第13話 きゃんぷ

「こんな新鮮な森の空気を吸うのは久しぶりなのです」


博士は満足そうに背筋を伸ばした。


俺達は今、気賀の親戚がやっているというキャンプ場に来ている。

鳥のさえずり、蝉の鳴き声、ああ夏だなと実感させてくれる。


「はーちゃん!一緒に川行こう!」


唐突に里奈に腕を掴まれ、引きずられるように連れてかれた。


「うわああっ、ちょ、ちょっと待つのですっ!!」



「彼女よっぽど水遊びがしたかったんだね…」


スバルは苦笑いをしながら、俺の肩を叩いた。


「ところで気賀は?」


「やめたくなりますよ~...

薪集め...、どうしてオレだけ...」


態とらしく大声で愚痴をこぼす。

2人の前を薪を持って通り過ぎて行った。


「あっちもあっちで大変そうだな...」


「手伝わないのかよ...」


苦笑いをスバルは浮かべた。




昼頃に髪がボサボサになった博士が帰って来た。


「どうだった?」


「どうだったって...見ればわかるでしょう...。里奈に水鉄砲で...」


「楽しかったよねー!」


「そうですね...」


完全に生気を失っていた。

まあこの後食事だから、すぐ調子を取り戻すだろうけど。


案の定、焼肉やら焼きそばをがっついていた。本当に食べ物には弱い。



夜になり、俺はこう持ちかけた。


「博士、花火やろうよ」


「はなび?」


博士はフレンズだった時は火が苦手だったがどうだろうか...。


スバルにも、

「火はダメなんじゃない?」

と言われたが、彼女にもここでしか出来ない事をやって欲しい。


手持ちはレベルが高すぎると思ったので、線香花火を渡した。


「なんなのです?」


「じっとしてろよ」


「そ、それは...」


「騒ぐなって、慌てんな」


火を花火に付けた。


「こ、これ...」


「大丈夫だって。俺がいるから...」


次第チッチッという時計の秒針の様な音がする。


最初は怖気付いていた博士も、火球から飛び散る火花に見入る。


数十秒間暗い世界を明るくした線香花火はその天命を終え、消失した。


「...火、怖くないでしょ」


「も、元々平気です」


動揺しまくってたクセに。

そんなことは言わないでおこう。


この後5人で無茶苦茶花火をやった。


それが終わると、星オタのスバルが星の解説を始めた。

オリオン座とか、べテルギウスとか?

そんなことを色々言っていた。


話を終えた後、スバルは俺にこう話しかけた。


「例の流星の話を元に調べたんだけど...、やっぱわかんないんだ」


俺は黙ってスバルの話を聞いた。


「流星なんていくつ流れると思う?

そんな中から特定の流星を見つけるなんて砂漠の中で針を探すのと同じくらい難しいよ。それに、わかったとしてもその当日の天候状況で見られるかどうかわからないし...」


「ありがと、スバル。でも、元に戻る方法...、別の手段がある。後は博士の気持ち次第だよ」


「結人はどうなの?」


「え?」


「博士ともう2ヶ月くらい経ったでしょ?」


「...普通はこんな所居るべきじゃない。元の世界に戻る方が...、博士のためだよ。別れる時はきっぱり別れる」


俺はそう断言したのだった。

だからこそ...


今、思い出を作らないと。

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