海上保安官 三神&朝倉2 日中激突と時空の王錫

ペンネーム梨圭

第1話 依頼

 東京駅八重洲口にあるタクシー乗り場にヒゲをたくわえた中年男性が近づいた。

 タクシー待ちの客は少なくそんなに待たないでタクシーが止まり、扉が開いた。

 車内に乗り込む男性。

 「Tフォース長官の葛城博さんですね。おひさしぶりです」

 運転手は笑みを浮かべた。

 「ダニエル。君は本当に芸達者だね」

 博は口を開いた。

 「行き先は銀座にある支部ですね」

 ダニエルは聞いた。

 「よくわかっているではないか」

 博は腕を組んだ。

 このダニエルという男はタクシーの運転手でもスパイでもない。時空管理局の職員である。それも三十一世紀の地球から来ていて本部は東京で時空船に乗ってタイムスリップしてこの時代に来ている。だからこのタクシーは時空船が姿を変えた物だ。

 タクシーは乗り場を離れて大通りに入る。

 「パンサーアイが結成されたね」

 ダニエルが口を開いた。

 「フォーアイズの事件の前に起きたサルインとリベルタの戦争はサブ・サンの部下とダーラムが起こした。カメレオンの地上部隊が初めて確認されてダーラムは異星人だった。ダーラムの一族は国際指名手配されている。その時は私達は太平洋の異変を調査していたがそれは誤報だった。異変の発信源はリベルタでまんまと遠回りになりパンサーアイとサルイン、フランス、アフリカ諸国の協力でサブ・サンの部下は倒し、タイムスリップ装置とテレポートアンカーは破壊した。気づくのが遅れたのはみんなアフリカでの出来事だと思われていた事だ」

 博は語気を強める。

 「私のせいだと思っているが私達もそれなりに忙しいのだよ」

 運転しながら冷静に言うダニエル。

 「君達がいろいろな所に飛び回っているのは知っている。魔人事件でもそうだし、フォーアイズでもそうだね。彼らは巧妙に侵入してきている」

 納得する博。

 「サブ・サンは時々自分の世界に帰っている。ここの大きなタイムラインに賭けようとしているが迷っている」

 話を切り替えるダニエル。

 「第二尖閣諸島の戦いが始まるのかね?」

 博が聞いた。

 「中国軍は海景局を軍の指揮下に置いたのは知っているね。空飛ぶ空母を建造しようとしている。そして南極点にある時空の揺らぎからこの異星人が入ってきたと通報が入った」

 カーナビを操作するダニエル。

 画面に紫色の皮膚でスキンヘッドのいかつい顔の異星人が映し出される。

 「君ねえ。トラブルを持ち込まないでくれないか?」

 不快な顔になる博。

 「この異星人がいた世界の時空管理局から連絡が来て警告が来ている。名前はバロック。彼がいた世界では宇宙船や宇宙戦艦の機械生命体と異星人、人間で構成されるチームがある。そのチームが銀河や宇宙、時空の平和を守っている。そのスキをついて彼だけやってきた形になる。サブ・サンとこの女が手招きした」

 画面を切り替えて説明するダニエル。

 画面に黒人女性が映る。

 「ジョコンダ議員ではないね」

 博は身を乗り出す。

 ジョコンダ議員とはアメリカの政府高官で元スパイである。元スパイの身分を生かして世界中の秘密を握り、Tフォースだけでなく特命チームの邪魔をしてきている。

 「中央ザイード共和国の大統領だ。彼らには普通の道理は通用しない。そして「時空の穴」を利用して軍備増強をしている。医療技術を悪用して改造兵士を作っているし、自爆兵士にしたりする。平気で国際法なんて破り、クラスター爆弾も使うし、化学兵器も使う。私よりもアフリカ連合の方が知っているかもしれないね」

 カーナビの画像を切り替えるダニエル。

 「ダナエ・アルオル・ウル・べネディクトってダーラムの身内かね?」

 ため息をつく博。

 フォーアイズ事件の前にサルインに侵攻したリベルタの大統領のダーラムはパンサーアイに倒されたが一族は世界中にいるし、政財界とのつながりも深い。

 「ダーラムの姉だね。時空の穴と時空の揺らぎを封印するには「時空の王錫」という古代遺物が必要だ。鍵は東京駅にやってくる客が持っている。その客だけじゃなく世界遺産や世界の王室に手がかりがある」

 ダニエルは冷静に説明する。

 「君は簡単に言うね。東京駅は構造も複雑で迷宮で一日の乗降客数は新宿駅、池袋駅についで第三位だ。新幹線、在来線、東京メトロといった路線が乗り入れる。王室もどこの王室かわからないと調べようがない」

