第4話 大連攻撃

 房総沖

 「淵鄭流気功その6武の舞」

 奇声を上げながら遼寧は船内からたくさんの爆弾を出して投げた。

 対艦ミサイルを発射する蘭州。

 二〇ミリ機関砲を連射する間村達。彼らは爆弾とミサイルを撃墜した。

 「叛士流連撃の舞」

 蘭州が動いた。

 錨による連続突きを弾く広瀬と青山。

 広瀬は玉をこめるしぐさをすると青山は火をつけた。それを彼女は投げた。

 「そんなもの投げ返す技はある」

 蘭州は妙な構えをすると火の玉をつかむ。せつな閃光と衝撃波とともに爆発した。くぐくもった声を上げてよろけた。

 「遼寧。蘭州。おまえの所の潜水艦は全部沈めて駆逐艦とフリゲート艦も二〇〇隻くらい沈めてコアは抜いた」

 間村はトランプを広げて見せるように何個かのコアを見せた。

 「な・・・」

 絶句する遼寧と蘭州。

 「金流芯。どうする?おまえの仲間のコアはえぐった」

 沢本はドスの利いた声で海警船からえぐったコアを見せた。

 「おまえ巡視船だろ」

 驚く金流芯。

 馬兄妹は中国語で舌打ちした。

 「これは戦争だからな」

 冷静に言う三神。彼はコアを何個か見せる。

 戦争は始まっている。だから数十隻の海警船からコアをえぐった。今回は専守防衛の一環で日本政府から許可は下りている。

 夏鴎歌と箔麗花は周囲を見回す。中国軍の艦船と海警船のミュータントの残骸が周囲に散らばっていた。離れた海域にいたタンカーや貨物船も黒煙を上げていた。民間船は普通の船舶である。バレないと思っていたのにバレたようだ。

 「領海から出て行ってもらおうか」

 香川がドスの利いた声で迫る。

 「やだ。といったらどうする?」

 クスクス笑う遼寧と蘭州。

 「力づくで追い出す。やり方なんていっぱいある」

 単刀直入に言う間村。

 「隊長。逃げた田宮から電波が中国の北京から大使館を経由して鎮遠に受信されました」

 「ひゅうが」にいる山下から艦内無線で入ってきた。

 「スーパータンカーか巨大コンテナがどっかにいます。たぶんタンカーが発電所でコンテナ船になにか仕込んでいます」

 いきなり無線に割り込む貝原。

 「発電所?」

 聞き返す佐久間と間村。

 「中央ザイードから各国の中国大使館を経由して新宿の司令部で受信してそこから指令が来ています」

 貝原が答える。

 「膨大なエネルギーを消費するからスーパータンカーが五隻いるんです。射程もカメレオンの光線の倍あります。たぶん射程は二〇〇キロ以上です」

 計算しながら報告する山下。

 「そんな兵器があるのか?」

 沢本がわりこむ。

 「たぶんエイリアンの技術が入っています。発電機と高出力レーザー装置といった重要な部分は日本製で他の部分はロシア製だと思います。高出力レーザー砲のような物です」

 オルビスが答えた。


 

