第3話 中国の再進撃

 翌日。海上自衛隊横須賀基地

 ロビーに女性二人入ってきた。

 「福竜丸。何か用?」

 佐久間が声をかけた。

 「マチュアとカチュアという探偵が依頼書を博物館に置いていったんです」

 付き添いの女性スタッフが依頼書を見せる。

 間村、室戸、霧島がのぞきこむ。

 「キリ島は米軍が管理している。そこの住民は強制的に別の島から移住させられている」

 間村が指摘する。

 「米軍から許可が取れるってよっぽどの政府高官かアメリカ政府にコネがあるセレブなのかもしれない」

 佐久間が怪しむ。

 「僕は捨てられる前にキリ島にいた島民のリーダーに会って時空遺物の手がかりを渡した記憶がある。その遺物は時空遺物を操れる能力者じゃないと反応しない」

 思い出しながら言う福竜丸。

 「翔太君とミゲル、アナベルと智仁様を連れて行くしかないな。米軍が管理している場所に行くからパンサーアイにも相談してみようか?」

 間村が困った顔をする。

 「そのままあの四人に頼んで連れて行ってもらうというのはダメなの?」

 福竜丸が聞いた。

 「無理だな。かならずあのジョコンダがいるし、かならず見返りをよこせとか、協力するといいながら利用するだけ利用して捨てるだけだ」

 室戸が首を振る。

 「スレイグはTPPを離脱したけどやっぱり条件さえよければ入りたいと言っている。言っている事に一貫性がないし信用しろというのが無理かな」

 霧島がうなづく。

 「そうね。今は人員が多い方がいいわ」

 佐久間がうなづいた。


 三十分後。基地の会議室

 特命チームメンバーとパンサーアイメンバーが顔をそろえた。

 「キリ島への依頼書をあのバカ姉妹が押し付けていったのね」

 ケインが口を開いた。

 「アイリスやサラトガが喜ぶわね」

 わざと言うイスラ。

 「マーシャル諸島のキリ島は米軍の管理下にある。当然、あの戦車もいるしエイラートというイスラエル海軍のミュータントもいる」

 間村がマーシャル諸島の地図を出した。

 「姿を隠せる能力を使える能力者はいる。カルメンというフランス軍の駆逐艦のミュータントが使える」

 海江田がふと思い出す。

 「太平洋を航行する客船のミュータントがいればマーシャル諸島まで行ける。でも時間がかかるわ」

 カルルがうーんとうなる。

 「いずれにしても米軍に見つかるわね。いるのは米軍だけじゃなくアメリカ沿岸警備隊の巡視船もいるもの。戦闘機だってサラトガが連れてくるだろうし」

 ため息をつくケイン。

 「それならTフォースのスラムジェットを貸すが」

 鋭い声が割り込んだ。振り向くと翔太の父である博が入ってきた。

 「お父さん」

 驚く翔太。

 「百里基地から出発になる」

 博は時計を見ながら言う。

 「そこから近づくにはオスプレイかヘリで近づける。船だと海が荒れるから近づけない」

 ベレッタが入ってくる。

 「アナベル、ミゲル、智仁は進展があったの?」

 リドリーが聞いた。

 「僕は陛下からこれをもらった」

 智仁はからくり箱を出した。

 「僕は鍵をもらった」

 ミゲルが出した。

 「私はお父様から琥珀玉をもらった」

 アナベルが出した。

 「僕は死んだ仲間から手紙が来た。キリ島にいる住民のリーダーに会って自分が預けた物をもらってという指示だった」

 困惑する福竜丸。

 「そこへ行こう。何もなければ帰ってくるだけだ」

 間村が言った。



 一時間後。百里基地

 百里基地は、茨城県小美玉市にある航空自衛隊の基地。基地司令は第七航空団司令が兼務する。埼玉県にある入間基地は地域との協定により、アフターバーナー装備の飛行機の

運用ができないことから、航空自衛隊が関東地方で戦闘機の運用が可能な唯一の基地であり、「首都防空の要」ともいわれる。

 二機の大型輸送ヘリが駐機場に着地した。

 機外に出てくる佐久間達とパンサーアイチームメンバー。

 博は手招きした。

 佐久間達は彼についていく。

 「アントノフ224ですか?ウクライナ軍から借りたのですか?」

 間村と霧島が声をそろえる。

 彼らの目の前に大型貨物機が駐機場に鎮座している。アントノフ224は世界最大航空機で全長八十八メートル。六〇〇トンの重量を誇る。

 博はパチッと指を鳴らした。せつな、機影が揺らいで黒色の大型機が現れた。機体はずんぐりしていて楕円形。旅客機より少し短い主翼。どっちかというとサンダーバード2号に似ている。背中に小型機がおんぶするように装備されている。

 「Tフォースの垂直離着陸機だ。動力はヴェラニウムで戦闘機並みの速度で飛べるように機体は頑丈だ」

 博は手招きした。

 「すげえ・・・」

 間村達は声をそろえた。

 「すごいわ」

 声を佐久間と海江田。

 機体後部のハッチから入る三神達。

 機内は二層構造で一階は司令室と貨物室。二階は留置場と会議室になっている。

 「葛城長官。この箱は?」

 沢本は貨物室にある白色の三畳程の箱を指さした。

 「それは捕獲モジュール。内部は特殊素材で出来ていて能力者に応じて仕様を変えられる。米軍のいつもの四人やイスラエル軍のエイラート達だけでなくバロックも閉じ込める事は可能だ」

 博は答えた。

 周囲を見回す三神。

 旅客機や自衛隊の輸送機やオスプレイとも違う。スクリーンや何かの機器が並び、異質な感じだ。

 「重要な機器やコア部はたぶん日本製ね」

 大浦がいくつかのモジュールを見ながらつぶやく。

 博は機内にいる乗員に合図した。

 後部ハッチが閉まりエンジンが始動して上昇する機体。

 「こんなでかい機体だと米軍の衛星からもバレバレだ」

 心配する朝倉。

 「光学迷彩つきだ」

 側面にある機体の状態をしめすパネルを見ながら博は答える。

 「今はどの辺を飛んでいるの?」

 アナベルが聞いた。

 博は中央の台に手を触れる。すると立体映像が飛び出す。

 「すごい性能だ」

 ギルム、間村は声をそろえる。

 「半分異星人の技術を使っているわね」

 佐久間がささやく。

 「私もそう思うわ」

 ケインがうなづく。

 本部は元はアメリカのアーカムだったが数年前にロシアのハバロスクに移転。本部にはオルビスやその仲間が勤務している。その影響か米軍のよりも進んだ科学力がここには集約されている。

 「東京駅の幽霊列車の調査はどうしよう?」

 ミゲルが心配する。

 「羽生さん達だけでなくカルルさんとフラムさんも手伝ってくれるって」

 翔太が口をはさむ。

 「でも相手がカメレオンだと警察だけで対処は難しいな」

 沢本が腕を組む。

 「そこは鉄道警察隊と火災調査団の高松さん達が手伝ってくれるって」

 翔太が答える。

 「それはよかった」

 納得する沢本。

 「あの四人は僕達に気づいてたぶん追いかけてくるね」

 智仁が地図の映像を見ながら言う。

 「その時は私達が囮になるけど、この輸送機だとキリ島の飛行場に着陸したら一発で米軍にバレるわ」

 心配するイスラ。

 「パラオにあるTフォース支部基地にいったん着陸してそこからアーランの小型潜水艇で接近する」

 博は答えた。


 

 在日米軍横須賀基地

 岸壁から隣にある海上自衛隊の基地が見える。桟橋に護衛艦が何隻も停泊している。

 アイリスは周囲を見回す。

 「どうかしたのか?」

 クリスがわりこむ。

 レジーとレイス、ニコラス、カプリカが近づく。

 「この三時間動きがないのよ」

 アイリスは両目を細めてながめる。周囲の官舎や艦船にいる自衛隊員まで動きが見えるが佐久間達がいない。

 「三時間前にCH-47輸送ヘリが二機が百里基地に飛んで行ったけど」

 カプリカはタブレット端末を出して衛星画像を見せた。

 映像に四十人前後の自衛官が乗り込むのが映っている。

 「訓練だろ」

 しれっと言うクリス。

 「百里基地にアントノフ224が来ていたけど出発したみたいですね」

 ニコラスが指摘する。

 「イスラとケインも都内や横浜や新木場の支部にいない。第五福竜丸もいない。アナベルと智仁も皇居にいない。刑事の方は東京駅にいてパンサーアイの地上部隊も新木場支部にいるけど艦船と戦闘機のメンバーがいない。それに海保のメンバーまでいない」