 腕を組む博。

 「サウジのアフマド国王は自分の息子に政権を譲ろうとしている。天皇陛下は去年、退位に向けてのお気持ちを述べられた。サルインの国王夫妻が大統領夫妻と一緒に来日しているから手がかりはあるね」

 ダニエルは日程表を出した。

 「本当に君は芸達者だね。この日程表は政府にしかない」

 怪しむ博。

 「銀座の支部に着きました。お代はいい」

 銀座の和光前で止まるタクシー

 不満な顔のままタクシーを降りる博。

 タクシーは走り出すと周囲に溶け込むように消えていった。


 信号が青になった。信号は自分の国にもある。何の変哲もない道路にある装置だがここは日本である。

 「サルインとはだいぶちがうわね」

 アルビノの少女はつぶやいた。前の車には自分の父である国王が乗っている。

 サルイン共和国はアフリカの西海岸にある。立憲君主制だが君臨はすれども統治はしていない。大統領もいるし議会もある。

 東部には標高一二〇〇メートル以上の山地が広がり、地形は全般に東の高地から西の低地へと傾斜しており、もっとも標高の低い西端地域では標高一五〇メートル程度にまで高度が下がる。降水量は標高とほぼ比例し、東部は年間降水量が一九〇〇ミリにのぼる地域があるのに対し、西部の雨量は五〇〇ミリ程度にすぎない。

 東部のは雨量が多く、植林が進められている地域である。中部は穀物栽培と畜産が行われ、降水量の少ない西部のは牧草地となっており、牧畜が盛んである。

 国自体の起伏が激しい上に降水量が多いため、植生が豊かで風景は変化に富んでいる。国土には四つの大きな河川が流れ、国土を潤していた。

 私はアナベル・コリェ・べネディクト。王位継承は三位である。スイスに留学している兄と姉がいるが基本的に男子が王位を継承する。

 「フィン。もしかしたらオルビスと会えるかもね」

 アナベルは口を開いた。

 フィンと呼ばれた少女はうなづく。

 厳密にいうと彼女はオルビスと同じ種族で年齢は四〇歳。彼らの種族は二〇〇歳になって成人の儀式を通過して初めて成人の仲間入りをするのは知っているし、ロシアにTフォース本部があるのは知っている。

 「エンリコ。時空の異変を特命チームと調査できるか聞いてみるわ」

 アナベルは笑みを浮かべる。

 エンリコと呼ばれた大男は深くうなづく。

 アナベルは窓の外を見る。

 このエンリコも厳密にいうと戸籍上はミュータントになっているが異世界から迷い込んできたエイリアンである。彼はクジラやイルカ、シャチが進化した生命体である。身長は二五〇センチ。皮膚は青白く、クジラのように分厚い硬質化した皮膚を持ちその皮膚は軽装備の鎧のように進化。しかし胸や腹部はクジラのように深い溝が何本も走っていて腕にはヒレがあり水かきが手足の指にあるのだ。頭部は男女ともにスキンヘッドで体格も男性的、顔は彫が深い。クジラから進化したクジラ族は地球にいるようなクジラの特徴が出ている。それは胸部から臀部まで幾筋もの溝があるのだ。クジラの腹部にもある。皮膚の色は白や藍色、黒色でエンリコは藍色だ。

 彼らのいた惑星は地球より一〇〇年以上も科学が進化していて宇宙船は恒星間を普通に行き来しているという。

 アナベルは手帳をのぞいた。

 



 フォーアイズの十三隻の宇宙船が地球から去ってしばらく経つが状況は変わったわけではない。

 異変の主だった訪問者が時空の花を翔太からもらって帰って時空異変は収まった。だからといってカメレオンがおとなしくしているとは思えない。カリブ海と地中海クルーズは復活しているが本数が制限されている。アジア、オセアニア地域はカメレオンの出没件数がうなぎのぼりに増加。饕餮を載せていたという目撃例がありクルーズは復活の予定がない状態だ。

 「ケインさん。ブランド物ばかりですね」

 智仁は声をそろえた。

 「これはエルメスでグッチでアルマーニだ。本物かそうでないかの鑑定してもらわないとわからないけどね」

 翔太はアクセサリーやバックを見ながら指摘する。

 今の偽物は精巧に出来ていて本物かわからないように出来ているというのを聞いた。

 「フリーマッケットに出店なんて初めてだからあるだけ持ってきた」

 ケインはボストンバックを開けた。中味はスカーフや指輪といった小物が入っている。

 SPがやっぱりいるか。警備員が会場を見回りをしているのが見えた。

 智仁が皇位継承第六位であるのは知っている。それにどこに行くにも護衛がどこかにいる。それもただのSPではなく上級の邪神ハンターの二人がついている。それにいらなくなった服やお皿も軽トラで運んできた便利屋も皇宮警護官だろう。皇宮警護官も魔物ハンター中級以上の資格と邪神ハンター中級以上という資格がないとなれない。