 新宿にあるチョウ産業。

 羽生と田代、エリック、和泉、カルル、フラムは八階のフロアから廊下に出た。部屋では捜査一課の刑事達が捜索している。

 「捜査一課が捜査しているけど今の所、出てきたのは密輸の証拠と文書偽造、隠し口座、瀬取りの証拠だけ。これだけでも十分証拠ね」

 田代が資料を出した。

 禁止されている部品や書物リストが資料にはあるし帳簿もある。

 「このビル全体がチョウ産業の持ち物で九階と一〇階は司令室になっている」

 鋭い声が聞こえて羽生達が振り向く。

 消防士が近づく。

 「高浜さん」

 田代が声をかける。

 「これから九階と一〇階に踏み込みます。警察の承認がいるので準備はいいですか」

 声を低める高浜。

 銃を抜く羽生。ただの銃ではなく魔物対策用の銃である。魔術が使えない人専用の武器で、ライフル銃の銃身を短くしたような形式で無属性の光弾を発射できる。

 羽生達は非常階段をのぼった。

 五十里は詠唱していた呪文を唱えた。力ある言葉に応え、非常扉に描かれていた模様が消えた。

 「突入!!」

 高浜は扉を蹴っ飛ばした。

 時雨と柳楽、柴田は片腕を機関砲に変えて飛び込み、銃を構えた従業員達に光線が貫通した。

 下司は正確にライフルで狙撃していく。

 フラム、エリック、和泉、田代が放った稲妻、炎の槍、氷のつぶては警備員や従業員達に次々に命中した。

 警備員詰所に入るカルルと海江田、羽生と高浜。

 羽生は早撃ちガンマンのような銃さばきでそこにいた何人かの警備員と大型犬を撃った。

 大型犬といってもただの犬ではなく両目は赤色で明らかに魔物である。

 床を蹴り壁を蹴り海江田は大柄の警備員の肩車するように乗っかると頭にサバイバルナイフを突き刺した。目を剥いて倒れる警備員。

 カルルは銃を連続で撃つ。すべて弾道が曲がりオペレーター達の頭を撃ちぬく。

 持っていた斧でケーブルを切断する五十里。

 羽生達は高浜達と合流して一〇階の司令室に突入した。

 高浜は持っていた二本の日本刀で中国人兵士の短剣を弾き、警備員のナイフをなぎ払いのどや頭を突き刺した。

 柴田と時雨と柳楽は正確に兵士達を撃っていく。

 カルルと羽生は飛びかかってきた大型犬の魔物を撃っていく。

 振り向く柴田。

 自分達の周囲には死体が転がっていた。

 中央スクリーンに八丈島周辺の海域が映っている。

 時雨と柳楽は手首から接続ケーブルを出して中央コンピュータに接続した。

 下司はキーボードを操作する。

 「こちら東京消防庁と警視庁です。「ひゅうが」聞こえますか?」

 高浜は無線を出した。

 「こちら「ひゅうが」どうぞ」

 「ひゅうが」のオペレーターを経由して貝原と山下が出る。

 「新宿にあるチョウ産業ビルは鎮圧した。だが、八丈島沖に何かいるようだ。カウントダウンが続いている」

 高浜は地図を見ながら報告する。

 「発電量が原発と一緒で百万キロワットで高出力のエネルギーが蓄えられている」

 時雨が概要を送信する。

 「粒子砲だ!」

 割り込むオルビスの声。

 「射程は三〇〇キロで目標は東京です。タンカーがエネルギーを供給でコンテナ船が粒子砲を搭載しています」

 時雨は計測しながら場所を送信した。


 八丈島沖にテレポートする間村達。

 時雨が送信してきた座標に五隻の大型タンカーと一隻の大型コンテナ船がいた。

 「これ・・・コンテナ船じゃない。コンテナ風のトリックアートだ」

 あっと声を上げる朝倉と三神。

 貨物港でよく見る大型コンテナ船がいる。しかしよく見るとそれはコンテナではなくトリックアートで巨大な砲身のようだ。

 「敵の艦船が多数接近!ミュータントでもなく普通の船でもありません」

 オルビスが報告した。

 「まさかAIの駆逐艦」

 佐久間と霧島が声をそろえる。

 「どこかに鎮遠がいます」

 オルビスが答える。

 多数の駆逐艦が接近してくるのが間村達のレーダーにも映る。

 「中央ザイードがいないわね」

 佐久間は周囲を見回す。

 「このままおとなしくしているハズがない」

 ピョートルがわりこむ。

 「艦首にある単装砲が通常兵器じゃない。レールガンだ」

 アッシュが気づいた。

 「米軍がやらない事をやったね。たぶん艦内は高出力レーザーモジュールと冷却装置に発電機で占められているね」

 分析するオルビス。

 「ミュータントじゃないしカメレオンの気配もない」

 三神が指摘する。

 なんだろうか?非常に淡白で機械的な気配しかない。

 艦橋の窓に赤色の光が一つ灯っている。

 「全方位からミサイル!!」

 オルビスが声を荒げる。

 「撃て!!」

 ミサイルを発射する佐久間達。ミサイルを撃墜してもまたミサイルが降ってくる。それを二十ミリ機関砲で撃墜していく。

 三神達はジグザグに航行しながら機関砲を連射して撃墜する。

 ヒンディ語で詠唱するアッシュ。力ある言葉に応え、闇色の触手が十隻の駆逐艦の船体をつかんみ、闇色の鎌で船体を切り裂く。

 ピョートルはロシア語で詠唱する。力ある言葉に応えて青色の稲妻が数十隻の駆逐艦を貫き、黒煙が上がった。

 レールガンが光って光線が放出される。

 三神は光線をかわすと動いた。その動きは間村達には見えなかった。気がつくと駆逐艦の船体が傷だらけでえぐれた損傷部から機械部品がのぞいている。

 泡を投げる朝倉。

 損傷部から黒煙が上がる。

 沢本は二対の錨でえぐると部品を引っこ抜いた。

 「どんな風になっているのかのぞいてやる」

 三神は部品を引っこ抜く。

 ピョートルは鎖で艦橋構造物をえぐりめくった。

 「肉の塊?」

 ロシア語で驚くピョートル。

 「これは重要な資料になる」

 沢本が指摘する。

 肉の塊ではないだろう。直径五メートルの金属球とゴムで出来ている。

 ピョートルは艦内からコンテナを出すと金属球を入れた。

 アレックスは艦尾をえぐりコア部をもぎとった。

 艦首の76ミリ砲を撃つ間村。

 対艦ミサイルを撃つ霧島と室戸。

 タンカーとコンテナ船の手前で爆発した。

 「こちら高浜。シールドは解除した。シールドは二分で再起動する」

 艦内無線が入ってくる。

 魚雷を発射する広瀬と青山。

 二隻目のタンカーに命中。火柱が上がる。

 「バックアップシステムが起動したわね。なら・・・沈底魚雷起動」

 佐久間は言った。

 沈底魚雷は攻撃で忙しくて攻撃できない時、前もってそこに通過するであろう場所に沈めて仕掛けて置く魚雷である。

 コンテナ船を身震いするように揺れ轟音とともに火柱が上がった。少し傾いたがその傾きを修正するかのように傾きが復元する。

 先端の高出力ビーム装置が輝きだす。

 「すごい復元力」

 驚きの声を上げる三神。

 バラスト水を注水して傾きを直して攻撃態勢にすぐに移る。艦内は無人でAIがすべて判断している。ある意味ターミネーターと一緒である。

 「シールドが復活して攻撃が効きません」

 広瀬と青山が報告する。

 「時雨、電源を切れ!!」

 艦内無線で声を荒げる間村。


 新宿にあるチョウ産業

 司令室で時雨と柳楽は内部データをハッキングする。

 下司はデータを分析しながら元を探る。

 「このままだと東京は壊滅ね。避難誘導は間に合わないわね」

 柴田はうーんとうなる。

 消防士の自分が言うのもなんだが一二〇〇万人の避難は無理だろう。

 「鎮遠見つけた」

 下司は空母「鎮遠」の座標を送信した。

 「電源を見つけた。プロトコル送信」

 時雨と柳楽は目配せしながら報告する。

 「電源を切れ!!」

 高浜と無線の向こうで間村の声がはもった。

 カウントダウンがやんで電源が落ちた。

 

 

 八丈島沖

 「シールドが消えて電源が落ちました」

 オルビスが報告する。

 「撃て!!」

 間村は叫んだ。

 対艦ミサイルを発射。正確にタンカーとコンテナ船に命中。続いて魚雷も命中した。火柱を上げ爆発して傾いた。

 飛翔音が響いて戦闘機の編隊が機首を並べて飛ぶのが見えた。大野、レベッカ、アンナ、リアム、ツアーロ、ライエン、マドレスだ。

 七機はミサイルを発射。少し離れた海域で火柱が見えた。

 随伴の駆逐艦は何隻かいたがUターンして逃げていくのが見える。

 「編隊長。駆逐艦は沈めますか?」

 ツアーロが聞いた。

 「公海に出たし、逃走中だし、写真もばっちり撮った。どこかの港によるにしても写真とデータはいっているから入港は拒否される。中国の港しか帰る所はないね」

 大野が答える。

 鎮遠は爆発を起こし、黒煙を上げながら傾き沈没した。

 「人員はいないね。AIだったんだ」

 周囲を飛ぶ大野達。乗員を探したが海に飛び込む乗員はいないようだ。

 「中央ザイードがいないね。かならずどっかにいる」

 マドレスが言った。

 


 新宿駅。

 「なんで電源が落ちた?」

 田宮は首をひねった。

 非常用電源があるから簡単には電源は落ちないし、バックアップもあるから復活も可能なのだ。

 その時である観光客とぶつかったのは。

 「気をつけてください」

 ムッとする観光客。

 「すいません」

 あやまる田宮。

 スマホを見ながら歩く大学生とぶつかった。

 「どこ見ているんですか」

 ムッとする大学生。

 「すいません」

 あやまる田宮。フラッとよろけ急激な眠気に襲われて目を剥いて倒れる。

 「入国管理局の足柄です・・・といっても聞こえてないか」

 足柄と鮎沢、海老名、吹田は警官と一緒に近づく。彼女が持っていたタブレット端末をのぞいた。

 「電源がいきなり落ちて困っていたみたいですね」

 鮎沢が指摘する。

 「それはそうですよね。チョウ産業の新宿ビルの電源と指令は強制解除した」

 海老名が言う。

 「パンサーアイチームが調合した睡眠薬は強力ですね」

 感心する足柄。彼は小瓶を出す。中には紫色の液体が入っている。さっきぶつかった観光客と大学生は自分達の変装である。ぶつかったついでに針で刺したのである。

 「彼らのおかげですね。私達は危うい橋を渡りながら生活している」

 吹田は言う。

 「TIME誌に世界に影響を与えた100人に特命チームメンバーとパンサーアイメンバーが入っていましたね」

 鮎沢はiPadを出す。

 写真にはスレイグ大統領だけでなく北朝鮮の金正平、三宅首相も写っている。それと一緒に葛城長官、パンサーアイや特命チームメンバーの集合写真があった。そこに書いてある文章も「彼らのおかげで人類は滅亡をまぬがれている」とあった。まさにその通りだろう。自分達はからくも危機をまぬがれている。



 「こちら。SSTの芥川。複数の熱源を発見。敵は光学迷彩を使用している可能性があります。海上をいく熱源は大型の揚陸艦の可能性が大です」

 間村達の通信に入ってきた。

 「たぶんそいつです。中央ザイードの部隊だと思います」

 あっと声を上げる山下と貝原。

 小笠原諸島の海自の父島分駐地にいる芥川達から座標が送信されてくる。

 送信された座標にテレポートしてくる特命チームメンバー達。

 「ここは小笠原諸島から二十キロ離れた海域ですね」

 周囲を見回す三神と朝倉。


 北緯20度25分~27度44分、東経136度4分~153度59分の広大な海域に

大小三〇余りの島々が散在する小笠原諸島。

映画やニュースで有名な硫黄島や沖ノ鳥島なども含まれ、日本の排他的経済水域のおよそ三分の一はこれら小笠原の島々によって確保されています。いずれも行政上は東京都に属する。しかし、父島ですら空港が無く、アクセスは東京・竹芝桟橋との間に概ね六日に一便運航している定期船のみ。まさに太平洋の大海原に浮かぶ離島群と言える。

 父島分駐地の主な任務は、小笠原村内で対応できない急患が発生した場合に、救難飛行艇や救難機により患者を内地の病院へ搬送する急患輸送支援、基地周辺に災害が発生した場合に災害救助及び復旧等に対応する災害派遣である。


 「何もないけど」

 「気配もない」

 三島と大浦が声をそろえる。

 「十時の方向を撃て!!」

 出し抜けに三神が叫ぶ。

 オルビスは十時の方向に機関砲を連射。青い光弾は正確に命中した。陽炎が揺らぐとぬうっと黒塗りのオスプレイが一〇機姿を現す。

 オスプレイからミサイルが発射される。

 二十ミリ機関砲を発射。ミサイルを撃墜。

艦砲射撃する間村達。

 火柱を上げ黒煙を上げて墜落するオスプレイ。爆発して水没した。

 「大きな熱源が二時の方向から遠ざかります。でも確実にまたやってきます」

 芥川が無線ごしに報告する。

 ミサイルを発射するオルビス。稲妻を帯びたミサイルはその方向に命中。黒煙とともに強襲艦が姿を現した。

 「どこの強襲艦?米軍や中国軍じゃない」

 広瀬と青山が声をそろえる。

 甲板から砲台が出てくる。

 「撃て!!」

 間村が声を荒げる。

 ミサイルと魚雷を発射する佐久間達。

 身震いするように揺れ轟音が響き黒煙と火柱が上がり傾きはじめた。

 「こちら海上自衛隊である。必要とあれば救助するが?」

 英語やフランス語でたずねる佐久間。

 「そんなものは必要ない」

 相手の艦艇から通信がくる。しかも英語で。

 「ここの海底は水深一〇〇〇メートルを超える海域で貴艦はもうすぐ沈むが?」

 英語で聞く間村。

 その通信は特命チームだけでなくパンサーアイや「ひゅうが」艦隊にも聞こえている。

 誘爆が続いているのか爆発音が相手の艦内から響いている。

 「海上保安庁である。救助を開始する」

 沢本が英語で聞いた。

 「・・・では死ねぇ戦って死ねぇ」

 声の主は言い捨てた。せつな、閃光とともに爆発。四散した。



 数時間後。

 中国の国内では昨夜のうちにウイグルのゲリラに石油と天然ガスのパイプラインがズタズタにやられたらしい。

 太平洋の小笠原と八丈島で日本が抵抗したらしい。

 いやニュースでは中央ザイード軍の部隊は全部沈められて中国の艦は全部沈められたらしいよ。

 情報が錯綜して重なった。政府発表がなく各都市は疑心暗鬼になりエネルギーの確保に動き出していた。

 「北京、上海、重慶とに市街地に武装警察が制圧しており平穏を保っています」

 周主席は公安部から報告を受けた。

 「太平洋は手薄のはずだったのではないのか!!」

 周主席は新聞をたたきつけた。

 ロイターや共同通信社、日本の主要新聞の第一面に


 ”特命チーム、パンサーアイ、自衛隊ともに見事な連携で中国軍の艦隊と中央ザイード軍部隊を沈める”

