第2話 異変と罠

 横浜港大桟橋

 二人のイギリス人女性が近づいた。

 「マチュアとカチュアじゃない。帰ったんじゃないの?」

 ケインが振り向く。

 「まだ用は済んでいないの。ねえ、あんたに依頼があるの。月夜の花メンバーに依頼があって東京駅にやってくる客を見つけてほしいの」

 依頼書を見せるマチュア。

 「あんたがやれば?それにこれは魔術師協会の食堂にある掲示板にあった依頼書ね。それもイギリスの」

 ケインは突き返した。

 「私は依頼人の代理で来ている。東京駅で在来線では乗ってこない客で新幹線に乗ってくる客よ。その客は時空の穴を封印できる遺物を手がかりを持っている」

 カチュアが説明した。

 「あんたはバカ?」

 わざと大きな声で言うケイン。

 大桟橋にいた観光客や家族連れが振り向く。

 「バカとは何よ!!」

 目を吊り上げるマチュアとカチュア。

 「東京駅は山手線や京葉線とか新幹線も何本も乗り入れしていて乗客もハンパなく多いし、迷宮だし複雑。そんな中から一人なんて見つかるわけがないじゃん」

 ケインは顔を朱に染める。

 「だから依頼人の代理で来ただけ!!」

 マチュアは言い返す。

 「警察に行けば?この間は米軍と一緒になって行動しているし怪しい行動はするし信用度はゼロだからやだ」

 依頼書を突き返すケイン。

 「あんたへの依頼だから受けてよ」

 カチュアは強い口調で言う。

 「やだ」

 ケインがあっさり言う。

 マチュアは思わず腕をつかむ。

 「何するのよ!!」

 マチュアのほおを引っぱたいて押し倒すケイン。彼女に足払いされカチュアはひっくり返った。

 ケインとマチュア、カチュアはもつれ合いながらスロープを転がり、ケインはマチュアを蹴っ飛ばした。

 手すりにぶつかるマチュア。

 ケインはマチュアを連続でビンタする。

 マチュアは彼女の背中に膝蹴りして押しのけ、馬乗りになってビンタ仕返した。

 「そこの三人。警察です」

 自動ドアが開いて数人の警官が駆けつけてくる。

 「なんで?」

 カチュアを押しのけるケイン。

 「ケンカの一報が入ったからに決まっているでしょうが」

 女性警官は冷静に言うとケインに手錠をかけた。

 「ウソでしょ」

 マチュアとカチュアが驚く。二人の手首にも手錠がかけられた。

 「私は探偵です」

 マチュアとカチュアは名刺を見せる。

 「詳しい事は署で聞きます」

 男性警官はピシャリと言った。



 その頃。東京港

 大井埠頭に複数の警官と鑑識課の職員が現場検証をしていた。

 「なんで俺達が呼ばれるんだ?所轄の刑事で間に合うと思うけど」

 羽生は首をかしげた。

 「死んだ仏さんはどうやら黒人で魔術書を持っていたからですって」

 田代が答える。

 エリックとスミスは魔術書を手に取る。

 「影の世界史」と「ネクロノミコン」と書いている。

 「”影のフランス”という本は知っているけど「影の世界史」は初耳ね。影のフランスは実際のフランス史とはちがう歴史が書かれているけどこれもその系統らしいわね」

 田代は書物をめくりながら指摘する。

 「パスポートがあったけど国籍はサルインみたい」

 和泉が財布からパスポートを出す。

 「サルイン?」

 羽生が聞いた。

 「アフリカにある国だよ。南アフリカやケニアみたいにうまくいっているし、原油もある程度採れて、鉱物資源も豊富にある。フォーアイズ事件の前に隣国のリベルタがカメレオンの地上部隊と一緒に侵攻してきた。それをパンサーアイが結成されてサルインから追い出した」

 エリックはタブレット端末で新聞記事や地図を出した。

 「すごいデカイ戦車だ。砲身が三門ある戦車なんて初めてだし、普通の戦車を子分のように従えているし、光る模様がくっついている。でもニュースには載らなかった」

 驚く羽生達。

 「どこもそうだけどアフリカでの出来事と思われていたけどパンサーアイが巨大戦車を破壊して、港に造られたテレポートアンカーとウオーデンクリフタワーを破壊して、リベルタ国内に入ったらターミネーターに出てくるようなタイムスリップ装置が建設され、カメレオンの孵化場が造られ、ダーラムは異星人だった。本当は時空侵略者の本格的な侵攻作戦の橋頭堡や司令部が造られる寸前だった」

 和泉は説明した。

 「アフリカの国々はソマリアみたいに貧しい国やうまくいっていない国が多いからな。そう思われてもしかたないかな」

 うーんとうなる羽生。

 「失敗国家を今度は利用しはじめたのかもな。カモフラージュしやすい」

 エリックが腕を組む。

 「入国管理局からだけど問い合わせしたらこの仏さんはサルインの随行員の一人で通訳みたいよ」

 田代がタブレット端末を見せる。

 「なんで政府の随行員が死体になっている」

 首をかしげる羽生。

 「今、サルイン大統領夫妻が来日しているそうよ。議題内容はパンサーアイの報告とアフリカの現状。中国とカメレオン、失敗国家のつながりや危険なテロ組織の現状が話し合われるの」

 和泉が説明する。

 「でも確かその五日後はアメリカ大統領が来日するというのを聞いた」

 あっと思い出す羽生。

 「その前にカメレオンと中国の動向と時空の亀裂の現状報告だ。日本とフランスとサルインは共同でパンサーアイの本部に資金を出しているからね」

 エリックが答える。

 「サルイン大統領夫妻来日に合わせてパンサーアイのメンバーが観光で来ているそうよ」

 和泉が端末にメンバー写真を見せる。

 黒人メンバーとフランスやオランダ人に混じって日本人が二人いる。

 「すげえな。マサイ族までいるし、日本人二人は海保の保安官なんだ」

 羽生が指摘する。

 「これがその時の新聞」

 和泉が画面を切り替える。ロイター通信の紙面が出る。


 ”またまたサムライがやってくれた”

 ”真のサムライである”


 紙面にはサルインとリベルタに起きた戦争の概要やカメレオンの地上部隊や孵化場、パンサーアイメンバーの写真が載っている。

 「いずれにしても随行員を殺害した犯人は国内にいるわね。カメレオンの地上部隊が出現したら次はスパイや暗殺部隊がいるのかもしれない」

 和泉が危惧する。

 「スパイや暗殺部隊がいるならどこかにアジトがあるし、手引きした仲間がいる。何も起こらないで無事に帰国できればいい」

 エリックはうなづいた。


 横浜海上保安部

 官舎の二階にある会議室

 月夜の花チームと間村達と別れて室内には三神達と海江田と香川がいる。

 「特命チームに北の工作員がいるのは知っている。このチームには中国の海警船がいるんだな」

 香川は李紫明をにらんだ。

 「そっちのチームにも北の女工作員がいるでしょ。それにこの人は誰?」

 李紫明は黒人の隊員を指さす。

 「サルイン沿岸警備隊のギルムです」

 黒人の保安官は名乗った。

 「もう二人紹介するわ」

 海江田が指を鳴らす。

 部屋にフランス人女性とイタリア人男性の沿岸警備隊員が入ってくる。

 「ベレッタとリヨンじゃない」

 大浦と三島が声をそろえる。

 「他のメンバーは東京観光よ」

 ベレッタが口を開く。

 「パンサーアイは本部があのサルインと李ベルタの戦争後に設立されたばかりだ。ただまだ異変が続いている。アフリカでは白い動物が連続で出現した」

 リヨンがパソコンを立ち上げる。

 画面に白いゴリラやライオン、ヒョウといった類である。

 「太平洋に現れたのは都市の蜃気楼と五個の虹。白いザトウクジラだったんだ」

 沢本はモニターを切り替える。

 映っているのはシロナガスクジラではなく形といい姿はザトウクジラである。

 「そういえば白いトビウオがいたし、満開の桜が全部白い花だった」

 あっと思い出す朝倉。

 「ショクダイオオコンニャクの花まで白一色でアジサイも真っ白だった」

 沢本がふと思い出す。

 教官の更科は奥から新聞を持ってきた。読売新聞や毎日新聞から地方新聞まで混じっている。紙面には


 ”春の風物詩に異変。桜の花が全部白色に変わる”

 ”桜の名所。困惑。花が全部真っ白に”

 ”河津桜に異変。花が全部白色に”

 ”アジサイの名所困惑”

 ”気象庁大困惑”

 

 「日本でも異変が起きていたのですね」

 ギルムが口を開いた。

 「二年後の東京オリンピックは大丈夫なんだろうか。ちゃんと出来るのだろうか」

 心配する朝倉。

 「確かに異変続きね。桜といったらピンク色なのにソメイヨシノが真っ白な花をつけるし、アジサイの名所のアジサイがみんな白い花だったしヒマワリも小さいのしか咲かなかった」