 「パオリ。君のは何?」

 翔太と智仁はのぞきこむ。

 「苔玉。苔にも種類はたくさんあるからこれをアートにしたり集めて楽しむ人もいる」

 パオリは霧吹きで手前の苔玉に吹きかける。

 「変わった趣味ね」

 しゃらっと言うケイン。

 パオリはあの宇宙人遭遇事件後。ドイツから日本に留学という形で来ている。彼も一人では来ていない。アマデアとミレニアムとサミットがお目付け役で来ているし、にっぽん丸やふじ丸もフードブースでクレープ屋として出店している。

「僕はいらなくなった本と服類で椎野さんが手作りアクセサリー」

 稲垣が口を開いた。

 「すごいわ。難しい科学本ばかり」

 ケインがつぶやく。

 宇宙関係や工学関係の専門書が数十冊も並んでいる。

 「イスラさんは?」

 智仁が聞いた。

 「どこかにいるでしょ」

 そっけなく言うケイン。

 ボストンバックからいらなくなった衣類を出す翔太と智仁。

 「あれ出店してたんだ」

 「雅紀と亜美さん。ランディ」

 翔太が顔を上げる。

 来宮兄弟とランディである。

 来宮兄弟は飛鳥丸と一緒に千葉にある港で食堂を経営している。それに彼女達で来る事はないからどこかに飛鳥丸がいるハズだ

 「僕とお姉さんで釣具屋でランディがジャンク品。飛鳥丸、住吉丸、福寿丸、小林丸はフードブースでイカやたこ焼きを焼いていた」

 雅紀が答えた。

 「僕はアマデアと一緒に出店でミレニアムとサミットも一緒に出店している」

 パオリがわりこむ。

 「そうだよね。赤レンガ倉庫でアフリカ関連のイベントをやっているから僕達はその一環でフリマに出店しているし、会場代も高いし全員いてもおかしくないか」

 パンフレットを見ながら納得する翔太。

 ここら辺は一年中何かしらイベントをやっているし時々、アーティストが来てライブをやっている。フリマの会場出店代金も会場よってちがう。二〇〇~三〇〇〇円で大きい会場は五〇〇〇円を超える。よく売れている人は一人で出店するし、そうでない人は二人で出店して出店料を折半していた。

 「いたいた」

 駆け寄ってくる夜庭と福竜丸。

 「出店していたんだ」

 智仁と翔太が声をそろえる。

 「僕と清龍丸はロイヤルウイングから頼まれたジャンク品を売っている」

 福竜丸が答えた。

 「福竜丸。いつもの介助人は?」

 ケインが聞いた。

 彼女が一人で来たとは思ってない。マシンミュータントでありながら障害者である彼女には介助人がいる。普通の介助人ではなく邪神ハンターの資格を持っている。

 「すぐそこのブースで店番」

 福竜丸がしゃらっと言う。

 「それはよかったわ。それにしてもイスラはどこにいったんだろ?」

 ケインは周囲を見回した。

 「僕が探そうか?」

 翔太が名乗り出る。

 「そんな事までしなくていいわ。子供じゃないもの」

 ケインがそっけなく言った。

 「あんたが第五福竜丸?」

 二人の外国人女性は日本語で聞いた。

 「誰ですか?」

 夜庭が聞いた。

 「マチュアとカチュア。探偵会社で探偵をしている」

 名刺を渡すマチュア。

 「あの・・・何の用ですか?探偵に頼むような依頼はありません」

 介助人がわりこみ名刺を取る。

 「固いこと言わないでくれる。ビキニ環礁にロンゲラップやキリ島ってあるでしょ。そこの調査をしてほしいのよ」

 カチュアは介助人を押しのけた。

 「ビキニ環礁は悪夢ばかりね。あんたがその依頼を受ければ?}

 福竜丸がはっきり言う。

 「あんたは六十三年前の水爆実験に巻き込まれてそれまでの能力が使えなくなった。でも精霊の力は使える。時空の亀裂も分かるし、魔物だってわかる。その海域まで乗せるし、許可は取ってある」