 ”田宮良子議員にスパイ容疑”

 ”女ウルヴァリン御用”

 ”新宿にあるチョウ産業に強制捜査。火災調査団と一緒に司令部を鎮圧”

 ”八丈島沖の高出力レーザー砲破壊”

 ”空母「鎮遠」艦隊壊滅”

 ”小笠原諸島沖に接近の中央ザイード軍部隊壊滅”

 

 とあった。

 その紙面も捕虜になった金流芯一味と遼寧、蘭州の姿が映り、逮捕された田宮議員やチョウ産業の従業員達は警察車両に乗せられる映像があった。全世界に報道されている。

 「主席。もうネットで流れています」

 李遜花首相がテレビを指さす。

 口をあんぐり開ける周主席。

 房総沖や八丈島沖、小笠原沖で残骸が散らばる海を映し出している。

 やっているのは国際ハッカー集団「アウンノウン」に違いない。どんなに切断してもなぜか復活するのだ。

 「大連の空母三隻が完成していつでも出航できます。それに第二砲兵軍は主席の命令を待っております」

 それを言ったのは紀英州である。第二砲兵軍は中央軍事委員会直属の組織である。

 「ミサイルなら周囲を圧倒できる」

 うなづく周主席。

 「空からの攻撃は可能です」

 紀英州は大連の造船所を指さしながら言う。

 「時計の針を予定より早く進めるだけです」

 李遜花首相がうなづく。

 「軍事委員会は至急作戦を立て準備せよ」

 周主席は言った。



 警視庁の魔物対策課

 「作戦は成功したね」

 アナベルは口を開く。

 TVはどのチャンネルも鎮遠艦隊の壊滅や中央ザイード軍の部隊壊滅や田宮議員の逮捕で持ちきりである。

 火災調査団メンバーとパンサーアイの地上部隊メンバーがいる。

 カルルとフラム、エリック、和泉は報告書を書いている。

 「アメリカは結局何もしないね」

 ミゲルが不満をぶつける。

 「そうだね」

 うなづく翔太。

 無線だって傍受しているし、衛星でも動きを見ているハズである。

 「中国軍は失敗したけどあきらめて帰るのでしょうか?」

 智仁は新聞から顔を上げる。

 「大連や上海の造船所には空母が建造されていてそれは完成しているというがそれは本当か?」

 高浜が聞いた。

 「リーが言うにはダナエの技術供与があって完成するらしい。試運転が近いから警戒が厳しくなっている」

 ホセが声を低める。

 「アベンジャーズのような空飛ぶ空母なんて現れたら苦戦は必死だね」

 ラグが危惧する。

 「高出力レーザー装置やレールガンやAI搭載の艦船なんてアフリカにはない技術だし対抗できるのだろうか」

 心配するぺデルとトゥプラナ

 「その時は戦うしかないわね」

 それを言ったのは柴田である。

 普段は火災の鎮圧やレスキューである。ここ最近は静かだったが昨日、チョウ産業内部を見た。中国人と一緒にカメレオンがいた。ミュータントに戻っているカメレオンを見たのは初めてではないし、何回も見ている。昨日のは本格的な司令部がいつの間にか造られていたのだ。だから自分達も特命チームについていくかもしれない。

 「中国軍にはミサイル部隊がいる。ミサイルを撃ち落す高性能な兵器は持っていない」

 トゥルグが心配する。

 「そこは戦闘機部隊と連携してなんとか撃ち落すしかないわね」

 カーヴァーはうなづく。

 「僕達は手がかりを探そう。御厨さんが言った天海僧正は当時としては長生きだったんですね」

 翔太は話題を切り替える。

 「天海(天文五年(一五三六年)? - 寛永二〇年一〇月二日(一六四三年十一月十三日))は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての天台宗の僧。南光坊天海、智楽院とも呼ばれる。大僧正。諡号は慈眼大師。徳川家康の側近として、江戸幕府初期の朝廷政策・宗教政策に深く関与した。

天海の生年ははっきりしていないが、百歳以上の長命であったことは確かであるとされる。小槻孝亮の日記『孝亮宿祢日次記』には、天海が寛永九年四月十七日(一六三二年六月四日)に日光東照宮薬師堂法華経万部供養の導師を行った記事があるが、天海はこの時九七歳であったという。これに従うと生年は天文五年(一五三六年)と推定され、没年は一〇七歳(数え年一〇八歳)となる」

智仁はタブレット端末を出した。

「すごいな。江戸時代に一〇七歳って」

感心するホセ達。

「宮内庁にある図書館へ行こう。天海僧正やその時代に特命チームが結成されたなら宮内庁や神社に資料は残っている」

智仁は言った。



 翌日の朝に防衛賞統合作戦司令部の発表があった。画面に現れたのは石崎大臣ではなく防衛省報道官だった。

 「海自の各艦隊ならびに空自の早期警戒機

AWACSと防空システムBADGE、陸自の対空戦闘指揮統制システムはすべてデータリンクされております。このシステム内の海自のSM-3と陸自PAC-3は敵弾道ミサイルを迎撃し、陸自の地対空誘導弾は敵巡航ミサイルに対抗します。空自はTフォースと連携し、空中配備レーダー兵器が含まれています」

 説明とともに画面にはそれらの陣容が次々と映し出された。その緊張感は、単発的であった北朝鮮の弾道ミサイル報道や二年半前の尖閣諸島の戦いの比ではない。日本人が戦後初めて知る恐怖であった。

 晴天に恵まれた普段の土日なら行楽地は賑わっているが、いずれも交通機関からは人出が少なく閑古鳥が鳴いていた。

 統合司令部の発表があった時、特命チームとパンサーアイメンバーは護衛艦「かが」の艦内だった。もうすぐ大きな動きがあるからここで待機になっている。

 「護衛艦「あかぎ」は就役しているのに姿がないな」

 室戸がふと思い出した。

 南シナ海の異変の後に「いずも」型三番艦が就役している。「ひゅうが」と「いせ」は房総沖で、「おおすみ」「くにさき」は四国沖で遊弋している。海保のSSTの芥川のチームは小笠原の父島分駐地である。

 「小型台風が発生しているわね」

 それを指摘したのはマリアンヌである。

 「気象庁からもその報告を受けている。北上した台風は上海がその圏内に入っている」

 佐久間は天気図を出した。

 大型台風なら北上を続けて日本列島に行くが今回の台風は勢力は弱く上陸しないと見ている。

 「中国軍にはミサイル部隊がいたよな」

 朝倉がふと思い出す。

 「第二砲兵部隊。二年半前の尖閣諸島の戦いで八重干潟にいるキジムナーを殺したのが紀英州だ。彼は中央軍事委員会に所属している。彼の直轄する部隊がそのミサイル部隊だ」

 アッシュは写真を出して説明する。

 のぞきこむ三神と朝倉。

 尖閣諸島の戦いではサブ・サンと一緒に紀英州が来て翔太君達と戦って精霊のキジムナーを殺して中国に帰った。しかしキジムナーから半分の命をもらった式部沙羅はもらった命を返してキジムナーが復活。地球は氷河期を迎える事なく先島諸島を占領していた中国軍を追い出した。

 「なるほど」

 ツアーロとマドレス、ライエンは紀英州の資料を見てうなづく。

 「中国軍は共産党の軍隊だ。国家の軍隊ではなくて党のための軍隊。兵力は世界第一位だけど遼寧と蘭州を見たらしょうもない連中の集まりだが波王艦隊の動きがない。波王とロックブーケは海南島基地か南シナ海の基地にいると見ている」

 ピョートルが身を乗り出す。

 「それに南海艦隊にはカメレオンが多く集まっている」

 鋭い声が聞こえて間村達は振り向いた。

 ミーティングルームに入ってくる中年の自衛官。

 「本田艦長」

 三神が少し驚く。

 彼とは二年半前の尖閣諸島の戦いで一緒になった。もともと護衛艦「いずも」の艦長だったがリンガムが「いずも」と融合して中国軍の九州上陸はなくなり彼は二番艦の「かが」の艦長になった。

 「パンサーアイの地上部隊メンバーがもうすぐ合流する」

 本田は資料を出した。

 「本田艦長。翔太君やアナベルさまは?」

 青山と広瀬が割り込む。

 「皇居にいる。彼らは安全だ」

 本田が答える。

 「中国軍に動きがあったのですか?」

 山下がわりこんだ。

 「防衛省情報処理センターがTフォース本部と北朝鮮とロシア政府から通報を受け取った。青島と大連、寧波に動きがあり、大連の造船所から三隻の空母が試験航行に移る。青島にはミサイル基地がある。上海の造船所の空母はまだ建造の途中だがそれの攻撃も含まれている」