 大浦は地方新聞の表紙をめくる。

 「アフリカで白い動物や都市の幻影が連発して出現するのはどこかに時空の穴や揺らぎがあるのとリベルタ国内でダーラムがタイムマシンを建設していた事が原因だった」

 香川は画面を切り替える。

 画面にはサルインに侵攻する巨大戦車と子分の戦車。港の発電所には灯台型のタワーが建設され、リベルタの国境にはウオーデンクリフタワー一〇基、首都郊外に研究所にはタイムマシンが映っている。

 「砲身が三門ある戦車と子分戦車の車体には光る模様がある」

 三神と朝倉が声をそろえる。

 「この装置はターミネーターの最新作でサイバーダインが建設していたのとそっくりだ。この灯台型タワーは発電所の隣りにあるんだ」

 三島、大浦、沢本、貝原がのぞきこむ。

 「コア部や大事な部分は日本製で、それにダーラムはエイリアンだった」

 海江田は画像を切り替えた。

 雄牛のような角を生やし、皮膚は灰色。身の丈が三メートルの異星人が映っている。

 「確かに日本製は技術的にも品質がいい。逆に悪用されやすい。特にテレポートアンカーの動力は魔光炉の鉱石で南アフリカやペルー産だった」

 ベレッタが指摘する。

 「いずれにしても異変の発信源を突き止めないとダメね」

 大浦が言った。



 警視庁。魔物対策課

 羽生、田代、エリック、和泉が部屋に入ってくる。

 「帰ってきたんだ。お客さんが来ている」

 初老の課長があごでしゃくる。

 「お客さん?」

 四人が聞き返す。

 「サルインのセントラルプライム警察署から来ましたカルルです」

 黒人女性は名乗った。

 「税関署の出向職員でフラムです」

 黒人男性が名乗った。

 「刑事と鑑定人ですか?」

 田代が聞いた。

 「確かパンサーアイメンバーに入っているのを名簿で見たわ」

 あっと思い出す和泉。

 「成り行きで僕達はメンバーになりました。異変に気づいた時はリベルタが侵攻してきた時であの時はアナベル様を連れて脱出しなければ捕まっていた」

 重い口を開くフラム。

 「報道管制とかしているのかな?ニュースではあまり報道されてないよ」

 課長がわりこむ。

 「五十嵐課長。ネットでは話題になってますね」

 隣りの資料課から出てくる中年の男性。

 「彼は?」

 カルルがたずねた。

 「彼は資料課の刑事で名取秀雄」

 五十嵐が思い出したように答える。

 「アフリカでの出来事と思われているのはアフリカには失敗国家や貧困国とかソマリアのような国があるからだと思います」

 名取は古本を何冊か持ってくる。

 「その本は影の世界史ですね」

 フラムが気づいた。

 「私達は行方不明の随行員を探していた。名前はサミュエル・バーボン。通訳です。彼は影の世界史とか影のフランスという古本を借りていた。研究しているというのは聞いた事がないの」

 カルルはデスクパソコンに画像を出す。

 「影のフランスは教科書にあるような歴史ではなくまったく異なるフランスの歴史が書かれ、影の世界史も時空侵略者から見た事実とは異なる世界史になっています」

 それを言ったのは名取である。

 「影の世界史には時空の亀裂や穴を封印する時空遺物の事が書かれています。その中でも有力なのが「時空の王錫」というのがありそれがあればどんな大きな時空の亀裂や穴や揺らぎをふさぐ事ができるそうです」

 フラムが説明して本を開いた。

 「何語?」

 首をかしげる羽生達。

 「これはヘブライ語とラテン語ですね。王錫はメタリックに光り、内部に複雑な機械が埋め込まれている不思議な古代遺物と書かれている」

 フラムは翻訳しながら説明する。

 「翔太君が持っているような時空兵器でしょうか?」

 田代が指摘する。

 「アナベル様の一族と死んだダーラムの一族は千年前、かつて一つだった。それが考え方の違いから強硬派と穏健派に別れた。アナベル様の一族が穏健派でダーラムの一族が死刑執行人であり強硬派ね。アナベル様の一族は代々、時空遺物を所持していて時空兵器かわからないけど時空侵略者に傷をつけられる弓矢を持っていた。たぶん葛城家が持っている時空兵器と同類の物だと思う」

 カルルは説明した。

 「こうして僕達がいるのもパンサーアイのおかげだと思います」

 フラムはどこか遠い目をする。

 「サミュエルは誰と会っていたのかそれを突き止めないといけないわね」

 田代は言った。



 その頃。ショッピングモール

 フードコート内のテーブル席に翔太、オルビス、佐久間とミゲルがいた。

 「空港まで迎えに来てくれてありがとう」

 ミゲルは紅茶を飲んだ。

 「でもなんで急に日本に?」

 翔太が疑問をぶつける。

 自分達はさっきまで相模湾の訓練場にいた。父親から電話があってミゲルが日本に急に来る事になったから羽田空港まで迎えに行ってくれないかという依頼で佐久間さんとオルビスに頼んだのだ。

 「アフマド国王は自分の息子のアーガイル皇子に政権を譲ろうとしているわね」

 佐久間はタブレット端末を見せた。

 ロイター通信やニューヨークタイムズといった新聞社の紙面にサウジアラビアで王子を四十人拘束されると出ていた。

 ミゲルはうなづいた。

 「父から聞いた話では四十人の王子はリベルタとサルインの戦争に関係があってリベルタに武器や兵器を売ったのではないかという疑いがかかっているから資産没収の上に刑務所行きになった。高級ホテルじゃなくて本当に刑務所に入れられたみたい。ザンダー王子はダーラムと親交があったみたいで資産没収の上に一族ともども刑務所入れられたみたいなんだ。そしてアフマド国王とアーガイル皇子はアフリカの失敗国家と手を組んでいる王子や王族関係者を調査している。たぶんまだ逮捕者は増えるんじゃないかと思う」

 ミゲルは重い口を開いた。

 「だからほとぼりが住むまで日本に?」

 翔太が納得する。

 「父は外交官だから行けれないから僕だけ来た。大使館にオーグリム大使がいるから困ったら彼に頼むつもりだった」

 ミゲルが紅茶を飲んだ。

 「住む所は僕の父さんに頼めば新木場にある支部の宿舎に泊めてくれると思う」

 翔太がさとすように言う。

 うなづくミゲル。

 「サウジでは白いラクダがいたから写真に撮ったんだ」

 話を切り替えるミゲル。彼は携帯に撮ってある画像を見せた。

 「白いラクダ?僕達はフォーアイズ事件の前に太平洋の調査に行って白いザトウクジラとトビウオを見つけた。あと今年は異変続きで桜とアジサイが全部真っ白だった」

 あっと思い出す翔太。

 オルビスはタブレット端末を出して上野公園や目黒にある桜並木の写真を出した。そこに映る桜の花はピンクではなく真っ白である。

 佐久間はタブレット端末の画像を切り替えて有名新聞社の紙面を出した。全部、桜の異変を伝える記事である。花が真っ白で桜の名所や桜で有名な観光地が困惑している記事となっている。

 「僕は白いコブラや白いサソリを見た。たぶん精霊が警告していると思う。どこかに時空の穴や亀裂がある」

 ミゲルは声を低めた。

 その時である。グラスが割れる音や倒れる音が聞こえ悲鳴が上がった。

 「ねえ大丈夫?」

 「あなたしっかりして」

 隣りの席にいた男性客がおなかを押さえて椅子が転げ落ちる。それはここだけでなくフードコート全体で二階や三階のカフェからも聞こえてくる。

 「食中毒?」

 翔太が聞いた。

 「それとはちがうみたい。薬物の匂いがする。それのせいだと思う」

 オルビスが隣りの客を介抱しながら言う。

 「それもそうね。こういうところなら管理は徹底しているし普通の食中毒ではないかもしれない」

 佐久間は冷静に言った。

  

 三十分後。

 ショッピングモールの玄関に複数のパトカーと救急車両が止まっている。警官達や鑑識課の職員が現場検証をしていた。

 その様子を見ている翔太達。

 「佐久間さん翔太君ですか?」

 不意に声をかけられて振り向く翔太達。

 「羽生さん。その二人は?」

 翔太が聞いた。

 「サルインの警察署から来たカルル刑事と税関職員のフラム鑑定人」

 羽生が紹介した。

 「サルイン?」

 ミゲルとオルビスが聞き返す。

 「今、サルインから大統領夫妻と国王夫妻が来日している。その関係でパンサーアイのメンバーも来日している。ほとんどのメンバーは観光よ」

 カルルはタブレット端末を出した。

 国王夫妻が天皇陛下と会っている写真や大統領夫妻が三宅総理と会談している写真が写し出される。

 「夕方のニュースはこの食中毒事件で持ちきりで扱いは小さそうね」

 田代がため息をつく。

 「もうネットに上がっている」

 ミゲルと翔太が声をそろえる。

 「でも食中毒ならこんなにたくさんの人達がすぐになるわけがない。従業員の管理もしているだろうし、仕入れの段階で食中毒菌があるならすでに従業員や業者もなっていておかしくないです」

