第一話「二つの宝石」


        第一章 「煌く翡翠と輝く紅玉」


あれから、俺達はルイガルトという城下町へと、やって来たのだが…。

 うん、やっぱりこのレンガ作りの建物の造形は、ナルアグアだ。

確かルイガルトという国名もあった。国王が病で床に臥せって、

 お姫様が臣下と共に統べている。という設定だったような。


それはいいとして、目立つな。流石にこの荷車のブツ。

 街のNPC達がざわざわと集まる。


 「おぉぉ。流石は輝く紅玉ルビー

  ルイガルトに二つの宝石ありとまで言われる、その片割れ、レムリアさんだ」

 「まさか、地竜まで倒してのけるとは…」


二つ名持ちでしたか、この子。

いや、倒したの俺なんですが…まぁ、そんな小物倒した手柄なぞどうでもいいが。

 そんな勘違いを訂正するかのように、レムリアが俺の方に手を翳して説明。

その場に居た全員が全員、一斉に引いた。そこまで驚くなと。


 「ヴァーシュドレイクを、い、いいいいい一撃!?」

 「人間技じゃねぇぞ…」


何故か嬉しそうに自慢するようにも見えなくも無い。そんなレムリアに、

 早く換金して身軽になりたいと伝えると、彼女も頷き、大きな建物へと。

俺は、積荷と一緒に外で待つ事5分程、中から雪崩の如く人が飛び出てきた。


 「すっげぇぇぇぇぇぇ!!」

 「まじで、ヴァーシュドレイクだよ。しかも両断!?…信じられねぇ」

 「こ、コイツをアンタが…一人で、いや、一撃で?」

 「ん?あ、ああ。彼女の家の弁償代になればと」


ん? 何か群がってる連中の、屈強そうな…ウォリアーだろう

 黒髪単発の男が、耳打ちしてきた。


 「いやいやいや、弁償どころか、知らないでやったのか?

   コイツにレムリアの家族、皆殺しにあったんだぞ」


…。そんな事が、そんな素振りを全く見せなかったな。

 

 「あ、こら!アロク殿が迷惑してるじゃない。散った散った!」


後から出てきたレムリアは、野次馬連中を追っ払って、両手を腰にあてている。

 出た言葉は「全くもう」であるが、そんな彼女に、どう、詫びればいいのやら。


 「アロク殿、家の弁償代としては十分過ぎるから。

   素材のお金の9割は貴方が貰ってね」

 「あ、いや…。すまない」


ご家族の仇を横取りした。事に対し、姿勢を正し、深々と頭を下げた。


 「ん? 何で、謝るの? ちゃんと解決したじゃない…頭を下げないで!」

 「いや、君の、ご家族の仇。だったと先程聞いて、

  自分で討ち取りたかったのでは、ないかと」

 「あー…。私だと無理だったし、仇は気持ちよい程に真っ二つ。

   お礼を言うのは、私の方。ありがとう、アロクさん」

 「そ、そうか。そうなら、良い」


意外と、軽いな。時間が経ち過ぎて、憎しみが薄れたのか? そこは判らないが。

 これで、俺と彼女との接点が無くなったと、思うべきか。


 「では、報酬を受け取り次第、俺は去るとしよう」

 「…そっか。本当はもう少し、君の事を知りたかったけど、

   これ以上は一緒にいる理由もないか…」


あ、いや。こんな美少女と一緒にいられるなら、それはそれで文句無し。

 というかクエが終了したの!? してないの!? ログでないから判らん!!

だが、一つ分かる事がある。


 今が、素晴らしく格好良く去れる場面である。と言う事だ。


彼女から手渡された、超大袋の中の金貨を確認し、

 そいつに手を突っ込み、握りだした金貨10枚程、

 それを懐に収めると、残り全てを彼女に返した。


 「アロクさん!?」

 「過ぎた金は不要。君がもし必要無いというなら、身寄りの無い子供達の

   飢えや寒さを一時でも忘れさせてやってくれ。いるのだろう?この国にも。

   …それでも受け取らないと言うのであれば…」

 

次の言葉を待つように、彼女は、抱きかかえた超大袋をギュッと抱きしめている。

 そんな彼女に向けて、俺は軽く笑いかけ…

 ヘッドギアつけてるので顔は見えないが。

 