 カチュアは許可書を見せた。

 「そんな話は聞いた事がない」

 反論する夜庭と介助人。

 「外野は黙りなさいよ」

 マチュアはドスの効いた声で言う。

 ジョボジョボ・・・・

 突然、頭上からコーラと珈琲をかけられた。

 「ちょっと誰よ!!」

 声を荒げるマチュアとカチュア。

 「私よ。ポンコツ客船」

 振り向くとイスラとケインがいた。

 「なんであんたがここにいるのよ」

 驚きの声を上げる二人。

 「なんで?フリマに出店に決まっている」

 ケインが眼を吊り上げる。

 「あら。フローラ探偵事務所なんて始めて聞いた。イギリスじゃ聞かないわ」

 名刺を取り上げわざと言うイスラ。

 「あんた。あの宇宙人事件ではよくも港の外にほったらかしにしたよね」

 「おまけに備品や調度品も盗んでパスポートとカードを盗んだ」

 マチュアとカチュアは指をさした。

 「生活費の足しになったし、ミリタリーグッズよりは高く買ってくれた」

 しゃあしゃあと言うケイン。

 「僕は客船のコアをえぐってバラバラにしたい」

 福竜丸はビシッと指をさした。

 「誰の?」

 ケインが聞いた。

 「大型客船。空母と一緒にいたのを思い出した」

 首をかしげる福竜丸。

 「船名は?船会社は?」

 ケインは聞いた。

 「わからない」

 上目使いで答える福竜丸。

 「嫌よ。そんな船違いでコアをえぐられるのは」

 ムッとするカチュアとマチュア。

 「じゃあ帰れば」

 イスラはカチュアが持っていた許可証を取った。

 「また来るからね」

 捨てセリフを吐いてマチュアとカチュアは出て行った。

 

 品定めする外国人男性。

 「君は米軍のイージス艦ですね。それに買い物する気はないみたいですね」

 翔太は指摘した。

 もちろん。この男がマシンミュータントで船名もわかるし、偵察で来ている。

 「プリンス智仁と葛城長官の息子なのは知っている」

 男は流暢な日本語で答える。

 「なんですか?」

 声を低める智仁と翔太。

 「この女を見かけたら最寄の米軍基地に知らせてほしいんだ」

 名刺と写真を渡す男。

 写真には黒人女性が映っている。

 名刺と写真を取る翔太。

 「君はアイリスやサラトガの同僚ですね。そんな事をしなくても偵察部隊やCIAが盗聴しているからわざわざ言わなくてもいいじゃないんですか」

 翔太は鋭い指摘をする。

 相手は衛星も使うし、スパイを使って監視をしている。宇宙人事件でも監視していた。

 「この間の宇宙人事件では同僚を港の外に放置したよな」

 目を吊り上げる男。

 「それは僕達のせいじゃないし、何か勘違いしてませんか」

 智仁が言い返す。

 「勘違いじゃないさ。パオリとランディによろしくな」

 ニヤニヤしながら男は離れた。


 同時刻。第三管区横浜基地。

 ミーティングが終わり官舎から出てくる三神、朝倉、沢本、三島、大浦、貝原。

 「僕は資料をまとめないといけない」

 不満を言う貝原。

 「それは後で出来るでしょ」

 そっけなく言う三島。

 ムッとする貝原。

 「赤レンガ倉庫ではアフリカ文化を紹介するイベントをやっているそうよ。そこのフリマに智仁さまやランディ達が出店している」

 パンフレットを見せる大浦。

 「イスラとケインとパオリと翔太も出店しているのか。フリーマーケットは会場によって二〇〇円~三〇〇〇円の出店料が取られて大きな会場だと五〇〇〇円以上になるから二人で出店して出店料を折半する形が多い」

 朝倉が説明する。

 「よく知っているわね」

 感心する大浦。

 「でも智仁さまが一人では来ないよな」

 三神が疑問をぶつける。

 皇族方には常にSPや皇宮警護官がかならず護衛についている。

 「あの不知火という護衛もどこかにいるし、あの民間の警備員も実はSPと皇宮警護官で荷物を運んだ便利屋も警護官よ。彼らだけでなく警察もパトロールしているから大丈夫ね」

 三島が説明する。

 「第五福竜丸は夜庭と介助人といるんだ」

 三神が気づいた。

 第五福竜丸は普段、夢の島の展示館にいるのは知っているし、閉館すると新木場支部に帰ってくる。四十年前に夢の島埋立地にひどく損傷した状態で捨てられていた彼女はそれ以前の三年間の記憶や仲間や自分を捨てた犯人の記憶もない。そして高度脳機能障害と放射能障害を抱え漁船としての仕事やハンターの仕事もできず、地図も覚えられない障害を抱え、介助人がいなければ生活にも支障が出る生活をしていた。

 「赤レンガパークから通信電波が横須賀の在日米軍基地の間を行き交っている。もう一つの電波は赤レンガパークから東京湾を航行する客船から出て、領海の外にいる海警船を経由して中国に行っている」

