最終話(Bルート) 最期の一匹

 廃村ロフィア



私はゴールの自爆を全力で抑え、軽い爆発に留めることに成功した。

でも魔力をほぼ全て持ってかれてしまったことでもう時間がなさそうね。

爆発でミルマの視界が遮られている間に建物の影に隠れ、私は偽りの姿から本来の姿へと戻る。


「くっ、戻るのもギリギリかしら」


思った以上に限界が近いようね。

勝手には死ねないわ。

ミルマに殺されることに意味があるんだもの……。


「クローゼ? どこー!?」


ミルマの声がする。

行かなきゃ、復讐を終わらせに。

私はゴブリンの姿で建物の影から出てミルマの前に姿を現す。

最初に視界に入ったのは驚くミルマの顔。


「!? ゴブリン……! それにその姿、あの時の……!」


ミルマが私に向かって弓を構える。

そして矢を私に向け、その矢を、捨てた。

私は驚いた。

ミルマは何故か泣いている。

どうして?

その視線の先は私の首元へと向いていた。


「ク、ローゼ? クローゼなんだよね?」


「!?」


え……? 今なんて言ったかしら?

どうしてこの姿で私がクローゼだと分かるの?

そこで私は改めて自分の首元を見てみる。

あ、これは……ミルマとお揃いのネックレス……。

余裕がなくて外すのを忘れてたわ。

どうするべきかしら、今すぐにでもこれを壊して……。

そう考えてる内にミルマは私に近付き、私を抱きしめた。


「クローゼ! 良かった! 私怖かったんだよ? この戦いが終わったらどこかへ行っちゃうんじゃないかって!」


どうすれば別人だと、どうすればミルマに殺してもらえるか考える時間はなかった。


「ミ、ルマ。わ、わたしは……」


「クローゼだよね」


「そうじゃないわ。姿を見て分かるでしょう? この村、ロフィアを襲ったのは私の父で、この場所を教えてしまったのは私。そして今の今までそれを秘密にして仲間のふりをしてきたミルマの憎むべき相手なのよ?」


「知らなかったんでしょ? お父さんが村を襲うことが目的だって」


「知らなかったからで許されることじゃないわ。そのせいで村の人やミルマの両親も、人生も変えてしまったのよ?」


「許す許さないを決めるのはクローゼじゃないよ」


「え?」


「それを決めるのは私だよ! それに、それを罪に感じてここまで協力してくれたのはクローゼの意志なんだよね?」


私は言葉が出なかった。

違う、私はミルマに殺されなきゃ。


「私の方こそごめんね」


ミルマは何故か私に謝ってきた。


「私があの時、殺してやる、とか言っちゃったから、何も知らないで、感情だけで酷いことを……」


「そんなことないわ! 私は殺されるべきなのよ」


「むー、姿は変わってもそういうところは変わらないなぁ」


ミルマは私を抱きしめていた手を離し、目の前に立つ。


「じゃあさ、消えてよ」


「ええ、そうして……」


「その姿、消えてよ。私の大切で大好きなクローゼに戻って。ゴブリン、魔族を一匹残らず消すことが私の復讐なの」


「ミルマも、変わらないわね。でもごめんなさい。もう私に姿を戻す魔力は残ってないのよ、だから……」


そう言い掛けるとミルマが私に弓と剣を見せつけてきた。


「この武器には強大な魔力が宿っているのだ! 今回は特別にこの魔力を分け与えてあげよう」


わざとらしく偉そうに、嬉しそうに語るミルマ。


「確かに、この魔力を回収すれば人間の姿に戻ることは出来るわね」


「でしょでしょ? やったね!」


「でも本当にいいの? くどい様だけど」


「くどい! くどいよ!」


怒ったように叫ぶミルマ。

私は、許されていいのかしら……。

どうしても断ち切れない迷いが浮かぶ中、ミルマが続けて言う。


「死ねば許されると思うな! あるべき未来を奪ったことが罪で許せないなら、その償いとして私の求める未来に協力すること!」


一切の迷いもなく、笑顔でそう言い放つミルマを見て私は決心した。

ミルマの武器から魔力を回収し、人間の姿に戻る。


「また、戻れるなんてね」


「はい、ゴブリンは死にました。復讐は果たされたのです」


「そ、そうね。おめでとう、ミルマ」


これで、良かったのかしら?

私の描いた結末とは違ったけど、ミルマが幸せならこれで……。

私も


「幸せよ」


「んー? 何か言った?」


「なんでもないわ。さっさと帰りましょうか、疲れたわ」


「うわ、急に元通りどころかなんか対応が雑になった気が?」


「気のせいよ」



一人の少女の復讐は二人の手によって終わり、この世界から魔族は消えた。

復讐から解き放たれた少女達はこの世界で平和に暮らす……予定だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴブリンと復讐の少女 ばえる @Bael

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