第2話 軟者ってナンジャ

 『軟法とは他力本願とみつけたり!』

 失恋するより手痛い、始まる前から終わっていた、僕の身分違いの片思い。

 格差社会なら実感してるけど、住んでる世界のうえしたを、目の前でこれでもかと見せつけられ。

 高校中退フリーターのワイには、佐田千明さんは手も足もどころか、痔すら出ない現役芸大生だと、一発KOされた夜。

 僕はどうやって帰ったかも分からないショック状態だったけど。

 始まる前から終わっていたなら、終わってたとこから、また始まる可能性もなくないか?!

 だって、はっきりごめんなさいされたわけでもないじゃん。

 未練てのも変だし、なんかはっきりしないもやもやで、昨夜は一睡も出来ずで。

 今朝はもうバイトに行く気力もなく、仮病電話するのも億劫で、ちょうど百均に用があるというすーさんに、悪い熱が出て休むと伝えに行ってもらった。

 副店長で店の核でもある僕の急な病欠で、BBAどもはさぞ慌て、ワイの偉大さに改めて気づいた。

 かと思えば、

 あ、そうですか、お大事に。

 何事もなかったように店は回っていたそうだ。

 また、自分はキャラ的に違和感がないので、

「エロパンツ屋に潜入してみたけど、あのいいケツっ娘いなかったわよ。もう、そんなやめて! あの後、リア充軍団の誰かに、飲み慣れないお酒を強要され、泥酔させられ、お持ち帰りされ、グッチグチに、朝まで何度もされまくったなんて、そんなつまんない妄想するの!」

 やかましいわ!!

 そういう底辺陰キャ大打撃妄想要らないから!

「残念よね、勢夏王も同じ現役芸大生だったら、あの後の打ち上げ飲み会に、当然のように参加出来て、軟者の里特製がってん承知之助な、便利なおくすり入りチューハイで、いいケツっ娘を酔わせて、二人掛かりで合法的にお持ち帰りし、今ごろはそのベッドで佐田さんと..ハー」

「♪やめてけれ! やめてけーれ! ゲ」

 って、ナニ歌ってんだ俺。

「てかさ、俺は一般人じゃないんだろ! 覚えられなかったけど」

「十四代目軟者神他力本願王、大団円勢夏さま?」

「それそれ! それでこの悲惨なリアルを、うまいことなろう助左衛門して...くれめんし!」

 いちいちこけなくていいから!

 そこですーさんは、ワイの百均で買ってきた筆と墨汁で、すらすらっとスローガンみたいのを書いて貼り、

「まず、軟者とは何か。それは今をさかのぼること」

「あの~、僕って漫画とかでも、めんどクソ長い説明文は、全飛ばししてっすね、陰キャが陽キャに、納得いく理由全飛ばしで、突然大変身してっすね、いきなり無双するとこから読む人なんで、ハハ」

 すーさんは困った顔をした。

「本当にトリセツ読まずに、いきなりスタートボタン押していいのでござるか?」

「イヤーザッツ頼!」

 すーさんは苦い顔になり、

「なら、これから軟者として、あちきがすでに特定住みの、いいケツっ娘こと、佐田千明氏のご自宅に、二人で出向き、軟術とは何かを実際にご覧いただこう」

「それっすよ! 俺ら底辺陰キャが待ち望むGJは!」


               ◐

 

徒歩で向かった先は、なんとびっくり、うちの裏の学生向け新築ワンルームマンション。

 名も知らぬ女子に恋焦がれ、何ヵ月もフードコートで張り込みしてたのに、佐田さんは、

「ちょうど勢夏王の部屋の、押し入れ裏手の部屋にお住まいでござるよ」

 すーさんは、軟者としての公式出動なので、制服に着替えた。

 そうだけど。

 どう見てもホスト系おネエが、ギャル浴衣着て、キャピってるようにしか見えないんだけど。

「軟! 拙者に何かご不満でも?!」

「そんなことより、僕は思うんです。人間、学歴や立ち位置じゃない。真実の愛の前には、高校中退元ニートも、現役芸大生も無問題。僕が身分違いを理由に、佐田さんとの運命の出会いをあきらめてしまったら、この国の行く末に大きな支障が出る、ような気がするんだけど..なんかそういう空気、予兆出てないすかね?」

