第2話.絶望の中に輝く一つの光明

五日後、俺たちは孤児院に行くための準備を済ませ旅立つことになった。

やっぱり天音はまだ、父さん、母さんと過ごした家に未練があるようだ。

俺もまだ心の整理はできてない。

でも、これは2人で決めたことだ。

けれど、これから新しい土地で新しい生活が始まる。

弱音を吐いている暇なんてないんだ。そしてこれからは、

俺が父さんたちの代わりに天音を守っていかなければいけないんだ。

俺が元気でなきゃ天音が心配してしまう。俺がしっかりしないと。

そう思うと、なんだか気合が入る。

「じゃあ行くか!」

そう言うと

「う、うん!行きましょ!」

ドアを元気よく開けると、銅鉄さんが待っていた。

「おはようございます。」

「やあ、準備はできたかな?」

「大丈夫です。よろしくお願いします。」

「では、行くとしよう。」

孤児院までの道のりは険しく距離もあり、到底子供の足では困難なのだそうだ。

また、必要なものもあったので、銅鉄さんが馬車を用意してくれていた。

荷物を積み込み、出発するころには昼近くになっていたが、

天音が用意してくれていたSandWichを食べながら先に進むことにした。

「ここから孤児院までは、115キロ位で1日はかかるだろうから、あせらずにのんびり行こう」

少しずつ俺たちの家が小さくなっていく。

覚悟は決めたはずなのに、やっぱり少しさみしさが溢れてくる。

それは天音も同じようで、声を殺して泣いていた。

俺はその姿を見て心が痛んだ。

そして、天音がいつでも笑って、涙なんて流さずに済むように頑張っていこうと、俺は強く心に決めた。

そんなことを考えていると、空は一面紫色に染まり、太陽も沈みきり、やがて一番星が輝いた。

こんなに空を見たのは生まれて初めてで、こんなにも世界は当たり前に過ぎていく。

そんな風に考えると少しだけ気持ちが軽くなるような気がした。

そして俺たちは、2人で寄り添い合いながら眠りについた。


夜が明け、小鳥たちの楽しそうな歌声で目が覚めた。

天音はまだ寝ているので、起こさないようにゆっくりと外に出てみることにした。

外では銅鉄さんが、朝食を作っている最中だった。

「おはようございます。手伝います。」

「あぁ、おはよう。そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。もうすぐできるから、そこに座っていなさい。」

「いいえ、どんなことでも良いので手伝いたいんです。」

「そうか。じゃあ机に皿を並べて、天音君を起こしてきてもらえるかな。」

「はいっ!」

俺は急いで皿を並べ、天音を起こしに馬車に戻った。

中をのぞいてみるとまだ、すぅすぅと寝息をたて、ぐっすりと起きそうになかった。

「お~い、朝だぞ~。起きろ~」

起きない。

体を揺する。

これでも起きない。

色々試してみたが一向に起きる気配はない。

仕方ない。これは仕方ない。

俺は最終手段を使うことにした。

必要なものは己のみ。

まず、靴下を脱がす。

足の裏をくすぐった。

初めは、反応はなかったが、やがて

「ふ、ふひっ!」

やっと反応があった。このまま続けることにした。

すると、

「お、お兄...辞め...辞めて...も、もう我慢できない。

 あ..あは..あははははははははは!」

おっと、これ以上はまずい。

俺はくすぐる手を止めた。

「おはようっ!よく眠れたか?」

ビタンッ!!

頬が痛い。

「おはようじゃないわよっ!

 死ぬかと思ったんだからっ!

 本当に苦しかったんだからっっ!!」

「いたいなー、せっかく起こしてあげたのに、

 恩を仇で返すなんて。兄は悲しいよ。」

「ご、ごめん...なさい。そこまで言う..つもり..はなかったの。

 だけど本当に...いいすぎたわ。ごめん..なさい。」

泣き出してしまった。

しまった、やりすぎてしまった。

「ごめんごめん。嘘だ。本当はそんなこと思ってない。

お前は俺の最愛の妹だよ。からかったしてごめんよ。

お願いだから泣き止んでくれよ。」

土下座をしながら一生懸命に謝った。

「っなーんてね!」

えっ?

顔を上げると、

「本当に泣いてると思った?こんなことで泣く分けないじゃない!

お兄は本当に騙されやすいんだから!」

「まぁ、そこがお兄のいいとこなんだけど///」

「よかった。」

「何が良かったよっ!まだ私は許したわけじゃないんだからっ!」

「本当にごめんな。」

「まあ、いいわ。許してあげる。次はないんだからね!」

アハハッ

久しぶりに天音の笑った顔を見た気がして、うれしくて一緒に笑った。

そうしていると外から

「おーい、早く来なさい。朝ご飯ができたぞ。」

「そうだった、朝ご飯で呼びに来たんだった。」

「それならそういってよ!銅鉄さんずっと待てってくれたんじゃない!

 どうするのよ!」

「そうだなぁ。じゃあ、」

この後、銅鉄さんに2人で謝って、みんなで朝ご飯を食べた。


朝食を済ませた後、すぐに出発した。

特に道中は何事もなく安全な旅路で昼過ぎに孤児院に到着できた。


孤児院に着くと、孤児院の経営者であり、銅鉄さんの友人だという【久納 依里子クノウ ヨリコ】さんが出迎えてくれた。

「よく来てくれましたね。疲れたでしょう、詳しい話は家の中でしましょう。」

そう言うと、面談室のようなところに案内してくれた。

久納さんはとても優しく、包み込んでくれるようで、まるで母さんのようだ。

一息つき、この孤児院の状況を教えてもらった。

今、この孤児院には俺たちを除いて、10人の年の近い子たちが過ごしていること。

この孤児院にいる子たちは、皆同じような境遇であるということ。

皆、基本的に16歳になったら、外の世界へ旅立っていくこと。

そこまで聞いて、久納さんは

「ちょっと待っててね。」

と言い部屋を出て行った。

暫く待っていると、久納さんは1人の男の子を連れて戻ってきた。

「紹介するわね。この子は仁君。

 今日からあなた達の色々な面倒を見てくれるわ。仁君もこの子達のこと宜しくね。」

「あと、何か悩みがあれば、私になんでも相談してね。」

そう言い終わると、仁と紹介された男の子が、

「よっ!てな訳で、俺がお前達の面倒を見る事になった。さっき久納さんも言ってたけど、俺の名前は【三塚井 仁《ミツカイ ジン】だ!

一応、お前達より歳は上の15歳だ、仁兄ちゃんとでも呼んでくれ。

これから宜しくな!」

「仁さんこちらこそ、宜しくおねがいします!」

「おっと、いきなりさん付けか?」

「す、すみません。」

「うそうそ、いきなりは言いにくいだろうから、慣れた頃に呼んでくれればいいぜ!」

ケラケラと笑う仁さんを見て、

「お兄、仁さんって優しくて、面白そうな人でよかったね。」

「そうだな、この人となら上手くやっていけそうだな。」

その後、仁さんは俺たちの部屋まで案内してくれて、

「長旅で疲れただろう。飯の時間には起こすから、しばらく休んでな。」

そういうと、部屋を後にした。

俺たちはお言葉に甘えて、一眠りした。

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