 アイリスは首をかしげる。

 「大桟橋にいるレストラン船と客船の仲間に聞いてみるか?」

 クリスが提案する。

 「それもそうね」

 アイリスはうなづいた。


 横浜大桟橋

 大桟橋に入ってくるアイリス達。エントランスデッキに二人の男女がいた。

 「ロルフとラルゴじゃん」

 クリスとアイリスは声をそろえる。

 「横須賀には沿岸警備隊の隊員までいるのね。東京駅を探したけど見つからないしまるで迷路ね」

 ロルフはパンフレットを出した。

 「あそこは構造も複雑で魔術も使用できないような仕掛けがいたるところにあるから物探しの魔術も使えないわ」

 うなづくアイリス。

 「第五福竜丸の仲間があそこのカフェにいるよ」

 レジーが大桟橋内にあるカフェを指さす。

 「丁度よくいるじゃないか」

 ラルゴはニヤニヤ笑う。

 店内に入るアイリス達。

 「レストラン船としゅんせつ船と漁船四隻と客船二隻にハンターの見習いの子供二人と農薬散布機と椎名と稲垣」

 クリスは名簿を見ながら言う。

 「なんですか?」

 ムッとする住吉丸、小林丸、福寿丸、飛鳥丸だった漁師の四人。

 「第五福竜丸がどこにいるか知らない?」

 アイリスが聞いた。

 「知らない」

 長島達は首を振った。

 「あの木造漁船は記憶障害と放射線障害で早く走れないし遅い。地図も記憶できないからよく迷っている」

 意地悪く言うラルゴ。

 「そうなったのは米軍の核実験のせいじゃないか」

 長島が声を低める。

 「黙れよ」

 クリスが言い返す。

 「何しに来たんですか?」

 「僕達は遊びに来ただけ」

 見習いハンターの亜紀と雅紀がわりこむ。

 「海保のあの五人とパンサーアイにいる海保の二人がいないんだ。どこにいる?」

 レジーが聞いた。

 レイスは三神達の写真を出した。

 「パトロールでしょ。最近はカメレオンや中国海警船が出るから」

 にっぽん丸がしゃらっと言う。

 「国内クルーズが中止が多いよね」

 ふじ丸がうなづく。

 「佐久間と間村、室戸、霧島の四人がどこか知らない?稲垣と椎名だっけ。無線を傍受できるんでしょ」

 アイリスが写真を出した。写真には佐久間達が映っている。

 「僕のはアマチュア無線だしTフォースや自衛隊までは無理だね」

 稲垣は肩をすくめる。

 「私は部活が終わったばかりだしテレパシーは強い方じゃないわ」

 椎名がリンゴジュースを飲む。

 「アメリカに帰れば」

 ランディが割り込む。

 「黙れよ」

 しれっと言うクリス。

 「僕はランチクルーズが終わったばかりだし何も聞いていない。僕達が何か聞いていると思ったんですか?」

 「僕は名古屋港でしゅんせつ作業が終わったから遊びに来ただけ」

 長島と夜庭がサンドイッチを食べる。

 「よく海保の横浜保安部にいるじゃないか」

 ラルゴは第三管区横浜基地や海自の横須賀基地やTフォース新木場支部の写真を出す。

 「私達は何も聞いていない。警察を呼びますよ」

 にっぽん丸は声を低める。

 「呼べば。日米地位協定ですぐ釈放だしな」

 クリスとラルゴはクスクス笑う。

 「米軍がのびのびと日本にいられるのは日本政府のおかげじゃないか」

 長島は強い口調で席を立つ。

 「それも思いやり予算のおかげじゃない。何様のつもり」

 にっぽん丸が前に出る。

 「やるのか?レストラン船と客船だとあのバロックというエイリアンには勝てないね。残念ね」

 ロルフはドスの利いた声で言う。

 「ポンコツ戦車」

 ランディがわりこむ。

 「自分の国に帰れば」

 住吉丸、福寿丸、小林丸、飛鳥丸は前に出た。

 「足と手が震えているけど。戦い方を教えようか?」

 ロルフがバカにする。

 「横須賀基地に来ないか?」

 ニコラスが誘う。

 「やだ」

 長島達が声をそろえる。

 「実力行使で連れて行くのはどう?」

 カプリカが提案する。

 「おかしいだろ!!」

 住吉丸と長島、夜庭が声をそろえる。

 「横浜中央署です」

 店内に入ってくる十人の警察官。

 「早いじゃないか」

 感心するクリスとニコラス。

 「もう来たよ」

 レジーとレイスがわりこむ。

 「さっき通報がありましたので」

 大柄の警官が口を開く、

 「何か問題でも?」

 精悍な体格の警官が聞いた。

 「何も問題はないさ。帰るぞ」

 クリスはしれっと言うとアイリス達と一緒に出て行った。



 その頃。キリ島

 キリ島は、現在、ビキニ環礁の島民の避難先となっている。一九四六年三月七日、アメリカはビキニ環礁を核実験場に選び、島民を移住させた。島民は、ロンゲリックやクワジェリンなど島々を転々とした後、現在、マジュロ環礁のエジット島やキリ島などに分かれて暮している。アメリカは一九四六年から五八年まで、ビキニとエニウェトクで合計六七回の核実験を行なった。うち、ビキニでは二三回の原水爆実験が行われた。島民は島を離れて以来、強い残留放射能のため、現在も故郷の島に戻れない。

キリ島は、徒歩で四五分くらいで一周する広さ。そこに一〇〇〇人余りが住んでいる。

新しい家が多い。車も走っている。電気は二四時間OK。シャワーもあり、お湯も出る。これまで、ロンゲラップ環礁の人たちが避難しているクワジェリン環礁のメジャット島に行ったことがあるが、メジャットよりもずっと都会だ。でも、食生活は、ほとんどアメリカの食べ物に依存している。鶏肉、豚肉の固まり、小麦粉、米、缶詰、ソーセージ、ソーダ、コーラ、ラーメンが山積になっていた。

子供も大人も、食事は米と肉、インスタントラーメンを食べ、ソーダをよく飲んでいた。

キリ島には、島民の食生活を育んでくれる環礁がない。どの方向に行っても、波の荒い外海にぶつかる。波が荒いため、ほとんど漁にはいけない。そのため、外からの食料に頼っているが、海が荒れると食料の島への荷揚げもままならず、しばしば飢えにもさいなまされた。ここでは、マーシャルのカヌーをつくりそれで漁にいくという伝統的な暮らしは

消えてしまった。若者たちには受け継がれない。彼らはすることもなく、ぶらぶらしている。島民は、この島のことを「監獄の島」と呼んでいる。ビキニ環礁自治体は、核実験の被害環礁の一つとして、アメリカから最も

多額の補償金をもらっている。食料も、家の新築、リフォームも、電気も、補償金は島民の生活の向上のために使われてきた。マーシャルの他の環礁の人々に比べたら、物質的には豊かな生活をしていた。

 

 木製の桟橋から町に入る旅行者。

 町には店はないがハリウッド映画に出てきそうな住宅が並ぶ。数人の旅行者はヤシの木がある家のドアをノックした。

 ドアが開いて老人が出てきた。老人は手招きした。

 旅行者達は顔を見合わせると室内に入った。

 「葛城翔太君、ミゲル王子、アナベル王女、智仁様だね。福竜丸。記憶は戻らないみたいだね」

 老人は口を開いた。

 福竜丸と呼ばれた女性はうなづく。

 翔太は時空コンパスをリュックにしまうと老人に補聴器型の翻訳機を渡した。

 老人は耳にかけた。

 「僕達の言葉がわかりますか?」

 ミゲルがたずねた。

 「市販のより性能がいいな」

 老人は笑みを浮かべる。アラブ語が英語に翻訳される。

 「あなたは?」

 智仁が聞いた。

 「ジエン・ラケル。元三八分隊のメンバーだ。役割は物資調達をしていた。精霊に選ばれたんだね。他にも選ばれたミュータントがいるのは知っている。マシンミュータントは珍しい」

 ジエンと名乗った老人は口を開いた。

 「僕達は依頼書を見て来ました」

 翔太は依頼書を見せた。

 「これはイギリスの魔術師協会の依頼書で本物だ。初代クイーン・メリーと初代クイーン・エリザベス姉妹のサイン入りで氷川丸を介してマチュア、カチュア姉妹に渡された」

 ジエンは虫メガネで見ながら言う。

 「なんでですか?」

 ミゲルがたずねた。

 「東日本大震災でサブ・サンが侵入してきた。そして中国と手を組んで尖閣諸島の戦いが起きた。カメレオンと中国軍を追い出したがアメリカは参戦しなかった。負けた中国軍は今回は中央ザイード共和国と組んでまたやってくる」

 ジエンは世界地図を出してアフリカ大陸の中央部を指さした。

 「三年前まで中央ザイードもリベルタと同じような失敗国家で三回の内戦と八回のクーデターが起こっていて持っている兵器は旧式機ばかりですが最近は米軍が持っているような兵器が目撃されています」

