第3話

「こう見えて僕は、元アベニューなんだ」

 そう切り出すと、春先は堰を切ったように語り始めた。それは、ASKS84が成功する以前の話も含め、TVや雑誌などで語られる春先の姿とは全く違うものだった。アイドルヲタ、そのものだった。そして、ASKS84はなみきを超える目的で作り出されたものであること、現在のスタッフの半分は当時から付き合いのある仲間であること、だが誰もが未だにその目的を果たせたという満足感を得ていないこと、その仲間達には『覆面プロデューサー』からVRアイドルの試供品が贈られていること、その中には既にVRアイドルに夢中になっている者がいること、特に心酔しているのが初代シアターマスターであること、などである。

「丸入江くんは勘違いしていてね。試供品が贈られて来ないのを自分の実力不足、実績不足から評価されていないものだと思い込んでいるんだ。だから、彼も焦っているんだ。許してやって欲しい」

 そこからは、丸入江を擁護する言葉が続いた。春先なりに郁弥が先ほどの丸入江の態度を快く思っていないのではないかと思ってのことだった。それからもう1つ、春先には目的があった。それは、丸入江の再就職先の斡旋である。ASKS84に関わるスタッフは、100名を超える。ASKS84が解散すればその多くは路頭に迷ってしまう。春先は総合プロデューサーとしての責任から、彼等の生活を守らなくてはならない。一生とまではいかなくても、責めて次の仕事くらいは決めてあげたいのだ。それで、丸入江である。彼は几帳面で責任感が強い。次のことを考えるより目の前のことに徹してしまうところがある。それも手伝って、再就職先が決まっていない。

「もし、君がプロデューサーになるのなら、彼の力は役立つだろう。上手く使ってあげて欲しい。その代わりといってはなんだが、私の持つプロデューサーとしてのノウハウを、君に提供しようではないか」

「ちょっと待ってください……。」

 郁弥は、話の大きさに狼狽した。春先が自分に期待しているというのは感じたし、それがありがたいとも思った。だが、人を使うとか、運営のノウハウと言われても、ピンと来ないし、大人の話をしているようで、どこかむず痒いのだ。

「話が難しくって、判断が出来ません」

「……。そうだね。僕にも焦りがあるようだ。ゆっくり考えておいてくれ。今度、一緒に食事にでも行こう。よろしく頼むよ」

「はい、喜んで!」

 郁弥は春先が差し出した手を握った。2人の昼食会が実現するのは、2週間も先のこととなる。

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アイドルバッシングと春先清〜なみきに憧れ、なみきを超えたいと願った男と郁弥との出会い〜 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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