  襲い掛かるんだこれ。瞬く間に上空の異界種が黒こげになり落ちてくる。

 しかもちゃっかり、対象識別付与してるあたり、心根は優しい子である。


 などと、安心してたら俺の頭上にまで雷撃が落ちてきたが、

  これは予想していたので、ひらりと回避。


 「ふん、避けおったか」

 「俺はやっぱり、識別対象外か。可愛くねぇなー?!

   もちっと可愛げでないかなー!?っと」


エルクレアが加わる事で、若干の余裕が生まれるも、多勢に無勢は

 変わりない無限ポップ。黒壁とブーストの併用で地面の敵を

 纏めて建物へと押さえ込み、圧殺する。


この広大な街の敵、全てのヘイト集めたんじゃ?

 と、思う程に減らない。それにくらべて、技のクールタイムや硬直。

 その間に僅かなダメージがこちらは蓄積していく。当然、精神的疲労も。


 「こりゃジリ貧だな…」

 「ふん…。纏めて一人で相手するのではなかったのかの? 黒虫」

 「ああ、彼女がルリアマールを助けるまで…な」

 

三人も強ユニットついてんだ、大丈夫だろ…少し不安もあるが、

 エルクレアの性能を垣間見て、少しの不安も消し飛びそうである。


然し体が重くなってきたが…やはり…。


 「やはりだ」

 「何がやはりじゃ?」

 「くく…ハハハハハハハハハ!!!!!!」

 「こ、壊れよったか黒虫」


疲労からか、重くなった体。だからこそ判る。明らかに軽く感じる片手剣の違和感。

 このテストサーバー…、レベルキャップ解放してる。


 「はははっ!! さぁエルクレア。楽しい楽しいレベリングの…始まりだ!!」

 「げ、元気じゃのう。あれほど戦って尚、楽しむのか…狂人め」


 「おらおらおらぁぁぁぁあああっ!!!」


体が重い、節々が痛い。然しそれがなんだ、山に登れば疲れるのは当然。

 今、目の前に新たな山が現れた。登らずにいられるかぁぁぁああっ!!


片手剣を振るい、減る様子が無い異界種を、少しでも多く少しでも早く、

 彼女がクエを終わらせるまでに、経験値を大量に稼ぐ。

防御を忘れ、攻撃に徹し、フルプレートの所々が破損して尚、斬り刻み、

 押し潰す。


 「ハハハハハハ!!! ひゃぁっっっはぁぁああっ!!!」

 「ノリノリじゃのう。おや、あれは…」


レベリングの楽しさに脳内で変なお薬が分泌される俺。

 そんな俺の少し離れた所で、聞いた事のある声が…。


 「金貨一枚。そのお釣りを届けに参りました。

   然し、やはり貴方は…。いえ、加勢します」


ん?邪魔すんなら斬るぞ! …竪琴の音色…バード!?

 男か女か判らない、そんな奴が竪琴を奏で歌いだす。


 「癒しの歌…こいつは助かる!!」

 「レムリアさんも、傷を癒しておきました。

   さぁ、存分にそのお力、振るって下さい」


あの時の金貨のおつりきたー!重かった体が、急激に軽くなり、

 やる気も急上昇! ここは一つ大技一発みせつけるか!


 「行くぞ…斬 城 キャッスルスレイヤー!!!!」


巨大剣を大きく構えてからの、渾身の袈裟斬りが、いまだ減らない

 数多くの敵を纏めて一刀両断!! する前に…消えた。

まさか、クエストクリア…しちゃった…のか?


 「む。どうやら事が済んだようじゃな黒虫。

   いやー、残念じゃのう大技がきまらなくて」

 「畜生!! 今からが稼ぎ時だったのに!!」

 

そんな消化不良で不満を口にしていると、薄汚いボロを纏ったバードが

 これまた薄汚いフードを外し…流れるように銀髪の髪が舞う。

蒼い瞳に涙を浮かべた憂いの美女…ってか顔に大きな斬り傷が…。

 う。どう反応すりゃいいんだ。つか、何で泣いてる?

 何で、俺に駆け寄ってきて抱きつくかな? 意味不明。


 「ああ、アロク。…アロク」

 「え、あ」


あーっ!! このバードが歌姫かよ!!! じゃあ何、

 別人のアロクと勘違いされてらっしゃると?どうしよう。


 「彼女が、記憶を失ったと…私の事も忘れてしまったの?」

 「…」


更に大粒の涙をためていらっしゃる。

 どうすればいいのこれ、判らない。ええい…世の中のリア充よ、オラに力を!!


 「すまない」

 「アロ…ク」


よろり…と、俺から離れ、膝から地面へと崩れ落ちる歌姫さん。

 確かマリアヴェルだったか。だが…ううむ。どうしよう。

そうだ。レベリングが出来るならログアウト方法探さなくても良いし、

 別の理由をこじつけてみよう。


 「本当に、記憶が無くなったのか、其処は判らない。

   だが、これだけは判る。君の魅力は一つも損なわれてはいないと」

 「アロク…」


う、あー。いかんともし難い空気、再び。空から見下ろすエルクレアを

 ふと見ると、顔が引きつっている。何故に。


これ、どうすんの!? クエ終わったんだよね?

 終わったのにまた別のクエ発生してね!?

まさか、大型クエストとか言うんじゃ…俺、クエスト、嫌いなのに。

 

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