救助

……冷たい。


地下室への階段を下りながらジェームズは思う。


風などないはずなのに、どこからか冷たい空気が流れていて、ジェームズの鳥肌立った肌を冷んやりと冷やす。


地下へと続く階段は螺旋状に一本だけあって、迷うことなく地下室へとたどり着けた。


そして、地下室の床に足を踏み入れたジェームズは、目の前に広がるその異様な光景に一瞬足がすくむ。


そこは、外の工場の地下室と同じ場所とはとても思えないような、異様な場所だった。


四方を囲む壁は木製、というより、鳥の巣のように、丸太やら、太い木の根を集めて壁を覆って作られているようで、まるで生きているかのように木の目が蠢いていて、気味が悪い。


それに、


部屋の中心にある、何やらギチギチ言って蠢く甲殻系の足みたいな生き物?が、部屋の端に逃げている一人の男を狙って鋭い足?を振りかぶっている。


哲郎が言っていたように、部屋の入り口は鉄製の柵で塞がれ、中に何かが閉じ込められていることが伺える。


「おい!大丈夫か⁉︎」


柵越しなのをいいことに、

ジェームズは声を張り上げ、相手の注意を引くついでに男の無事を問う。



「ああ‼︎大丈夫だ‼︎よくきてくれた‼︎早くそこを開けてくれ‼︎」


中から野太い声で返事が来た。


「わかった‼︎」


ジェームズは、柵に視線を移して哲郎から聞いていた"魔方陣"を探す。


「これか‼︎」


丁度目線の位置に青白い光を放つ手のひらくらいの大きさの魔方陣を見つけたジェームズは、その魔方陣に手をかざす。


バリン‼︎


それだけで簡単にガラスが割れるような派手な音を立てて魔方陣が砕け、鉄製の柵がギギギ……と、重々しい音を立てて開く。


「ありがとう‼︎助かった‼︎」


柵が開くとすぐ、中から身長2メートル近くあると思われるガタイのいい大男が飛び出してきた。


「お前、初めて見る顔だな、俺の名はアドルフだ‼︎フランス人、あっちではロクでもないゴロツキだった。」


「ジェームズ、神父だ」


唐突に始まった自己紹介に、反射的に答えるだけになってしまったジェームズ。


だが、そんな反応をしたジェームズにも、アドルフはうんうん、と満足そうにうなづいてジェームズの肩を叩く。


「よし、混乱してるかもだがここからは俺に従ってくれ、初心者にはちと厳しい盤面だからな」


出落ちはごめんだぜ‼︎

嬉しそうに歯を見せて笑うアドルフ。



「わかった、よろしく頼む」


その体育会系のノリについていけないジェームズは、もう流されるままだ。


「とりあえずはここから離れないとな、いくら離れているとはいえ、戻ってくるだろうしな」


言うと、アドルフはその体育会系のガタイのいい体に力を込めて走り出す。


「ついてこい!あっちでやられてるやつが助けられてないから多分もう一人が囮にでもなってくれてるんだろ」


状況から推測しただけだと言うのに、実際に置かれている状況をバッチリ言い当てたアドルフは、地下室の階段を駆け上がりながら指を指す。


「ああ、あっちでは哲郎が囮になってくれてるはずだ」


ジェームズも、アドルフの後を追って走り出した。


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