 本田は中国沿岸の地図を出した。

 「三ヶ所も?」

 驚きの声を上げるコリントとマービン。

 「そんなにできるのだろうか?」

 ギルムがつぶやく。

 「だから月夜の花メンバーも呼ばれた。三人だけね。客船のメンバーの力が必要でしょ」

 ケインが口を開く。

 「大連にはバロックや中央ザイードの部隊がいるという情報がある。大連周辺海域は封鎖されるが民兵を乗せた漁船群は通行できる。君が捕虜にしたヴァーゴ、ゴールデン・エラ、フォーレンダムは通行許可書を持っていた」

 本田は通行許可証を見せた。

 「私達はヴァーゴの携帯から偽の信号を送信したの」

 イスラが笑みを浮かべる。

 「夕方や朝のニュースではスパイの逮捕とチョウ産業の家宅捜索とレーザー砲と中国軍艦隊と中央ザイード軍の部隊の壊滅で占められていてヴァーゴ達の事はいっさい出ていなかった」

 ケインがもったいぶるように言う。

 「そういばそうだな」

 香川と沢本は納得する。

 確かにネットニュースを見ても新聞を見てもヴァーゴの事は書かれていない。

 「結局、アメリカは何もしないね」

 カルメンとパブロが不満をぶつける。

 「情報だってとっくにつかんでいるのハズなのによこさない」

 べノワが不快な顔をする。

 「なんのための日米同盟かわからないですね。CIAやペンタゴンは衛星を持っている」

 広瀬がうなづく。

 「それは我々も思っている。日本政府にも情報をよこしていない。我々がやるのは目の前の脅威をなんとかしなければならない」

 本田は腕を組む。

 「大連に行くんだね。青島は?」

 それを言ったのはオルビスである。

 「大連で君らが暴れれば中国軍と中央ザイードの目は大連に行くと見ている。上海で騒ぎが起これば今度はそっちに行く。ミサイル基地攻撃はやりやすくなる」

 本田は地図を指さしながら説明する。

 「僕達は囮だね」

 オルビスがうなづく。

 「中央ザイードが中国軍と一緒にいるなら生存者の救出はなしですね」

 三神がたずねた。

 中国軍兵士は救助したが中央ザイード軍兵士は救助していない。

 「自衛艦隊司令部や防衛省からもその話はない。小笠原沖で自国の軍の強襲艦や部隊が海に沈んだのを知っているのに救援部隊をよこさない。そしてあの強襲艦には司令官も乗っていたハズだ。通信で返答したのも司令官だと思っている。救助の返答が「戦って死ね」「では死ね」という返答であの爆発は自爆したと見ている」

 本田はスクリーンに爆発して沈んだ強襲艦の映像を出した。

 「米軍のワスプ級強襲艦に似ている。それに鎮遠はAI搭載空母で襲ってきた駆逐艦もAIなうえにレールガンを装備していた。米軍が研究していたものを搭載していました。流出しているのではないでしょうか」

 間村が疑問をぶつける。

 「防衛省も政府もその見解だ。中央ザイード軍の最高司令官はダナエだろう。ダナエの弟のダーラムはリベルタ大統領として就任して隣国のサルインを襲った。ダナエの一族は破壊する事しか考えてないと見ている。死刑執行人だった事を考えると救援部隊を送るという考えも仲間を助けるという考えがないのかもしれない」

 本田は説明する。

 「それではカメレオンと同じですね」

 それを言ったのはオルビスである。

 「それに自国の兵士や船に自爆装置をつけるなんてありえません」

 沢本がわりこむ。

 「北朝鮮ですらやらない事をやっている」

 うなづく本田。

 「ダナエやダーラムに言わせると日本人はおとなしくて礼儀正しい。忍耐強いが平和ボケしているという認識らしい」

 鋭い声が聞こえて振り向く本田達。

 パンサーアイの地上部隊メンバーが入ってきた。

 「確かに日本人はスタジアムのゴミ拾いしたり礼儀正しい」

 ボンゴがうなづく。

 「日本製は中古であっても高性能で品質も高くてアフリカでも重宝されている。技術力はすばらしいです」

 ギルムとラグがうなづく。

 「なら俺達日本人がいかにしつこくてあきらめが悪いかをダナエ達に見せてやればいいんだよ」

 それを言ったのは香川である。

 「強襲艦をよこしたり、レールガンを造る技術があるなら今回も情報を得ているハズだ。船尾をけとばしてやろうぜ」

 間村がうなづく。

 「よし。やろう」

 ホセ達がうなづいた。

 「大連でデカイ花火を打ち上げてやるわ」

 ケインは言った。



 首相官邸での昼食会が終わり、未承認だが台湾の外相を含めた貴賓達を三宅首相は正面玄関口には見送っていた。他の閣僚達や他国の大使達と同じ待遇である。この意義は大きく、日本外交の意志と決意がそこに示されていた。台湾の外相や代表部やアジアの閣僚達は今日の便でそれぞれ帰国する。空港には次官が見送るが首相官邸の正面玄関は緊張に包まれている。

 アジアを激変させようとする動きがすでに東シナ海に放たれている。

 寧波と青島に動きがあるのは北朝鮮とロシアとTフォース本部からの情報である。

 サルイン大使やフランス大使は大使館に帰っていく。

 「アメリカは情報をつかんでいるのに情報をよこさないですね」

 小野官房長官が口を開く。

 「日本がその最前線になっていて自分の国に危機が及んでいないからね。ただダナエがいつまでも約束を守ると思っていない。かならず裏切るだろうね」

 三宅はうなづく。

 「中国は出てくる。ダナエだって黙ってはいないと思います」

 小野官房長官が声を低める。

 「中国各地で地崩れが起き、アジア有志連合が有効に働くかは次の一戦にあります」

 三宅はうなづいた。



 小型台風は北上しながら昼ごろに熱帯低気圧となって黄海を抜け、東シナ海北部を含む一帯は厚い雲に覆われ強風の模様。海上は高波に注意。

 気象庁から天気予報がラジオから聞こえた。

 那覇基地から飛び立ったAWACSと合流するTフォースのスラムジェット。

 「これより本隊は東シナ海空域に向かう。そこの海域にいる「あたご」「あかぎ」艦隊と合流する」

 機内で博は口を開く。

 機内にはTフォース隊員だけでなく普段は本部にいるブレインやリルム、ケフカが計測やレーダー調整の配置にいる。三人はオルビスと同じ種族で日露戦争でブレインとケフカはロシア帝国軍側でリルムは追われる側で高祖父の庵が乃木大将の第三軍に忍び込んで敵の大砲のフリをしていたリルムを拾った。そしてここにはいないビックガンは第一次世界大戦で青島攻略で巨大大砲になっていたのを高祖父は仲間にした。もともとは敵だったのが協力者となって敵と戦っている。

 「大連だけでなく青島に動きがあります」

 ブレインは目配せしながら報告する。

 「大連で三隻の空母が造船所から出航します。その海域で大規模な封鎖の理由は空を飛行する形態になると見られます。青島と寧波は北海艦隊と東海艦隊の基地があり地下サイロに動きがあります」

 リルムは計算しながら報告する。

 「青島方面にミサイル十二基。すべて東風21の模様」

 ケフカが報告する。

 現在位置は青島から六〇〇キロの上空である。GPS測定による位置関係が送信されてくる。

 機内にクルー達の数字が飛び交う。

 「ターゲット一二点。グリップ一点。ロックオン」

 「右ロックオン完了」

 「照射」

 「照射オン」

 ミサイルとは異なりビームには轟音も振動もない。各種コンピュータの音だけ。静寂が流れる。ディスプレイにグリップは消滅していない。二基は撃墜したがまだ一〇基残っている。

 「出力を上げろ」

 冷静に指示を出す博。

 ビーム装置はリルムやオルビス達が造ったものだ。計測や角度は正確である。

 「照射」

 ケフカとリルムが報告する。

 AWACSから次のターゲット座標が送信されてくる。

 五秒・・十秒・・・。ディスプレイから次々とミサイルがロストする。中国軍の青島基地では発射した東風21次々に消えていく事に首をひねっているにちがいないがミッドコースに入ったのは四基である。あきらかに日本の北九州の方向に飛んでいる。さらに二基を破壊した。

 ブレインは東シナ海洋上の「あたご」艦隊に送信した。

 「中国軍の殲10接近。六機ともいずれも普通の戦闘機です」

 リルムが報告する。

 「その戦闘機を撃て」

 冷静な博。

 戦闘機のミサイル攻撃にも耐えられるシールド装置も持っているし動かずに戦える武器もある。

 「ミサイル発射」

 ブレインは計測しながら報告する。

 普段は小型機をおんぶするように搭載しているがそこからミサイルが発射される。青色に光るミサイルは正確に接近してくる中国軍の戦闘機に命中した。



 その頃。大連

 大連市は、中華人民共和国遼寧省の南部に位置する。経済的重要性から省クラスの自主権をもつ副省級市にも指定されている。大連市総人口は約六〇〇万人超(市区人口は二一一万、都市的地域の人口は三二五万人)であり、遼寧省では省都の瀋陽市に次ぐ大都市である。大連は東北、華北、華東地域が世界各地と繋がる海上の門口であり、最も重要な港、貿易、工業、観光都市である。