 アナベルは説明する。

 自分達が日本に来た理由は中国は中央ザイードのダナエと組んで、空飛ぶ空母を建造し、「時空の王錫」を手に入れようとしているから警告も兼ねている。

 「アメリカは参戦するでしょうか?」

 智仁は疑問をぶつけた。

 「アメリカは自国に危険が及ばない限り参戦はない」

 はっきり言うジエン。

 「スレイグはダナエからたくさん骨董品や宝石をもらったからよけいないかも」

 翔太は大手新聞のネットニュースを見せる。そこには宝石や骨董品に囲まれてニヤニヤ笑うスレイグの姿があった。

 「あなた方に渡したいものがある」

 ジエンは銀色の装飾が施された箱を見せた。

箱には鍵穴がある。

 ミゲルはおもむろに鍵を出すと差し込む。ガチャという音がして箱が開いた。中には銀色の龍の置物があった。

 翔太は龍の置物に手を伸ばした。せつな、脳裏に映像が入ってきた。なぜか目や耳、口を隠したニホンザルが出てきたがそこで映像が終わった。

 「米軍が気づく前に帰った方がいい。見つかると面倒な事になる」

 ジエンは時計を見ながら促す。

 「わかりました」

 翔太達はうなづいた。


 東京にある首相官邸

 会議室に閣僚達と自衛隊の幹部が顔をそろえている。その向かいの席にアッシジ大統領とゲイリー国防長官、フランス大使とアルミン司令官、サルイン大使、ベトナム大使と台湾代表部の台湾人が顔をそろえていた。

 「エドル大使、ミミル大使、ルアン・ディン大使、鮫峰邦代表。新しい動きとは何でしょうか?」

 三宅首相は口を開いた。

 「南シナ海で中国軍は基地だけでなく軍港を建設しました。海軍基地です」

 ルアン・ディンと呼ばれたベトナム大使は正面スクリーンに映像を出した。

 「その基地には中央ザイード軍の戦闘機やオスプレイがいます」

 ミミルと呼ばれたサルイン大使は指摘する。

 「中国軍の潜水艦が海南島の基地から十隻出航しました。全部ミュータントです」

 鮫峰邦代表が漢級潜水艦の写真を出す。

 「その潜水艦は東シナ海の演習場に向かうのでは?」

 石崎がたずねる。

 「中国政府から東シナ海で演習をやるという通告は来ています」

 外務大臣がわりこむ。

 「空母「波王」は西太平洋です。しかも客船スカンジナビアとロックブーケはカメレオンです。中国軍は波王やロックブーケと一緒に侵攻すると思われます」

 エドルと呼ばれたフランス大使は切り出す。

 「まだそうと決まったわけではないと思いますが?」

 石崎がうーんとうなる。

 地図と位置関係を見ても演習にしか見えないし、波王と二隻の客船は西太平洋である。

 「米軍がおかしな動きに気づけば通告すると思います」

 外務大臣が口をはさむ。

 「そのスレイグはダナエからたくさんの骨董品や宝石をもらっています。ダナエはジョコンダとも会っています。ジョコンダは時空侵略者やエリア51にいるエイリアンとも密約する女です」

 ゲイリーは画像を切り替える。そこには骨董品や宝石に囲まれてニヤニヤするスレイグの姿やダナエと握手する姿まであった。

 「アメリカの参戦はなさそうですね」

 石崎がしれっと言う。

 「しかし南シナ海に自衛隊を送るとなると憲法に触れますね」

 官房長官がわりこむ。

 「まだ特命チームは継続しています。国連軍の討伐隊に参加という名目なら国民も納得するのではないかと思います」

 石崎が提案する。

 このままだと武器三原則にも抵触するし自衛隊を派遣するとなると憲法にも触れるし国民が黙っていない。ならカメレオン討伐なら納得するだろう。

 「我々が来たのはそのために来ました。敵は中国軍だけでなくカメレオンとダナエの軍隊です。アフリカ連合やパンサーアイはダナエのやり方や戦い方を知っています」

 アッシジが声を低める。

 「それとこれは北朝鮮とロシア政府からなんですがダナエの息のかかった国会議員と中国企業が国内にあるとの情報です」

 ミミル大使が声を低める。

 「それは本当ですか?」

 官房長官がたずねた。

 「ダナエは周永平と組んで技術供与までしている。ならスパイも仕込んだ可能性が高い。そのスパイは開戦と同時にかならず行動を起こします。彼らが使う周波数や手口を我々は知っています」

 ゲイリーは声を低める。

 「そしてこれはウワサでしかないのですが中国軍はAI搭載の旅洋Ⅲ型駆逐艦を何隻か就航させているそうです。コントロールは空母「鎮遠」です」

 エドルは写真を見せた。

 どよめく閣僚達。

 「米軍がやらない事をやりましたね。試験とかしたのですか?」

 怪しむ石崎。

 「それは聞いていないのでいきなり投入するのではないかと思います。たぶんダナエが技術供与したと思います」

 ミミルが答える。

 「でも注意しないといけないですね」

 石崎がうなづく。

 「そうですね。南海艦隊は南シナ海にいて潜水艦隊が東シナ海の演習場にいる。中央ザイード軍の艦船は南シナ海の基地にいるだけではなんとも言えないですね。また動きがあれば防衛出動や討伐の指令を出そう」

 三宅は地図を見ながら言った。

 


 その頃。横須賀基地

 会議室にパンサーアイと特命チームメンバーが顔をそろえていた。

 「間村隊長」

 部屋に入ってくる三人の男女の自衛官。

 「青山、広瀬、山下」

 間村と室戸が振り向いた。

 「舞鶴基地でこのイージス艦を見たのですが艦番号76は在日米軍横須賀基地の所属艦ですね」

 広瀬は写真を見せた。

 「この船だ」

 翔太があっと声を上げる。

 このミュータントは東京駅でラルゴとロルフと一緒に迷っていた。

 「普通の船でなくてミュータントです」

 青山が困った顔をする。

 「この船は基地をハッキングしようとしていました。周波数を変えて」

 山下はタブレット端末を出してどこの国を経由してどこにいっているのか見せた。

 「君は多用途支援船「ひうち」と融合していますね」

 翔太が指摘する。

 「はい。そうです。僕はどの電波がどこから来ているのか見えるんです。ついでにそいつの心やテレパシーも見える」

 端末を操作しながら言う山下。

 「君はすごいじゃないか」

 翔太と智仁が目を輝かせる。

 「君の能力は?」

 ミゲルがたずねた。

 「私は衝撃波を操れる」

 広瀬が玉をこねるしぐさをする。陽炎が揺らぎ青色の球体が現れる。

 「俺の泡とちがうのか?」

 朝倉が割り込む。

 「まったくちがいます」

 広瀬が否定する。

 「あなたは?」

 アナベルがわりこむ。

 「僕は爆発系を操れる」

 答える青山。

 「自衛艦隊司令部から私達は特命チームにくわわれと言われたのですが防衛出動は近いのでしょうか?」

 広瀬が疑問をぶつける。

 「俺達もそれは聞いていない。海南島の潜水艦十隻は全員ミュータントで東シナ海の演習に来ている。あのポンコツ空母となんちゃってイージス艦も一緒だろう。金流芯一味は尖閣諸島をうろついている。空母「波王」とロックブーケとスカンジナビアは西太平洋だ。でも何もしないわけがない。かならず何かやってくる」

 霧島が地図を出して指揮棒で指さす。

 「それにスレイグはダナエと会っている」

 香川は共同通信やロイター通信のネット動画を見せた。

 そこには宝石や骨董品に囲まれてニヤニヤするスレイグの姿があった。

 「アメリカの参戦はなさそうですね」

 がっかりする青山と山下。

 「サラトガとエセックスと二隻の沿岸戦闘艦がいればあのバロックというエイリアンだけでなくカメレオンだって簡単に追い払えると思います」

 広瀬が声を上げる。

 「それは俺達だってわかるよ。でもこれを見る限りダナエに丸め込まれたし、不介入と言うのは確実だな」

 間村は肩をすくめる。

 「なんのための日米同盟ですか?この前の尖閣諸島の戦いでも不介入で今回も不介入でただの居候じゃないですか」

 不満をぶつける青山。

 「それは私達だって不満はあるわ。中国軍は今回はダナエと組んでやってくるし、バロックというエイリアンは時空遺物を血眼になって探している。探すのは彼らだけでなく米軍やイスラエル軍も狙っている。その上、中国軍は空飛ぶ空母を大連にある造船所で建造している。破壊しないと不利ね」

 佐久間は地図を出して説明する。

 「今回は防衛出動だけでなく大連にある造船所の攻撃と中国軍を追い払い、南シナ海にある基地の破壊も含まれている。日本政府はカメレオン討伐という名目で派遣される事になりそうだ」