「軟! まとめると、高校時代コンビニでバイトして上京資金をため、寝る間を惜しんで猛勉強。芸大に現役合格し、夢をかなえるべく上京したがんばり屋さんの努力を、元ニート、現フリーターの、無気力お先真っ暗男子が台無しにしないと、この国の行く末が悪い方に転がる、ような気がする。そんな予兆、空気、まったくないでござるが」

「いらない、いらない! 説教、理屈に、悲しい現実、声出し、ダメ出し! てか、すーさん、なんで佐田さんの個人情報知ってるの?!」

 すーさんは水戸黄門の印籠のようにスマホを突き出し、

「ただ尾行しても、それはストーキング行為、犯罪。そこで一計を案じ、拙者、法に触れないナンパに切り換え、顔見知りになったでござーる」

「その行動力、今すぐ僕に移植して..くれめ」

 すーさんは、佐田さんとのツーショットを待ち受けにした、スマホごとこけようとしたので、僕はグッと言葉を飲んだ。

「なんだそうか。すーさんは陽キャコミュ名人、女心たらしの巨匠なんだ。外見からそうだもんな。ハハ、内心僕のこと、ろくに女の子と口も聞けない、陰キャ王、へたれの巨匠ってばかにしてたんだろう!」

 僕が悲劇の主人公ぶって自分を卑下すると、

「いえ、ただ拙者が思うに」

「はいはいはい、どんなに環境が悪くても、頑張ってる人はいる、でしょ! そーすね、あーエライエライ! 見習いたいっすねー、そういう偽善者! ハッ!」

「いえ、拙者が声を大にして、アッピーーーー! ピーーー! ピーーーー! ルしたいのは」

 俺がこけてどうすんだ!

「どんなに見た目がブサイクでも、女子とうまいことやってる豚野郎はいる、その現実なのでござーる」

「イエス!」

 僕は思わずガッツポーズで食いついた!

「それなんすよ! 僕が超納得がいかないのは..なんでこんなキモい奴が、そこそこ可愛い子と、どうみても二人きりで、おデートみたいなことしてんの? おかしいでしょ? お前このブーちゃんのどこがエエの? ひょっとして、お金貰ってるプロ彼女なの? ねえそれってどうなの? ぶっちゃけいくら払えばいいの? 何ワードで検索すれば雇えるの? 小一時間、相手女子を問い詰めたい! でしょ、でしょ!?」

「セイ、セイ」

 すーさんは懐かしのレーザーラモンで僕をなだめると、

「我らが勢夏王は、美男美女のDNAを持つ一族出の、それは見目麗しいイケメン。なのに御歳20を迎える今年まで」

 すーさんは指折りしながら歌い出した。

「♪エー、ビー、シー、の次は? ♪ピー、キュー、アール、エス、の次は?」

 ええっと、DとTすかね? っておい!

 すーさんは僕の股間を指さし、

「をこじらせているなんて、山の中とは違い、文明社会では、それでいいのはいくつまで。きびしい掟、年齢制限があると聞きましたが、勢夏王は年齢規定違反で、処罰されたりはしないのでござるか?」

 その時は、痛いところをつかれた!

 ただうろたえてしまい、気づかなかった、壁に耳ありだったこと。

「それ地方出身者の人によく聞かれ...はしませんが、そんなの都市伝説っすよ! そういう話題になると、自分はいつもこう答えるんです。僕はジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジェントルマンだよ、ホーッ」