 封鎖海域に接近する三隻の客船。

 船名は「スーパースターヴァーゴ」「ゴールデンエラ」「フォーレンダム」である。その海域には民兵を乗せた漁船が数百隻と海警船と中国軍駆逐艦、フリゲート艦が警備している。基地の埠頭には中国軍の司令官だけでなく幹部達が顔をそろえている。

 「周永平は忙しくていないみたい。出席しているのは紀英州と軍の司令官と側近」

 オルビスは立体映像を出した。

 「バロックとダナエの側近がいる」

 ギルムがあっと声を上げる。

 「ダナエの側近?」

 聞き返す間村と大野。

 「名前はビラト。ダナエの甥」

 香川が答える。

 「空母「山東」「丹山」「唐山」出航して停止した。タービンが回転。高エネルギーが出ています」

 リンガムが報告する。

 映像には三角形になる陣形で停船すると船体の四隅に装備されているタービンが回転する。赤い光を放ちながら強風が巻き起こる。

 「三隻の空母は上空九〇〇メートルでシールドが起動してレールガンも装備されている。行き先は日本です」

 艦内無線で山下と貝原の声が聞こえた。

 二人は「かが」にいる。

 大型海警船「3901」「3902」「3903」が接近。私達がヴァーゴとゴールデン・エラ、フォーレンダムでない事に匂いでわかったみたい」

 ケインが船内無線で報告する。

 「なら大暴れするまで。ビックガン。あの燃料タンクを撃ったらバロックと好きなだけ暴れろ」

 間村は指示を出した。

 「了解」

 別の貨物船にいたビックガンが返事をする。

 貨物船のカバーがはずれ、砲台が現れた。砲身から青色の光線が発射される。基地の外れにあった燃料タンクに命中。火柱とともに爆発した。

 中国軍の幹部達は驚きそして部下達に指示を出した。

 基地から戦闘機が大挙して飛び出す。殲15、殲20、殲31で、全部ミュータントである。

ケインは偽装装置を解除した。ヴァーゴ、ゴールデン・エラ、フォーレンダムの姿が消えて飛鳥Ⅱとセレブレティ・ミレニアムとクイーンエリザベス2号が現れた。

海警船とフリゲート艦、一万トンクラスの駆逐艦には光るからくさ模様がついていた。船体から砲身がいくつも出てきて放出する。

ケインは六対の鎖を出し、先端部をハンコのように変形。小さな魔方陣が出た。赤い光線は彼女の手前で弾かれあさっての方向へ飛んでいく。

対岸の岸壁からも戦車砲や榴弾砲、ミサイルが発射される。

イスラは対岸の岸壁に接近する。彼女の手前で砲弾はすべて弾かれる。彼女が変身しているQE2の船体全体が怪しい紫色に覆われ船橋の窓の二つの光も紫色に輝く。対岸にいた中国兵達はみるみるうちに石化した。

漁船の乗っていた民兵達がいっせいに機関銃を発射した。

李鵜と烏来とキムとぺク、李晩雨は機関砲を連射。漁船のエンジンが火を噴いた。撃たれもんどりうって海に落ちる民兵達。

 76ミリ砲、127ミリ砲で艦砲射撃する間村達。基地の砲台や建物、車両が吹き飛ぶ。

 ヒンディ語で詠唱するアッシュ。力ある言葉に応えて闇色の触手が光る模様のついた駆逐艦と海警船の船体をつかみ闇色のドリルで貫いていく。コアをえぐられ次々に爆発していく。

 ロシア語で詠唱するピョートル。力ある言葉に答えて稲妻があっちこっちに追った。基地の通信施設やアンテナから黒煙が上がり、フリゲート艦が爆発した。

 エネルギーをチャージした光る機関砲弾を発射するギルム。民兵が乗った漁船に穴が開いて沈んだ。

 三神が動いた。その動きはカメレオンやミュータント達には見えなかった。気がついたら数十隻の海警船の船体にえぐれ大きな傷口が開き、彼の鎖にはコアが串刺しになっている。海警船達は中国語でののしると爆発した。

 アレックスは船首砲を撃つ。その弾道は曲がり岸壁にいた戦闘車両に次々に命中した。火柱を上げて爆発する。

 オルビス、リンガム、フィン、エンリコは飛鳥Ⅱの屋上デッキから飛び立つ。背中から金属翼を広げ背部からブースターが飛び出して空母に接近する。

 「全方位からミサイル」

 佐久間が叫んだ。

 ミサイルを発射する間村達。

 機関砲を連射するピョートル達。

 ジグザグに航行しながら機関砲を連射して撃墜する三神達。

 中国軍の戦闘機のミュータント達を撃墜していく大野達。

 「他の基地からやってくるぞ。キリがない」

 レベッカとツアーロが叫ぶ。

 さっきから撃墜しているのに次から次へやってくる。

 「三神、朝倉。広瀬と青山と一緒にリドリーやリヨン、フランと一緒に空母に乗り込め」

 間村は指示を出す。

 「了解」

 七人はそう言うと岸壁に接岸して元のミュータントに戻る。

 「レビテト。シールド」

 リヨンはイタリア語で呪文を唱えた。力ある言葉に応えて七人はバリアに包まれ宙に浮くとスピードを上げて空母に近づいた。

 「すごい数だ」

 驚くフランとリドリー。

 戦闘機のミュータントだけでなくパイロットが乗る普通の戦闘機も数多く空母の周囲を飛び交っている。機種も殲11、殲15、殲

20、殲31だ。周辺の空軍基地からやってきているようだ。

 エンリコは片腕を砲身に変えて撃つ。青色の光弾は空母のエレベーターの扉を吹き飛ばした。「山東」の艦内に飛び込む五人。

 隣りの「丹東」にオルビス、リンガム、アレックス、李紫雨が。「唐山」にフィン、エンリコが乗り込むのが見えた。


 岸壁に上陸する十八輪装甲車。装甲車は元のミュータントに戻る。青い光とともにゴリラのような容姿に岩男のような顔。藍色のサイバネティックスーツに覆われている。

 バロックは指をポキポキ鳴らすと駆け出す。

 ビックガンも駆け出すとタックル。

 バロックともつれあい少し離れた官舎に激突した。

 バロックの右ストレート。

 壁に激突するビックガン。彼はそこにあったジープをつかんで殴った。

 バロックは標識をつかんで連続で殴り、腕をつかんで膝蹴り。

 すぐ後ろの建物に激突する。

 両目から赤い光線を放出するバロック。

 受身を取るビックガン。

 タックルするバロック。もつれ合いながら複数の部屋をぶち抜き、塀に激突。

 ビックガンはそこにあった軽トラで殴った。


 その頃。上海。

 世界有数の世界都市であり、同国の商業・金融・工業・交通などの中心地、香港・北京と並ぶ中国最大の都市の一つである。アメリカのシンクタンクが二〇一七年に発表した総合的な世界都市ランキングにおいて、世界九位と評価された。

二〇一二年六月時点の常住人口は二四〇〇万人を超え、市内総生産は約四五兆円であり、

両方も首都の北京市を凌ぎ中国最大である。中華人民共和国国務院により国家中心都市の一つに指定されている。


 上海浦新地区にあるビルの屋上にフワフワ降下するパンサーアイの地上部隊メンバー達。

 ホセは片腕を砲身に変えると発射。青色の光線はドアを吹き飛ばす。

 建物内に入っていくホセ達。

 廊下にいた中国兵は銃を抜いた。

 ホセやカーヴァー達は飛び出してきた中国兵を正確に撃っていく。

 爆弾を投げるぺデルやトゥプラナ。

 そこにいた中国兵が吹き飛ぶ。

 ホセ達は下の階のフロアに飛び込む。そこはNASAの司令室を思わせる場所だった。

 「ここは何の司令室?」

 ゾルとアパムが聞いた。

 「ここはサイバー部隊6139部隊だ」

 ホセが答えた。

 「じゃあ暴れますか?」

 ニヤニヤ笑うトゥルグ。

 「そのつもりで来たのよ」

 カーヴァーは身構えた。

 司令室にいたオペレーター達が振り向く。どの兵士も首筋にタトゥがある。いっせいに飛びかかった。

 ボンゴは体を金属に変えると持っていた槍でつかみかかってきた兵士の胸を刺し、噛みついてきた兵士を蹴り飛ばし、ジャンプして飛びかかる兵士を槍でなぎ払った。

 ぺデルは片腕の機関砲を連射。命中すると兵士達が芯まで凍った。

 片腕の砲身を撃つホセ。青色の光線が次々に兵士達を貫いた。

 小さな竜巻がトゥプラナの砲身から飛び出す。兵士が撃った光線がその竜巻に当たって曲がりトゥグルとジャウラーは正確に兵士達の頭部を撃った。

 ゾルはUSBを出すと接続口に差し込んだ。

 中身はコンピュータウイルスである。

 「お届け物は完了」

 ゾルはニヤリと笑った。

 


 その頃。黄海上空

 「東風21が二〇基。第二波攻撃です」

 ブレインは報告する。

 第一波目の取りこぼした東風21の三基は「「あたご」艦隊が撃墜した。

 しかし中国軍も一回目の攻撃で学んだのかチャフをばら撒きながら飛んできた。無数のアルミ箔で電波を反射しやすい。中国軍も米軍だけでなく日本軍のMDの突破を研究しているのである。