 オルビスが気になる事を指摘する。

 「たしかに我々もおかしいと思っている。ほとんどが客で従業員に感染はない。薬物の可能性があると見ている」

 エリックがうなづく。

 「僕達はそのままフードコートに来たんだ。たぶんエスカレーターの手すりかエレベーターのボタンに何か塗ったと思います」

 翔太が推測する。

 「そっから先は警察の仕事です」

 はっきり言う羽生。

 「わかりました」

 翔太がうなづく。

 「話があるの。警視庁に来てくれる?」

 カルルが口を開いた。

 「はい。行きます」

 翔太達は声をそろえた。



 その頃。横浜警察署

 玄関から出てくるケイン。

 「氷川丸はなんで来ないの?」

 不満をぶつけるケイン。

 五時間くらい留置場にいた。そしたらすぐにマチュアとカチュアの二人は大使館員が来て出れたけど自分はそのまま誰も来ない。

 「忙しいからに決まっているでしょ。アマデアとか長島とかいたけど仕事だから迎えに来られないから来たの」

 当然のように言うイスラ。

 「みんなたいがいそれを口実に来ない。でも出られたからいいわ」

 ケインは携帯をいじりながら言う。

 「それとあのバカ姉妹が私に押し付けてきたんだけど東京駅に来る一人の乗客から荷物を受け取る仕事の依頼書の内容よ」

 思い出すイスラ。

 「そんなのガセネタよ」

 しゃらっと言うケイン。

 「これはイギリスの魔術師協会の食堂にある依頼書で本物よ。初代クイーンメリーと初代クイーンエリザベス号のサインがある」

 指摘するイスラ。

 「本当だ」

 のぞきこんで納得するケイン。

 「都内のショッピングモールで食中毒?」

 イスラは携帯画面のニュースを見て驚きの声を上げる。

 「え?」

 「この人は羽生刑事と佐久間じゃん」

 ケインが指摘する。

 チラッと翔太やオルビス、ミゲルの姿が映っていた。

 「警視庁に行ってみよう」

 二人は顔を見合わせうなづいた。

 

 

 警視庁 魔物対策課

 「なんでミゲルもいるの?」

 田代が口を開いた。

 「この記事を知っている?」

 佐久間はタブレット端末を見せた。記事にはサウジアラビア王室で権力闘争かという見出しで王子が四十人拘束されると書いてある。

 「もしかして巻き込まれないように日本に来たんだ」

 エリックと和泉が声をそろえる。

 「権力闘争と書かれているけど本当はリベルタや失敗国家に兵器や武器を売買したのではないかという疑いで刑務所だよ。高級ホテルに拘束されて疑いが確定だと資産没収の上に本当に刑務所行きになる。ザンダー王子はダーラムとの親交があって資格も失い、資産没収されて一族郎党ともども刑務所に入れられた」

 ミゲルは説明した。

 「住む所は決まった?」

 田代が聞いた。

 「新木場の支部にしばらくいるつもりです」

 うなづくミゲル。

 「それはよかった」

 しれっと言う羽生。

 「すいません。魔物対策課に依頼したいという方が来ています」

 警官が三人の男女を連れて入ってきた。

 「イスラとケインじゃないの。その人は?」

 佐久間が聞いた。

 「知らない人。一階の受付でたまたま一緒になった」

 ケインが答えた。

 「僕は長野電鉄から来ました山口です。電車のミュータントの代表で来ました」

 山口と名乗った男性は口を開いた。

 「君は元小田急ロマンスカーと融合しているんですね。譲渡先は長野電鉄で特急として走っている」

 ホームページを見せる翔太。

 「はい。そうです」

 うなづく山口。

 「その電車さんが何の用ですか?」

 羽生がわりこむ。

 「実は行き先不明列車が東京駅から出発するのをご存知ですか?しかも終電が行った後で列車が出発するんです」

 東京駅の写真を出す山口。

 「行き先不明列車?」

 聞き返す翔太達。

 「別名幽霊列車。乗せるのはホームレスや身寄りのない日雇い労働者。しかもどこかに連れ去られると二度と帰ってこない」

 山口が声を低める。

 「それは鉄道警察隊に言ってください」

 羽生が言い聞かせるように言う。

 「言いました。魔術師協会とミュータント協会とJRにも言いました」

 声を上げる山口。

 「誰も取り合ってくれないから来たの?」

 イスラが聞いた。

 「その貨物を牽引する機関車の車体には光る模様があるんです。それ以外の電車にも光る模様があるんです」

 山口は写真を何枚か出した。

 「豪華寝台列車の「四季島」「瑞穂」じゃなくて?」

 佐久間が聞いた。

 「あの豪華寝台特急はあの時間は新潟と大阪でした」

 時刻表を見せる山口。彼は依頼書を出した。

 「どこで作成してもらったの?」

 和泉が聞いた。

 「マシンミュータント協会に行って作成してもらいました」

 山口は声を低める。

 「確かにこれはマシンミュータント協会のハンコね」

 佐久間はうなづく。

 「じゃあ終電後の東京駅に見に行こうよ」

 それを言ったのは翔太である。

 なんでかわからないが気になる。光る模様のある機関車や電車が本当ならカメレオンの潜入部隊の可能性がある。

 「本当ですか?」

 目を輝かせる山口。

 「本当に行くの?」

 驚くイスラとケイン。

 「もしもカメレオンが電車と融合したらどうする?」

 翔太が聞いた。

 「確かにそうね。調査してみましょ」

 田代はうなづく。

 「よろしくお願いします」

 山口は頭を下げると出て行った。

 

 「ケインとイスラはなんで来たの?」

 佐久間は聞いた。

 「あのバカ姉妹からこの依頼書を無理矢理押し付けられた」

 ケインは依頼書を見せた。

 「これはイギリスの魔術師協会にある依頼書で本物だ」

 エリックは虫メガネでのぞく。

 「依頼の内容は東京駅にやってくる乗客と接触する事。その乗客は一人で来る。外国人で名前はリリー。時空遺物の手がかりを受け取る事」

 内容を読む和泉。

 「東京駅の構造は複雑で迷宮だし在来線や地下鉄、新幹線も何本も乗り入れる。どうやって探す?」

 羽生が困った顔をする。

 「そこよね。首都圏の主な駅はアメリカ大統領の来日に備えて警備が厳しいし、ゴミ箱も撤去されてロッカーも使えない」

 うーんとうなる佐久間。

 「写真があればいいけどね」

 田代が依頼書を見ながら言う。

 「リリーという名前で外国人だとウオーリーを探せと一緒だな」

 羽生はため息をつく。

 エリックは東京駅の断面図をデスクパソコンに出した。

 「ぜんぜんどこかどうつながっているのかがわからない」

 ケインとイスラは首をひねる。

 「僕も」

 翔太とミゲルがうなづく。

 「外国人は東京駅は特に多いわね」

 佐久間がわりこむ。

 「リリーの名前だけで探すのは難しいね。国籍もわからないと無理かも」

 オルビスがうなづく。

 死者の羅針盤を出す翔太。

 ただのコンパスではなくて時空の異変を感じ取れて行きたい場所や探したい場所に針がひとりでにそこを指すのである。誕生日に父から時空兵器と一緒にもらった。

 「目的の人物ってこの人かな?」

 針はポケットを指している。翔太はおもむろに写真を出した。

 「誰?」

 のぞきこむ羽生達。

 「横浜のフリーマーケットで米軍のイージス艦のミュータントがくれたんだ。そいつは見つけたら米軍に知らせてくれないかとか言ってきた」

 翔太が思い出す。

 「顔写真があれば多少は捜査は進むかもしれない」

 田代は言った。

 


 翌日。首相官邸

 会議室に自衛隊の将校を含む閣僚達が出席し、その向かいの席にサルインの大統領、大使、フランス大使とフランス軍将校が顔をそろえている。

 「・・・サルインの置かれている立場は私達もわかっています」

 三宅明弘総理は口を開いた。

 フォーアイズ事件の前にサルインは隣国のリベルタの侵攻を受けていた。侵攻してきたのはリベルタ軍とカメレオンの地上部隊である。ダーラムは占領して発電所を利用したテレポートアンカーや国境にはウオーデンクリフタワー十基。リベルタの首都郊外にターミネーターの最新作に出てくるようなタイムマシン設備が作られ、おまけにダーラムはエイリアンだった。ほっといたら本格的な侵攻作戦が敢行される寸前だったというのを国連の報告書で読んだ。