「うんうん、陰キャのキリスト、おまえらのマイケルも、草葉の陰でさぞ凍りついていることでしょう」

「そんな人の弱みばかりつついてないでさ、早く軟法とやらを実演して見せてよ。ここ実はデンジャラス地帯なんだからさ」

 海外では、通り一つ隔てただけで、治安が天国と地獄なんてよく聞くけど、佐田さんが住む学生マンションの一階、ていうか建物自体が、自分には事故兼危険物件なんだよ。

「それでは驚いてもらいましょう! 軟法、恋娘呼び出しの術! アハーン!」

 すーさんは耳当て指さしの決めポーズで叫ぶと、ギャル浴衣から使い込まれた法華太鼓を取り出し、バチで叩きながら、

「むー、すー、め! 可門! 加門! 渦門!」

 サッカーのサポーターみたいに叫び出した。

「はいご一緒にー! むー」

 僕もジャンプしながら、声を合わせること3分くらい。

 マンション一階のコンビニから、ガタイのいい、見るからにDQNな店員が出て来て、

「お客さん、店の前で奇声あげるのや..お前」

 うわ、マジ最悪、デン犬じゃん。

「はいはいはい、へたれ、ビビり、ひきこもり、陰キャ三冠王のいじめの恋人、マイ舎弟、勢夏くん居んダハーウス!」

 デンジャラス狂犬、略してデン犬。

 エービーシーデーイーの、次のアルファベットがペンネームについた、逝去後も毎年新作アニメ公開される、なろう漫画不世出の巨匠。

 その登場人物に必ずいるガキ大将キャラ。

 そいつがヤンキー漫画読んで、狂犬覚醒したのがこいつ、権田源太20歳。

「へたれ、やられ、壊れ、ゲーム、オーバー。からの、ニート、バイト、ライフ、ヘル、ブーパッパパ、ブーバッパパ」

 名前から韻を踏んでる俺は、生まれついてのラッパー。

 170センチ80キロのデブが、コンビニの制服姿で、埼玉の路上でいきなりフリースタイルをかます。

 ここまでばかだと、ある意味清々しい、くはない。

 なに、俺の中学から今日までを、的確にラップしてんだよ!

 お前のせいでこうなったんだろ?!

 カツアゲした金返せよ!!

 したことは忘れて、されたことは大騒ぎする、典型的DQN脳にはマジムカつくわ!

「おい勢夏クソ、フリースタイルで挑まれたら、フリースタイルで返すのが礼儀。お前、社会人としての常識に欠けてるぞ」

 やかましいわ!

「勢夏王、うしろ! うしろ!」

 それまで源太のラップを、動画撮影していたすーさんが、僕の背後を法華太鼓で指した。

 俺の天使..

 マンションの入口に、キティちゃんのTシャツに短パン、両手に生ゴミのポリ袋を持った佐田さんが、すっぴんのあどけない顔で立っていた。

 か、可愛ええ!

「あんた、ゴミは指定の日に出してくれないと困るって、なんべんいえばわかるの!」

 源太は大家の息子なので、偉そうに俺の天使を一喝した。

「指定日の朝に出すと、権田さんが待ち伏せしてるから」

「二人、手を取り、すき家、まぜのっけ、モーニングご機嫌、エブリディワリカン、誘う、くらい、いい、いい、だっだっだだ、だっだっだだROW!」

「その都合が悪くなると、すぐラップでごまかすのやめてくれますか!」

「うちのコンビニバイト、初日でやめてくれたの誰ですか!」

「あなたにセクハラされたからでしょ!」

 これで決まった。

 俺へのいじめ恐喝は忘れてやる。

 だがな、同じシフト入ったり、ゴミ待ちしたり、俺の運命の天使に対する、数々のセクハラ行為だけは許せん!

 14代..なんだっけ、とにかく選ばれし勢夏王として、軟法恋娘呼び出しの術で無敵の今こそ、このムカデブに正義の鉄槌を下す!

「おいデン犬」

「おい、お前、今なんつった」

 源太の顔色が変わった。

「デン犬、デン犬、デン犬、デン犬!」

 僕はアへ顔、ダルシムポーズで一周回りながら、源太の一番いやがるあだ名をいってやった。

「やるんかこら」

 地金が出たよ、弱きをくじいて、

「いい気、元気、今日でエンド」

 こんなゴミに礼儀云々片腹痛いが、僕も軽くフリースタイルを決め、佐田さんに不適、いや不敵にうなずき、「おう、かかってこいやー!」

 今、やっと来たこの時が。

 さあ、生きながら転生した、無双チートの、無敵の暴れるくん爆誕、ダー! って、

「おい源太どこ行くんだよ」

「制服汚したら母ちゃんに怒られるだろ! 着替えてくるからチート待ってろ! 陳さん、ちょっと店見てて」

「おけー、無問題ネ」

 ちょ、待てよ!