 「照射」

 冷静に指示する博。

 「ターゲット二十点。グリップ左一点。ロックオン」

 リルムが報告する。

 三秒、四秒・・・ディスプレイにある点が消えていく。

 そのうちの六基がミッドコース段階に入ってすり抜けていく。

 「あたご」艦隊のミサイルもすり抜けて築城基地近くに着弾した。核弾頭ではなく通常弾頭なのはわかっている。いずれも田んぼや林に落ちて人的被害はでなかったが中国のミサイルが日本のMDを突破した事実が残った。

 衝撃が全国に走ったがパニックが起こらなかった。理由は第一波で成功して第二波も攻撃して撃破した実績を上げたからだ。

 それだけではない。統合作戦司令部は発表した。

 ミサイルが着弾を確認するなり黄海上にいた「あかぎ」から一〇機のF-35Jが飛び立った。青島まで三〇〇キロである。

 F-35は高度なステルス性を備えている。高高度を飛んで目標近くで急降下して攻撃するなり再び高高度を上昇してすぐに離れる。奇襲で一番リスクの少ないやり方である。

 すでに本土が被弾している。敵基地を攻撃するのは専守防衛の範囲内である。

 青島周辺は雨であった。

 一〇機のF-35は雨の中をいっせいに急降下してレーダー誘導爆弾を基地に投下して同時に対艦ミサイルで空母「鄭和Ⅱ」に命中させた。基地と空母から次々に黒煙と火柱が上がり飛び去った。



 上海港にある造船所に接近する漁船。岸壁に上陸するイレーヌ、イザベラ、コリント、パブロ、カルメンとマリアンヌ。

 造船所の門には光る模様がある戦車と戦闘車両が五〇台いた。監視所にいた兵士の首筋にもタトゥがある。

 「ただの造船所ではないのね。孵化場」

 イレーヌが口を開いた。

 リベルタでもそうだが警戒が厳重なのはそこが孵化場だからだ。

 「では片付けますか」

 マリアンヌは声を低める。

 コリント達はうなづいた。

 「フレア」

 マリアンヌとカルメンはフランス語で呪文を唱えた。力ある言葉に応えて虚空から赤色の大きな球体が出現。それがボーリングの球のように転がり門のそばにいた戦闘車両に命中。閃光とともに爆風と爆発を起こして吹き飛んだ。

 スペイン語で詠唱していた呪文を唱えるパブロ。力ある言葉に応えて鎌居たちが何十個も飛び出し接近してきた戦車達を真っ二つに切り裂いた。

 造船所に近づくマリアンヌ達。

 建物から出てくる中国兵。どの兵士にも首筋にタトゥがある。片腕の砲身から赤い光線を発射。

 イレーヌとイザベラは掌底を向けた。

 赤い光線は彼女達の手前で弾かれ、代わりにその辺に散らばっていた破片が槍に変形して中国兵達の頭部を貫いた。

 彼女達は建物に入った。そこには建造中の空母はなく銀色のメタリックに輝くカメレオンの卵がビッシリ並んでいた。

 「室内は酸素もなくて真空ですね。ここだけテラフォーミングされているようです」

 コリントは分析する。

 「なら破壊しよう」

 爆弾をバックから取り出すパブロ。

 マリアンヌ達は紅瓢箪を出した。これは魔術アイテムでどんな物でも吸い込んでしまう不思議な力があった。紅瓢箪の蓋を開けると大型コンテナが飛び出した。ドアを開けると爆弾が入っていた。彼女達は造船所内に爆弾をしかけて出て行く。

 閃光とともに火柱と爆発が何度も起こり黒煙が上がった。


 その頃。大連上空

 三神が動いた。その動きは中国兵達には見えなかった。気がつくと格納庫にいた中国兵達は傷だらけになり倒れていた。

 リヨン、リドリー、フラン、青山、広瀬は片腕を機関砲に変えて作業バルコニーにいた中国兵を撃っていく。撃たれ下の格納庫に落ちていく。

 「俺達はCICに行くのか?」

 朝倉は片腕の機関砲で中国兵を撃ちながら聞いた。

 「そこに行かないと空母を止められないからね」

 青山が答える。

 走りながら中国兵達を撃っていく三神達。

 彼らはいくつかの部屋と廊下を駆け抜け中枢部であるCICに飛び込んだ。

 司令部要員達が振り向く。半分の中国兵には首筋にタトゥがあり、もう半分は黒人兵士達だが片目が機械めいて赤い。

 中国人司令官が叫んだ。

 三神はとっさに二人の黒人兵士の斧や剣をかわす。彼は黒人兵士のパンチやキックをかわして片腕の剣で胸をえぐった。

 ヒンディ語で詠唱するフラン。持っている剣で中国兵達を袈裟懸けに斬っていく。斬られ芯まで凍る中国兵達。

 リドリーは甘い息を吐いた。バラの香りに駆けつけてきた中国兵は立ち止まり目を剥いて倒れた。

 黒人兵士の鉈を剣でなぎ払うリヨン。

 中国人オペレーター達は銃を抜いた。その間隙を縫うように駆け抜ける青山と広瀬。

 広瀬は球をこめるようなしぐさをするとそれを投げた。何人かの中国兵が衝撃波の球に弾かれた。

 青山はオペレーター席に座るとUSBを差し込んだ。このUSBは山下が作ったコンピュータウイルスである。

 司令官は中国語で指示を出してキーボードを操作する。船底から砲台が出てきた。

 「やばい。射程が長い」

 広瀬が叫ぶ。

 振り向く三神と朝倉

 船底から出てきたのはレールガンである。ターゲットが黄海にいる「かが」や「あかぎ」艦隊である。

 しかし表示板の中国語が文字化けした。

 司令官と艦長は互いに顔を見合わせる。

 青山と広瀬はオペレーター席のキーボードを操作した。

 正面のスクリーンにある日本地図が消えて大連上空の地図に変わりそこにいる空母三隻が映し出される。

 「自爆モード起動」

 中国語のアナウンスが流れ、中国兵達が司令官と一緒に逃げ出した。

 ドドーン!ドゴーン!

 どこか遠くで爆発音が響いた。

 「逃げるよ」

 リヨンがイタリア語で呼んだ。

 飛びかかってきた黒人兵士達を撃ちながら三神達はリヨンに近づいた。

 「テレポート」

 リヨンが呪文を唱えた。力ある言葉に応えて姿が消えた。次の瞬間、飛鳥Ⅱの屋上デッキに姿を現した。

 上空では三隻の空母から火柱と黒煙が上がり高度が下がっていくのが見えた。

 岸壁でとっくみ合いをしていたビックガンとバロックは上空を見上げた。

 バロックは舌打ちするとどこかへテレポートしていく。

 ビックガンは接近してきたアッシュが変身する空母「ヴィラート」の甲板に飛び乗る。

 逃げ出す中国軍の駆逐艦とフリゲート艦

 「危機は脱したな」

 三神は口を開く。

 「目の前にある危機はなくなったけどミサイルがあるし、東シナ海にうろついているカメレオンがいる。中国政府がまともに考えられればいいけどね」

 広瀬が答えた。



 「あかぎ」から飛び立ったF-35J一〇機全機生還。青島のミサイル基地は携行式、移動式ミサイル以外、数日間は使用不能。空母「鄭和Ⅱ」轟沈。しかし地下サイロまでは破壊できない。

 大連の特命チーム全員生還。大連にある基地は使用不能。空を飛ぶ機能を持つ空母三隻はシールドモードに移る前に轟沈。

 上海浦新地区にあるサイバー部隊基地のパンサーアイの地上部隊メンバー全員生還。

 上海港の造船所のパンサーアイ海上部隊チーム全員生還。造船所に建造中の空母はなくカメレオンの孵化場だった。孵化場は爆破。

 統合作戦司令部の発表と同時に、日本政府は中国政府に呼びかける声明を発表した。

 「東シナ海中間線付近に停泊しているカメレオンと中国軍の駆逐艦六隻は今夜中に引き上げ、同水域での孵化場とガス田の採掘を停止する事を要求する」

 「尖閣諸島、先島諸島への侵略は認めない。侵略行為があった場合、その国がいかなる軍事的行為もわが国に対する攻撃の意図のもとに行われているとみなし、必要な総合防衛措置をとる」