 耳を澄ます貝原。

 「東京湾のその地点へ行こう」

 沢本は言った。


 東京湾の外湾に入ってくる大型客船。それは普通の事である。ここは一日六〇〇隻もの船舶が航行する海の銀座である。海上保安庁の第三管区保安部は東京湾だけでなく離島の海域のパトロール及び不審船の対処もする。

 大型コンテナ船の陰から接近する六隻の巡視船。

 大型客船から二隻のテンダーボードが離れていく。

 「海上保安庁である。そこのテンダーボート止まれ」

 沢本は警告した。

 「スーパースターヴァーゴ。スタークルーズ社の予定は入っていないし、横浜港や東京港にもそういう予定は入ってないわよ」

 大浦は指摘する。

 大型客船の船橋の窓に二つの光が灯り、船体から二対の錨と二対の鎖が飛び出す。

 「私は東京湾に来ただけ。悪い事なんかしていない」

 はっきり言うヴァーゴ。

 「へえ~。中国のスパイだけでなくブローカーを入れるのが?」

 三神は指摘する。

 「テンダーボートにいるのはただの客じゃないな。アルビノ狩りとミュータント狩りと禁止薬物の売人とスパイ」

 沢本は声を低め、船体から四対の鎖を出す。

 「神戸海上保安部ではクイーンエリザベスに乗船していた乗客は覚せい剤取締で逮捕された。その乗客以外にミュータント狩りや違法なハンターが乗り、ニトロドラックが貨物室から見つかった。運び屋だろ」

 朝倉が指摘する。

 「クイーン・ヴィクトリアは地中海を主にクルーズしているけど乗客の中にはアルビノ狩りが乗っていたそうよ」

 三島が口をはさむ。

 「テンダーボートの客以外は船内は誰も乗ってない」

 三神は船内から二対の錨を出した。

 「ホログラムだし、怪しい電波を中国の基地に送っている」

 貝原が指摘する。

 「宮古島や沖縄に海警船や戦闘車両、戦闘艦、戦闘機のミュータントをクルーズの乗客として乗せて来ているのは知っている」

 沢本は指摘した。彼は沖縄本島と先島諸島の映像を出して那覇港で停泊して宮古島で沖止めしているヴァーゴの姿を見せた。

 「次はカメレオンを乗せて来るのか」

 三神は身構えた。

 「するわけないでしょ。なんか勘違いしていない?」

 ドスの利いた声のヴァーゴ。

 「間違えてないけど。乗客名簿も住所も偽名だったけど」

 大浦が語気を強める。

 「じゃあ横浜保安部に来てもらう」

 沢本がわりこむ。

 「嫌だと言ったら?」

 二つの光が吊り上げるヴァーゴ。

 「証拠はあるわ」

 三島がテンダーボートを指さした。

 「私には黙秘権があるし、弁護士を呼ぶ権利があるわ!!」

 声を荒げるヴァーゴ。

 「呼べば?」

 しゃらっと言う大浦。

 「横浜港に入港するから入港料を船会社や中国政府に請求する」

 朝倉がわりこむ。

 「すれば。私はミュータントに戻ってこのボートに乗っていい?」

 ヴァーゴは聞いた。

 「ダメに決まっているじゃないの。持っていくのは簡単よ。ミニマム」

 大浦は呪文を唱えた。力ある言葉に応えてヴァーゴの姿は縮小して全長一メートルサイズの大きさになった。

 大浦は模型をつかんで大型犬のゲージに放り込んだ。

 「そのまま保安署に持っていく」

 沢本が言った。


 その頃。赤レンガパークのフリマ会場に入る佐久間。彼女はチラシを見た。

 フードブースやフリマ会場、アフリカ関係のイベントブースが書かれている。

 佐久間は翔太と智仁がいるブースに近づく。

 「佐久間さん」

 翔太が声をかける。

 「売れた?」

 佐久間が聞いた。

 「ボチボチかな。それと米軍のイージス艦のミュータントがここに来た」

 あっと思います翔太。

 「アイリス達の同僚みたいでここには偵察に来たと思います。そのミュータントはランディとパオリによろしくと言っていたのとこの人が来たら米軍基地に連れてくるように言われました」

 智仁が写真と名刺を渡した。

 「僕達にはそのミュータントだけ。でも福竜丸と夜庭さんのブースにマチュアとカチュアが来た。イスラとケインが追い払った」

 翔太が説明する。

 「わかった。二人に聞いてみる」

 佐久間はうなづいた。

 「ケイン、イスラ。マチュアとカチュアが来たのは本当?」

 佐久間は別のブースにいる二人に近づいた。

 「名刺となんか許可証を持っていた」

 ケインは名刺と許可証を見せた。

 「これは本物よ。あの二人に依頼してきた依頼主はアメリカ政府内にいる議員に頼めるような人物ね」

 佐久間は指摘する。

 「え?本物?」

 ケインとイスラは声をそろえる。

 「依頼主はジョコンダではないわね。アメリカ政府はわざとあの二人を使って福竜丸だけでなく時空の亀裂が見える翔太君や智仁さまとランディ、パオリを連れて行こうとしている」