 「これは富める者の義務である。…これで、納得いただけるかな」

 「やはり、貴方は異国の英雄…、聖騎士様なのでは…」


この子の頭の中で、俺というイメージどうなってんだこれ。

 まぁいいか。と、トドメとばかりに自分のブレストプレートに

 右手の親指をコツンとあてる。


 「これは…己を偽り、仮初の強さを求め、大事なモノを犠牲にした愚物。

   そんな俺に出来た友すらも裏切った…。

 

  愚物と言うに相応しい、愚かで薄汚れた魂の入ったモノだ」


ニート的な意味と過去の失態を含めた言葉を紡ぎ、レムリアに背を向け、

 右手を振りつつ、街中へと歩いていくと…追って…こないよねやっぱ。

ちょっと期待してたのになぁ。まぁ、あれでクエスト終了ってとこだろ。


金を返した理由は二つ。インベントリが無いので、持ち運び面倒、つか多すぎ。

 あの程度の竜倒した程度で、大金稼げるなら、金銭困らない筈。

もう一つは、単純に俺が格好つけたかっただけである。


そんなこんな、見覚えのある街中を散策しつつ、ちょっと買い食い。

 パンに肉を挟んだだけのものだが、味覚エンジンどうなってんの?

 肉汁の旨味とか、モソモソしたパンの具合とか、すげぇリアル。

これは、美味い美味いと、金貨一枚使用して、銀貨99枚と銅貨95枚帰ってきた。

 …いやいやいや!!だから手荷物増えて本末転倒!!どうすんだこのデカい

 皮袋。…と、困った所で、宿屋発見。早速内部に入ると、昼なのに薄暗い。

 取り合えず木製の内装で、やや汚い印象の内装。そのカウンターで宿を取る。


  「すまない。この銀貨と銅貨。これで何日泊まれる?」

  「いらっしゃい。おぉ、こいつは儲けてるねぇ、お客さん。

    身なりもどこぞの名のある騎士…あいや失礼。

    ふむ。半年三食メシ付きってとこだね」

  「なら、それで頼む」

  「毎度! じゃあ、201だ。そこの階段から二階にあがって左端だよ」

  「判った。ありがとう」


と、宿帳にサインし、鍵を受け取り、

 ギシギシと音を立てる階段を上がり、部屋へと。

 豪華!とはお世辞には言えないが、俺的に一度は泊まってみたい宿屋ランキング。

 十分に上位へ食い込める雰囲気。素晴らしい。

明かりはランプのみで、木製テーブルと椅子とベッドにシーツのみ。

 冬は寒そうだが、現状問題無いと思われる。

 そのまま椅子へと腰掛けると、今後の行動である。


飯と寝床は、余裕で確保。金銭面も十分だろう。ならば、ログアウトの方法を

 探す必要がある。地竜とはいえ、敵を倒して経験値入ったのかも判らんとか。

 …いや、カンストしてるんだが、気になる所。


そのまま、色々試すも答えがでるはずもなく、夜になり、問題が一つ発生する。

 衣服が、フルプレのみ。脱いでもチェインメイル、とレザーパンツとレギンス。

 …私服も明日、買いにいくか。今回はとりあえずこのまま飯へと一階へ。


行こうと部屋を出た瞬間、あろうことかレムリアとばったり出くわす…何故!?

 …あ、そいや『家をぶっ壊した』んだ。宿屋に居たとておかしくない。

どうしよう。我ながらカッコつけすぎの恥ずかしい台詞を吐いた手前、

 どう接すれば…。


 「また、お会い出来ましたね」

 「む。あ、あぁ」


何とも不慣れな空気が漂う中、俺の頭はメダパニ錯乱大混乱。

 彼女の思考が、読めない。痛い奴と出くわしたわ~うへぇ。

 などと思われてそうで、逃げ出したい感がすさまじい。

だもので、即座に右手を軽くふりつつ横切り、去ろうとした。


 「あ、あの。アロクさん…」

 「…既に、果たすべきは、果たした筈」


頼む、このまま行かせてくれ、俺の精神が耐えられない。


 「以前に、私の事を可憐と、褒めて下さいました…よね」

 「む、相違無い。さてもこの国に、並ぶ者が存在するかどうか、

   怪しい所だ」


…反応が無い。このまま去ろうとしたが、ふと気になり振り向く。

 余程に引かれたと、内心、冷や汗を垂れ流しつつ…。

何 故 か 両手の指をおへそのあたりでもじもじさせて、

 頬を赤らめて視線を一階へと向けているレムリアが目に入った。


 「お…乙女だ」

 「…え?」

 


しまった! 心の中が漏れた!!