 「中国政府からの応諾の返答があり次第、わが方も尖閣諸島水域まで退く。その上で話し合いを開始することを望む」

 ニュースは全世界を走った。

 三神達が沖縄の那覇基地に戻ったのは夜のとばりがおりた頃だった。


 中国の北京

 「許さん!!」

 中南海で新聞をたたきつける周永平主席。

 日本は抵抗したうえに青島と上海と大連の基地を破壊した。

 青島の基地は一週間使用不能。鄭和Ⅱは轟沈で港の機能に支障が生ず。

 大連の北海艦隊基地は使用不能。三隻の空母は落下して轟沈。船舶と艦船が多数沈没。湾内使用不能。復旧のメドが立たず。

 上海のサイバー部隊基地は使用不能。コンピュータウイルスを取り除くのに時間がかかる模様。

 上海の孵化場は壊滅。港の機能に支障が生ずる。

 対日恫喝するのに必要だった空飛ぶ空母三隻と鄭和Ⅱが沈められたのだ。でもガス田を手放すなんて考えられない。

 「主席。ミサイルを発射すべきです。まだ他のミサイル基地は無事です」

 それを言ったのは紀英州である。

 「ミサイルは全部撃墜された。それもTフォースに」

 噛み付くように言う周主席。

 「ピラトはどうした?」

 ふと思い出す周主席。

 「ピラトとバロックは逃げました」

 李遜花首相が答える。

 「サブ・サンはどうした?」

 周主席が聞いた。

 「手持ちのタイムラインを使い尽くしたので元の世界に帰るしかないですね」

 程府公安部長はさじを投げた医者のように言う。

 「時空侵略者も役に立たないではないか」

 周主席はため息をついた。


 日本時間の午前三時にホワイトハウスから首脳テレビ会談の申し出があったが緊急時のため日本政府に断られた。

 「東シナ海のカメレオンと中国軍の駆逐艦はどうするかそれは周主席次第ですね」

 三宅首相は地図を見ながら口を開く。

 「あわてるのはホワイトハウスだと思いますね」

 石崎防衛大臣が言った。

 午前五時である。東の空はまだ暗いが始発電車はすでに動き出している。

 東シナ海には「あたご」艦隊と「あかぎ」艦隊は統合作戦司令部の指示で遊弋している。台湾に近い海域である。

 ガス田付近にいる六隻の駆逐艦はそこから動いていない。カメレオンとミュータントなのは知っている。

 そこへP-3kとF-2編隊が接近した。コクピットには二つの光が灯る。

 「十分後に撃沈する。ただちに退避せよ」

 国際緊急周波数で送信していた。

 すぐに応答があった。カメレオンの駆逐艦から砲身が現れ光線を放射。

 P-3kとF-2編隊はそれをかわし、駆逐艦のミュータントが発射したミサイルをかわした。せつな、駆逐艦は身震いするような衝撃を受け黒煙が上がった。魚雷と対艦ミサイルが命中したのだ。

 潜望鏡を上げて横切る海自の潜水艦。

 逃げ出す六隻の駆逐艦。

 首相官邸からのニュースは世界に走った。

 テレビ首脳会議を断れてから二時間後の出来事である。ホワイトハウスの衝撃は大きかった。

 二年半前の尖閣諸島の海戦とは違い、青島に対するMD攻撃、大連基地攻撃、上海のサイバー部隊と孵化場の攻撃よりも政治的意義は大きい。文字通り一線を越えた姿勢を世界に示したのだ。


 ホワイトハウス

 衛星写真で逃げていく六隻の駆逐艦を不満そうな顔で見るスレイグ大統領。

 執務室に入ってくるブレガー国防長官とドーソン国務長官。

 「アメリカとの集団的自衛権がどうの憲法がどうのといっていた国がえらい変わりようですね」

 ドーソン国務長官は腕を組んだ。

 彼は強硬派で知られリビア方式を提唱してそれが成功した実績を持っている。

 「おかげでアメリカの出る幕がなくなったじゃないか」

 不満をぶつけるスレイグ。

 二年半前は特命チームと一緒に自衛隊は中国軍とカメレオンを追い出した。今度は青島基地、大連基地と上海の孵化場の攻撃をパンサーアイと特命チームと自衛隊はやった。成長といえば成長といえるのである。

 「日本は本気である事を世界に示す必要があったと思われますね」

 冷静に分析するブレガー

 米軍司令官としてではなくて若い頃、Tフォースからオファーが来て勝元長官や茂元長官と会った事があり魔物とも戦った。

 「手出しができないじゃないか」

 スレイグは新聞を見ながら不満をぶつける。

 いきなり笑い出すブレガー。

 「え?」

 「日本もなかなかやるじゃないか」

 ブレガーは笑いながら言う。

 スレイグとドーソンは首をかしげた。



 その頃。中南海にある貴賓室

 部屋にはサブ・サンと同じような種族の男女が集まっていた。

 「サブ・サンよ。タイムラインがなくなった。この世界にはいる事が難しい」

 赤いスーツを着た女性が口を開く。

 「日露戦争の失敗から学んだのに失敗してしまった。何がいけなかったんだろう?」

 青いスーツの男性が首をかしげる。

 腕を組むサブ・サン。

 作戦は完璧で準備も事前にしてきた。特命チームだけでなくパンサーアイまで参戦してきたのは痛かった。

 部屋に入ってくる黒人男性。

 「ピラト。我々は帰るが代わりの侵略者がすでにダナエの元に行っているだろう」

 サブ・サンは声をかける。

 「あなた方がいた世界から侵入者と呼ばれる者がいますね。彼ならダナエ閣下といる」

 ピラトは笑みを浮かべる。

 「我々は三五〇年後に戻ってかならず地球をもらうぞ」

 緑のスーツを着た女性が口を開く。

 「ご自由にどうぞ。今は私達が存分に暴れてみせますぞ」

 ピラトはニヤニヤ笑う。

 「では失礼する」

 サブ・サンはそう言うと彼らと一緒に時空の揺らぎの中へ消えていった。



 翌日。午前中。

 小野官房長官がこの時間を見計らって首相官邸の記者会見室で実況中継する形でこれまでの戦況を発表した。

 国民に戦慄が走ると同時に映像は世界に流れた。東シナ海の状況に呼応するようにインド政府がグワダル港とアンダマン諸島付近の海上封鎖を発表した。

 中国政府内部にいたサブ・サンとその仲間は自分の世界に帰った事を伝えた。

 月曜日でどこの企業のオフィスでも勤務時間中とはいえパソコンでついネットをのぞく社員が目立ち、注意する上司もついつられて

「東シナ海のニュース」はないか検索していた。

 日本政府も気になっていた。

 インド海軍による海上封鎖は順調にいっているようだ。

 しかし北のスパイの情報だとダナエの元に新たな時空侵略者「侵入者」と呼ばれるエイリアンが入ったという情報がある。カメレオンやバロックもまだ追い出せていない。

 周主席は中南海にいるが各都市で暴動やデモが発生していてラサでも暴動が起きている。

 空飛ぶ空母の脅威はなくなり鄭和Ⅱや鎮遠も艦隊も壊滅している。

 国連軍討伐隊を結成したい。時空の揺らぎや時間の穴をどうやってふさぐかについて話し合いたい

 ベトナム政府やインドネシアなどASEAN諸国から申し出があったのだ。世界の目は日本国民もそうだが東京の首相官邸に集中していた。

 その雰囲気を察した日本政府は首相が直接記者団に答える事を応じた。

 午後七時である。通常の記者団室ではなく官邸内の大広間が会場になり海外メディアや国内メディアが殺到した。

 「サブ・サンが元の世界に帰りました。でも時空の揺らぎや穴はあり時空侵略者はまだ完全に追い出せていません」

 「アメリカは不介入ですね」

 「南シナ海には空母「波王」艦隊や客船のカメレオンが出現しています。海南島や南シナ海には基地があり、カメレオンや時空侵略者の総司令部もあると思います」

 その次に多かった質問が

 「日本、インド、台湾、インドネシアや南シナ海に領有権を主張する国々から討伐隊の申し出があったそうですね。そこの国々だけでなくオランダやフランス、イタリアといった欧米諸国からとアフリカ、南米諸国からもです、一糸の乱れもない。日本が中心になり相当前から画策、いや、準備をしていたのではないのですか?中国政府は沈黙したままおとなしいですが」

 三宅首相は丸い目を大きく開けた。

 「画策はしておりませんよ」

 首相の答えに記者達がざわついた。

 「日本を含め、この戦いに関係した国々はすべて独自の行動をしたまでです。それにまだ戦いは終わっていないです。時空の揺らぎや時間の穴の問題もあります。これから本当の戦いがあると見ています。しいていえば有志連合が自然発生的に出来上がったと申せましょうが。アジアだけの問題ではないという事がいえます。それを目に見える形にしたのは中国政府とサブ・サンなのです」

 三宅首相は答えた。

 会場は終始ざわついていた。

 

 

 それから二時間後。

 米第七艦隊所属で横須賀を母港とする空母

「ロナルド・レーガン」を中心とする空母打撃群が「中国軍、カメレオン、中央ザイード軍の牽制のため、黄海に向けて出航しました」

 という解説と一緒にTVで映像が流れた。

 だが大半の国民の目には、

 「何を今さら」

 「またアメリカはほとぼりが冷めてからやってくるんだ」

 「前回も不介入で今回も不介入」

 冷ややかだった。

 目に見える場所に米軍の姿もなくアメリカのアの字も前回についで今回もなかった。

 官邸対策室は解散してなくなったが統合作戦司令部は継続している。

 中国には青島の他にミサイル基地はたくさんあるし、原潜やICBMも多数保有しているし中央ザイードの艦船が南シナ海やインド洋に出没してカメレオンの情報収集船が出没しているからである。