 「アフリカにはソマリアのような失敗国家もあり貧しい国はあります。あの侵攻はアフリカだけの出来事と思われている」

 アッシジ大統領は話を切り出す。

 「サブ・サンとその仲間にはタイムラインが残っていません。タイムラインを自分のいた世界でも使い尽くしここでも動けない状況です」

 カーボベルテフランス駐留軍のアルミン司令官はわりこむ。

 「中国海警は中国軍の指揮下に入りました。そして周永平主席はこの女と会っています」

 モニターをつけるサルイン国防長官のゲイリー。

 モニターにはロイター通信や共同通信のチャンネルニュースで周主席が黒人女性と握手をしている。

 「彼女は中央ザイード共和国大統領のダナエ・アウオル・ウル・べネディクト。ダーラムの姉です」

 フランス大使がモニターを切り替える。

 画面にアフリカ大陸の地図が出る。中央ザイード共和国はほぼ中央部にある大きな内陸国で欧州四ヵ国が入るほど大きいがアンゴラとコンゴの間にストロー状に挟まれるように港がある。

 「周主席はこの女と組み空母を大連にある造船所で建造しています。ただの空母ではなく空を飛ぶ機能を持っていると思われます」

 ゲイリー長官は中国の地図を出した。

 「すごい突飛すぎませんか?第一に動力は何を使ってしますか?」

 困惑する三宅。

 「ヴェラニウムと魔光石です。中世でも何度も特命チームは結成され魔光石を使った空飛ぶ帆船に乗って転戦していた」

 フランス大使は資料を出した。

 「それは六百年前の話でしょう」

 あきれる財務大臣。

 「それにテレポートアンカーやタイムマシン装置のコア部や重要な部分は日本製です。国境にあったウオーデンクリフタワー内部の基盤は日本製です。今回の空母も重要な部分は日本製品が使用されていると思います」

 アッシジ大統領が指摘する。

 「そんな空母を建造していたら米軍やCIAが気づくと思いますが。米軍は自由の航行作戦をよく敢行しています」

 石崎防衛大臣が首をかしげる。

 「米軍はアテになりません。リベルタとの戦争でも米軍の駐留軍はアフリカにもあって傍受しているハズなのに合流もしないでこの戦車のミュータントを使って邪魔してきました」

 アルミンは写真を出した。

 「エイブラムM-1戦車とイスラエルのメルカバ戦車です。名前はアルゴとロルフ。時空遺物を狙ってきました。特命チームの調査をジョコンダ議員が邪魔をしているのは知っていますし、米軍のこの四人組が邪魔をしてきているのは知っています」

 ゲイリー長官は何枚かの写真を出した。

 「米軍の空母と強襲艦と沿岸戦闘艦のミュータントで空母がクリス、アイリス、レジーとレイスの四人はこの戦車のミュータントと仲がよく連絡を取っています。そしてギニア湾でこのスパイが死体で上がっています」

 フランス大使が写真を出した。

 「この人は確か尖閣諸島の戦いで特命チームの協力者として一緒に戦っていた米軍のイージス艦のミュータントでウイル・コックス少佐です。あの戦いの後、彼は特命チームを離れています」

 楠木幕僚長があっと思い出す。

 「彼は中央ザイード共和国の内情を探る任務についていました」

 アルミンが答えた。

 「ダナエが中央ザイード共和国の大統領になったのは三年前です。彼女が大統領になったとたんに報道管制が厳しくなり、移民や難民を追い出し、国境には壁が出現。旧式の戦闘機や艦船しかなかったのに急速に近代化が進んだ。それだけならいいですが周辺国とも紛争をするようになった。その武器や兵器は中国軍の最新戦車と米軍が持っているようなオスプレイが飛び回っているのが目撃されるようになった。それもたった三年で急激な進歩です」

 アッシジはモニターを切り替えて説明する。

 映像には黒塗りのオスプレイや中国軍の最新型戦車やミグやスホーイ戦闘機に似た機影が映っている。

 どよめく閣僚達。

 「それを教えてくれたのは北朝鮮です。あの国は外貨獲得のために労働者を派遣して注文があれば目的の建造物の建設を請け負っているが今回は国境の壁と海軍基地と発電所の建設だけだそうです」

 フランス大使が説明する。

 「三宅総理。「時空の穴」「時間の穴」というのを聞いた事がありますか?」

 アッシジ大統領が声を低めた。

 「いいえ」

 三宅達は首を振った。

 「三年で軍備増強が出来て最初プロペラ機と旧式のミグ21とミグ19しかなかったアフリカの最貧国が進化したのは「時空の穴」が原因です。本来なら十年かかるものが三年で整備できたのも時間の穴が国内に出現したからだと思います。そして周辺国としょっちゅう紛争を起こして、よこしてくる部隊は斥候部隊や小規模な部隊や工作兵です。我々もスパイを潜入させるのですがかならず死体になってギニア湾で死体になって浮かぶ。死ぬ直前にスパイ達は手紙や写真といった形で手がかりを残す」

 ゲイリーはモニターを切り替える。

 「おそらく推測ですがダナエは中国の周主席と組んで時空遺物を狙っています。それがあればあらゆる時間の穴や時空の穴だけでなく時空の揺らぎでさえふさぐ事ができます。その手がかりは先人達が世界の王室に宝物となって伝わっている物やモニュメントとなって隠されています」

 フランス大使が声を低める。

 「なんで私達に話すのですか?」

 官房長官がたずねた。

 「日本には原発が三十基以上あります。ダナエがおとなしくいるハズがない。テレポーポートアンカーが建設されれば原発なら動力になり、東京タワーやスカイツリーも代用しようと思えばウオーデンクリフタワーの代わりになります。鉄塔でさえもその代わりが出来るという事です。フィリピンのミンダナオのテロ組織との戦闘は知っていますか?」

 アッシジが話を切り替える。

 「イスラム過激組織「アダーラ」とフィリピン軍との戦争ですか?あれはフィリピン政府が彼らを殲滅させた」

 石崎がわりこむ。

 「メンバーのほとんどは黒人で「アダーラ」ではなかった。中央ザイード共和国の兵士というのが調査でわかったそうです」

 サルイン大使が言う。

 「じゃあフィリピン政府が戦った相手はテロ組織ではなく中央ザイード共和国軍の兵士だったと?」

 石崎が声を低める。

 うなづくサルイン大使とフランス大使。

 「日本の立場は理解しています。中国軍はダナエと組んでまた侵攻してくると思います。原発は停止してください」

 アルミンが身を乗り出す。

 「それにスレイグとゴルフ三昧をしている場合ではありませんぞ。スレイグは商売と政治を一緒に考えていて時空侵略者の恐ろしさを知らない。それにアフリカには興味がない。興味あるのは宝石だけ。時空遺物や古代遺物のコレクターだ。アメリカはアテになりません」

 アッシジは強い口調で言う。

 「それは内政干渉では?」

 外務大臣がわりこむ。

 「スレイグの目的も天皇家の宝物がほしいから来るんです。皇居や天皇陛下の警備だけでなく智仁様の警備もしっかりしなければ宝を奪われてしまいます。ダナエもスレイグも周主席も目的を選ばないと思います。南極点で時空の揺らぎが出現しました。たぶん別の時空侵略者が入ったと思います。手引きしたのはダナエとサブ・サンです。サブ・サン達はタイムラインを使い尽くしてダナエと周主席に任せて静観していると思います」

 ゲイリーは身を乗り出し説明する。

 「まだ何も私達は聞いていないし、報告が来ていない。私は会議があるのでまた後で」

 三宅は腕時計を見ながら言った。



 その頃。横浜海上保安部

 二階にある会議室に沢本、三島、大浦、三神、朝倉、貝原、香川、海江田、李紫雨、リヨン、ベレッタ、ギルムが顔をそろえていた。

 「なんで俺達は呼ばれたんだろう?」

 朝倉が首をひねった。

 「それはサルインから来ている国王夫妻の護衛のためよ」

 不意に声が聞こえて振り向く三神達。

 部屋に入ってくる佐久間、間村、室戸、霧島、アレックス。

 「サルインの国王夫妻を護衛?」

 沢本が聞いた。

 「普通それは政府のSPがやる事では?」

 三神が疑問をぶつける。

 海外の国賓の警備は政府のSPや高レベルのハンターが護衛につく。

 「アメリカの大統領が四日後に来日するから警備はそれ以上回せないらしいの」

 佐久間の顔がくもる。

 「スレイグは武器を売るのと貿易関連の話し合いに日本と韓国と中国に来日する。三宅総理と霞ヶ関ゴルフクラブでゴルフをする。それも世界的に有名なゴルフ選手と一緒に」

 香川が指摘する。

 「北朝鮮を何とかすると言いながら何もやらないし政策も何もしていない。そのうえよく閣僚をクビにして偽ニュースと言う。超タカ派の閣僚を二人政権に入れた。あんな乱暴な奴らに政治が務まるわけがない」