今時こんな子いるか? …いやいねぇよ!!

 純白!この二文字に尽きる。

が、余りの事に脳内フリーズ。


 「で、では、その、一緒にお食事など…」

 「む、あ、ああ」

 「本当ですか!ありがとうございます!」


しまった!つい脊髄反射して事態が悪化…したのか?

 引かれるというより、惹かれてる? んな馬鹿な。


結局、レムリア同伴で飯。

 テーブル席で向かい合うも、…会話が出来ない。

 互いに向かい合うように着席してるが、

 体は硬直、顔は下を向いている。

 余りにNPCの挙動がリアル過ぎて、非リア充な俺は対応できない。


 「あ、あの。アロクさんの背中、何処か悲しい影があって、

   その…あわわ、私、何を言ってるのかしら」


悲しいというか、哀しいが正解。もしくは虚しい。

 あれ、何かレムリアもテンパッてるように見えなくも。

結局、互いに会話が成立しないまま、時間が過ぎ去るかと思えた。

 そんな時、竪琴だろうか、それを一度、指でかき鳴らす…というのだろうか。

 俺達の余りに無様なやり取りをみかねてか、飯の種と見られたか、

 竪琴を大事そうに持ち、フードを深く被ったローブの人が声をかけてきた。


 「お二方。宜しければ詩などは、いかがでしょう?」


助かる!とばかりに俺は、金貨一枚を手渡す。すると、詩人…バードか。

 そのバードはまた竪琴を鳴らしつつ、詩を詠みだした。


  「このような大金を。

    では、私が3年前に見聞した、事実にして、哀しい詩。

   二人の男が、一人の乙女を愛し、そして戦った物語を…」


  「ほう、悲恋モノか。それも事実…興味ある」

  「悲しい物語、私はちょっと…」


少し引いたように見えなくもないが、バードの口元が一瞬、微笑んだような。

 …気のせいか?


  「此処、ルイガルトより東、聖都ルアルガルティア。

    其処に二人の英雄、一人の歌姫。


   その美貌、歌声。

    この世に勝る者無しと謳われし『歌姫マリアヴェル』


   貪欲に名声を求める『白き鋼のエンライン』

    そして、貪欲に強さ求める―――



     『黒き鋼の…アロク』」

   

 ガタン!という音とともに、立ち上がったレムリアが、

  目を丸くして俺を見るが、人違いだ、と、首を横に振る。

 たまたま名前と色の好みが同じだけだろう。

  暫く、その物語を肴に酒を吞むが…普通に酔う。

  なんなんだ、どんだけリアルなエンジン積むかな。


 最初は否定していたが、物語が進むにつれ、

  レムリアがのめり込んでるな。

 掻い摘むと、二人の男が一人の女を賭けて、戦う。

  いや、女と聖騎士の称号をかけて…か。


 で、何故か俺と同じ名前のアロクが優勢だったが、

  最後の最後で、歌姫の両親を人質にとられて、負けてしまった。

 結果、アロクは全てを失い、戦いの最中に行方不明。

  エンラインは、全てを手に入れたかに思えたが、

  全てを知る歌姫は、自らの顔を傷つけて、彼の愛を試した。


 怒りに震えたエンラインは容易く見限り、歌姫の両親を斬り殺す。

 その後、国の姫を求め始め…ルアルガルティアは異界化してしまった、と。

  歌姫は、辛くも逃げ出し、今もこの広い世界を、

  己の全てを愛してくれるだろう、黒き鋼を探し求め、歩き続けている…か。


 「はぅぅぅ。ア~ロ~ク~さ~ん~…」

 「人違いだ。俺にそんな記憶は無い」

 「きっと、空から降ってきた衝撃で、記憶が…記憶が」


そう解釈する!? いや到って正常、到って健康。

 あーもう。空気をかえたが、より悪化してないか!?

