ブラック・アベック #02

場は緊張に包まれていた。

ブラック・パレードは寛容な人物だが、それは敵対していない者に対してだけだ。

この街の住人は皆知っていた。

ブラック・パレードに狙われた者は───皆、

ワイルド・フォックスも生まれは古く、歴戦の猛者揃いと言っても差し支えないものではあったが、それは「持たざる者」の中での話。

「持つ者」であるパレードには、どう足掻いても勝てる道はない。

所で、ギャングが不思議に思ったのは隣に居るブロンドの女。

つまり、ブラック・ロックである。

知っている者はいなかった。

もう少し考えれば、噂のブラック・パレードが連れ回している女だと気付いただろうが、この緊張した空気の中で、そこまで頭の回る者は、この部屋にはいなかった。


ブラック・ロックが、鞘の付いたままの剣を構えるブラック・パレードを宥めるように言った。

「まぁまぁ、ブラック・パレードさん

そういきなり臨戦体制に入らないでも

ほら、まずはお話聞いてからでもいいじゃないですか」

パレードが、ロックに目を向ける。

「私は手っ取り早い方法を好むんだ」

まぁまぁまぁまぁと、パレードを抑えて、ロックは辺りを見回した。

「あ!あの、肌が緑色のお兄さん

あの人ならミント代をちょろまかした人知ってるんじゃないですか?」

指されたギャング。

「え⁉︎」

焦りの表情。

「なるほど、確かによく知っていそうだ」

パレードが歩みを進めた。

ギャング達が、緑色のギャングを中心に左右に散る。

「え⁉︎え⁉︎え⁉︎エ⁉︎」

パレードと、壁を背にした緑色のギャングは、今やゼロ距離であった。

「お名前は?」

「ゴ、ゴリブ」

「ゴリブ君

この写真の男に見覚えは?」

ゴリブが差し出された写真を見る。

上司だ。

写真の男「ラリー」は、ワイルド・フォックスの幹部で「持つ者」側の男だ。

下っ端の些細な失敗に、すぐ暴力を振るう恐ろしい男で、それで死人が出ることも珍しくなかった。

誰も咎めはしなかった。

この街では、命はそれ程までに軽いものだった。

「知っているのか?」

「え、えー…その人は、その…」

「誰なんだ?」

パレードが凄むと、ゴリブは軽く悲鳴を上げた。

「ラリー!ラリーです!」

言ってしまった。

周りのギャングは息を飲んだ。

「ほう、ラリー…、ラリーと言うんだな」

パレードは、性格の悪そうな笑みを浮かべた。

「で、ラリーは一体、どの階に居るのかな?」

「え⁉︎いや、それは…」

パレードが、剣に手をかけた。

「ヒイィ、知らない!知らないんです!

許してくださいぃ!!」

「クフッフッフッフッ」

馬鹿にしたような笑い声だ。

「怖いか?」

「へ?」

「ラリーはそれ程までに、怖い男なのか?」

「は、はい」

「そうかそうか…」

パレードが首を横に振り──

「それで」

相手を見据えた。

「ラリーはこの私よりも怖いのか?」

言うなり、ゴリブの足を思いっきり踏み

部屋中に甲高い悲鳴が響き渡った。

パレードは、倒れたゴリブの手を踏みつけると、尚もこう問うた。

「ラリーは、この私よりも怖いのか…?」

ゴリブは、低く唸りながら首を振った。

「なら、教えてもらおうじゃないか」

そう言うと、手の上に置いた足に、ゆっくりと力入れ始めた。

ゴリブは更に悲鳴を上げた。

それでも、少しの間は耐えていたが。

手から何か異音が鳴り始めてからとうとう。

「ううぅぅぅうぅううああ!!

あぁッ、69ゥ!69階に居ますうぅうう!!」

我慢できずに暴露してしまった。

周りのギャングの顔は、青ざめた。

皆、ラリーの報復を恐れたのだ。

事が済んだら、皆まとめて粛清されるのではないか。

ブラック・パレードは、ようやくゴリブの手から足をどけると、ブラック・ロックに対して。

「行くぞ」

と一言、それから足早に部屋の出口に向かった。

出口の近くにいたギャング達は逃げた。

パレードは、ロックを残して部屋から出てしまった。

「わわっ、待ってください」

慌てて後を追うロックを、ギャングの中の1人が、勇敢にも攻撃しようとしたが。

出口の所で、ロックが振り向いたので、その試みは失敗してしまった。

ロックは、にんまりと笑うと。

「皆、ラリーの報復を恐れているんでしょ?

大丈夫!だってラリーはもう…

んだから」

そう言って、首を搔き切るジェスチャーをしてから部屋を去った。


この街は、高層ビルで構成されている。

どの建物も、少なくとも20階を下回る事はない。

そして、ビル1つ1つにコミュニティがあるのが大半だ。

この街の住人にとっては、建物そのものが、町や、村のようなものであった。

「RPGのダンジョンを進む勇者の気分だな」

廊下を進む途中、ブラック・パレードはそう独りごちた。

「なんですか?そのって」

「昔はあったんだ

そういうのがな

今は誰も作ろうとしない」

パレードは、ふと物悲しそうな顔をした。

「魔王を倒せば、世界が平和になる

そんな単純な世界なら、どんなに楽だったか知らん」

ブラック・ロックは、パレードの言葉をよく理解できなかった。



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