軍医、カルロス
この世のものとは思えないような恐ろしい咆哮が辺りに響いた。
少しとはいえ、離れているジェームズの位置まで空気の振動が伝わってきた。
「…………っ………」
ジェームズは、いまだかつてないほどに、背筋が震え上がった。
咆哮の後、
距離をとったとはいえ、かすかに聞こえ出した断続的な金属同士がぶつかるような音。
それに混じって、何か重いものが地面に叩きつけられるような地響きが聞こえ始める。
嫌でも、あの見ているだけで足がすくむような狂気をまとっているバケモノが、周囲にあるものを破壊しながら暴れる姿が脳裏に浮かぶ。
同時に、そんなバケモノとたった一人で戦っている哲郎の姿も、
哲郎も、奮闘はしているようだが、こちらに戻ってこようとしているのであろうバケモノに押され、少しずつこちらに近づいてきているようだ。
はやくカルロスという男を救出し、この場を離脱しなければと焦るジェームズ。
「おーい、生きてるかー?」
恐怖に捕らわれ、完全に萎縮してしまっているジェームズを他所に、
先に檻にたどり着いたアドルフは、中にいる男に軽い口調で生存を確認した。
「死んでりゃ返事こねーよ!早く出してくれ!」
中からは、冗談交じりに答えが返ってくる。
「おいアドルフ‼︎こんな状況でなんでそんな呑気なやりとりができる?」
追いついたジェームズが、慌てた様子でアドルフに迫る。
「おっ!無事だったか!その顔は覚えがない。新入りか?」
アドルフが魔方陣を破壊し、開いた檻の中から出てきた男は、緊張感のないふざけた態度でジェームズに寄っていく。
「ああそうだ‼︎こいつはジェームズ。ジェームズ。この頼りないチャラ男がカルロスだ。カルロス、無事そうで何より」
割って入ったアドルフが、お互いの紹介を始めた。
「死んでりゃよかったってか?覚えてろよアドルフ?」
カルロスが、アホみたいな笑みを浮かべてアドルフの背中を叩く。
「だからなんでそんな気楽なんだ?哲郎が心配じゃないのか?」
二人のやりとりの真意がわからないジェームズは混乱するばかりだ。
「大丈夫、いくら一人でまともな武器がないとはいえ、ステージ1のオリジナル相手に遅れをとるような奴じゃねぇよ」
また聞き慣れない単語と共に、哲郎への妙な信頼を語るアドルフ。
「おいアドルフ、新入りにそんな専門用語使っても理解できねーよ‼︎ごめんな新入り……ジェームズでいいか?こいつ見た目通りアホなんだよ」
カルロスがアドルフの発言に補足を加える。
……こいつはいちいち挑発しないと気が済まないようだ。
少しキレたアドルフが、カルロスのこめかみにエルボーを入れて文句を言っているのを見たジェームズは、カルロスという男の性格を少し理解した。
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