どうにもこうにも…と、頭を抱えていると、後ろがざわめきたっている。

 今度は何だ? と、周囲を見回すと、一際ゴージャスというか、

 身分の高そうな翡翠のようなロングヘアーのお嬢さんが、

 ドレスの裾を引き摺りながら家来を引き連れて宿屋の中へ入ってきていた。


 「ル…ルリアマール様…!」

 「ん? 知り合いか?」

 「煌く翡翠。この国の姫君ですよ…。って、本当に色々記憶が」

 「いや、だから記憶は失っ…姫様だと!?」


こそこそと、二人で話しをしていると、遠慮のかけらもなく、

 ずずいと割り込むこの姫さん。もうこれ以上厄介ごとは御免。

 勘弁してくれ、さっさとログアウト方法探したいんだが。


 「初めまして、

  私はルリアマール・レイ・ルイガルトと申します。黒騎士アロク様」

 「む。これはご丁寧に。アロクだ」

 「ちょっ…アロクさん?無礼ですよ…」


や、王族といきなり言われても、礼儀作法とか俺、知らないし。

 とりあえず、跪けばいいのか? などと考えていると…。


 「構いません。下がりなさいレムリア」

 「は、はい。申し訳ございません、姫様!」


あ、椅子から慌てて飛びのいて、跪いた。じゃ、俺も…と、

 真っ白で綺麗な手で止められたが…どうすんの?


 「構いません。と言うよりも、竜殺しの英雄に膝をつかせるなど、

   失礼に値しますわ。…それよりも交渉に参りましたの」

 

ま、まぁ、跪かないでいいのなら…と、最低限度の礼節はなぁ。

 と、椅子から立ち上がり、自分の座っていた椅子を引いて姫様を招く。


 「あら…竜をすら屠る強者でありながら、紳士でもあられるのですね」

 「いや、最低限度の事は、誰でもするだろう」

 「ふふ、奥ゆかしい方…ですが、この場は交渉に相応しくありませんわ。

  宜しければ、王城にご足労いただけますかしら?」


…うわ、厄介ごと臭い。しかも王族貴族の根城とかもう…

 胃にドリルぶちこまれるようなものじゃないかと。行きたくない。


 「いや、すまないが、俺の最優先事項の探し物があってね…」

 「でしたら尚の事、王城においでくだされば、足長の外交官が

  何か知っているかもしれませんけれど…いかがかしら」


しつこいな。ログアウトの方法知ってるわけないだろ…て、何か足元から

 視線が…あー。レムリアが行ったほうがいいよ。この子、怒ると面倒だから。

 と、言いたげな視線を…仕方無いか。


 「判った。では、王城まで護衛もかねて同行しましょう、姫様」

 「あら、例え大翼竜が来ても恐るるに足らず…感謝しますわ。

   それと、ルリアマールとお呼びいただいて構いません」

 「む。そうか、ならばそう呼ばせてもらうよ、ルリアマール」


にこりと、笑みを浮かべる彼女とは対照的に、血相を変えて立ち上がり

 呼び捨てなど不敬にも程が!とレムリアがまぁ、確かに。


 「下がりなさい。この私が許可したのです。何か問題でもおありかしら?」

 「あ、いえ…ご無礼、お許し下さい。ルリアマール様」

 

…ん?一瞬、ルリアマールの笑みが濁ったというか、眉間にシワがよったような。

 まぁ、普通に考えれば当然か。身分が違い過ぎるもんなぁ…。


 ともあれ、宿屋の面々も困っている様子なので、早々に王城へと…、

 行く前に部屋に戻って鎧装備…。自分でつけなきゃならんのが面倒だよな。



  □ルイガルト王城 ルリアマールの寝室□



おー…すげぇすげぇ。どんな手抜きテクスチャやモデリングだろうか、

 そんな変な期待を裏切るこのお城。材質なんだろう大理石みたな感じの

 石で出来た城に、細部に彫刻が掘り込まれていたり、ルイガルトの国旗が

 掲げられていたり…最早芸術品の領域に踏み込んだお城だ。

概観は北欧の方に近い。まぁ、やっぱ世界観がナルアグアなんだよな。

 ルリアマールの寝室でキョロキョロは流石に駄目だろうから、

 テラスに移動し、大理石っぽいいくつもの小さな柱で作られた腰壁に

 両手を置いて城下の街を一望すると、丁度、夕陽が地平へと消えていく。


 「どこまで、リアルに再現するつもりなんだ…」

 「リアル? 再現? どうなされました? アロク様」

 「ん?あ、いや。こっちの事。所で、護衛はつけなくていいのか?