 海江田は不満をぶつける。

 「なんで日本はアメリカに従う?尖閣諸島の戦いではアメリカは参戦しなかった。リベルタの戦いでは米軍は傍受しているのに何もしない。スレイグが来る目的は皇室の宝物だ。すぐに中止にすべきだ」

 ギルムはフランス語で声を荒げた。

 「日本とアメリカは同盟国でアメリカの核の傘に入っているからよ。それに日本にある拠点基地がなければ困るのはアメリカよ。共存関係にある」

 佐久間はフランス語で言い返す。

 黙ってしまうギルム。

 「護衛するならアレックスやリドリーが必要かもよ。アレックスは元狙撃兵でリドリーはスパイの経験もある」

 大浦が提案する。

 「翔太君とケイン達は?」

 沢本が思い出す。

 「翔太君はミゲルとケイン、イスラ、羽生さん達と一緒に東京駅よ。依頼書が来ていて東京駅に来るリリーという名前の外国人と接触して古代遺物を受け取るのが任務よ」

 佐久間が依頼書を見せた。

 「東京駅でウオーリーを探せみたいな事をやるのか?」

 朝倉が聞いた。

 「そんな感じになるわ」

 うなづく佐久間。

 「一日の乗降客が九十万人で在来線、新幹線、地下鉄が多く乗り入れる場所に外国人を探すのは無理だろう」

 間村が首をひねる。

 「電車のミュータントがいないと無理ね。東京駅は構造が複雑で迷路よ」

 三島が心配する。

 「私達のミッションは国王夫妻は東京湾でクルーズ船に乗船するからその護衛よ。クルーズが終れば東京ヘリポートで自衛隊ヘリで日光東照宮に行く」

 佐久間は話を切り替える。

 「名簿には智仁様とアナベル様が乗るんですね。アナベル様には姉と兄がいるそうですが二人がいないですね?」

 三神が疑問をぶつける。

 「二人はスイスの大学で在学中だからよ」

 ベレッタが答える。

 「東京湾クルーズならどの船に乗る?」

 三神が聞いた。

 「ヴァンテアン号でランチクルーズよ。サルインのSPやパンサーアイメンバーも何人か乗船するそうよ」

 佐久間はパンフレットを渡した。

 「パンサーアイにフィンていう名前のオルビスと同じ種族がいてエンリコはミュータントとして登録しているけど異世界からやってきたエイリアンだ」

 三神が指摘する。

 資料を見た。エイリアンが二人いるし、マサイ族やアフリカのいくつかの部族がメンバーに入っていてそれかつ戦車や装甲車のミュータントが十人いる。海より陸での活動が多いからそうなった。

 「それは俺達も変わらない。何も起きないで国賓が無事に帰国できればそれでいい」

 沢本が言った。



 その頃。東京駅

東京の表玄関とも言うべきターミナル駅で、特に東海道新幹線と東北新幹線の起点となっており、全国の新幹線網における最大の拠点となっている。また、東海道本線や東北本線など主要幹線の起点駅でもある。当駅から乗り換えなしで実に三十二都道府県と結んでおり、一日当たりの列車発着本数は約三〇〇〇本という日本を代表するターミナル駅の一つである。プラットホームの数は日本一多く、在来線が地上五面十線と地下四面八線の合計九面十八線、新幹線が地上五面十線、地下鉄は地下一面二線を有しており、面積は東京ドーム約三・六個分に相当する。赤レンガ造りの丸の内口駅舎は辰野金吾らが設計したもので、一九一四年に竣工、二〇〇三年に国の重要文化財に指定されている。

 「・・・外国人がいっぱいいるな」

 困った顔をする羽生。

 「顔写真はあっても探すのは難しいわね」

 うーんとうなる田代。

 エリックと和泉は地図を見て首をひねる。

 カルルとフラムは周囲を見回す。

 「入国管理局の足柄です」

 コンコースに近づく四人の男女。

 「サルインから来ましたカルル」

 「同じくフラムです」

 警察手帳を見せるカルルとフラム。

 「東京税関の吹田です」

 「横浜税関の海老名です」

 「麻薬取締部の鮎沢です」

 名乗る男女三人。

 「翻訳機」

 オルビスはカルルとフラムに耳にかけるタイプの翻訳機を渡した。大きさは補聴器と変わらない。

 「市販の翻訳機より高性能だよ」

 翔太とミゲルは自分の耳を指さした。

 「本当だ」

 カルルとフラムは目を丸くする。

 周囲の日本語が公用語であるフランス語に変換されて入ってくる。

 「リリーという名前の人物は入管で調べたのですが入国していません」

 足柄は首を振った。

 「古代遺物を国内に入れるのは難しいわよ。国際郵便や船便で送るにもかならず検査があるし、専門の鑑定人もいるもの」

 海老名が口を開く。

 「今のところ、時空遺物があったとは聞かないです」

 吹田がわりこむ。

 「違法な薬物の密売人でもなければこんな依頼書で頼まないわ」

 鮎沢が疑問をぶつける。

 「あのバカ姉妹に無理矢理押し付けられたし、本物の依頼書よ」

 食ってかかるケイン。

 「私だっておかしいと思うよ。でもギャラが五百万だって」

 イスラが目を輝かせる。

 「イギリスの魔術師協会はガセネタを押し付けられたのではなくて?」

 カルルがわりこむ。

 「でもおかしいよね。米軍はなんでこのリリーという人を探しているのだろう?」

 翔太が疑問をぶつける。

 「米軍はサルインにリベルタと一緒にカメレオンが侵攻したのを傍受しているのに何もしない。そのくせ時空遺物を横取りしようとしてきた。日本でも同じ感じね」

 カルルは不満をぶつける。

 「なんでアメリカと同盟なんか組むのですか?特命チームが集められた時点で米海軍の四人組が邪魔してきた」

 フラムが声を低める。

 「それは政治家が決める事だよ。政治とかそんなのわからないけど今の日本があるのは政治家の外交力のおかげだと思います」

 翔太が言葉を選びながら答える。

 「駅の構内にこの三人がいる」

 オルビスはタブレットPCに画像を出す。

 「この女と男はロルフとアルゴ。アルゴが米軍戦車で女のロルフがメルカバ戦車。この人は?」

 オルビスが分析する。

 「横浜のフリーマーケットに来た米海軍のイージス艦のミュータント」

 あっと声を上げる翔太。

 「彼らも迷っているみたい。地下鉄と地下街をグルグル回っている」

 オルビスが指摘する。

 「それはよかった。私達は新幹線ホームに行きましょ」

 田代は言った。



 同時刻。竹芝桟橋

ヴァンテアン号が出航した。

 ヴァンテアン号は、東京ヴァンテアンクルーズが運航するレストラン船。東京港竹芝桟橋を発着する東京湾クルーズ航路に就航している。

 「なかなかオシャレね」

 大浦と三島は船内を見回した。

 「さすが日本。技術力がすごい」

 ギルムは目を輝かせる。

 「三神さん」

 エントランスデッキに駆け寄ってくるアナベルと智仁。

 ロビーにいたエンリコやフィン、ツアーロとマドレス、ライエンが振り向いた。

 「海上保安庁の三神です」

 「朝倉です」

 「沢本です」

 「三島と大浦です」

 三神達は自己紹介した。

 「あなた方の事は香川さんや海江田さんから何度か聞いています」

 アナベルは笑みを浮かべる。

 「え?」

 「船で韋駄天走りができるミュータントは珍しいもの」

 アナベルはカタコトの日本語で言う。

 「君は日本語が出来るの?」

 三神がたずねた。

 「少し勉強したの。サルインにも外国語学校はあるの」

 アナベルは三神と手をつないだ。

 顔を赤らめる三神。

 「デートしよ」

 アナベルが笑みを浮かべる。

 「あの・・・俺はSPとして来ているだけなんだけど」

 戸惑うする三神。

 「気に入ったみたいだからデートしてあげてくれる」

 海江田が提案する。

 「いいけど。デートなんてした事がないよ」

 困惑する三神。

 「大丈夫」

 アナベルは三神の腕を引っ張る。

 はにかむ三神。

 二人は階段を上がって他のデッキに行ってしまう。

 「沢本。貝原はおとなしいな」

 香川は口を開いた。

 外のデッキに貝原は一人でいる。

 「彼は音を操れて絶対音感を持っている。周波数を合わせれば傍受ができる」

 沢本が答える。

 「それは便利ね」

 海江田がわりこんだ。

 屋上のデッキに出てくる三神とアナベル。

 「あれがレインボーブリッジであそこがお台場。向こう岸は大井コンテナ埠頭と羽田空港。あれが東京ゲートブリッジ」

 パンフレットを見せながら三神は指でさしながら説明する。

 「あの橋すごいね」

 アナベルが無邪気な顔で笑う。

 「恐竜が向かい合って見えるから別名恐竜橋と呼ばれている」

 三神がゲートブリッジを指さす。

 カメラを出して写真をとるアナベル。

 三神は周囲を見回す。

 周辺海域には漁船や小型船だけでなく貨物船も行き来している。漁船が停船している。漁をしている時は停船している事はあるし大型船もよけていく。そのメガネの女性は漁はしないで両手を高く上げていた。

