マミーと僕と青い空

マミーと僕

 特化デザインチャイルド 【名詞】

 特徴ある才能を持つ人間から採取した精子と卵子を組み合わせるデザインチャイルドに、遺伝子病治療以外の目的で、遺伝子を操作し、人工的に才能を増幅させた子供。

 その多くが、その後、幼少より、特殊な環境で更に才能を発揮増幅させる育成方法を受けており、思春期を迎えた時点で、商品として売買される。

 特殊な育成環境のせいか、多くが無気力、コミュニケーション力不足、協調性の無さ、善悪の判断能力の低下等、精神的問題を抱える。

 勿論、違法行為であり、彼等を育成し売買した者は、刑事的社会的に厳罰を受けることになる。



「マミー! マミー! お空がまた真っ赤だよ!」

 僕が触指を振り回して呼ぶと、テーブルにオヤツのクッキーと紅茶を並べていたマミーが振り向いた。

「ほら! 真っ赤なお空に、お日様がまた霞んでいる!」

 それは、僕の生まれた星では当たり前の風景。僕の星は年がら年中、砂嵐が舞っているから、空は赤く、天空に浮かぶ太陽は、いつも霞んで見える。

「本当にファボは、お空が好きね~」

 マミーは僕を二本の触手で抱き寄せると、イエローオパールの瞳をにっこりと微笑ませた。

 真っ白な部屋に、真っ白なベッド。そしてモニターと部屋中を見つめるカメラ。これも、僕にとっては当たり前の光景。何故か僕は、物心ついた頃から、いつも一人で、このたった一つ、小さな丸い窓が天に向かって開いた部屋にいた。そこで、ホログラムスクリーンに映るプログラムを指示通りに組む毎日。うまく出来れば、次の問題が現れ、うまく出来なければ機械の声で延々と罵られ、連続して間違えれば、罰として電流が走る。今もそれはたまに夢に見るけど。

 そんな僕の毎日に彩りをくれるのが、マミーだった。

 一日一回、時間はまちまちだけど、部屋に来て、おやつをくれて、お話をしてくれる。そして、いつも番号で呼ばれる僕を抱きしめ、優しい声で『ファボス』と名前を呼んでくれる。

「ファボ、良い? あなたはいつか、この星を出るわ。そして別の星に行くの。その途中に『青い空』が見える星に着いたら、船を出て、空を眺めてご覧なさい。そして、そこにいる人とお話をしてみなさい。……きっと、あなたは『救われる』わ……」

 マミーはいつも、僕を抱きしめると繰り返し、繰り返し言い聞かせた。

『青いお空の下に出て、青いお空を見上げてご覧なさい』



「マミー、マミー、今、僕は青いお空の下にいるよ」

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