 間村が難しい顔をする。

 「俺達だけと数が足りないな。地上部隊や戦闘機部隊がもっといる」

 室戸が指摘する。

 「自衛隊は憲法に縛られているから国民が黙ってないな」

 霧島がわりこむ。

 女性自衛官と体格のいい自衛官が人数分のお茶を出した。

 「あれ?この二人は自衛官じゃないですね」

 翔太、ミゲル、智仁があっと声を上げた。

 「あなた北朝鮮のスパイのライとリーね」

 アナベルが指をさした。

 「え?」

 「お見事だ」

 「すごい能力ね」

 正体を現す二人の男女。

 「パンサーアイに北のスパイがいるというのは本当のようね」

 佐久間はリーをにらんだ。

 「本当にたいした政府だよな」

 不満をぶつける室戸と霧島。

 「隊長。本当に北のスパイを仲間に入れるのですか?」

 指をさす山下。

 「指をさすな。使えるものは使わないと日本に勝ち目がない」

 腕を組む間村。

 「その三人を入れるの?そのうちの二人は幹部候補生で三人共ハンターレベルは中級ね」

 わざと言うリー。

 ムッとする広瀬、青山、山下。

 「俺達が入ると何かと便利だよ。大連の造船所は警備が厳しい。上海の造船所でも空飛ぶ空母を建造しているんだ。そのスキをついて入れる方法を知っている」

 声を低めるライ。

 「どんな方法?」

 沢本が聞いた。

 「客船を使うんだよ。大連の造船所で試運転に向けて立入禁止になるが物流全部を止めるのは不可能だ。上海の造船所は建造している途中だから爆破は簡単だよ」

 ライはニヤリと笑う。

 「客船は使えるわよ」

 リーがわりこむ。

 「俺達は納得できないし、信用できない」

 三神がわりこむ。

 「スーパースターヴァーゴを捕まえただろ。あの女は釈放されたからまたやってくるし、こいつらもやってくる」

 ライは写真を見せた。

 豪華客船「ゴールデン・エラ」「フォーレンダム」の写真と中国人とアメリカ人男性のプロフィールが載っている。

 「確か強制送還で刑務所行きにした」

 べノワがわりこむ。

 「ジョコンダが不起訴にして二人を出したんだ。そして中国軍はAI搭載の駆逐艦を何隻か建造して実戦に投入しようとしている。旅洋Ⅲ型駆逐艦。イージスシステムも組み込まれている」

 何枚かの写真を出すライ。

 「マジっすか」

 声をそろえる三神と朝倉。

 写真には艦橋の窓に二つの赤色の光がともっている。カメレオンと違うのは光る模様がないことだろうか。

 「米軍がやらない事をやったね」

 ギルムが指摘する。

 「乗員はいない。人工知能が判断するんだ。それをコントロールするのが空母「鎮遠」だ。鎮遠にも乗員がいない。これは本当かどうかわからないが国会議員にダナエのスパイがいてダナエの息のかかった中国企業が日本国内にあるらしい」

 ライがうーんとうなる。

 「情報はロシアと北朝鮮からだし、もう首相官邸にはいっている」

 リーがわりこむ。

 「すごい段取りがいいよね」

 大浦が不満をぶつける。

 「情報は警視庁に行くでしょうね。捜査を開始するでしょうね」

 リーがニヤリと笑う。

 「あんたの国が工事を請け負わなければダナエが中国と組むという事もなかったじゃないの。刑務所に入れた方がよくないですか?」

 反論する広瀬。

 「もしくは死刑に賛成です」

 青木と山下がわりこむ。

 「俺達は信用できない」

 沢本がはっきり言う。

 「無視できないと思うよ。その中国企業にカメレオンが普通に働いていて警視庁だけじゃ無理だと思うけど」

 もったいぶるように言うリー。

 「高松さん達を連れて突入した方がいいわね。カメレオンは警官じゃ無理ね」

 佐久間が冷静に言う。

 「ここにいたんですね」

 不意に声がして振り向く三神達。

 福竜丸と稲垣と椎名が入ってくる。

 「防衛出動は近いのですか?」

 椎名がたずねた。

 「それはまだ出てないわ」

 佐久間が首を振る。

 「福竜丸達がどっかに行っている時なんだけど大桟橋にサラトガ達と戦車のミュータントが二人来たんだ」

 タブレット端末を見せる稲垣。画像にはクリス、アイリス、レジー、レイス、ロルフとラルゴ、ニコラス、カプリカの姿があった。

 「あのイージス艦がいない」

 翔太と智仁が声をそろえる。

 「サラトガ達は僕達にしつこく三神さん達の居場所を聞いてきた。でも聞いてないものをどこにいるか知らないと答えたのに米軍の横須賀基地に無理矢理連れて行こうとした」

 稲垣が説明する。

 「でも誰かが警察に通報して警官が十人くらい来て追い払ってくれた」

 椎名が答える。

 「大桟橋にいたのはあなた方だけ?」

 佐久間が聞いた。

 「住吉丸、小林丸、福寿丸、飛鳥丸と来宮兄弟、ランディ、客船にっぽん丸、ふじ丸と夜庭さんと長島さんがいた」

 稲垣が答える。

 「三時間は動きがなくて俺達の所在がつかめなかったみたいだけど成功だな」

 納得する間村。

 「どこに行っていたんですか?」

 稲垣が聞いた。

 「キリ島。Tフォースのスラムジェットで百里基地から出発してパラオのTフォース基地に着陸。そこからはアーランの潜水艇で行った。キリ島に僕のかつての仲間だったジエンから重要な物を取りにいったけど結局記憶がなくなっている」

 地図を指さして説明する福竜丸。

 「だから血眼になって探していたのね」

 納得する椎名と稲垣。

 「でもなにもなくてよかった」

 ホッとする海江田。

 「にっぽん丸とふじ丸が心配していたけど防衛出動が出て戦いが長引けば旅客船のミュータントに召集メールやハガキが来るのではないかという話題だったの。有事になればまず護衛艦、戦闘機、戦闘車両の順番で次は旅客船で次は客船。そして電車のミュータントと民間機と民間車両になるって」

 視線をそらす椎名。

 「でもそれは氷川丸がそうさせない」

 三島がわりこむ。

 「でも短期間で戦争が終われば可能だけど長引けば旅客船にも召集メールが来るわね」

 佐久間の顔がくもる。

 「氷川丸と協定があるんですか?」

 翔太が聞いた。

 「太平洋戦争で氷川丸は海軍病院船として徴用されて活動していたのは知っているわね」

 佐久間がタブレット端末を出した。

 そこには海軍病院船となった氷川丸の写真がある。

 「最初のうちは病院船として活動していたけど戦況が悪くなって病院船のミュータントも米軍の攻撃対象になり、彼女達は米軍の駆逐艦や潜水艦のミュータントと戦って彼女の同僚達は次々死んでいった経緯があり、葛城茂元長官と協議した。その協定があるし、日本が戦後の混乱期を抜けて経済を優先した結果ね」

 佐久間が説明した。

 「状況が変わればいつまでもそんな事は言ってられない」

 黙っていたカルメンがわりこむ。

 「それも考えなければいけないわね」

 佐久間がうなづく。

 「氷川丸を説得するってどうやって説得する?彼女の別名は「印をつける貴婦人だよ」印をつけられると特定の攻撃ができなくする能力者だよ」

 朝倉が困った顔をする。

 「それは葛城長官に頼むしかないわ」

 佐久間が答える。

 「佐久間さん。僕達は時空遺物の捜索に行くのでここへ明日行っていいですか?」

 琥珀玉を見せる翔太。

 「場所は日光東照宮のようです」

 智仁は関東地方の地図を出して指さす。

 「私達は防衛出動で基地で待機になるからフィンやエンリコとホセ達に頼むけどいい」

 佐久間が聞いた。

 「僕達が警備する」

 フィン、エンリコが互いに見合わせるとうなづく。

 「わかった。何かあれば報告する」

 ホセはうなづいた。


 翌日。首相官邸

 「やはり中国軍は東シナ海から尖閣諸島の海域に入りましたね」

 石崎は口を開いた。

 「先に仕掛けてきたのは中国ですね」

 外務大臣がわりこむ。

 情報は駐在員ではなく観光客を装った公安部の人間である。しかも中国語に堪能で対テレパスのハンター達である。既存の大使館員や領事館員を使わないのはかならず尾行がういてハニートラップだけならいいがテレパスの中国公安員が普通にいるからである。

 「マスコミもかぎつけていますね」

 官房長官が指摘する。

 マスコミも首相官邸に続々と公用車が次々と乗りつけて政府要人が入っていくのをみている。記者会見室には記者達がつめかけていた。彼らもサルイン共和国の国王夫妻と大統領夫妻が来日している事やパンサーアイメンバーが来日している事は知っているし、特命チームが継続されたままだというのは知っている。