 推測する佐久間

 「どこへ?」

 「ビキニ環礁とキリ島」

 「本気?あそこはアメリカ政府の管理下にあるわ」

 「依頼主は議員に頼める程の力の持ち主よ。その気になればあのアイリスやエイラートだって呼ぶでしょうね」

 「どうするのよ?」

 「わざと依頼を受けて行くしかないかもね」

 「囮になれと?」

 「あなた方は丁度いい囮。明日、相模湾沖で旅客船、護衛艦、巡視船が戦闘訓練に集まるから来てね」

 「囮って何よ」

 ムッとするイスラとケイン。

 「明日の訓練は氷川丸とパオリの保護者が来るから言いたい事があったら聞けばという意味よ」

 佐久間はしゃらっと言った。


 翌日。皇居

 御所の庭に出る智仁とアナベル。

 父であるフェデリコは天皇陛下との会談で御所にいるし、大統領は首相官邸で三宅首相と首脳会談でここにはいない。

 「君ってなんか神秘的」

 もじもじしながら言う智仁。

 「よく言われます。でも黒人のアルビノの中ではすごい幸運な方よ。タンザニアでは黒人のアルビノは幸運のお守りになると信じている呪術師やそういう人達がいて多数のアルビノが犠牲になっている」

 重い口を開くアナベル。

 黒人のアルビノはアルビノ狩りにしょっちゅう狙われ犠牲になる。それはマシンミュータントでも同じである。バラバラにされてお守りとして売り飛ばされる。

 「そんなの迷信だ。でもサルインにもオルビスの仲間がいて、エンリコというSPは異世界から来たエイリアンですね」

 智仁は指摘する。

 「わかっているんですね」

 「僕も小さい頃から精霊が見えて時空の亀裂が見えて、どれがマシンミュータントであるかそうでないか見えるんだ。最近は白いタヌキや白い鯉を池で見たし、桜が全部白い花になっていた。濃いピンクの花をつける桜まで白色なんだ」

 「本来、色のついた花が白くなるの異変や白い動物は精霊が警告している。アフリカでもそうだったから」

 「サルインで起こった事件資料を見たよ。向こうにも海保のミュータントが二人派遣されていたんですね」

 「彼らは二年前に日本政府から派遣されて来ていた。調査でチャーター船で沖合いにいたらこの三隻の海警船と遭遇したら沿岸警備隊と彼ら二人が追い払ってくれた」

 「そうなんだ」

 「異変の原因は隣国のリベルタだった。中国政府にサブ・サンが侵入したようにリベルタにその部下がいた」

 どこか遠い目をするアナベル。

 「リベルタってソマリアや中央アフリカ、チャドとならんで失敗国家のワースト5に入っているんですね」

 スマホで調べる智仁。

 「俗に言うとリベルタはそうなるわ。七回もクーデターがあって二回の内戦もあったからしょっちゅう政権が変わっている。それだけならまだマシだったけど時空侵略者が侵入している事に気づいた。だから「パンサーアイ」が結成された。パンサーアイも大昔から危機のたびに結成されている」

 「君が日本に来たのは観光じゃないのはわかるよ。アフリカに調査の依頼ですね。ただ僕だけじゃ決められないから宮内庁や政府の許可がないと難しい」

 難しい顔をする智仁。

 「何もなければそれでいいわ」

 アナベルは笑みを浮かべた。


 その頃。相模湾沖の海域

 護衛艦「かが」に接近する五隻の巡視船。

 五隻とも船橋の窓に二つの光が灯る。この五隻以外にも旅客船や護衛艦も集まっていた。

 「外国の客船はデカイな」

 朝倉がつぶやく。

 セレブレティ・ミレニアムとサミットである。全長二九四メートル。九万総トン前後。船橋の窓に二つの光が灯る。

 彼ら以外ににっぽん丸やふじ丸、飛鳥Ⅱとアルタニア、アマデア、QE2がいた。

 「客船も訓練に参加なのか。最近は多いな」

 三神がフェリーやレストラン船といった船舶を見ながら言う。

 原因はカメレオンがうろついている事にあるからでそれと戦う事も想定している。

 「フォーアイズが去って選挙も終って今度はスレイグが日本に来日するんだと」

 朝倉があっと思い出す。

 「お騒がせの大統領が来るんだ」

 三神が聞いた。

 若い頃は邪神ハンター協会から破門にされて違法なハンターだったスレイグは父の跡を継いで不動産屋になった。その会社を大きくするためにニューヨークの一等地にあるビルを手に入れて会社を大きくした。今ではバツ3で五人の子供がいる。その娘は大統領補佐官として四日後に来日する。滞在は二日間で彼女が帰国した後に大統領が来日する。目的は北朝鮮情勢と経済である。

