やっとの思い

…いや、思い出すどころか、付き合う流れになってない!

「付き合うなんて言った覚えない。」


「はい、言ってませんよ?けど、遥さん俺のキスとかハグに抵抗しませんでしたよね?」


それは…弱いときに坂井がいろいろしてきたんだし…。

けど、俺は何も言い返せなかった。


だって、あの時確実に"うれしい"って思った自分がいたから。


「確かに先輩があんなに傷心してるところに俺がいただけって言われればそれまでですけど…」


坂井は言葉をとぎらせると、俺の手を自分の両手で包んだ。


「あなたなら、抵抗できる力のはずですよ?こないだも…今も…。」

「ッ…。」


なんでこいつは、俺の核心をこんなに簡単に覗いてしまうんだろう…。


俺が抵抗できないのわかっているくせにッ

俺はうつむいて真っ赤であろう顔を隠した。


でも、このままじゃいやだ…。

坂井から…好きになったやつから逃げたくない!!


「言葉(確信)がないと付き合えないですか?」

「」

俺はコクンと首だけで返事をした。


「俺のこと好きですか?」

ドクンッ


「あ、え…っと、そ…れは…ッ!」

俺は坂井の顔を見上げた。

でもすぐに後悔した。


だって…、あんなにやさしい顔されたら…。

…アイツと同じ顔でそんなことされたら…。


アイツ…雅樹を簡単に思い出してしまう自分に心底情けない。


「まさきさん?」

「ッ!?」

のどが露骨にヒュッとなってしまった。


「ち、違うんだ!!ちゃんと…ちゃんと、坂井に恋してるんだ…。」

「フフッ、恋してるんだ~。」


「うん。…なのに…、俺…」

クソッ、言葉が出てこない。…納得してもらえる…分かってもらいたいのにそんな言葉が頭に浮かばないッ!!

俺はまた頭を垂らした。



「遥さん…、ちょっと顔上げて?」

あ、坂井の敬語がまた消えた。


俺はゆっくり顔を上げた。


「変わらず泣き虫ですね。」

「…うん。」


俺はいつもの悪態すら出さなかった。

「フフッ、ちゃんと両思いだから、心配することないよ?」


それは、坂井が雅樹のこと知らないからで…。


「いいじゃん、同じ"雅樹"なんだから、過去に俺が上書きすれば問題ないデショ?」


「そんなのッ「遥さんばっかりいい思いするって言いたいんでしょ?」ッ!」


坂井は、やっぱり全部わかってる。

なのに、俺にまたチャンスがあるってとってもいいってことなのか?


「大丈夫、俺のほうが得させてもらってたんだから、お互い様だよ。」


え・・・?

それってどういう意味なんだろう…?


「だから、もう待ちきれないんだよね…。」

そういうと坂井は俺をやさしく抱きしめた。



「俺と付き合ってくれますか?」

カァァアアアアッッッ


み、耳ッ元で言うなぁぁあああ!!!!


「いやだったら離れて。でももし、俺に少しでも気持ちがあるとしたら…俺にチャンスがあるなら、俺の背中に手をまわして?」


坂井が不安になる理由なんてないのに。


「坂井だって確信がほしいんじゃん。」

「うん、だから、お互いさ…ま。」


俺は坂井のセリフを途切れさせるために、後ろにギュッと手をまわした。


「付き合う。」

「フフッ、やっぱりいざされて言われるとうれしいですね。」


「タメ口どこ行ったんだ?」

俺から照れ隠しに出た言葉は、まぁ、可愛げもへったくれもなかった。


「…いいんですか?」

「敬語にされてるとこっちまで気、使うんだよ。」


「フフ、じゃ、遠慮なくタメ口使うね。」

「お、おう。」



「じゃ…、そろそろ。」

「飲もっか。」「飲むか。」



語尾はちょっと違ったけど、二人の気持ちは多分同じような所にいるんだって思うと、その違う語尾さえうれしくなった。


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