 「せっかくの直接行動に何も起こらなかったら向こうが困るでしょう」

 石崎がうなづく。彼はそう言うと隣の記者会見室に入った。

 部屋に入るなり

 「今はどのような状況に?」

 「防衛省の対応は?」

 待ち構えていた記者団から矢継ぎ早に質問がとんだ。

 「中国の寧波にある東海艦隊所属のフリゲート艦二隻と漁船五隻はすでにEEZ内に入っています。そして潜水艦も東シナ海からEEZ内に入りました。それらがわが国の警告を無視して尖閣諸島の海域に入れば自衛隊はしかるべき措置を取ります。カメレオンも一緒に行動をしていると思われ状況を見ながら進め、新たな護衛艦隊の派遣もありうることを表明しておきます」

 「有効な措置とは交戦もありうるのですか」

 「適切な措置とだけ申し上げています」

 石崎は答えた。

 「サルインの国王夫妻と大統領夫妻と一緒にパンサーアイメンバーが来日していますね。中国の周主席は中央ザイードのダナエ大統領と組んだのをご存知ですか?」

 「中央ザイードに「時間の穴」があるのは本当ですか?」

 「南シナ海のカメレオンの巣はどうしますか?」

 「特命チームとパンサーアイの合流はありうるのですか?」

 「あのバロックというエイリアンはどうされますか?追い返せますか?」

 「アメリカはまた不介入ですか?」

 記者達が質問する。

 不意に部屋に入ってきた秘書官が紙きれを石崎に渡した。

 ざわめく記者達。

 「ただいま緊急安全保障会議が召集されました。私も出席しなければいけません。会議の結果は小野官房長官がのちほど発表すると思います。なお、陸海空三自衛隊は緊急警備体制に入っている事を申し述べておきます」

 石崎は足早に壇上を下りて去っていった。



その頃。宇都宮にあるTフォース事務所に

翔太、智仁、ミゲル、アナベルと福竜丸が入った。

フィンとエンリコだけでなく戦車と装甲車のミュータントのメンバーもいる。

「中国軍が動いたね」

翔太が口を開いた。

昨日、横須賀基地からパンサーアイメンバーの地上部隊メンバーと一緒に宇都宮のTフォースの事務所で一泊した。そして朝、起きたらどのチャンネルもニュース速報一色になっていた。

「中央ザイードがいないわね。かならずダナエは仕掛けてくる」

カーヴァーは声を低める。

自分達は観光で来たわけではない。中央ザイードが中国と組んで部隊を差し向けたという情報をもとに動いていた。ダナエも望みをかなえたいから中国と組んだのだ。その時空遺物をスレイグやジョコンダがほしがっているのは知っている。 

「それにしても日本政府は駆逐艦の動きや今、どこにいるのかをよくしゃべるな」

ホセが疑問をぶつける。

フランスじゃぜったいにやらないだろう。

「たぶん、お父さんやタリク議員、レナ議員、トリップ議員の意見が入っているのかもしれない。たぶんこれは日本政府とTフォースの作戦かもね」

翔太が少し考えてから言う。

なぜそう思ったのかわからないが他国政府も動きだすだろう。

「日光東照宮に行くけどいい?」

智仁が口を開く。

「何もなければそれでいい」

ホセ達はうなづいた。


尖閣諸島沖

護衛艦「あまぎり」「むらさめ」「みょうこう」「あたご」は尖閣諸島の十二海里水域の外で漁船五隻と対峙していた。双方ともに艦橋や船橋の窓に二つの光が灯る。

「ここは日本領海です。止まりなさい」

間村は中国語で呼びかけた。

あの漁船だけで来たわけではない。フリゲート艦も一緒にいる。その二隻は普通の船でそこから百キロ離れた場所に駆逐艦が二隻いるのは知っているし、その駆逐艦は普通の船である。

「ディスペル」

佐久間は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて青白い膜に漁船達が包まれ本当の正体があらわになる。その船体には光る模様があった。大きさも一〇〇〇トンクラスの大型漁船だ。

大型イカ釣り漁船は船体から砲台を出した。青い色の光線が放射される。

間村達はジグザグに航行してかわす。

飛びかかる漁船を錨でなぎ払う佐久間。

大型漁船二隻からミサイルが飛び出す。

機関砲で撃墜する室戸と間村。

体当たりする霧島。

岩礁に激突する大型漁船。

 佐久間は漁船の砲台をいくつかもぎ取る。

 「敵はそう来たね」

 佐久間は通信を傍受した。

 それは暗号通信ではなく”SOS”である。世界共通の国際救難信号だった。

 「リンガム。出番だ」

 間村は汽笛で合図しながら捕まえた漁船のコアをもぎとった。

 中国語でののしると爆発した。

 テレポートしてくる護衛艦「いずも」艦橋に二つの光が灯る。そして潜水艦のにおいを感じた。

 「全部で十隻で全部ミュータントね」

 リンガムは六対の鎖を出すと錨をムチのように振って釣り糸を垂れるように沈める。するとマグロを吊り上げるように潜水艦が二隻吊り上げた。

 リンガムは鎖の先端を金属ドリルに変えて突き刺しコアをえぐる。

 魚雷を発射する霧島と佐久間。

 ただの魚雷じゃない。どこまでも追跡する魚雷だ。イージス艦のミュータントはミサイルだけでなく他人が放った魔術の軌道を曲げる訓練もするのだ。少し間が空いて別の方向から水柱が何本も上がり、破片が浮き上がる。

 次々吊り上げては潜水艦のミュータントのコアをえぐるリンガム。

 「あわてているわね」

 冷静な佐久間。

 漁船と一緒にいたフリゲート艦と離れた場所にいる駆逐艦の間で通信が行き交っている。

 辺野古基地にいたのは客船のミュータントが変身していた「かが」だった。本物の「かが」はここから離れた海域にいる。

 漁船と一緒にいたフリゲート艦に別の方向から来た対艦ミサイルが命中。火柱が上がり真っ二つに折れて沈んだ。

 飛翔音が響いて離れていた場所にいた二隻の駆逐艦から火柱が上がった。

 「”かが”から飛び立ったF-35Bだ」

 間村は別の漁船のコアを抜きながら言う。

 間村達に接近する六隻の巡視船。

 沢本、香川、三神、朝倉、三島、大浦が変身する巡視船である。

 「生存者の捜索ならびに救助開始せよ」

 「かが」から指令が無線に入ってくる。

 「中国兵を救助するのですか?」

 三神は疑問をぶつける。

 「敵であっても助けるのが仕事だ」

 沢本は答える。

 「とうとう始まったな」

 香川が周囲を見回す。

 昨日の夜、翔太達が宇都宮のTフォース事務所に行って二時間後に自衛隊には防衛出動がかかり海保の自分達は非常呼集で福岡海上保安部に来たのだ。

 「北朝鮮の国境に近い中国のミサイル基地は動きがないわね。といってもかならず仕掛けるわね」

 佐久間が周囲を見回す。

 中国のミサイル基地はそこだけでなくいくつもあるのは知っている。ミサイルの警戒は築城基地のP-3CやAWACSが日本海を哨戒している。

 「辺野古基地に戻るわよ」

 佐久間は言った。


 

 首相官邸。

 「なんで中国軍の後続部隊が来ない?」

 外務大臣は首をひねった。

 航空総監、海上総監はそのまま防衛省の統合作戦司令部から出ていない。従って部屋には陸上総監がいる。

 「パンサーアイと特命チームには北の工作員がいますね」

 眼光が光る小野官房長官。

 閣僚達もどよめく。

 部屋に入ってくる秘書官。数枚のメモを三宅総理に渡した。

 「なるほどね」

 小野官房長官も外務大臣達も納得したようにうなづく。

 今日の未明に新疆ウイグル自治区から上海にかけて、いっせいに小規模な爆発が起こったのをアメリカの偵察衛星が捉えた。爆発現場を結ぶと一本の線になりそれを調査、分析するにに時間がかかっていたらしい。

 石油と天然ガスを供給するパイプラインが数十ヶ所にわたって破壊された。跡形も残らないほどの爆発なら容易に発見できるが小規模だったらしい。報告よりも実際はもっと多いかもしれない。

 「やったのは特命チームとパンサーアイにいる北の工作員ですね。中国の経済圏の弱点をよく知っていますね」

 国土交通大臣が声を低める。

 この前の尖閣諸島の戦いでは特命チームの北スパイの活躍でウイグル自治区とチベット自治区で武装蜂起があったが中国政府は力ずくで鎮圧してデモ隊も鎮圧した。サブ・サンがいるから人々の感情をなんとかコントロールしているが今度はどうだろうか?失敗すればタイムラインを使い尽くしているから元の世界に帰るだけだ。

 

 

 北京にある中南海

 「結束と団結が必要なのになんで部隊が動かない」

 周永平は目を吊り上げる。

 未明の報告で起こされた彼はその区域を管轄する司令部に命じた。しかし司令部は確かに出動命令を出したが末端の部隊が動かなかったのだ。

 ウイグルからのパイプラインが止まると消費地は国営のパイプラインに頼っていて備蓄は少ない。パイプラインがダメージを受けると経済にもダメージが行く。そして政府に人民の怒りが向かうのである。そうさせないために民族の団結が必要だったのだが派遣した軍艦と潜水艦が砕け散った。