 「本当は北朝鮮に圧力をかけるだけではないようね」

 大浦が疑問をぶつける。

 「中国と一緒にいるカメレオンの対処をどうするかの話し合いに来るけどどこまで本気かわからないわね」

 三島がわりこむ。

 「あまりアテにならないな」

 三神がしれっと言う。

 同盟国でありながら尖閣諸島の戦いでは参戦せず、特命チームと自衛隊は中国軍とカメレオンと戦い戦後初めて外国艦隊を追い出しカメレオンも追い払った。そのせいもあって各国からカメレオンの対処の仕方のオファーが来るようになった。

 「かが」の船尾側ハッチに翔太と福竜丸、ランディがいた。

 「あれ智仁さまは?」

 三神が聞いた。

 「彼は皇居だよ。アフリカのサルインという国から大統領と国王夫妻が来日していてその第三王女といるみたい」

 翔太がタブレットPCを出した。

 送信されたデータを読む三神達。

 「珍しいよな。南アフリカやボツワナ、ケニアのように比較的うまくいっている国で安定しているんだ。フォーアイズの事件の前にリベルタと戦争があり、その原因がリベルタ国内にいたサブ・サンの部下だった」

 朝倉が読んだ。

 「アナベル王女は黒人では珍しいアルビノなのね」

 三島がつぶやく。

 「僕達・・・全然気がつかなかった」

 ため息をつく翔太。

 「リベルタは俗に言う失敗国家で七回のクーデターと二回の内戦により常に政情不安でソマリア、チャド、中央アフリカについで失敗国家のワースト5の常連になっている。あの北朝鮮は三〇位で日本は一五六位だ」

 朝倉が説明する。

 「国境を越えていきなり占領。目的は「精霊の書」という時空遺物だった。だからパンサーアイが結成され、アフリカ諸国から集まったハンター、呪術師、魔術師が四十人と異変に気づいて国内で集まった人達と一緒に彼らを追い出す。サブ・サンの部下であるトマ・イルは死亡」

 三島が説明する。

 「トマ・イルが死んでも次が来るわね。サブ・サンは手持ちのタイムラインがなくて動けない。仲間もそうね。中国での動向を聞いていないから自分の世界に一時的に帰っているのかもね」

 大浦が核心にせまる。

 「そうだとしてもそれでタイムラインがリセットされるわけでもない。別の時空侵略者がやってこなければいい」

 沢本が推測する。

 「イスラム過激派のアダーラは?」

 ランディがわりこむ。

 「あのテロ組織はイラクのラッカをイラクと有志連合に奪還されて壊滅している。でもテロリストは各国に散らばったままだ。彼らだってバカじゃない。リベルタの失敗を見ている」

 沢本が言う。

 「沢本」

 不意に声が聞こえた。

 「香川?」

 沢本が声を上げた。

 巡視船「つがる」が接近してきた。船橋ウイングから女性保安官がいる。

 「香川、海江田。いつ日本に帰った?」

 すっとんきょうな声を上げる沢本。

 「昨日帰ってきた。今、サルインの大統領夫妻と国王夫妻が来日している」

 香川が声を弾ませる。

 「誰?」

 翔太が聞いた。

 「隊長の元相棒。六年前は一緒にバディを組んでいたんだ。魔人侵入事件で解消して俺達と組む事になって彼は新潟保安部に移動になった。尖閣諸島の戦いではミュータント部隊に入っていたんだけど別の部隊で戦っていた。その戦いの後に葛城長官からの依頼でサルインに派遣されていた。それはビンゴで案の定、金流芯達がうろついていてカメレオンがリベルタに侵入していた」

 朝倉が説明した。

 「じゃあサルインの大統領と国王と第三王女が来た理由って?」

 三神がわりこむ。

 「時空異変の問題とカメレオンの問題だけじゃない。サブ・サンの部下は死んでサブ・サンが自分の世界に一時的に帰ったとしても異変が続いているから調査に参加してというのが依頼なんだ。月夜の花という客船のミュータントのチームがあるというのを聞いた。だから飛鳥Ⅱとアルタニアの力を借りたい」

 香川が重い口を開いた。

 「俺達は参加するが客船の方は本人に聞いてみないとな」

 沢本は鎖で指をさした。

 

