輪廻戦記~運命の還る場所~

登美能那賀須泥毘古

序章.世界の真実

第1話.ありふれた日常に潜む絶望

この物語は凶大な絶望を前に、己の信念と絆を力に立ち上がる一人の人間の物語である。


神世紀3628年世界は絶望の混沌に包まれた。

それから20年の時が経ち、主人公は生を受けた。

人として後ろめたい事のない人生を歩んでほしいと言う意味を込めて、【真人マナト】と名付けられ、【上尾カミオ】の長男として、両親の愛情を受け健やかに育つ。

そして、真人が2歳の時、最愛の存在ともいえる妹【天音アマネ】が生まれる。

何の不自由もなく順風満帆な人生がこれからも続いていくと思われていたが、不穏な兆しがすぐそばまで近づいていることなど誰一人として知る由もなかった...。


真人が10歳の誕生日を迎える1週間前、悲劇は起きた。

真人、天音が家で両親両親の帰りを待っていると、突然ドンドンと扉強くを叩く音。

何かと思い扉を開けると、そこには異様な雰囲気を纏った長身の男が立っていた。

その男は先ほどまで何者かと戦っていたのだろう。鮮血を全身に浴びていた。

真人は、非現実的な様子を目にし、驚きおののいた。

そして男はゆっくりと、真人、天音に言い聞かせるように語った。

「落ち着いて聞いてほしい。突然で信じられないと思うが、お前たちの父さんと

 母さんはもう帰ってこない。」

その言葉を聞いたとき、その言葉をすぐに信じるとことはできなかった。

目の前が真っ暗になり、時が止まったような感覚に陥った。

何も考えられない。

男の言葉を受け入れられない。

誰も信じられない。

涙が溢れそうになる。

だが、はっと我に返る。

〈泣きたいのは、俺だけじゃない。天音のほうが俺よりも傷ついてるはずだ。

 俺が天音を支えなければ。〉

真人はそう思うと頬を思い切り叩き気合をいれた。

そして静かに泣く天音を抱きしめた。

男は真人の様子を確認し、再び口を開いた。

「気持ちは落ち着いたようだな。結果を言えば、君たちの両親は魔族に殺された。

 私がもう少し早く駆けつけられていれば、2人が死ぬことはなかっただろう。

 すまなかった。」

男は深々と頭を下げた。

明らかに自分よりも強いであろう男が、自分たちに対し首を垂れる光景を前に、

真人は少々戸惑いはしたが理解することができた。

この男は両親を助けるために自分の命をなげうって命をなげうってくれたこと。

全身の血は魔族を打倒した際に浴びたであろうこと。

だが助けることができなかったこと。

この男の語ったことは真実だということ。

男は顔を上げ、

「2人には親戚など両親以外に頼れる人間はいるのだろうか。」

真人と天音は首を横に振る。

続けて男は

「ならば、2人とも私の知り合いが運営している孤児院に来ないだろうか。

 その孤児院は、君たちと同じ境遇の子供たちがともに暮らしている。

 どうだろうか」

真人と天音は目をかわし、

「すみません。少し考えさせてください。妹と話し合いたいんです。」

そう答えると、男は

「わかった。答えが出たら教えてくれ。これは君たちの運命だ。

 君達にしか決められない。

 君たちの心が決まるまで、私はまだ魔族がどこか隠れているやもしれないので

 見舞わりをしよう。」

その夜、真人は天音と今後の行く末を話しあうことにした。

「今から少し時間大丈夫か?」

「大丈夫だけど何?」

「今後のことについて話し合いたいんだ。」

「今後...ね...」

「あぁ、まだ気持ちの整理はついていないと思うけど大事なことだから」

「お兄は悲しくないのっ!?お父さんとお母さん死んじゃったんだよっ!」

天音は涙で目を腫らしながら真人に訴える。

真人は天音を抱きよせ、

「悲しくないわけないだろっ!悔しくないわけないだろっ!

 でも、頼もしかった父さんも、優しかった母さんももういないんだ!

 2人で頑張るしかないんだ!」

そう言うと、二人は夜が明けるまで一緒に泣いた。

そして泣き止んだ後、一生懸命話し合った。

その日の夕刻、二人は男に考えを伝えに向かった。

「遅くなってしまってすみません。」

「いや、心は決まったか。案外速かったな。もう2日は待つと思っていたんだが。

 まあ、そこに座ると良い。」

「はい、昨夜二人で話し合って孤児院に行くと決めました。」

「そうか、君も本当にそれでいいんだね。もうこの家には帰れないんだよ。」

男は天音に優しく問う。

「うん、おに…お兄ちゃんと一緒ならどこでもやっていけるわ。」

「そうか、そうだな!2人一緒ならどんな場所でもやっていける!

 私が責任を持って2人を孤児院まで連れて行こう。任せてくれ!」

そう言うと男はガハハと笑い、とてもうれしそうだった。

その姿は昨日の男とは打って変わって、とても優しさに溢れていた。

3人はその場で笑い泣いた。

落ち着いた後、

「そういえば、まだ名前を言ってなかったな。私の名は【銅鉄 正仁ドウガネ マサヒト】という。

 好きな呼び方で読んでくれて構わない。今後とも宜しく。」

「おr…僕の名前は上尾 真人って言います。こちらこそよろしくお願いします!」

「わ、私は天音って言いますっ!よろしくお願いしますっ!」

「自己紹介が終わったところで、いきなりだが2人とも色々準備も必要だろう。

 孤児院に向かうのは5日後とし、それまでに各々用意しておいてくれないか。」

「わかり!ました。天音もそれでいいよな!」

「うんっありがとうございます!」

「それと荷物はこちらで馬車を用意しておくから安心してくれ。

 君たちは私が責任をもって送り届けよう。」

こうして翌日から孤児院へ向かう準備を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る