 「情報は統制せよ」

 ショックだが無残な敗北を国内に隠蔽しなければいけない。いざとなれば核ミサイル使用も考えるが日本国内には在日米軍基地があり、いくらスレイグ政権でも介入してくるだろう。

 「主席。考えがございます」

 紀英州中央軍事委員会副主席が口を開いた。

 「あるのか?」

 ジャスミン茶を飲む周主席。

 「太平洋です。日本軍の主要部隊は九州から尖閣諸島にいます。日本海には哨戒機がいます。なら太平洋側は留守番の部隊だけだと思います」

 紀英州は日本地図を出して太平洋を指さした。

 「南シナ海に来た中央ザイードの戦闘機を乗せた強襲艦は出航しています。魔術でタンカーに偽装させて太平洋の房総沖を目指して進んでいます。ジョコンダ議員がよこした客船のミュータントも使えます。日本国内には国会議員のスパイもいてAI搭載の軍艦もそこへ向かわせています」

 紀英州は説明する。

 「そういえばそうだな。日本軍の主力部隊は南西諸島と九州の海域だ。なら太平洋側は警備は薄い」

 うなづく周主席。

 「明日には房総沖に到達します」

 紀英州は言った。

 

 

  翔太達を乗せたマイクロバスは日光東照宮の駐車場に入った。駐車場には他の観光客の車もある。ラフな服装でどこか見ても外国人観光客にしか見えない。

 「僕達を追跡している車があるね」

 フィンが口を開いた。

 「日光市内に入った」

 エンリコが答える。

 「追跡しているのは米軍のこの八人」

 立体映像を出すフィン。

 「サラトガだ」

 あっと声を上げる翔太と智仁。

 映像にクリス、アイリス、レジー、レイス、ニコラス、カプリカ、ラルゴ、ロルフが映るが彼は米軍が使用している二台のハンヴィに乗ってやってくる。

 「日本軍が中国と戦っているのに米軍は邪魔ばかりするね」

 トゥルグがしれっと言う。

 「NATOと同盟を組んでいのに情けないわね」

 カーヴァが不快な顔をする。

 「ねえ、白いお猿さんがいる」

 「それも白毛」

 アナベルとミゲルが指さした。

 見ると三匹のニホンザルがいる。普通は茶色なのに毛色は真っ白である。

 リーダーらしいニホンザルが手招きする。

 「ついてこいって言っている」

 アナベルが首をかしげる。

 「生息地に行くのか?」

 ホセが疑問をぶつける。

 「そうじゃないと思う。案内だと思う」

 翔太が周囲を見回す。

 三匹のニホンザルが歩き出す。翔太達はその後をついていく。

 「このスピードだと時間がかかるかも」

 べデルが心配する。

 「日光市郊外の山道で彼らが乗る米軍車両はニホンザルの群れとカラスの群れ、イノシシの群れに襲われていますね」

 フィンは首をひねる。

 「それはよかったわ」

 黙っていた福竜丸が言う。

 彼らは陽明門に足を踏み入れた。

 日光東照宮の陽明門は、建物全体がおびただしい数の極彩色の彫刻で覆われ、一日じゅう見ていても飽きないということから、「日暮御門」と称されている。門の名は平安京大内裏外郭十二門のうちの陽明門に由来する。陽明門は、表門から参道を進み、石段を2つ上った先に南面して建つ。門の左右は袖塀を介して東西廻廊につながる。門を入ると正面が唐門で、その先には拝殿がある。

陽明門は他の社殿と同様、寛永十三年の造替である。建築形式は三間一戸楼門で、規模は間口が約七メートル、梁間が約四メートル、

棟までの高さが約十一メートルである。

屋根は入母屋造、銅瓦葺きで東西南北の各面に唐破風を付す。正面唐破風下には後水尾天皇宸筆の「東照大権現」の勅額がある。組物は上層が三手先、腰組は四手先で、柱上のみでなく、柱間にも密に組物を置く詰組とする。軒は二軒繁垂木で扇垂木とする。初層の柱は円柱で、礎盤削り出しの礎石上に立つ。初層の柱間は地覆、腰貫、飛貫(ひぬき)、頭貫で固め、頭貫上に台輪を乗せる。礎盤形の礎石、貫の多用、台輪の使用、詰組、扇垂木など、細部は禅宗様を基調とする。柱、貫などの軸部材は胡粉塗で白く仕上げ、要所に鍍金金具を嵌める。初層柱には地紋彫を施す。

地紋彫は屈輪文の地の上に丸文を散らし、丸文の中には鳳凰、孔雀、二つ蝶、竜、象、虎、牡丹などを表す。12本の柱のうち1本のみは屈輪文が上下逆さになっており、「魔除けの逆柱」と称されている。また、建物を全て完璧に完成させるといずれ崩壊するという言い伝えから、一ヶ所だけわざと完璧にせず、崩壊を防ぐという意味もある。見分け方として、柱の模様の渦巻きが「魔除けの逆柱」のみ反対の渦巻きになっている。

「すばらしい彫刻だ」

ボンゴとラグ、トゥグルは声をそろえる。

「アフリカにはないセンス」

ジャウラーとトゥプラナがわりこむ。

ゾル、ラグ、べデルは陽明門の彫刻を眺めている。

「これが有名な三猿ね。オランダだけでなく世界的に有名よ」

カーヴァーが神厩舎に近づく。

 神厩舎とは、神様に仕える神馬のための厩舎である。三猿は、この神厩舎に取り付けられている彫刻で、なぜ厩舎に三猿なのかというと、馬の病気を猿が治すと言われている。

『見ざる、言わざる、聞かざる』の”三猿の教え”の猿がよく知られていますが、参道側(三神庫側)の長押に5面、西側に三面の計八面に、合計一六匹の猿が彫られ人間の一生が風刺されている。

 

 ①赤ん坊の時代

母猿が、子供の将来を見つめている。

親は子供の将来が実りあるものであることを祈り、子供は親に愛されて成長するということ


②幼少期

幼少期に、悪いことは見ない、聞かない、言わない。何でも吸収する幼い時期に子供に悪いことは見させない、聞かせない、言わない。奇麗なものだけを見て素直に育つのが良いということ。また大人に向けて、人の悪いところばかりを見ない、あえて聞いたりしない、悪口を言ってはいけないという教えでもある。


③独り立ち

ゆっくり腰を落ち着けて、これからの人生を考える。一人座り込んだ猿の表情がなんとも言えません。しっかりと自分の人生を考え、独り立ちしなければいけないということ。


④青年期

大きな志を抱いて、天を仰いでいる。

青い雲は「青雲の志」を表しています。「青雲の志」とは、将来立派な人になろうとする心のことで、若いうちは、志を大きく持って高い所を目指しなさいということ


⑤友情・挫折

(左)挫折を知り、崖を覗き込む猿と慰める猿と(右)崖を飛び越えようとする猿

挫折を知り、落ち込んだときに大切なのは慰めてくれる仲間です。仲間がいれば、また立ち上がって崖を飛び越えられる。人生を生きていく中で、仲間は大切だということ


⑥左・恋愛 ⑦右:結婚

(左)座り込み、恋愛に悩む猿。

(右)やがて結婚し、荒波を超えて行こうとする猿。

人生の中で、恋愛に悩む時期は必ず来る。やがて、良い伴侶を得て、結婚。目の前には「人生の荒波」が現れますが、二人で力を合わせれば乗り越えられるということ。


⑧妊娠

やがて子供ができ、母猿になる。

小猿もやがては母猿になり、親になることで知る喜びや苦悩が分かります。そして生まれる子供も、やがて同じ人生を歩むことになる。

つまり、またストーリーは①に戻り、人の人生が続いていく。


『見ざる聞かざる言わざる』とは子供の将来を考えた母猿が最高の教育の環境を考えて、教育上ふさわしくないものは、見たり聞かせたり真似させたりしないというのが、この三猿の教えの本当の意味になるのだ。


 「なんか龍の彫り物や神獣や霊獣の彫り物が多いね」

 アナベルが疑問をぶつける。

 「龍は古来より「五穀豊饒」などに吉兆をもたらし、聖なるものを守護すると言った伝来があるんだ。全国にある神社も龍を祀っている場所は多い」

 智仁が龍の彫り物を見ながら説明する。

 「あれあの白色のサルがいない」

 ミゲルがふと気づいた。

 「あの八人が乗る二台のうち一台のハンヴィは田んぼでひっくり返っているね。どうも単独の交通事故みたいよ」

 立体映像を出すフィン。

 映像に田んぼにひっくり返っている米軍のハンヴィがあった。

 がっくりと肩を落としているアイリス達。

 警察の事情聴取に応じているレジーとレイスの姿がある。

 「それはよかった」

 安心するホセ達。

 翔太は時空コンパスを出して薬師堂に足を踏み入れる。

 薬師堂は本地堂とも呼ばれる。

乱世を終わらせ一〇〇年の平和を築いた家康公は、後世、薬師如来の生まれ変わりと信じられるようになりました。

この本地堂は、その家康公の姿を具現化させた本地仏「薬師瑠璃光如来」をご本尊に据え、祭祀していることから「薬師堂」もしくは「本地堂」と呼称されています。

「本地堂」「薬師堂」の歴史・由来

寛永の大造替の時に建てられた日光東照宮の中でも最大規模の建物で、「総漆塗極彩色」豊かな華麗な建築物である。そして、この「薬師堂(本地堂)」は、重要文化財の指定を受けている。