 「三神。変な電波が出ている」

 不意に声をかけられて振り向く三神。

 貝原が屋上デッキに近づく。

 アナベルは東京ゲートブリッジの写真や周囲の風景の写真を撮っている。

 「電波?」

 聞き返す三神。

 「いくつかの国を経由して中国を経由してこの船のそばから聞こえる」

 耳を傾けながら言う貝原。

 「アナベル。船内に戻ろう」

 三神は呼んだ。

 「はーい」

 駆け寄るアナベル。

 Bデッキのレストランデッキに下りる三人。

 「隊長。変な電波がいくつかの国を経由してこの船のそばで聞こえます」

 貝原は小声で言う。

 「電波?」

 聞き返す沢本。

 「フィン。電波の出所は?」

 香川が聞いた。

 「東京湾の外湾と横須賀基地からミサイルです」

 フィンが声を上げた。

 「シールド起動」

 エンリコは片手を上げた。船の周囲を半透明な膜で包まれる。

 「シールド?ミサイル?」

 思わず聞き返す佐久間達。

 その時である。飛翔音が聞こえミサイルが船の手前で爆発した。

 尻もちをつく乗員達。

 「何が起きた?」

 CデッキからBデッキに上がってくるフェデルコ国王とネル王妃。

 「在日米軍横須賀基地と東京湾外湾の米軍艦船からミサイルが発射されたようです」

 フィンが答えた。

 「メインコンピュータを誰がかハッキングして誤射だ」

 エンリコが答える。

 「誤射?そんなありえないわ」

 佐久間が首を振る。

 「三時の方向を撃って」

 出し抜けに叫ぶアナベル。

 エンリコは外デッキに出ると片腕をバズーカーに変えて撃つ。アナベルが指摘した方向に正確に青色の光弾が命中。陽炎が揺らいで黒塗りのオスプレイが現れた。

 「どこのオスプレイ?」

 身を乗り出す李紫明達。

 「敵が侵入!!」

 フィンが叫ぶ。

 三神は片腕をバルカン砲に変えて天井を撃った。陽炎が揺らいで黒ずくめの男が落ちた。

 控え室から飛び出すハンター達。

 「智仁様」

 不知火は日本刀を抜いた。

 「エンリコ。あのオスプレイを撃ち落とせ」

 香川が出し抜けに叫ぶ。

 「了解」

 エンリコは片腕をバルカン砲に変えた。

 天井や壁を這い回る金属グモや黒づくめの男達を正確に撃っていく沢本達。

 オスプレイは機関砲を連射。しかしエンリコが張ったシールドに弾かれた。

 エンリコは片腕のバズーカー砲から光弾を発射。正確に命中して爆発した。

 外デッキから船内に入ってくる金属の海蛇の群れ。 

 不知火は駆け抜けながら日本刀を抜いた。振り向くと残骸が転がっていた。

 「アナベル。大丈夫?」

 智仁が声をかける。

 うなづくアナベル。

 佐久間は死んでいる兵士のマスクを取った。

 肌の色といい髪の色といい日本人に似ているが中国人である。

 「中国軍?」

 香川が聞いた。

 「傭兵ね」

 それを言ったのは李紫明である。

 「あの黒塗りのオスプレイは部隊マークがなかった」

 沢本が指摘する。

 「誰かに雇われたみたいね」

 李紫明が答えた。

                    

