第十七話 アクティニディアの女王

 アクティニディア領内、アウグス村。



 赤い髪、動きやすくも気品のある服装、小さな装飾の付いたマント、整った顔立ちをした女の子が民家の上に立っている。

 斧を投げたのは彼女だ。


「両足も失いたくなかったら今すぐ退きなさい。これ以上の戦闘行為はマルスプミラによる宣戦布告と見なし、わたくし個人ではなくこちらも国を挙げてお相手しますわ」


 メストの方を見て話すその姿にはどこか余裕があり、圧倒的な存在感があった。

 それを聞いたメストが答える。


「随分と余裕なんだね……。この程度で僕が殺せるとでも?」


 その直後、メストの腕が小さな光に包まれ元の形へと復元していく。

 そして無くなっていた腕はあっという間に元通りになる。


 その未知の力に赤い髪の少女以外が驚く。

 その中でもクローゼの表情は他の誰とも違う、驚きよりも信じられないといった表情だ。

 クローゼは誰にも聞こえないような小声で呟く。


「魔法……」


 赤い髪の少女は驚くどころか楽しそうな表情で言う。


「その能力、面白いじゃない」


 赤い髪の少女がメストに向かって駆け出す。

 メストは仮面に指示を出し、包囲していた別の仮面が動き出す。


「武器を投げたことを後悔するといい」


 二体の仮面が赤い髪の少女に斬りかかる。

 それを態勢を低くして避け、一体の仮面の腹部に蹴りを入れる。

 その威力は赤い髪の少女の見た目からは想像出来ないような威力で、その仮面は受け身を取れないまま村の外壁に打ち付けられる。

 そして動かなくなった。


「わたくし、素手にも自信がありますのよ」


 そう言い、もう一人の仮面には顔面を殴るかと思いきやそれはフェイントでもう片方の拳で腹部を殴る。

 蹴りとは違い吹き飛びこそしなかったが、その仮面もその場で地面に倒れ込む。

 その光景を見ていたメストがまだ沢山いる包囲している仮面に指示を出す。


「中々やるね、でも、どこまで耐えきれるかな?」


 冷静を装ってはいるものの、メストの視線は赤い髪の少女しか見えていない。

 既に背中にいた仮面二人はミルマとクローゼ、そしてアンテとアリュールによって倒されていることに気付いていなかった。

 メストの背後には殺気の籠った表情のミルマが剣を振りかぶっていた。


「不快だから喋らないでって言ったよね」


 その言葉でようやく背後にいるミルマに気付くものの、その剣は既に振り下ろされていた。

 頭上から縦に一直線に振り下ろされる剣。

 普通は真っ二つになるはず、だが障壁のようなもので弾かれメストは吹き飛ばされる。


「無駄だ、よッ!?」


 言い終える前にミルマは吹き飛んだメストの頭を踏みつける。

 そして弓を構え至近距離で矢を連続で放ち続ける。

 矢は障壁に弾かれメストには届いていないが、ミルマは構わず矢を撃ち続ける。

 それを止めようと向かってくる仮面達。

 メストの救出を優先する仮面達は周りに居るクローゼ達の存在を無視しようとするが隙だらけのその状態を見逃さないはずもなく簡単に倒される。



 ミルマの矢が尽きた頃、村を包囲していた仮面達は四人の少女によって全滅させられていた。

 静かになった村に剣が障壁にぶつかる音だけがする。

 矢が尽きた後、頭を踏みつけたまま剣を持ち何度も斬りつけるミルマ。

 そこへクローゼ、アンテ、アリュールが近付いてくる。

 赤い髪の少女は少し離れた所でそれを眺めているだけだ。


「そろそろ限界なんじゃないらしら?」


 クローゼは障壁に小さなヒビが入ってることを見逃さなかった。


「わ、分かった、降参だ。何でも話すからもうやめてくれ」


 それを聞いたアリュールがミルマを制止する。

 ミルマは一言も喋らずメストを斬りつけていたが、周りは見えているようでそれを受け入れる。


「ありがとうございます」


 アリュールはミルマに一言そう言い、メストに向き直る。

 助かったという表情のメスト。

 だがその直後、アリュールはメストを斬りつけ出した。

 驚くメスト。

 最初の数撃は直接届き血が舞う。

 障壁の展開が間に合わなかったのだろう。

 その後は障壁を展開しメストは大声で抗議する。


「待ってくれアリュール! 僕は降参するって……!」


 アリュールはレイピアを振り続けながら言った。


「メスト、貴方は逆の立場だったらどうしますか? 許してくれ、助けてくれ、そう言われた時どうしましたか? なんとか脱出した中立国の人々をどうしましたか?」


 表情はいつも通り、でもそこには確かな怒りの感情があった。

 障壁のヒビが大きくなり、ついに割れる。

 アリュールはそれを確認して攻撃を止め、メストの髪を掴み壁へと打ち付ける。


「話しなさい、国王様の姿をしたこの仮面達は、この人間離れした力は、貴方の目的は何かを」


 今度はいつもの優しい雰囲気からは想像出来ない威圧的な表情。

 しかしメストは突然笑い出す。


「仮面達を倒し、障壁を破ったからって何だっていうんだ。僕には再生の力がある! 時間稼ぎは十分だ! この村には大量の魔族が向かって……」


「残念ながら来ないわ」


 今までその様子をただ見ていた赤い髪の少女が言う。

 その少女の元へと兵士がやってくる。


「フィルメルス様、村へと進行していた魔族、全滅を確認致しました!」


 メストの表情が信じられないと言ったようになる。

 フィルメルスと呼ばれた少女は兵士の報告を聞いてメストの方へと歩み寄る。


「残念でしたわね。わたくしは最初に言いましたわよ? ここを誰の国と思って? これ以上は国を挙げてお相手します、と」


 メストは少し震えた声で言う。


「フィルメルス!? まさか、お前がアクティニディアの女王!?」


 フィルメルスは答える。


「ええ、わたくしこそアクティニディアの最高責任者、フィルメルスですわ」


 フィルメルスはミルマ達の方を見て提案する。


「宜しければこのお子様はわたくしの城で拷問しません? 専用の部屋がありますわ」


 それに最初に答えたのはアンテだった。


「お願いします」


 ミルマ、クローゼ、アリュールはその行動に驚く。

 アンテは咄嗟に答えてしまったことに気付き慌てながら皆に言う。


「勿論、皆さまが良ければ、です……」


 クローゼはアンテには優しい視線を向け、メストには威圧的な目で見て言った。


「誰も反対しないと思うわよ。誰がこんな奴に同情するのかしら」


 ミルマとアリュールもアンテを見て頷く。


「決まりですわね」


 そう言ってフィルメルスは歩き出す。

 メストは兵達に拘束され連れていかれる。

 こうして村を包囲していた仮面達を全て倒し、ミルマ達はアクティニディアの城へと向かう……。


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