   俺が、どこぞの刺客かも知れないぞ」

 「その心配はありませんわ。この国の恵まれない子供達に

   金貨460枚も寄付して下さった方ですもの」

 「ああ、レムリアか。というか耳が早いなお姫さん」

 「それはもう、国を預かる身として、当然の嗜みですわ」


恐ろしい娘っ…!!ついぞ数時間前の出来事を逐一把握してるのか?

 ちらりと背後の城下街をみると、途方も無い広さだ…。

思わず生唾をごくりと飲み込み、再び、彼女の方をみやると、

 うん。改めて見るとエルフかよと突っ込みいれたくなる程に

 整った顔立ち。レムリアが美少女なら、ルリアマールが美女。


 「成程。二つの宝石。確かに素晴らしいものだ」


ん? 褒めたつもりだが、言葉を間違ったかな?

 穏やかな笑みを浮かべていたルリアマールの表情が少し曇る。


 「アロク様は、どちらの宝石が、より美しいと思われますの?」

 「単刀直入だな。まぁ…ふむ。そうだな。

   どちらが…という考えは無いとだけ先に。

  続けて、レムリアは野に咲く一輪の花、といったところか」

 「輝く紅玉ルビーが、野に咲く花…面白い例えですわね。

   私はどう見ていらっしゃるのかしら?」


さて、どう答えたもんか。ついさっき知り合ったばかりだろが!!

 と、ツッコミたいんだが…困った。


 「それは、答えられないな」

 「あら、それは、どうしてかしら…」

 「俺は、君を知らな過ぎる。答えを出すにはもう少し、時間が欲しい」

 「それは、私を…見て下さる。姫などではなく、

   ルリアマール一個人として見て下さると?」

 「不敬罪で首はねられそうだが、そんな所だな」


ん?変な事言った? …あわわ、翡翠色の綺麗な瞳が涙目に。


 「すまない。何か失礼な事を言ったかな?」

 「いえ、まさか、これ程の方とは…」


感情のコントロールが上手いのか。慣れているのか、ピタリと

 涙が止まり平静を装って…るのかわからんが、素に戻ったな。

で、そのまま交渉とやらだが、単純にアレだ。

 

王国騎士としてルイガルトに仕官し、国を守護して欲しいと。

 で、その見返りとして知りたい情報を知りうる限り教える。

 もちろん金銭も破格であり、かなりの好待遇。

これは断る理由無しと、判断し契約する為、先ずは書類だけ

 サインして…まぁ、王国騎士となったわけだが、即座に後悔することになった。


我侭姫様に振り回される、そんな展開ならまだ許せる。

 だが、これは我侭では無い―――傲慢だった。

サインして少し経つと、城下に火の手があがり、

 かすかだが、悲鳴が聞こえてくる。これは…一体。

  


 「これは…ルリアマール!!」

 「ふふ。貴方は私のもの、輝く紅玉ルビーにも、

   傷物の歌姫にも渡さない。そして、この国に宝石は二つも要らない」

 「悪い冗談は止せ、国が…国が滅ぶぞ!!」


 「構いませんわよ? 私を見ない。そんな家臣や民など。

   貴方だけ…ルリアマールを見てくれると言って下さった貴方だけ。

   この国には私と貴方だけいれば、それでいいのですわ」

 「冗談じゃない…いやまてまさか、国王は確か病に…」

 「ふふ…ふふフふフふふふふふふふフフフフフ…」


ヤンデレラー!!!! 契約した途端これとか速攻クーリングオフだこの野郎!!

 …待て、姫さんの体から紫色の瘴気…おいまさか。

こいつ…既に異界種だったのか? 一歩あとずさり、テラスから城下を見やると

 ヴァーシュドレイクやら、小型、中型の魔物…異界種とやらが溢れかえっている。

 いや違う、こいつは…召喚。良く見るとあちこちに召喚陣が…まさか。

城下事情の耳の早さがおかしいと思ってたら、成程、召喚獣使役してたのか。


 「さア、あロクサマ。わタくし達の千年王国を…」

 「ルリアマールお前…ビーストサマナーだったのか」

 「ふフ…ふふふフフフフフフフフ…」  

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