 「むしろこれからのほうが危険かもしれません」

 NSC会議で三宅は口を開いた。

 石崎防衛大臣も小野官房長官もうなづく。

 「ロナルド・レーガンを黄海に浮かべるのは効果的ではないか」

 NSCでは評価されていても国民のアメリカを見る目は冷たかった。

 「三回目もまた不介入かもね」

 こう揶揄するのもしかたなかった。

 「また日米首脳会談をやるとするなら議題は今後の日米同盟のあり方や日米地位協定、基地の問題を含めてになりますね」

 三宅が口を開く。

 アメリカが一番嫌な議題である。イタリアやドイツは地位協定があったが何度か話し合いして撤廃させた。日本もできるだろう。それに中央ザイードの艦船や兵士の情報をこっちは持っている。スレイグだけでなくジョコンダが一番知りたい情報を持っている。興味があるだろうしまたあの四人をよこすだろうし、大使か太平洋艦隊司令部から司令官をよこすかもしれないがそれは取引の材料になる。

 部屋に入ってくる秘書官。何枚かのメモを渡した。

 「ウワサをすればなんとやら。この二日後にスレイグ大統領が来日するそうです」

 三宅は口を開く。

 閣僚達がどよめく。

 「何も起きなければいいですね」

 小野官房長官が言った。



 翌日。横須賀基地

 「出せぇ!!」

 「ここから出せ」

 模型達が倉庫で叫んでいた。

 特命チームとパンサーアイメンバーが倉庫に入ってきた。

 「すごいリアルな模型」

 わざと言うアナベルとミゲル

 「これはどうするの?」

 「売るの?」

 智仁と翔太が聞いた。

 「ブローカーに売っても二束三文にしかならないから釈放なんだ」

 間村はゲージの蓋を開けた。

 室戸と霧島はゲージを振って遼寧、蘭州と金流芯五人組と客船三隻を出した。

 「ディスペル」

 佐久間は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて遼寧達は黄金色の光に包まれ元のミュータントに戻った。

 「はい。新聞」

 一週間分の新聞を渡す沢本。

 ロイター通信やニューヨークタイムズ、共同通信社といった有名新聞が並ぶ。

 しぶしぶ読み始める遼寧達。

 「・・・バカな。青島基地と大連基地と上海のサイバー部隊と造船所がやられた」

 蘭州が頭を抱える。

 「三隻の空飛ぶ空母もやられて鎮遠がやられて中央ザイード軍の部隊もやられたんだ」

 「数千人の死者が出た模様」

 絶句する金流芯達。

 「サブ・サンは自分の世界に帰ったぞ」

 ギルムが声を低める。

 別の記事を見るヴァーゴ達。

 別の記事ではアフリカで現地住民に中国人技術者が追い出される記事が並ぶ。それはメコン川流域でも同じ記事があり世界の中国を見る目が冷たくなっている。それにまたアメリカは不介入だった。

 「中国に帰れば」

 マリアンヌがしれっと言う。

 「おまえ達は政府からブラックリストに載る事になり入国も拒否される」

 しゃらっと言う間村。

 「インターポールからも目をつけられているから中国しか帰る所がないね」

 あっさり言うピョートル。

 「俺達を殺さないのか?」

 ゴールデン・エラだったミュータントが聞いた。

 「政府の情けで釈放される。またやってきたら今度はコアを引っこ抜く」

 三神は強い口調で言う。

 「覚えてろよ。南シナ海や海南島基地や南海艦隊はある」

 遼寧はドスの利いた声で言う。

 「ダナエだっているしサブ・サンは帰っても時空侵入者はいるさ」

 クスクス笑う蘭州。

 「その時は我々も一緒に追い出す」

 黙っていたイレーヌが言う。

 「出入口はあっちだ」

 間村は門を指さした。

 「まだ中国は降伏してはいないさ。覚えてろよ」

 遼寧は捨てセリフを吐いてヴァーゴ達と一緒に去っていった。


「まだ問題は解決したとはいえないね。鎮遠と一緒にいたAI駆逐艦の中身は金属とゴムの塊だった」

 話題を切り替えるアッシュ。

 最初の出撃で小笠原沖にいた空母「鎮遠」とAI搭載駆逐艦の中味は直径五メートルの金属球が艦橋内部にあり機関部にコアがあった。それも紫外線を当てると光る模様が浮き出る。

 「米軍は日本だけでなく太平洋全域をカバーしているのに穴があるっておかしすぎませんか?仲間がいて手引きしたとしか思えません。わざと入れたのかも」

 疑問をぶつける広瀬。

 「それは俺もずっと疑問に思っていた。日本政府にも通報しないのはおかしい。代わりに通報したのはロシア政府と北朝鮮、台湾、ベトナムだ」

 三神がうなづく。

 米軍はCIAだけでなく高性能な衛星も持っているし空母も十隻保有していて全世界の海をカバーしている。そこだけ穴があるわけがないのだ。見て見ぬフリをしたのかもしれない。

 「私もアイリスに聞きたい事がある」

 黙っていたケインが口を開く。

 「俺もサラトガに聞きたい。米軍の研究していた物が流出している。あの強襲艦を見たらあきらかにワスプ級強襲艦をパクッて建造している。レールガンもだ」

 間村がうなづく。

 「みんなでおしかけるのも追い出されるだけだから俺と佐久間、ピョートル、アッシュ、ケイン、香川、沢本、マリアンヌで行く」

 間村は言った。


 十分後。在日米軍横須賀基地。

 「誰だね。部外者を入れたのは」

 不快な顔をするマーク在日米軍司令官。

 「また来たんだ」

 レイスとレジーが声をそろえる。

 「検問所の兵士は簡単に入れてくれたわ」

 しゃらっと言う佐久間。

 腕を組むクリスとアイリス。

 「マーク司令官。あなた方のレーダー網は太平洋でも穴だらけですね」

 マリアンヌははっきり指摘する。

 「防衛出動の前にロナルド・レーガンはお供を連れてさっさと横須賀を出て北上した」

 間村は地図を出した。

 「何が言いたいのかね?」

 マークは声を低めた。

 「中国軍を領海に入れたな!!」

 沢本は声を荒げた。

 「我々は入れていない!」

 目を吊り上げるマーク。

 「おかしなことだらけじゃないか。なぜおたくが研究していたものがダナエに渡っているんだ?」

 ロシア語で写真を見せるピョートル。

 「そんなの知らない」

 クリスとアイリスが首を振る。

 「太平洋艦隊司令部の司令官をよこせよ」

 ヒンディ語で言うアッシュ。

 「ここにバカ戦車がいるだろう?メルカバ戦車とエイブラムスM-1戦車とニコラスとカプリカはずっと東京駅や日光東照宮でも尾行して皇居でも入ろうとして追い出された。残念だな。単独の交通事故でそれもその前にイノシシの群れとニホンザル、カラスの群れに襲われて」

 わざと言う間村。

 「東京駅はさんざん迷っていたみたいだし皇居では周りをウロついて不審者ね」

 ケインがわざと言う。

 「本当に口の減らない女」

 声を荒げるアイリス。

 「中国軍や中央ザイードと戦ったなら戦利品を持ってきているんだろう」

 クリスが鋭い口調で聞いた。

 「アメリカは不介入なんだろ。なんで教えないといけない」

 ピョートルが答える。

 「ジョコンダはどこの政府も入国禁止にしている。残念だな」

 アッシュがタミル語で言う。

 「わざと敵を入れただろ?ゴールデン・エラとフォーレンダムは俺達が捕まえて強制送還にした。それをジョコンダは不起訴にして自由にした。手引きした」

 香川は写真を見せる。写真には模型にして倉庫に放り込んだ遼寧達が映っている。

 「フランス政府にアメリカ政府は信用できないしわざと敵を入れると報告するわ」

 マリアンヌが強い口調で言う。

 「ダナエとどんな取引したかわからないがダナエもカメレオン同様に裏切る」

 ピョートルが言う。

 歯切りするマーク達。

 「アイリス」

 ケインはアイリスに近づくと思いっきりビンタした。

 「何をするのよ!!」

 声を荒げるアイリス。

 「あんたはハンター失格なうえに時空侵略者を入れた。ハンターや魔術師の誓いは忘れたみたいね。こいつらといるのをやめたら?」

 ケインは腰に手を当てる。

 「よく言った」

 間村がわりこむ。

 「米軍をやめてフランス軍に来ない?すくなくともこんなバカな連中の片棒は担がなくてすむわ」

 しれっと言うマリアンヌ。

 「よけいなお世話よ」

 アイリスはムッとする。

 「マーク司令官。このイージス艦は退役軍人か?」

 間村は写真を見せた。

 「退役した軍人はどうしているか知らない」

 首を振るマーク。

 「日米同盟はもう一度考えた方がいいよな。敵をわざと入れるなら」

 沢本が声を低める。

 「それは恫喝かね」

 マークは声を低める。

 「恫喝なんかしてないわ。本当じゃない。前回も不介入で今回も不介入。信用できないと日本政府に報告するわ」

 佐久間は腕を組む。

 「特命チームに幹部候補生を二人入れたね。弱いメンバーから攻めやすいね」

 クリスがわざと言う。

 「同盟国じゃなかったらコアをえぐるからね」

 マリアンヌはフランス語で答える。

 「大統領に君らは信用できないと報告してやる」

 マークは言い捨てると奥の部屋へ入っていった。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る