薬師堂は神社である日光東照宮内にあるのですが、神仏分離令によって、輪王寺と日光東照宮が切り離されてしまい、輪王寺の管轄になってしまったため寺院としての扱いになっています。

「薬師堂の鳴き龍」

この薬師堂の、縦六メートル、横十五メートルの巨大なヒノキ板が三十四枚もはめ込まれた天井には、狩野派の「狩野永真安信」によって描かれた八メートルの龍の水墨画があります。この龍こそが「薬師堂の鳴き龍」と呼ばれている龍の絵です。

宝物を土中に埋めた人が盗掘を防ぐために龍に守ってもらっているという伝説がある。なぜ鳴き龍と呼ばれるのかというと一九〇五年に天井に住み着いたハトを追い出すために手をたたいたところ音が反響することが偶然にわかった。それまでは天井絵にしかすぎなかった。


 「すごい迫力のある絵だ」

 感心するホセ達。

 「ここに宝物は埋まってないですね。たぶん誰かが広めたウワサですね」

 翔太はジエンからもらった銀色の龍の置物を出して時空コンパスを出した。針は出入口を指さした。

 出入口に初老の僧侶が立っていた。

 「あなたは?」

 翔太が聞いた。

 「私は御厨。38分隊に若い頃いたんだ」

 御厨と名乗った老僧侶は名乗った。

 福竜丸は首をかしげ腕を組む。

 「記憶がなくなっているみたいね」

 困った顔をするミゲルとアナベル。

 「私は情報を探るスパイをしていた。ヨーロッパにいたら氷川丸から中止の暗号が来て帰国したんだ。なんでかわからない。僧侶になったのは仏教に興味があったのと祖父が僧侶だったからというのもある」

 御厨は説明した。

 「ジエンさんから預かりました」

 龍の置物を渡す翔太。

 「それは持っていていい。今、この国だけでなくこの星に危機がおとずれているからね。どこに発生源があるか知らせてくれる。安土桃山時代や江戸時代初期に特命チームが結成された事があるんだ。役に立つ」

 御厨は袈裟の中から筒状の箱を渡す。筒状の箱にはスライド式の数字が並んでいる。数字を合わせないと中の物が取り出せない仕組みになっている。

 「邪魔が来ないうちに戻りなさい」

 御厨は周囲を見回しながら促した。



 房総沖六十六キロ。接続水域

 一隻の大型タンカーが航行している。それはどこの海域にもタンカーは普通にいる。

 タンカーに接近六隻の海保の巡視船。

 「ロシアと北朝鮮が教えてくれたタンカーはこれで合っている?」

 三神と朝倉は船籍と船名を確認する。

 昨日の尖閣諸島の戦闘の後、ロシアと北朝鮮からこのタンカーともう一隻の大型コンテナ船に気をつけろという警告が来た。それだけでなく中国軍の艦船が民間船に化けてやってくるからという警告も受け取っている。

 「海上保安庁である。そこの船止まれ」

 中国語で警告する沢本。

 停船するタンカー。

 甲板に中国人船長が出てくる。

 「積荷は禁止されている武器や兵器というのは知っている」

 香川は中国語で指摘する。

 中国人船長は舌打ちするとベルを鳴らした。

けたたましいベルが鳴る。

 テレポートしてくる五千トン型海警船と三千トン型海警船が三隻。六百トン型海警船が五隻現れた。金流芯と馬兄妹と箔麗花と夏鴎歌である。

 「ひさしぶりだね。ここは公海でもうすぐ接続水域だから警備していたんだ」

 しゃあしゃあと言う金流芯。

 「ここはEEZだけど。港には入れられないから帰れば」

 大浦は入港禁止の警告文を送信する。

 「ディスペル」

 三島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えてガラスが割れるような音が響いて陽炎が揺らぎ周囲のバリアが壊れた。

 接続水域に接近していた数百隻の大型コンテナ船とタンカー、貨物船の正体があらわになった。

 中国海軍の空母「遼寧」イージス艦「蘭州」

と一万トンクラスの大型駆逐艦が何十隻かいて中型のフリゲート艦と駆逐艦がいてそれらを合わせると数百隻になる。それ一緒に海警船が数百隻いる。船橋や艦橋の窓に二つの光が灯り全部ミュータントである。

「こんなに?!」

驚きの声を上げる三神と朝倉。

「自衛隊の主力部隊は九州海域にいる。なら今が攻め時なんだ」

遼寧は声を荒げた。

「そんな事はさせないさ」

沢本は汽笛を鳴らした。

テレポートしてくる護衛艦、掃海艇のミュータントが二十隻現れた。それだけでなく海保の大小巡視船が三十隻現れる。沿岸警備隊チームメンバーまでいる。

「遅れてごめん」

空母「ヴァルキリー」が現れた。オルビスが変身している。それにパンサーアイのメンバーの駆逐艦やフリゲート艦までいる。

「バカな!!」

絶句する遼寧と金流芯。

「太平洋にいる部隊が留守番部隊だと思ったんだ。残念だね」

オルビスがしゃらっと言う。

「やっちまうんだ!!ここを攻め落とせば中国の物になるんだ。富士山も中国のもので中国語にしてやるんだ。次は南シナ海の国々も併合して中国の物になるんだ」

鼓舞する蘭州。

「本当に聞いてあきれる」

あきれかえる佐久間。

「中国は終わったね」

青山がわりこむ。

「中国は終わっていない。世界が中国をコピーするんだ。日本も台湾も韓国も併合でロシアもオーストラリアも中国の物にして世界中を中国にしてやる」

金流芯が言い返す。

「中国の物になったらアメリカと太平洋を割譲するんだ」

蘭州が声を荒げる。

どっと笑い出す間村達。

「本当に中国は終わったな」

沢本がしれっと言う。

「後悔するなよポンコツ」

間村が声を低める。

「やってしまえ!!」

遼寧が叫んだ。エレベーターが動いてスホーイ33にそっくりの戦闘機が一〇〇機現れて飛び立つ。コクピットに二つの光が灯る。

「五十キロ離れた海域の駆逐艦を沈めてしまえ」

編隊長機が叫ぶ。

レーダーに護衛艦「ひょうが」艦隊がいる。その艦隊が普通の船であるのは気配でわかる。

するとどこからか飛翔音が聞こえてミサイルが何機かの殲ー15に命中した。撃墜されて海に落下した。

接近してくるF-15JとF-2の編隊と特命チームとパンサーアイメンバーの戦闘機のミュータントまでいる。

「撃ち落とせ!!」

中国側の編隊長機が叫ぶ。

ミサイルをかわす大野とアンナ。

チャフのせいでミサイルがあさっての方向へ飛んでいく。

大野とアンナは四対の鎖を機体から出して先端部を槍に変えてミサイルをかわして槍で次々と突き刺してコアをえぐっていく。

接近するFー18とスホーイ35。レベッカとリアムである。

レベッカは機体から四対の鎖を出し、先端部をチャクラムに変えた。

チャクラムは、古代インドで用いられた投擲武器の一種。日本では戦輪、飛輪や、円月輪とも呼ばれ忍者が使用した。中国の格闘用武器の一種では圈。真ん中に穴のあいた金属製の円盤の外側に刃が付けられており、その直径は十二ー三〇センチ程。投擲武器としては珍しく斬ることを目的としている。

