誤解の事実②

グスッ…

「はぁ…、まだ止まんねえし…。」


部屋を飛び出してから5分も経ってしまった。

…もう行かないと…。



バタバタバタ…

…ん?誰の足音だ?


「遥さん、居ますか?」

ッ!?


「坂井ッ!?」

ハッ、うっかり返事しちまった…ッ!!


コツン、コツン、コツン…

坂井の革靴の音が大きく響いてくるッ。


俺が焦っている間に、坂井の靴がトイレの下のところから見えてしまった。


「遥さん。」

「…んだよ。」


「開けてください。」

「やだ。」

「壊しますよ?」


何だそれ!?


公共の場だぞ

こえーよ!!


俺は手元のカギを右に滑らせた。

ッと同時に、坂井が中に入ってきて、カギは左に滑らされた。


「ちょ、おま…何考えッ」


坂井を見上げると、動揺してるのか目が泳いでいた。


って動揺してんのこっちだっつーの!!!!

「ッ…、なんで泣いてんの?」

「…泣いてねぇよ。」


そういってもなお、坂井はおれを怪訝そうにのぞきこんだ。


そして、俺の濡れた頬にそっと手を添えた。

「こ、これは…ッ、目から汗かいてるだけだ!!!!」

ってなんだその子供じみた言い訳はッ!!!!



「それが涙っていうの。」

坂井は、そう言いながら息を吐いた。



あ…、呆れられ…た…?

ふと思った時には、俺の目から涙が零れ落ちた。


「…よく汗かくよね、遥さんの目って。」

「余計なお世話だっつうの…。」


俺は坂井の顔を見ていられなくて、目だけそらした。

だから、急な坂井の言動になんて反応できなかった。


「これは放っておけないよね…。」

「…え?」


今…坂井が何か言った…ッ!?


俺が目を坂井に戻した瞬間、坂井は俺の目尻にキスを落とした。

「なッ、なんで…キス「遥さんが誘ったんだよ?」…へ…ッ?」


チュッ…

俺が固まっている間にも、坂井の唇は、やめてなんかくれなくて…


目尻から瞼…鼻筋…鼻の頭…


ってそこまで来たのに、坂井はキスをやめて、にっこりとほほ笑んだ。


「…?、ッ!!」

そして、俺の体は坂井の腕に包まれてしまった。


「言ったでしょ?俺は、


       西島遥が好き

             って。」



「…さか…い…。」





……………。


気が付くと俺の涙は止まっていて…、坂井の腕からも解放された。

包まれていた俺の体は、すこしひんやりした。

…でも心は苦しくなかった。

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