 佐田さんは暴力は苦手なのか、ゴミをボックスに入れると、僕の無敵勝利を見届けず、小走りに部屋に戻って行った。

 まあいい。

 今日のところは源太への関根勤、じゃない関根麻里、でもない、はらさでおくべきか!

 それでかんべんしてやろう。


             ◐

 

 ボコッー! ガスッー! ドスーッ! ズサッーー!

 源太がジャージに着替えて戻って来て、わずか五秒。

 勝負は秒殺でついた。

 風が語りかけます、強い強すぎる。

 テレ玉の十万石まんじゅうのCMよろしく、

「どんなもじゃーい! 俺に判定負けしようなんて、一億年早いんじゃー!」

 軟法で無敵のチート状態の僕は、頭部に一発、顎に一発、とどめに腹に一発。

 源太に決められて、一瞬でKOされた。

「だから、説明をちゃんと聞かないから」

 すーさんの声が幻聴のように聞こえた、その時だった。

「893キッーク!!」

 疾風のように飛び出した影が叫ぶと、源太はぶっ飛んでしりもちをついた。

「なにしやがんだテメー!」

 源太がマジギレした瞬間、

「ダブルショックウェーブ!!」

 飛び出した第二の影が、立ち上がった源太の背後に突進し、両手に持った凶器スタンガンを首筋にあてると、源太は感電したようにけいれんし、お約束こけのように仰向けに倒れた。

 アメリカのドナルド·ハナフダ大統領と、日本の矢倍井総理大臣のおもしろマスクを被った、制服姿の謎のJK二人組。

 誰だ! 誰だ! 誰だ!



「幼稚園の時、七夕の短冊に誓った!」

「大きくなったらプリ(以下略)になる!」

「でもなれなかった!」

「はじけない、レモン香らない、ウチら『逸般人』!」

「なら、この運命に喜んで殉教しよう!」

「今そこにある『801案件』を守る! 育てる!」

「プリ(以下略)のように『801』に愛を持った!」

「大統領と総理大臣の二人組!」

「ウチらは!」

 声を揃え、なぜかのびてるワイを指さし、

「二人は『801自衛隊』!」

 はなし長すぎ!

 プリ(以下略)の変身シーンじゃねえんだから、さっさとデン犬を戦闘不能にしてくれめんし!

