第12話 ごうりゅう

「ふぁー...」


欠伸をしながら、リビングに行くと、机の上に何か紙が置いてあった。


「なにこれ...?」


真希はその文面を読んだ。


“お世話になりました。急用が出来たので家に帰ることにします”


「えっ...?」


真希は突然の事で衝撃を受けたが、どうする事も出来なかった。


「ちょ...、結人奪還作戦はどうなったの!?」




助手は半袖の白いブラウス、薄生地のデニムを履いて、大きめのバックを持ち

電車に乗っていた。


目的地は彼女たちの元だ。

キュウビは教えることを嫌がっている様子だったが、必死に説得をし、やっと住所を聞き出した。

真希と一旦離れる事は、緻密に計算した上での最も合理的な計画の一部だった。


そして、それを実行に移した。

正直に言えば、博士と比べれば自分の方が数倍賢いと自負している。

だから1人でICカードを買って電車に乗った。


ドアのそばに立ち車窓眺めていると、

ゆっくりと列車のスピードが落ちていった。そして、停車しドアが開いた。


冷房の効いた車内を降りると熱い空気とセミの鳴き声が出迎えた。


『鹿島田、鹿島田。

ご乗車ありがとうございます』


こんな暑いのはうんざりと思いつつ、

階段を上り、改札へ向かった。




かばんちゃんは今日もお仕事。

お仕事ばっかでやっぱりつまんないな。


サーバルが1人でかばんの買ったゲームをしていると、インターホンが鳴った。


「はーい?」


「私です。助手です。開けてください」


「えっ?じょ、助手!?」


サーバルは予想外の来客に驚いた。


「外は暑いのです。中に入れて下さい…」


ドアの鍵を開け、助手を招き入れた。


「助手!助手もヒトっぽいね!」


サーバルは島の仲間が来て、喜びを抑えきれなかった。


「サーバル...、落ち着くのです。

かばんはどこですか?」


「かばんちゃんはお仕事だよ?」


「仕事?よくやりますねぇ...」


サーバルには助手の吐いた溜息が不思議に思えた。


「助手はどうやってここに来たの?お金は?」


「使っていなかった1万円を使って来たのです。1人で電車に乗って」


「やっぱ助手はすごいなぁ…

1人で来れるって。私ドジだからさー

いつも、かばんちゃんに迷惑かけっぱなしだよー」


サーバルは後髪を手で櫛のように解きながらそう言った。


「サーバル、かばんが戻るまでの間

あなた方がどうやってここの世界に来たか教えてください」


「えっ?あっ、うん...」





そして暫くしてかばんが帰宅した。


「ただいま...って、えっ?」


「お久しぶりです。かばん」


「助手さん!?どうしてここに?」


「詳しい説明は座ってするのです」


助手はかばんに自分のことを話した。

サーバルも耳を傾けていたが、彼女は話を全て理解していないと思う。


「...というのが私の事情です。

今度はそっちの事情を聞かせてください」


「僕達は...」


この世界に来たあとの話をサーバルと交互に行った。


「わかりました。

一つ私に博士を連れ戻す為のプランがあります」


「何ですか?」


「博士の行っている学校の文化祭。

それがタイムリミットです。

この夏は博士に考える時間を与える期間にするのです」


「じゃあ、そのぶんかさい?

で博士を戻すの?」


サーバルは尋ねた。


「そうです」


「じゃあ、それまでは僕達も...」


「かばん、ちょっと二人で話せますか」


助手は立ち上がり、別の部屋へ手招いた。

指名された僕は不思議に思いつつ、

その部屋に入った。

床に座ると助手はこう言い放った。


「サーバルから聞きましたが、

男と付き合ってるそうですね」


ドキッとした。


「いや、そういう間柄じゃなくて...

単なる友達で...」


「嘘はよしてください。

お前がその男に惚れ込んでいることは

わかってます」


僕の説明を押し切る。


「これ以上面倒事の種を増やさないでください。今すぐバイトもやめるのです」


「それは...、色々と問題あるんじゃ」


「そもそも、キュウビとオイナリサマが我々をここに連れてきた。彼女達が我々のケアをすべきです」


「...」


「人間の本能だかなんだか知りませんけど、付き合うのをやめるのです。

サーバルがお前を好いている事を忘れたのですか。本来野生動物は、好きになったモノは離さない。それなのにお前は

彼女を無視してヒトの男と...」


「サーバルちゃんは別にいいって...」


「それは彼女自身が我慢しているから

成り立っているのですよ」


助手は僕の目を見たまま話を続けた。


「お前がヒトのオスの体を求めるような変態だとは思いませんでしたよ。

最初の目的を忘れて、そんな方向へ向かっていくなんて。真面目だと思ったら...、本当にありえないのです」


「じゃあどうしてほしいんですか」


「言ったじゃないですか。

バイトを辞めて、男と別れる。

それで博士を説得してパークへ戻るのです」


「もし、嫌だと言ったら?」


僕は恐る恐る言った。


「お前と私は同じボートに乗り合わせた仲間なのです。一人だけ別のボートに

飛び移ろうだなんて、卑怯な考えは許されませんよ。もしお前が男の体を求めたいのなら...、我々でその欲求をぶち壊しましょう」


物騒なものの言い方だった。


「恥じることは無いのです。

パークでも欲求不満者はたまにいます」


助手は獲物を狙うような鋭い目を向けて、僕を壁際にまで追い込む。

そして、片手でドンと強く壁を叩いた。


「私の緻密なプランを破壊しようとするものなら、強硬手段にでてもいいんですよ?私の目的は“博士を取り戻すコト”です」


「ちょ、ちょっと待ってください」


僕はあることを思い出した。


「博士さんは男の人といるんですよね。

もしかしたら博士さんはその人の事が...」


すると彼女はさらに怖いオーラを放った。


「は?博士がこの私を差し置いて男を好きになるなんて有り得ないのです。

ヒトの生活に入れ込んでるだけです

博士は私のモノです。他人が取ろうモノなら容赦なく...」





「...殺しますよ」


僕は血の気が引いた。

この助手はいつもの助手じゃない。


「もちろん、お前も皮膚から血が出るくらいの覚悟をしておくのです」


「は...、はい...」


(じょ...、助手怖いよ...)

覗き見てたサーバルも毛が逆だっていた


「獰猛な猛禽類だってこと、忘れない事です」


助手は僕にそう、脅しを掛けた。

一度壁から離れて、こう言った。


「お前を監視する必要があるのです。

檻にでもいれておきたい所ですがね。

ここに居させて貰いますよ」


「みゃっ...」


助手はサーバルの顔を見た後部屋を出た。

サーバルは急いでかばんに寄った。


「か、かばんちゃん...、なんか、助手、カリカリしてない?」


サーバルが怖気付いていた。

アルトボイスと高身長、そしてあの

獲物を狩るような目、そう思うのも無理はない。アレに刃向かったら首を絞め殺されそうだ。


「う...、うん...」


彼女のほとぼりが冷めるまでは眠れぬ夜が続きそうだ...。

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