レベッカきりもみ状態で飛び、数十機もの戦闘機の機体をえぐる。コアをえぐられ次々に爆発した。

リアムは六対の鎖を出して先端部を槍状に変えてなぎ払いながら駆け抜ける。

数十機の中国軍の戦闘機は機体をえぐられ爆発した。

ライエンとマドレス、ツアーロはミサイルを発射。少し離れた海域にいた二隻の貨物船に命中する。この船は普通の船だが中国軍の所属船である。真っ二つに折れて沈没する。

専守防衛の一環で攻撃許可は取っている。

「撃て!!接続水域内に入れるな」

間村は叫ぶと掃海艇のコアをえぐった。

「佐久間さん。別の電波が出ています」

貝原が通信にわりこむ。

「電波?」

佐久間はフリゲート艦のコアをもぎ取る。

「いくつかの国を経由しているけど中国軍と中央ザイードです。中国軍の方は少し指揮系統に混乱が見られます」

山下が説明する。

「国際ハッカー集団アウンノウンが中国軍の司令部にハッキングしています」

貝原が指摘する。

二人は「ひゅうが」にいる。

「その電波の一部は都内です」

貝原が地図を送信する。

「東京?」

聞き返す佐久間。

「たぶん北のスパイの言う中央ザイードのスパイです。二か所です。新宿にある中国系企業と議員会館です」

答える山下。

「議員会館ってまずくないか」

間村がわりこむ。

「許可が下りないと捜査もできません」

貝原が言う。

「レナ議員達の頼むしかないわ」

佐久間が言った。


その頃。東京の新宿。チョウ産業

とあるビルに警察車両が集まる。目つきの鋭い男女が出てくる。その男女達と一緒に羽生、田代、エリック、和泉、カルル、フラムが建物に入る。

「何の用でしょうか?」

受付嬢がたずねた。

「警視庁の捜査一課です」

「インターポールです」

中年の刑事とカルルは手帳を見せる。

「家宅捜索令状です。密輸入と他国政府の要人殺害容疑がかかっています」

中年の女性刑事が令状を見せた。

ダンボールを抱えた刑事達が格フロアに入っていく。

携帯に出る田代。

「こちら貝原。電波が議員会館と今いるビルから出ています」

貝原が指摘する。

「この電波は暗号通信で送信しています。そちらにメールを送りました」

山下がわりこむ。

「わかった」

うなづく田代。メールをのぞいた。

「え?司令部?」

田代が首をひねる。

「マジかよ。今いるフロアとは別のフロアに司令部があり、カメレオンと中国兵がいるならSATを呼ばないと無理だな」

うーんとうなる羽生。

「だから俺達が来たんだ」

消防士の男女が入ってくる。

「高浜さん」

和泉が驚く。

「羽生さん達は証拠を見つけてください」

時雨が小声で言う。

羽生と田代はうなづく。

「東京消防庁です。消火設備の点検で来ました」

高浜は受付嬢に言った。

 

 その頃。東京湾

 東京湾に入ってくる三隻の大型客船。

 「こんなに簡単に入れるなんてな」

 ゴールデン・エラはクスクス笑う。

 「海保ミュータントは自衛隊のミュータントと一緒にいる。パンサーアイの連中もだ」

 フォーレンダムがわりこむ。

 「ショータイムよ」

 笑うヴァーゴ。

 フォーレンダムの船外に飛び出す中国民兵。海に飛び込み漁船に変身した。そのうちの五隻はフリゲート艦だった。

 「あらあら。どこに行くの?」

 飛鳥Ⅱとクイーンエリザベス2号が島影から出てきた。ケインとイスラが変身している。

 「懲りてないね」

 クリスタルシンフォニーとセレニティがわりこむ。

 セレブレティミレニアムとサミット、アマデア、にっぽん丸とふじ丸が出てきた。

 「シーボーンソージャンがいないね。確か自衛隊と一緒にいたし、「かが」に変身していたのはパオリだったよね」

 ヴァーゴが指摘する。

 「やってしまえ!!」

 ゴールデン・エラが叫んだ。

 クイーンエリザベス2の船体が紫色のオーラに包まれ二つの光が怪しい紫色に輝いた。

 手前にいた漁船五隻の船体から氷柱が生えカチコチに凍った。

 フリーゲート艦五隻はミサイルを発射。

 二対の錨を出すケイン。彼女達の手前でミサイルは爆発した。

 フォーレンダムは六対の鎖を出した。そこから無数の細い鎖が飛び出す。

 「なにこれ?」

 にっぽん丸とふじ丸、アマデアの船体にクモの糸のようにくっついた。

 「そいつねスパイダーマン能力があるのよ」

 シンフォニーは説明しながら三隻の漁船を捕まえてコアをえぐる。

 「そうなんだ。ファイア」

 にっぽん丸は呪文を唱えた。せつなからみついている鎖が全部燃えた。

 「千手の舞」

 ゴールデン・エラは奇声を上げると一〇対の鎖と二対の錨を出して動いた。

 速射突きを受け流すにっぽん丸、ふじ丸、アマデア、ミレニアム、サミット。

 ケインは四対の鎖から光る玉を出すとそれを投げた。それは槍に変形して四隻の漁船に命中して爆発した。

 中国語で呪文を唱えるヴァーゴ。力ある言葉に応えて虚空から溶岩の塊がいくつも降ってくる。

 ケインの張ったバリアで弾かれた。

 魚雷を発射するフリーゲート艦。

 シンフォニーとセレニティの二対の鎖が怪しく赤色に輝いた。すると、七発の魚雷はあさっての方向に進み爆発した。

 中国語でののしる五隻のフリゲート艦達。五隻は逃げ出した。

 「逃がしませんよ」

 イスラがクスクス笑う。怪しく紫色に輝く。

 五隻の中国軍の艦船は氷柱が生えてカチコチに凍った。

 フォーレンダムは船内から爆弾を何十個も取り出すと投げた。

 「クモの糸はどうしたの?」

 にっぽん丸がからかう。

 間隙をかわすと金属ドリルでフォーレンダムの船体を何度もえぐった。

 くぐくもった声を上げるフォーレンダム。

 ミレニアムの体当たり。

 大きく揺れるゴールデン・エラ。

 「中国民兵と艦船のミュータントは片付けたけどどうする?」

 サミットが声を低めた。

 舌打ちするヴァーゴ。

 「ミニマム」

 セレニティは呪文を唱えた。力ある言葉に応えてヴァーゴ、ゴールデン・エラ、フォーレンダムは全長一メートルの模型サイズに縮小した。

 シンフォニーは三隻を捕まえて大型犬用のゲージに放り込んだ。

 「こいつ捕虜」

 ケインはふじ丸に渡した。

 「自衛隊に持っていくの?」

 ふじ丸は受け取る。

 「Tフォースの横浜事務所よ。遼寧も捕まえたら交渉に使える。中国政府がまともに考えられればいいけどね」

 ケインはうーんとうなる。

 「あんたたちはどこに行くの?}

 にっぽん丸が聞いた。

 「接続水域にいる佐久間達と合流するの」

 ケインが言った。


 永田町

 議員会館の前にパトカーとTフォースのマークが入った車が止まった。車から降りてくるベック支部長と三人の隊員と警官二人。

 「何か用ですか?}

 警備員二人が近づく。

 「田宮千鶴議員に事情聴取です。密輸容疑と政府関係者殺害とスパイ容疑です」

 ベック支部長達は手帳と令状を見せた。

 「わかりました」

 警備員は退いた。

 五階のフロアーに出てくるベック達。彼らはドアをノックもせずに入った。

 「なんですかあなた方は?」

 男性の秘書が近づいた。

 「Tフォース日本支部のベックです」

 ベックはTフォースの手帳と捜査令状を見せた。

 ”その部屋からです。彼女が持っているパソコンです”

 耳にかけてある小型マイクから貝原と山下の声が聞こえた。

 「ハンターと警察も一緒にって何かあったのですか?」

 パソコンを操作していた女性議員が顔を上げる。長髪で小顔。体は小柄である。渋谷や原宿にいそうな雰囲気だ。

 「あなたにスパイ容疑と密輸容疑、政府関係者殺害容疑がかかっています。事情聴取に応じてもらえますか」

 ベックは令状を見せた。

 「任意ですか?」

 田宮は近づいた。

 「警察での事情聴取です」

 ベックは言った。

 「では行きますよ」

 笑みを浮かべる田宮。せつな、金属の爪をベックは短剣で弾いた。

 秘書は銃を抜いた。隊員の一人は短剣で弾いた。銃を落とす秘書。

 田宮の金属の爪による突きをかわすベック。

 秘書は牙を生やし飛びかかる。二人目の隊員は受け流す。秘書は壁や天井を這いまわりながら飛びかかる。

 一人目の隊員ともつれ合うようにひっくり返るが秘書は地面に転がる。秘書の胸には彼が突き刺した短剣が刺さっていた。

 田宮のかかと落とし。

 ベックは飛び退いた。そこにあったテーブルが真っ二つに割れた。

 田宮は地面を蹴り、壁を蹴り両方の金属の爪を突き出しながら回転する。

 飛び退くベック。

 壁がベニヤのようにえぐれ破片が飛び散り廊下に飛び出る田宮。

 警官の警棒をその金属の爪で切断し、後ろ回し蹴り。ひっくり返る警官。せつな、天井から落ちてくる網。彼女はとっさに二人目の警官の腕をつかみ突き飛ばす。網が警官にかぶさった。

 彼女は槍を出した。それは左右に槍がついている武器である。ベックや隊員二人の剣を弾き、なぎ払う。

 田宮はそばに設置していた消火器をその爪でえぐった。白い粉が勢いよく噴き出した。

 「わっ!!?」

 ベック達はのけぞる。

 田宮は五階の窓から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

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