「スカートは女子の命!」

「なわけねーだろ!」

 思いは通じたのか、どう見ても二人は桃山姉妹は、普段の凶悪、いや、今日は頼り『害』のある素顔を見せ、

「見せてなろう、スカートの中!」

 二人は声を揃え、

「痛さの中に喜びがある、ご褒美乱れげり!」

 叫ぶと、一人が源太のワイドボデーの上に飛び乗り、腹の辺りに猛ストンピングを叩き込む。

「あー、これは見えてますわ」

 姉妹は源太の顔に尻を向け、超ミニの制服スカートをひらひらさせながら、

「あたたたたた!」

 と、悦子と淑子の桃山姉妹、入れ替わり立ち替わり踏みつけ攻撃に、

「いたたたたた!」

 と、やられざまあみろの源太。

「フリースタイルデブ、痛そうなのに嬉しそう!」

 ぜんぜん無敵じゃなかった僕は、ようやくすーさんに助け起こされた。

 よく見ると、なるほど源太の角度からは『見えてる』ようで、デン犬は痛さに悶絶しながら、時折、歓喜の表情を浮かべていた。

「これ、お店でやられたらいくら取られるかしらね」

 すーさんが、料理を頑張ったお母さんの、自画自賛みたいな口調で感心すると、

「今日はこれぐらいにしといたるわ!」

 ワイの母親のきめ台詞を、悦子か淑子のどっちかがいうと、二人はなぜか空を指さし、

「神さまー! 神さまー!」

 何か嘆願事項でもあるのかと思いきや、

「なんでもありません!」

 僕とすーさんが思わずこけると、代わりにデン犬がよろよろ立ち上がり、

「金的蹴りなしにどこがご褒美だよ。近頃のJKは愛想がないのう。おかげでとどめをさされず、下半身同様、上半身もおっき出来たぜ」

 源太は足を引きずるように、桃山姉妹ににじりより、

「かっこいいこといいたいがよう、なんか頭がぼーっとして出ねえが、くらいやが」

 微動だにしない、へんなマスクの二人組に殴り掛かろうとして、

「いたたたたた!」

 源太は急に腹を押さえて、実家方向に敗走し出した。

「蹴りと下痢、しっかり韻を踏んで、ラッパー仕様に技リミックスしといたYO!」

 桃山姉妹がすいか胸を張ると、

「覚えてろ! そのエロい柄パンツ、ちゃんと洗って出直して来い! って、漏れる! 漏れる! ギャー!」

 デン犬は異臭を残して消えた。

「あなたたちお手柄よ」

「いえ、善良な『逸般人』として、こいつの顔形を保護し」

「目の前の『801案件』を死守するのは当然の義務です!」

「その意気や良しである! こういうボランティア活動しています、学校の先生にもちゃんというのよ」

「それがうちの担任は、UFOや心霊現象同様、『801』も創作、ねつ造で、現実には存在しないって」

「そんな夢を忘れた悲しい大人なんかに負けちゃダメ!」

 久々にぼこぼこにされて、僕はすーさんの肩を借りて、謎会話をただ黙って聞いていた。

「それはさておき、あなたたち今日はどんなの着用? 優しい兄貴にも似合うか見せてくれめんし」

 二人はぴょこんと飛んで足並みを揃え、かがんで我々にお尻をつき出すと、

「こんな感じデース!!」

 声を揃え『女子の命』をめくって、ブホーッ!



 僕は悦子か淑子のどっちかから貰った、エロティッシュで、止まらない鼻血を押さえ、

「うちらの見てそれって、勢夏クソ、お前どんだけ修行不足なんだよ!」

「うちらの育成待ってないで、自分で羽ばたくんだよ! もっと自分を解放して、うちらの想像の上いって...くれめんし!」

 桃山姉妹はすっかり元に戻り、僕は意味不明のダメ出しをされながら、なんとか帰宅した。

「勢夏王、今度はよーく聞いてくれめんし」

 僕はこける気力もなく神妙にうなずいた。

「軟法、軟者というのは、忍者、忍術に対抗したものなの。忍者、忍術って、殿の命令を受け、敵を毒殺したり、城を爆破したり、今でいうテロリストでしょ。軟者というのは、忍者のような、きびしい修行、鍛練、訓練、勉強が出来ない、無気力な軟弱者が、自分が出来る範囲で、小さなことからコツコツと始めたものなの」

「他力本願って、要するに僕が無敵、無双になれるわけじゃないの?」

「軟者は生まれついての無気力、パワー不足。努力しても無駄だし、そもそも努力すら出来ない。軟者の術は、とりあえず誰かの背中を押し、そこを起点に、わらしべ長者的な何かが起こるのをただ待つ。軟者の術は以上、終わり。なーのだ」

 僕は久々にギャグ以外でこけた。

「でもまんざら捨てたもんじゃないでござるよ。今日だって軟術で、結果的にフリースタイルデブにリベンジ決めたじゃない」

 確かに。

「でも、あの姉妹、なんで急に僕の自衛隊を買って出たの? ちょっと前まですれ違ってもがん無視だったのに」

「そこが女子の神秘。いつ何が他力本願発動するか、それは神のみぞ知るでござる」

「801がどうとかいってたけど、何の暗号なの?」

「世の中には知らない方がいいこともあるでござる。ああ、ググらんでいい、ググらんで。文明の利器に頼ると、他力本願力が激落ちするでござるよ」

 そんな僕のスマホに、珍しく人からメールが来た。

『正一叔父です┐('~`;)┌久々にメシでも食おう(^o^)/』

 叔父さんより佐田さんと食いたい。

「急いてはことを仕損じる、明日は明るい日と書くでござるよ」

 翌日、僕はすーさんのいう、軟術の他力本願力で、モールで初めて佐田さんとお話した。

 

 


 


        

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