第14話 えんにち

博士が髪を切った。

以前の、フレンズの時の髪型に戻った。

長くても短くてもどっちでもいい。

博士は博士だ。


今日はお祭りがある。

小さい頃から、行っていた行事だから、

今年も参加する。


母さんも博士の為に浴衣を買ってきた。

随分と気合が入っている。

涼し気な水色の浴衣。やはり、博士は寒色系が似合う。


「でみせっていうのがあるんですよね!」


と、前日嬉しそうに言っていた。

やはり、花より団子。博士の目的はそれだ。毎度思うのだが、太ったりしないんだろうか...?

そんなこと言ったら、島の長がなんたらかんたらで怒られそうだから聞かないけど。






「かばん、彼氏とは別れましたか」


助手はかばんの元へ来てから保護者のようになっていた。恋愛に口を出す所を見ると厳格な父親だ。


「別れましたよ...」


数日前

「友達に戻ろう」と意を決して別れたのだ。彼には事細かい事情の説明が出来ない。嘘の話をして、理由をでっち上げたのだ。

それで彼は納得したみたいだが、

バイト先での変な空気感は未だ拭いきれてない。


「かばんちゃん!お祭りに行きたい!」


サーバルは唐突に、紙を持ち出し見せた。


「お祭り...?」


助手も黙ってはいるが聞き耳を立てる。


「うん!お祭り行きたいなー」


「僕は別にいいけど...、助手さんは?」


「もしかしたら博士も来るかも知れませんね。まあ、博士との約束なので口出しは出来ませんけど行ってもいいですよ」


「それじゃ行こ行こ!」


サーバルが久しぶりに嬉しそうだった。





祭り当日。

大勢の人で通りはごった返している。

左右からは様々な屋台が軒を連ね、食欲を唆る匂いを漂わせている。


「人混みは得意じゃないですけど、

いいですね...」


恍惚とした顔を見せた。


「何でも買ってやるぞ!」


父さんはこういうイベントの時だ気前がいい。それは、人と触れ合えるから。

仕事柄コミュニケーションが重要なのだ。


「あまり使いすぎないでね?」


母さんはどちらかと言うと節約志向だ。

老後が不安らしい。



「ヒトの世界の祭りも粋なもんやなぁ」


「そうだね…」


オイナリサマとキュウビも上空からその様子を見ていた。

オイナリサマに脅されワシミミズクの言うことを聞いているキュウビは、衣装と資金を用意したのだ。


「すっごーい!」


黄色の花柄の浴衣を着たサーバルは子供のようにはしゃいだ。


「ヒトがこんなに集まると壮観ですね」


かばんは赤色と白色が交互に配色された

浴衣だ。和服も似合っていた。


(これだけの人混みなら、博士がいてもわかりませんね…)


人間体時のスタイルが外人の様な助手。

落ち着いた紺色に赤い帯という風格のある衣装だった。


「ここでしか出来ない事ですから、

楽しむのです」






「口の中やけどするから、こうやって割って熱を逃がしてやるんだよ」


博士にたこ焼きの食べ方を教える。

ふーっと息を吹きかけ熱を冷ます。


「はやくたべたいのです...」


そう言ったので、箸で持ち上げ、彼女の口へ運んだ。

ちょっとだけ熱かったか、はふはふしながら食べた。


「どう?」


「そーふとまほねーずが、かはみあっへへおいひいでふね!」


タコの感想がない。

気に入ってくれたみたいだ。




一方で。


「わぁー!雲みたーい!」


サーバルは無邪気に言う。

綿飴に興味を惹かれたのだ。

かばんがそれを買って、サーバルに渡した。


口を開け、かぶりつく。


「あまーい!雲もこんな味がするのかな?」


「どうだろうね」


僕は子供っぽい質問をする彼女が可愛く思えた。


(サーバルは相変わらず天然なのですね...)


「かばんちゃんも食べて食べて!」


「ありがとう。あっ、助手さんも食べますか?」


後ろを振り返り尋ねる。


「...少しもらいます」


白い綿をちぎって、口に入れた。




人混みの中をゆっくりと歩く。


「ユイト、アレはなんですか?」


博士と同じ方向を向く。

そこにあったのは射的の屋台だった。


「ああ、あれは射的って言って鉄砲で狙った景品を落とすんだ」


「そうなのですか、難しそうですね」


「射的なら得意だぞ」


「父さん?」


俺は驚いた。


「そうなのですか?」


「まあ腕前を見てろって」


自信満々に答えた。


(そう言えばデートで行った時も射的の上手さを自慢してたっけ...)


母は過去の記憶を思い出した。


俺達は後ろから腕前を見る。

父は銃を構え、的に照準を合わせる。

引き金に手をかけ、弾を放った。


弾は的に当たり、撃ち落とした。


「おお...」


「木葉もやってみるか?」


父に勧められた博士は銃を受け取る。


「そしたら、なるべく前のめりになるんだ」


「こ、こうですか?」


腕を震えさせながら言う通りの姿勢を取る。


「それで後は当たるかどうかだ」


博士は的を狙って引き金を引いた。



一方...


「それは金魚ですね。

ヒトがペットとして飼っていたようです」


ラッキーさんの代わりに助手が小声で僕に教えてくれた。


「みんみぃ...、やってみたーい!」


という訳で金魚すくいをする事になった。


サーバルの性格上、すくえない。

金魚を無理矢理すくいあげようとして、

水圧でポイが破れてしまう。


「みゃっ...」


人間体と言えどまだ猫のクセが抜けないのか、魚を厳しい目で見る。


「サーバ...、佐羽根ちゃん、それだと金魚が怖がって逃げちゃうよ」


「じゃあ、どうやるの?」


僕は手本を見せる。

動きを止めている金魚の横にポイを入れ

なるべく紙を濡らさない縁際で...


すくい上げた。

発泡スチロールの中を鮮やかなオレンジ色をした小さな金魚が泳いでいる。


「すごーい!かばんちゃんは本当にすごいんだね!」


人前で褒められ、少し照れ臭かった。



その後、博士はチョコバナナを食べたりしながら神社の方へ向かった。


屋台通りを抜け、神社の鳥居を通る。

人がまばらな石段を上る。

その先は、暖かい提灯の光に囲まれていた。ここで毎年お参りをする。恒例行事だ。


博士にもお参りの仕方を教えた。


賽銭箱へ小銭を投げ入れる。

二礼し、手を二回叩く。


頭を下げ、祈った。


(博士が助手と仲直りして、元の世界に

戻れますように...)


(ユイトと幸せに暮らせますように...)





その参拝し、階段を降りる時。


「なんて願った?」


「なんてお願いしましたか?」


奇遇にも言葉が重なった。

しかも、同じ内容だ。


「...内緒にしておこ」


「...私も秘密にしておくのです」


二人はこっそり手を繋ぎ階段を降りていった。





結人達と入れ替わりになるように、

かばん達も神社へ来た。

もちろん2人の願いは単純だった。


(かばんちゃんとずっと一緒にいられますよーに!)


(サーバルちゃんとずっと一緒にいられますように...)


助手も頭を下げ願った。


(博士がはやく戻って、パークで平和に暮らせますように...)




それぞれの願い、叶う日は来るのだろうか?

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