鬼ごっこ

「……あれは何だ?」


ジェームズの目に映る、信じられない光景について、横に並んで同じものを見ている哲郎に問う。


最初は微かに聞こえるだけだった音楽は、いまやうるさいぐらいにはっきりと聞こえるようになっている。


「この音だからなんとなくと思っていたが、やはり"オリジナル"だったか」


「オリジナル?」


哲郎の口から出た、おそらくあの化け物を指す言葉を繰り返すジェームズ。


「そうだ、あいつは俺達の中でオリジナルと呼ばれる化け物だ。あいつは特殊行動はないが、シンプルに全てのステータスが高い厄介な相手だ。」

「特殊行動?ステータス?なんだそれは」


哲郎が独り言のようにつぶやく聞きなれないワードに戸惑うジェームズ。


「正直、あいつ相手に魔法陣を一つも消せていないこの状況は非常にまずい。しかもさっき一人捕まっていたからな。助けに行かないと」


「魔法陣?助けに行くだと?」


もう理解の追いつかないジェームズ。


「ああ、すまない。このままだと全滅コースだからな。思わず考え込んでしまった。」


ふと我に返った哲郎が、申し訳なさそうに頬をかく。


「いい、それよりまずい状況なんだろ?指示をくれ、なんでも手伝うぞ?」


「助かる。じゃあまず、ここからは何を聞いてもおかしな話だと耳を疑うことばかりだと思う、が、なんとか飲み込んでくれ、これが現実なんだ。」


「わかった。哲郎を信じよう」


ここまで異常なことが続くと、もう何を言われてもおかしくないと、覚悟を決めるジェームズ。


「よし、でははじめに、今の俺達は普通の人間じゃなくなっていると思ってくれ。この世界に来た時点で不思議な力に目覚めるんだ。その一つに奴らに捕まって巣に閉じ込められている、仲間の生存者を視認することができるようになる。……あれが見えるか?」


哲郎は、工場の方を指差す。


「……ああ、見えた。」


すると、おそらくあの工場には地下室があるのか、地面の下に人が倒れている影のようなものが見える。


まるで透視能力でも使っているかのように、はっきり人間が見えるわけではないが、光る赤い線で人型が描かれているため、はっきりとどんな人間がどんな状況で捕まっているかがわかるのだ。


「あそこに助けに行くのか?」

「そうだ。俺たちはヤツらに殺されて戦闘不能になると、ああやってランダムな"巣"にリスボーンするんだ、よりによって建物内の地下室とはついていないが、彼を助けないと俺達に勝ちはない」


そう言うと、哲郎は立ち上がり、走り出す。


「こ……殺され⁉︎」


ジェームズも、何やら不音な単語が聞こえた気がしたが、それを追求する間も無く走り出した哲郎の後を追うように走り出す。



哲郎はどうやらここの地形にかなり詳しいらしく、迷うことなくあっという間に工場の入り口前に辿り着く。


そして工場の中へ入る前に、哲郎は一度立ち止まり、ジェームズの方を振り返る。


「ジェームズ。ここからはお前が行ってくれないか?」

「何だと?」


ここへ来て何をいい出すんだと慌てるジェームズ。


「いや、これにも訳があるんだ。」


すると、哲郎はジェームズ達が今置かれている状況について、説明を始める。


「まず、俺達が今地下室に囚われている仲間を助けた場合。奴らに通知が行くんだ。」

「何だと?」

「そして間違いなく奴は戻ってくる。地下室に一度捉えた奴をもう一度捉えるために」


「つまり囮がいるということか?」


「そういうことだ。幸い、さっきのやつがまだ逃げ続けてくれているから戻ってこない可能性もあるが、保険は必要だ。」

「だが私が行ったところでどうやって助ければいいのか」

「それは大丈夫だ。奴らの巣には結界が張ってあって、中からは干渉出来ないが、外から触れると簡単に破壊できる。その後は中のやつが勝手に出てくるさ、あとはただ走って逃げればいい」


そういうと、哲郎はその場に身をかがめ、物陰に隠れて移動を開始する。


「頼む、かなり時間を稼いでくれたがそろそろ……」


哲郎がそう言ったところで、先程逃げていたであろう男の断末魔のような声が聞こえた。


そして、二人のいる位置からかなり離れた場所に、小さく今地下室に倒れている人と同じように見えるようになった人影が映し出される。


「よし、かなり離れてくれているな、今だ!行ってくれ‼︎全部上手く行ったらさっきの場所で落ち合おう‼︎とにかく集まらないと勝ち目はないことを覚えておいてくれ‼︎」


急ぎ口で伝えるべき最低限のことを伝えてくれた哲郎が、行動を開始する。


「俺はあっちの救助に向かわなければならなくなった。そちらもタイミングを見て助けてやってくれ」


そう言い残し、哲郎は、ジェームズに背を向けると、立ち上がり、次に倒された人の方へと走り出した。


「……わかった。約束だ」


ジェームズも、不安は残る中、何とか全てを飲み込んで、助けを待つ人間がいる地下室へと走って行くことにした。

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