  同時刻。東京駅銀の鈴

 銀の鈴がある広場は、グランスタ内にある。丸の内地下中央口からグランスタに入り、そのまま直進すれば、銀の鈴 広場へたどり着くことができる。

 「あの戦車とイージス艦のミュータントはどうなった?」

 翔太はふと思い出す。

 「あの三人はさんざん迷って東京駅から出て行ったよ」

 タブレットPCを出して監視カメラの映像を切り替えるオルビス。

 「それはよかった」

 羽生はしれっと言う。

 「ガセネタをあのバカ姉妹は押し付けのだろうか?」

 ケインとイスラはうーんとうなる。

 「新幹線ホームと在来線ホームを調べたけどそれらしい人物はいなかった」

 カルルとフラムが首を振る。

 「地下鉄と地下街にもそれらしい人物はいなかったけど監視カメラをあとで確認するしかないですね」

 吹田が提案する。

 「そうね。鉄道警察隊に頼むしかないわ」

 田代がうなづく。

 翔太は死者の羅針盤を出した。コンパスの針はグランスタの方向をさした。

 「食品街の従業員とか?」

 ミゲルがのぞきこむ。

 「それはないかも」

 翔太が首を振る。

 外国人ガイドでも従業員でもない。依頼書は本物だ。

 翔太とミゲル、オルビスはコンパスが指した方向を見る。人ごみの中から写真で見た事のある黒人女性が歩いてくるのが見えた。

 翔太は別の方向から視線を感じて八重洲口の方向を振り向く。

 なんで視線を感じたのかわからないがなんか誰かが見ている感じがした。

 人ごみの中でサングラスの女はカメラを高く掲げていた。

 ミゲルは翔太の腕を引っ張る。

 翔太とミゲルは銀の鈴から離れてグランスタの方向へ向かう。

 写真の黒人女性に似た女性が近づく。

 「あの二人はどこへ?」

 カルルが気づいた。

 「ビンゴかも写真の女がいる」

 ケインが指をさした。

 「本当だ」

 声をそろえる吹田達。

 「敵のキラードローンと不審者五十人接近」

 オルビスが声を上げた。

 「不審者?ドローン?」

 聞き返す羽生達。

 どこからともなく小型ドローンがたくさん構内に入ってきた。

 どよめく人々。

 翔太は時空武器を出した。

 ミゲルは折りたたみ式の棒を出す。棒には鮮やかな模様が書かれている。

 「考えている事は一緒だね」

 翔太とミゲルは顔を見合わせる。

 二人は黒人女性に駆け寄った。

 「リリーさんですか?」

 翔太がたずねた。

 うなづく黒人女性。彼女はジュラルミンケースを渡した。

 受け取る翔太。

 その時である横取りする中国人女。

 「何ですか?」

 翔太とミゲルがその女の腕をつかむ。

 リリーは女の腕をねじ上げ背負い投げ。

 浅黒い肌の男がミゲルにつかみかかる。

 ミゲルは押し倒された。

 翔太はその男を蹴った。

 床に転がる男。

 リリーはその男を蹴っ飛ばした。

 オルビスは片腕を銃身に変えてキラードローンを次々撃ち落していく。

 翔太は中国人の男に足払いされ、押し倒される。男は馬乗りになりナイフを振り上げる。

 カルルはそのナイフを蹴り上げた。

 フラムの体当たり。彼はその男に手錠をかけた。

 「こいつらただの不審者じゃなさそうだ」

 羽生は大外刈りをかけて女を転ばせ手錠をかけた。

 「そうね」

 田代と海老名は別の女と男の腕を後ろでにヒモで縛った。

 「こんなにドローンをどこで?」

 エリックと和泉はショートソードで飛んできたドローンを斬っていく。

 ミゲルが持っていたジュラルミンケースをつかむ白人の男。

 リリーはその腕をつかみ、背負い投げ。

 翔太は女に腕をつかまれた。振り向くとその女の首筋にタトゥがあった。模様が幾何学模様である。カメレオンだ。

 女は翔太を突き飛ばし、同じく首筋にタトゥがある男がリリーに飛びかかり片腕の剣でリリーの胸を突き刺した。

 翔太は時空武器を短剣に変えて男の背中に突き刺した。

 くぐくもった声を上げて倒れる男。

 女はリリーの首筋に噛み付く。

 ミゲルはアラブ語で叫びながら女の頭を棒で殴った。

 女はミゲルに飛びかかり押し倒して馬乗りになり、腕を振り上げた。せつな銃声が響き女は倒れた。

 羽生が銃を構えて立っていた。

 カルル達の足元には捕まって手錠をかけられた不審者が二十人転がり、破壊されたドローンが百機以上散らばっている。

 警官達とTフォース隊員が駆けつけてくるのが見えた。


 同時刻。竹芝桟橋。

 桟橋の周囲に多くの警察車両が来ている。

 船内から死体袋に包まれた死体が警官達のよって運ばれていく。

 外務省の職員が何人かいるのが見える。

 小型船ターミナルに下りてくるアナベル達。

 第一待合所に入った。せつな、三神は振り向きざまにナイフを天井に投げた。陽炎のように揺らいで黒ずくめの男が落ちた。

 エンリコとフィンは片腕を銃身に変えて正確に壁や天井を撃っていく。

 不知火は日本刀に手をかけると動いた。その動きはアナベル達に見えなかった。天上やバルコニーにいた陽炎が揺らいで姿を現して斬られた刺客達が落ちた。

 飛翔音が聞こえ黒塗りのオスプレイが何機もやってくるのが見えた。

 「どうなってるのよ」

 佐久間が身を乗り出す。

 「普通のテロリストじゃないし、傭兵でもなさそうだ」

 ターミナルから出る沢本達。

 エンリコとフィンは片腕をバズーカー砲に変形させて撃つ。正確に二機の黒塗りのオスプレイは爆発して四散した。

 「怪しい電波が飛び交っている。いくつかの国を経由してアフリカから指令が来ている」

 貝原は耳を傾けながら報告する。

 客船ターミナルに貨物船が接岸するわ」

 海江田が指摘する。

 「そんな予定はないぞ」

 沢本が怪しむ。

 貨物船の側面扉が開いて飛び出す数百匹の青銅色の魔物。体長は四メートルでライオンのように見えた。でもライオンにジャコウウシのような曲がった大きな角がある。

 「饕餮だ!!」

 香川が叫んだ。

 「饕餮?」

 驚く三神達。

 「撃て!!」

 香川が片腕の機関砲を連射。

 つられて警官達や佐久間達も連射。

 撃たれて倒れる魔物達。

 不知火は日本刀を手をかけ駆け抜けた。彼は振り向くと魔物達の死体が転がっている。

 エンリコは十八輪の装甲タイヤのある砲台に変身した。砲口が火を噴く。青い光弾が発射される。客船用桟橋に接岸している貨物船に何発も命中。大きな火柱が上がり爆発した。

 「なんで饕餮が?」

 三神は数百匹の死骸を見下ろす。

 唐突に飛翔音が聞こえた。見ると黒塗りのオスプレイがやってくる。そこから隣りの中央広場に飛び降りる巨漢。

 「エイリアンだ」

 朝倉が思わず声を上げる。

 身の丈は三メートル。筋骨隆々の体。肌色は紫色でスキンヘッド。顔にブラックジャックのような大きな傷跡がありあごはアントニオ猪木のようにしゃくれている。

 異星人と沢本達は間合いをとりにじり寄る。異星人が動いた。

 沢本と香川は異星人の鋭い蹴りとパンチをかわした。異星人のパンチを連続で受け払う朝倉。

 貝原と佐久間の飛び蹴り。

 すんでのところで異星人はかわすと佐久間の蹴りを受け止め、足をつかみ放り投げる。

 ツアーロは片腕の機関砲を連射。

 異星人はジャンプしてかわしてかかと落とし。ツアーロは飛び退く。

 両目から赤い光線を放出する異星人。

 なぎ払うように放出する光線を飛び退きかわす三神達。

 「パンチもキックも重量級だ」

 沢本が指摘する。

 異星人のキックをかわすフィン。

 速射パンチを受け止めるエンリコ。彼の鋭いキックが異星人の腹部にヒットする。広場にあったオブジェに異星人は激突する。

 フィンのパンチを受け止める異星人。

 エンリコのキックも彼は受け止める。

 三神が動いた。その動きは香川達には見えなかった。回り込むように接近した。

 異星人が気配に気づいて振り向くのが見えた。せつな、エンリコとフィンをその漁夫のような手で突き飛ばし、鋭い蹴りを入れる。

 すんでのところでかわす三神。彼の速射パンチをすべて受け払うと回し蹴り。

 受身を取り地面に転がる異星人。跳ね起き両目から赤い光線を放射。

 三神は彼の周囲を駆け回り光線をかわす。

 異星人の拳が赤く光った。その拳で地面を殴った。せつな、衝撃波が広がり、周囲の建物のガラスが全部割れ、三神達は衝撃波で弾かれ地面や壁にたたきつけられた。

 異星人がフワリと浮くと第一ターミナルに飛び込む。

 智仁とアナベルに大股で近づく。

 智仁はアナベルの腕をつかんで逃げ出す。

 異星人はその太い腕でつかみかかってきたSPや警官達をふり払いながら進む。

 不知火は日本刀を振り下ろした。

 異星人は片腕でその刀を受け止めた。

 飛び退く不知火。

 ギルムの飛び蹴り。

 異星人の太い腕にふり払われ地面に転がるギルム。跳ね起きると銃を抜いてチャージしたエネルギー弾を連射。

 異星人は漁夫のような手でなぎ払う。

 ターミナルから外の駐車場に飛び出す二人。

 異星人は大股で近づいて二人の腕をつかんだ。せつな、鋭い痛みに二人を放した。

 見ると、腕や背中に傷口が開いている。

 着地する三神。

 異星人と三神が同時に動いた。異星人の速射パンチを全部受け払い、延髄蹴り。

 異星人がフラっとよろける。

 三神の回し蹴り。

 受身を取る異星人。彼は目から赤い光線を放射する。

 三神は飛び退いた。

 エンリコとフィンの飛び蹴り。

 異星人は受け払った。

 エンリコとフィン、異星人が同時に動いた。何度も交差して三人は着地して振り向く。

 フィンとエンリコの胸や腹部に大きな傷が口を開いて青色の血液が噴き出す。

 異星人はニヤリと笑う。せつな腕や二の腕の傷から緑色の血液が噴き出てそこを押さえる。彼はもう片方の腕についている篭手を操作する。彼のそばに青く光る渦巻きが出現。彼はその中に吸い込まれた。



 同時刻。首相官邸

 三宅総理を含む閣僚達が顔をそろえていた。

 「総理。昭和基地からですが時空の揺らぎが出現してそこから光が飛び去るのを目撃したそうです」

 Tフォース日本支部のベック局長は口を開いた。

 正面スクリーンに南極点の様子が映し出されいる。その上空には稲妻を伴って黄金色に輝く光が出現している。

 「葛城長官によると時空侵略者はバロック。時空遺物のコレクターです。手引きしたのはサブ・サンとダナエです。」

 外務大臣が画面を切り替える。

 「ダナエはサルインに侵攻したリベルタの大統領ダーラムの姉です。ダーラムの一族は千年前フェデリコ国王の一族と一緒だったのですが考え方の違いから別れています。フェデリコ国王の一族が穏健派でダーラムの一族が強硬派で死刑執行人です。ダナエは三年前にモロア前大統領を追い出して中央ザイード共和国の大統領になりました。周辺国の話ではあっという間に国境に壁が建設され、移民や難民が追い出されたそうです」

 ベック局長は画面を切り替える。急ピッチで高さ五メートルの壁が建設される様子が写し出される。

 「壁や発電所、基地の建設を請け負ったのは北朝鮮です。派遣された労働者全員に「時間の穴」「時空の穴」による症候群が見られるそうです」

 北朝鮮の専門家が指摘する。

 「時間の穴?時空の穴?」

 閣僚達がどよめく。

 「時空の穴が上空に出現すると時空侵略者が侵入してきますが地上に現れると時間の流れが変わるそうです。そこにいると地上では一日経っているの時間の穴の中では十日いるという時間のズレが出現します。そこに工場を建設すれば早いスペースで兵器や造られる。中央ザイード共和国は最貧国で持っている兵器もミグ19やミグ21しかなく戦車もT34といった旧式兵器しかなかったのがこの三年で中国製の最新型戦車が現れ、戦闘機もスホーイ35やミグ31といった戦闘機が出現。ジェット推進のオスプレイまで現れた。それだけならいいのですがしょっちゅう紛争を起こすようになった。派遣される部隊も最初は旧式の兵器ばかりだったのが最新兵器で武装して国境に侵入してくるようになった」

 ベック局長は指揮棒で指さしながら経緯を説明する。

 「なんで他国に侵入?」

 厚生労働大臣がたずねた。

 「それはわからないそうです。侵入してきた部隊を壊滅させても次から次へやってくるそうです。そして兵士も自爆装置が体内に埋め込まれていて状況が不利になると自爆するそうです。負傷した兵士も自爆するので捕虜にはしません。そして戦車も装甲車、艦船もそのような装置があるのが自爆装置が起動するしくみなっているので鹵獲はしません。そして救援部隊もよこさないので推測でしかわかりません」

 外務大臣が説明する。

 「中央ザイードは内陸国なのに駆逐艦があるんですね」

 国土交通大臣が指摘する。

 「中央ザイードは内陸国ですが厳密にいうとストロー状に伸びる陸地があります。その運河は内陸の湖につながっています。国内には大きな湖がいくつもあり造船所や軍需工場が運河で繋がっています」

