第18話

小夜と村正がもう九州からいなくなった。

しかし、討伐隊は北九州で小夜を探していた。


「いませんね。狐面。」

「ああ、私の勘も鈍ったか」


由紀の勘はよく当たる。

昨日まで小夜はそこにいたのだから。


「とにかく、夜まではここにいてみよう」


隊長である由紀の考えで、討伐隊は留まることになった。

夜になり、次の行き先を議論してると、妖魔が出たとの知らせが入った。


「狐面か!」

「わかりません」

「わかった。とりあえずみんな出動だ!」


妖魔が出たのは、市内の川沿いの交差点だった。

そこではもう、結界士たちが結界内に妖魔を閉じ込めていた。


「ごくろうさまです」


由紀がそういうと、結界士が訊ねてきた。


「あなたがたは?」

「私たちは狐面の討伐隊です。討伐のついでに妖魔も封印しています」


そう言って妖魔を封印しようとすると、大きなエンジン音が聞こえてきた。

それは、数台のバイクに乗った黒巫女だった。


「た、多恵?」


バイクに乗った黒巫女たちは、一斉にヘルメットをとる。

最後に、レディースのヘッドのような黒巫女がヘルメットをとって、由紀を睨んだ。


「何を人の領地(しま)荒らしてんだ。なあ、由紀よ」

「あんた、もっと黒巫女らしい恰好しなさいよ」

「うっせえ!こっちが聞いてんだ。早く答えろ。早く言わねえと、妖魔の前にお前からボコるぞ」


黒巫女というよりも、レディースの頭と言われた方が納得してしまいそうなこいつは、神野 多恵子(じんの たえこ)。

多恵子は、武者修行といって各地を回ったことがある。

その時の一人が、由紀だった。

試合形式の稽古で、傍から見れば1勝1敗1分けだった。

だが、お互いに2勝1敗と言って引き下がらなかった。

それ以来この二人は仲が悪い。


「わかったわよ。狐面の討伐のついでに、妖魔も封じているのよ。わかった?」


そこで多恵子はニヤリと笑った。


「ああ、確かお前ら、狐面にボコられたんだってな。なっさけな~。ただやられただけなんてな。美桜姐さんなんて、ちゃんとやり合ったっていうのに」

「ぐぬぬぬぬ~、だ、だまれ」

「あんだって?」

「由美。妖魔はまかせた」

「う、うん」

「こら、人の領地荒らすなら、それなりの覚悟はあるんだろうな。おまえら!他所もんに、これ以上好き勝手させるなよ」

「はい!」


この後は乱戦になり、AAAクラスの妖魔を封印するよりも時間がかかったのであった。

そのころ小夜と村正は、名古屋にいた。


「むらまさ。あつい」

「まだ夏なんだから、少しは我慢しろ。吉房欲しいんだろ」

「・・・」


小夜と村正は、どこで妖魔を呼び出すか、下見を兼ねて散歩をしていた。


「でも、こんなに暑いのに、散歩しなくてもいいのに」

「うっ、すまん。それは反省している」


昨日降った雨のおかげで、朝は比較的気温も低く過ごしやすそうだったのだ。

まさか、日が昇るにつれ暑さがここまで増すとは思わなかった。

日に焼けたくない小夜は、重装備のおかげで、余計に暑そうだ。


「むらまさ、もうここでいいんじゃない?」

「まあいいだろう。お前死にそうだしな」


ホテルに戻ると小夜は、服を脱ぎ散らかしシャワーを浴びる。


「はあ~、きもちいい~」


シャワーを浴び終わると小夜は、バスタオルを首にかけたまま碌に拭こうともせず、ベットに横たわった。


「つかれた~もう寝る」

「こら、寝るな。まだ濡れとるだろうが」

「わかってるわかって・・・す~す~」

「おい、風邪ひくぞ。起きろ!」


そのあと小夜は、夜まで起きることはなかった。


ヘクシュ!

「体はそんなに強くないくせに、ちゃんと体を拭かないからだ」

「ちがうもん」

「何がだ?」

「拭かなかったからじゃない」

「そんなことあるか~い!」


小夜はどうも、ちゃんと拭かなかったから風邪を引いたのを認めたくないらしい。

認めたくないなら認めなくてもいいが、これは聞かないとな。


「小夜よ、今日はどうする気だ」

「うん。いく」

「やめとけ。風邪こじらせてしまうぞ」

「いや」

「そうか。頭のいい奴なら、無理なんかしないんだがな。小夜は違うもんな」

「なにそれ。私が馬鹿って言いたいの?」

「ちがうとも。ただ、頭がいい奴の話をしただけだ」

「いっしょだよ!」


こうして押し問答となり、1時間もすると風邪をひいている小夜は、ベットに横になった。


「ごめん。なんかきつい。寝る」

「おお、そうしろ」


どれくらい眠ったのか、小夜は何かの匂いがして目が覚めた。

小夜の側の小さな棚には、おなかにやさしい、おじやがあった。

小夜はおじやを食べながら思った。

なんで、おじやが置いてあるの?と。

しかし、それ以上は不思議に思わなかった。

次の日になり小夜は復調した。


「気分はどうだ?」

「うん、いいかんじ。ばっちり」

「では、後は夜を待つだけだな」

「うん」


夜型人間の小夜の仕事は、基本夜に行われる。

日が沈みきった9時に小夜の仕事は始まった。


いつものように村正を道に突き刺し、妖魔を召喚。

その妖魔を封印しにきた黒巫女を襲う。


「き、狐面の悪魔!」


それを聞いた小夜が、村正に聞く。


「やっぱり私、悪魔なんだ」

「それは仕方がないな。あいつらは、残酷な狐面としか思ってないだろうからな」

「そっか」


「なにぶつぶつ言ってんの」

「あ、ごめん。それであんたは、どうするの。刀置いてく?」

「ああ、刀一つで無事に済むなら」


黒巫女は吉房を差し出した。

それを見た小夜の目は吊り上がり、黒巫女に質問する。


「あんた、刀より命が大事なの?」

「そうよ。文句あるわけ?ただでやるって言ってんだから、それでいいじゃない」


それを聞くと小夜は、一足飛びに黒巫女に近づいた。

黒巫女はいきなり現れた小夜に驚き、後ろにたたらを踏んだ。

それと同時に、チンッと刀を納める音がした。

そして小夜の右手に吉房が収まると同時に、ぼとりと何かが落ちる音が黒巫女には聞こえた。

黒巫女の腕だった。

黒巫女はそれを見て気を失った。

痛みではなく、自分の腕だと気づいて。

他の黒巫女たちも、魔導機動隊も逆らうものはいなかった。

本部からの命令で。

しかし、後をつけるなとは言われてないために、後をつけてきたものは、小夜に返り討ちにあっていた。

小夜はホテルに帰るとまず、シャワーで汗を流した。

汗を流し終わると小夜は、ゆっくりと手入れを始めた。

そして、刀の刃紋をいつものように鑑賞しはじめる。


「地は板目肌で乱れ映り、刃紋は直刃(すぐは)に重花丁子(じゅうかちょうじ)。なんか八重桜みたい」


シャワーも浴びて気持ちの良かった小夜は、ずっと刀を鑑賞したせいで、翌日風邪をぶり返したのであった。


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