 「間村先輩。今度の合コンなんだけど女子の人数が集まらないけどどうしますか?」

 護衛艦「あきづき」が聞いた。

 「青山。今、何人?」

 護衛艦「あまぎり」に変身していた間村は船体ごと向けた。

 「五人」

 「こっちは一〇人の予定だけどメンツがそろわないと流れるな」

 「でも人間の女子を集めるのは難しいですね。ミュータントならアテがあります」

 「僕なら集められるよ」

 いきなり割り込む客船アルタニア。

 「本当ですか?」

 声を弾ませる青山。

 「パオリ。おまえは客船だろ。俺達が集めようとしているのは同じ自衛隊の女子だ」

 間村が割り込む。

 「僕なら三十人位集められる」

 しゃらっと言うパオリ。

 「もしかしてフェロモンで?」

 青山が聞いた。

 「フェロモン使わないで、イタリアでナンパしたら三十人位成功して電話番号ももらったし、ランチした」

 答えるパオリ。

 「先輩。絶対頼むべきです」

 「ちょっと待て。自衛隊の官舎に連れてくるつもりなのか?」

 「そうです」

 はっきり答える青山。

 「パオリ。そんな協力はしなくていいわ」

 あきれる佐久間。彼女はイージス艦「あしがら」に変身している。

 「佐久間。この船知らない?」

 パオリはホログラムで米軍のイージス艦の映像を出す。形といい姿といい「あしがら」や「こうごう」型のモデルになったアーレイパーク型である。

 「艦番号は?どこの部隊?」

 佐久間は聞いた。

 「艦番号は76で地中海にいたアルビノ狩りのメンバー」

 パオリは思い出しながら答える。

 「艦番号76のイージス艦は確か普通の艦船で横須賀だ」

 間村があっと声を上げる。

 「え?ちがうの」

 驚くパオリ。

 「なんかの見まちがいでは?」

 青山がわりこむ。

 「僕をストーカーしたし、アルビノ狩りと一緒にいた。だからコアをえぐってバラバラにして海に捨てる」

 はっきり言うパオリ。

 「あなたはバカ?日本とアメリカは同盟国だし、NATOとアメリカは協力関係にある。殺したら刑務所行きね」

 佐久間は指摘する。

 「こいつを探すのを手伝ってよ」

 パオリが声を低める。船橋の二つの光が吊り上がる。

 「どこの部隊?あのサラトガとアイリスの四人組は第七艦隊の所属よ」

 佐久間が聞いた。

 「地中海にいたから地中海の部隊じゃないんですか?」

 パオリが質問する。

 「地中海には空母「セオドア・ルーズベルト」の部隊がいるし、在留米軍基地も周辺にはあるの」

 「だからこの船を探している」

 パオリは詰め寄る。

 「艦番号とどこの部隊かわからないと探すのは無理ね」

 しゃらっと言う佐久間。

 「パオリ。ここにいたの?」

 アマデアが接近してくる。

 「アマデア。ちゃんと教えているの?」

 佐久間は聞いた。

 「何を?」

 驚くアマデア。

 「日本のルールやいろんな教育に決まっているでしょ」

 語気を強める佐久間。

 「教えているわよ!!」

 アマデアは声を荒げる。

 二隻は舳先を突き合わせ威嚇音を出した。

 「米軍のイージス艦を探しているらしいけど艦番号76は横須賀にいる普通の艦船で地中海にはいないの。幻じゃないの?」

 「あんたはバカ?そんな事あるわけないわ。知り合いのミュータントに頼んだし、該当する船がいなかっただけ」

 「当たり前じゃん。普通の船だからに決まっているでしょ」

 「じゃあ、一緒に横須賀基地へ行きましょうよ。アイリスに聞くわ」

 アマデアは声を荒げる。

 「それは無理ね。米軍が教えないわ」

 「じゃあ私がアイリスを呼ぼうか?」

 飛鳥Ⅱがわりこんだ。

 「呼べるの?」

 アマデアが聞いた。

 「最近、携帯番号変えたみたいだけど知っている。掘り出し物を見つけたとメールすると来るわよ」

 飛鳥Ⅱがしゃらっと言う。

 「あんたもバカ?情報開示はないわね」

 否定する佐久間。

 「何よ。バカって」

 飛鳥Ⅱは声を荒げる。

 「だから却下」

 はっきり言う佐久間。

 「ポンコツ艦」

 パオリは怒りをぶつける。

 「あんたもポンコツでしょうが!!」

 佐久間は声を荒げる。

 ドイツ語で悪態をつくパオリ。

 「ちょっとアマデア。どういう教育をしているの?」

 語気を強める佐久間。

 「彼の保護者に聞きなさいよ」

 言い返すアマデア。

 「当たり前よ」

 佐久間が声を低める。

 「あのバカ姉妹から呼ばれているから横浜に戻るわ」

 飛鳥Ⅱが言った。

 

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