 石崎防衛大臣は地図を出して説明した。

 「問題は周主席はダナエと手を組んだようです。サブ・サンとその仲間はバロックを入れる手引きをしましたが自分達のタイムラインは使い尽くして動けません。あとは自分のいた世界に帰るしかないです。周主席とダナエは一時的に同盟を結んで時空遺物を手に入れようとしています。それは「時空の王錫」です。世界の王室に手がかりが散らばっているようですがもし伝説や言い伝えが本当なら時空の穴、時間の穴だけでなく時空の揺らぎを封印する事が可能でサブ・サンやバロックを追い出せます」

 ベックは画面を切り替える。

 「しかし尖閣諸島の戦闘では覇王の石は先人が敵をワナにはめるための偽情報だった。今回も偽情報でなければいいね」

 財務大臣が腕を組んだ。

 「日米首脳会談は無理のようですね」

 外務大臣の顔がくもる。

 唐突にドアが乱暴に開いて秘書官が飛び込んできた。

 「総理。チャンネルを切り替えてください」

 息を整えながら促す秘書官。

 三宅はチャンネルを切り替えた。

 「・・・速報が入ってきました。国籍不明の黒塗りのオスプレイと船籍不明の貨物船が東京港に現れました。東京港では来日中のサルインの国王夫妻と筑紫宮様がクルーズ船に乗船していました。そこに多数の国籍不明の兵士の襲撃がありましたがパンサーアイと特命チームメンバーがSPとして乗船。これを殲滅させました」

 女性キャスターは説明した。

 別のチャンネルに変える三宅。

 「・・・東京駅でも数百台のドローンと不審者の侵入騒動がありました。また東京港では時空侵略者と思われる異星人が目撃されています。南極の昭和基地から時空の揺らぎが出現したという情報があり別の時空侵略者が侵入したものと見ています」

 「マスコミがもう嗅ぎつけましたね」

 黙っていた官房長官がため息をつく。

 「アッシジ大統領とサルイン大使、フランス大使、アルミン司令官を呼んで中央ザイード共和国がどういった作戦で来るのか知りたい。そうなった場合、パンサーアイや特命チームの力を借りないといけないね」

 三宅は少し考えながら言った。



 その頃。中国の北京

 中南海の主席応接室に側近達が顔をそろえていた。

 室内に高級ジャスミン茶の香りが漂う。

 「・・・アフリカの内陸国から技術供与があるとは思わなかった」

 周永平主席は口を開いた。

 彼の言うアフリカ内陸国は中央ザイード共和国の事である。モロア前大統領を追い出したダナエは移民や難民を追い出し、北朝鮮の労働者を使って国境の壁や発電所、基地を建設した。

 「これで南シナ海だけでなく東シナ海、先島諸島の攻略は進みますね」

 李遜花首相は笑みを浮かべる。

 「いっそのこと、仕掛けるのは二〇二〇年の東京オリンピックでもいいですよね」

 中央軍事委員会副主席の紀英州がわりこむ。

 「それは困りますね。早く事を起こさないとサブ・サンとその仲間がタイムラインが尽きて帰ってしまう。そうすると国民の感情が武警では押さえるのが難しくなる」

 程府公安部長の顔がくもる。

 「それを取り締まるのが公安部の役目ではないのかね。海警局の計画は失敗続き、アフリカではパンサーアイが結成された。中心になっているのがサルインでアフリカ諸国をまとめている。リベルタとの戦争では日本の巡視船のミュータントがいた。結局、計画はどれも失敗続きではないか!!」

 周主席は目を吊り上げた。

 「それはそうですがアメリカが参戦してきたらマズイです」

 李首相が困った顔をする。

 「だからアメリカが参戦しないようにダナエ大統領がスレイグ大統領が好きな古代遺物と宝石を持って会談しています。停戦工作はうまくいっています」

 紀英州は写真を見せた。

 何枚かの写真に金製品や宝石に囲まれてニヤニヤ笑うスレイグの姿があった。

 「それはよかった。日本の内部工作はうまくいったのか?」

 「中央ザイードのスパイが国会議員にいるそうです。それも日本人です。そして中央ザイードの息のかかった企業が日本国内にあるそうです」

 「ふふふ・・・東京の狼狽ぶりが今から目に見えるようではないか」

 周主席は笑みを浮かべた。



 その頃。東京の防衛省。

 大会議室にパンサーアイメンバーと特命チームメンバーが顔をそろえていた。

 そこに石崎防衛大臣と翔太の父である博とレナ、タリク、トリップ議員、フェデリコ国王夫妻が入ってくる。

 「ここには盗聴器はない」

 石崎大臣は口を開いた。

 「あなた方が呼ばれたのは他でもない。中国はダナエと組んだ。大連の造船所で空飛ぶ空母を三隻建造をしている」

 トリップ議員はスクリーンに画像を出した。

 そこには周永平主席とダナエ大統領が握手している写真と造船所の内部が写されている。

 「動力は?」

 間村とアッシュが聞いた。

 「ヴェラニウムと魔光石です。重要なシステムとコア部は日本製です。技術を提供したのはダナエです」

 レナ議員が口を開く。

 「魔光石は中世や古代の特命チームの船に使われていた。特命チームは魔術と魔力の石の力で飛ぶ船に乗っていた」

 タリクは画像を切り替える。

 そこには空飛ぶ帆船が書かれた歴史書が映っている。

 「映画「アベンジャーズ」に空飛ぶ空母が出てくるよな。それと同じか」

 アレックスがわりこむ。

 「それと同じような物だね」

 うなづくタリク議員。

 「それとバロックという異星人が侵入してきた」

 博が話を切り替えた。

 「知っている。俺達はそのアントニオ猪木に似たエイリアンと戦った」

 三神はわりこむ。

 映像に顔写真が出る。三神達が東京港で戦った異星人の顔である。

 「バロックはサブ・サンのいる世界からやってきた。時空遺物のコレクターで異世界へ行っては時空遺物を奪うが時々失敗してそこの世界の抵抗組織に追い払われて自分の世界に帰るらしい」

 博が説明する。

 「サブ・サンと同じ世界から来たならそこの世界には取り締まる組織はないのか」

 ピョートルが疑問をぶつける。

 「サブ・サンやバロックがいた世界にも宇宙船や宇宙戦艦、異星人、人間で構成されるチームが宇宙や時空の平和を守っている。文字通り銀河系から銀河系へ飛び回っているそうだ。その手をすり抜けるのだからだいぶ前から計画しないと成功しないしよほど運がよくないとできない」

 博が冷静に言う。

 「それはすごいな。ならバロックだけでも元の世界に追い出そう」

 それを言ったのは香川である。

 「彼やサブ・サンを追い出すには「時空の王錫」がいる。覇王の石とちがうのは先人達がその手がかりを世界の王室に託した事だ」

 トリップがいくつかの文献を出した。

 「その手がかりを探すのはいい。すでに米軍が動いている」

 羽生が口をはさむ。

 「東京駅でリリーという女性と接触した。そしたらイスラエルと米軍の戦車とイージス艦のミュータントが探しに来たけど東京駅でさんざん迷って帰った」

 カルルがわりこむ。

 「それに東京駅にドローンと一緒に不審者がたくさん来てそのうちの二人がカメレオンでそいつにリリーは刺されて亡くなった」

 翔太が視線をそらした。

 「石崎大臣。また中国軍に動きがあるのですか?」

 佐久間は話題を切り替える。

 「動きはない」

 石崎が答える。

 「じゃあ、あの黒塗りのオスプレイと傭兵は中国兵ではないですね」

 間村が鋭い指摘をする。

 「あれは中央ザイード共和国の兵士だそうだ。中央ザイードはアフリカの内陸国で最貧国だった。それが三年前にダナエが大統領になってから移民や難民が追い出され、国境の壁が建設され、基地や発電所が建設。造船所も急ピッチで進んだ」

 何枚かの写真を見せる博。

 「それにしても建設のペースが早いだろう」

 間村とアッシュが声をそろえる。

 「兵器も旧式から最新式に変わっている」

 ピョートルとアレックスが指摘する。

 「周辺国の話では「時間の穴」「時空の穴」が出現しているのではないかという見解にいたっている」

 レナ議員が答える。

 「それが出現するとどうなるの?」

 智仁とアナベル、ミゲル、翔太が聞いた。

 「他国では一日いるだけなのにそこでは十日経っている事になる。時間の流れがちがうから旧式兵器が最新兵器への進化が急ピッチで進む事になる。おそらく白い動物や桜やアジサイ、藤の花が全部白い花という異変に都市の幻影も「時間の穴」が中央ザイードに出現していると思われる」

 博が説明する。

 「でも日米首脳会談はどうするの?」

 翔太が聞いた。

 「それは延期になった」

 石崎が答えた。

 「我々としては特命チームの力を借りたい。そちらにはバリアを操れる客船のミュータントや韋駄天走りができる巡視船がいるというのを聞いた」

 黙っていたフェデリコが口を開く。

 「もちろん。我々も協力する。そのつもりで来ている」

 アッシュは深くうなづいた。

 

 

 

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