第十話 魔族侵攻
中立国デトタフデア、国境。
「確かに私は人間じゃなくて魔族のが殺したい……けど、あなたはなんだか嫌い。それに魔族と繋がってるんなら、許してと言われても許さないから、そこで待っててね!」
ミルマはそう言い自身を覆い尽くす程の大きさのミノタウロスに向かって矢を放つ。
その矢は頭に当たるも、弾かれて下に落ちる。
何事もなかったかのようにミルマに向かって大型のメイスを振り下ろす。
すると、大きな音と共に地面が抉られ、砂埃が舞う。
その砂埃や振動は横で対峙していたクローゼとイーガルの方にも伝わる。
「ちょ、ミルマ! 振り下ろす前に倒しなさいよ!」
視線を砂埃の方へ向けた瞬間、クローゼに向かってイーガルが踏み込み剣を振る。
「へぇ、余所見する余裕があるんだぁ。イライラするなぁ、その余裕そうな態度」
剣と剣のぶつかり合い。
「ごめんごめん、今殺すから……!」
ミルマの声、しかしミノタウロスはミルマの姿を探している。
「ここ、ここだよ」
鉄で出来たメイスの上、そこからミノタウロスの腕をつたって顔の目の前に行く。
そして至近距離で両目に強めに引いた矢を
放つ。
ここまで数秒、一瞬と言ってもいい程の出来事であった。
「やるね、さすが魔族ハンター、ミノタウロスくらいじゃ相手にならないか」
ここまでの出来事を動じる事なく傍観していたメストが口を開いた。
視界を遮られたミノタウロスはその場でメイスを振り回し暴れる。
しかし元々隙の大きい攻撃、ミルマは簡単に避けつつ膝と足を剣で何度も薙ぎ払う。
そしてついにミノタウロスがバランスを崩し地面に倒れる。
「大型だと弓が効きづらいから嫌なんだよね、でもこれで終わり、ばいばい」
倒れたミノタウロスの心臓部に剣を突き刺しトドメを刺す。
一方のクローゼとイーガル。
こちらは何度か剣を振り合い、一旦間合いを取ったところで止まっていた。
「仲間が心配? だから仕掛けて来ないの?ほら、もう終わったみたいだよ」
対しクローゼは。
「心配? そんなことしてないわよ、あの子は負けないもの」
「どっちかって言うと貴方の心配をしてるかしら、ぐちゃぐちゃにされていく時にどんな声で、どんな表情で死んでいくのか、ね」
クローゼの安い挑発に乗るイーガル。
「ああ、やっぱりその余裕な感じ、イライラする、早く殺しちゃおう」
イーガルの方から間合いを詰める。
クローゼは剣を振ることなく最低限の動きでかわし続ける。
横で見ていたメストが言う。
「助けなくていいの?大事な仲間なんでしょ?」
ミルマはメストに向かって微笑み。
「気を使ってくれてありがとう、でも自分の心配をしてね。次は貴方の番なんだから」
一度倒れたミノタウロスに視線を向け再びメストの方を向き言う。
「人間を襲う魔族がどうして貴方の事を無視して私だけを狙ってきたのか、どうしてあのタイミングでまるで呼び出したかのように魔族が現れたのか、正直に話すって言うなら殺さなくてもいいけど? 人間だし……」
メストは微笑み返し答える。
「ちゃんと飼育されてたから、あのタイミングで呼び出したから、簡単でしょ? ちゃんと真実を答えたから殺さないでくれるよね?」
ミルマは表情一つ変えることなく。
「うーん、殺すかどうかはクローゼに判断してもらうね。少々お待ちを~!」
それが耳に入ったクローゼは。
「あら、なんだか私待ちらしいからそろそろ終わらせてあげるわね」
避けているだけだったクローゼが剣を振り返す。
振り返された剣をかわし、イーガルが一歩下がる。
「へえ、やっとやる気に……ッ!!」
言い終える前にクローゼの剣がイーガルの左腕を斬り飛ばしていた。
その腕はイーガルの後方まで飛んで行った。
「う、うがァァァァァ!」
大量の血と大きな悲鳴。
それを見つつクローゼは何故か一歩引く。
「いい? 貴方を殺すことなんて私には簡単なの。周りの村や町を見捨て、王都に引きこもってる名前だけのお飾り精鋭が急に出てきたところで私やミルマを止めることは出来ない」
「私も人間を殺す趣味はないの、分かったならとっとと王都へ帰りなさい」
それを見ていたメストが何故か一瞬ニヤリと笑い。
「イーガル、大丈夫? 本当は仇を取ってあげたいところだけどどうやら時間のようだ、撤退しよう」
「ふざけるなァ!コイツを殺すまで……」
「治療しないと死ぬよ? 本当に殺したいなら一旦引くべきだ」
イーガルは唇を噛み締め、クローゼを睨みながら後ろに下がっていく。
メストが二人に向かってお辞儀をする。
「それではお二人様、またお会いしましょう、生きてたら、ですけど」
「待ちなさい、腕が飛んだ方には帰りなさいと言ったけど、貴方には言ってないわよ?」
イーガルと共に撤退しようとするメストをクローゼが制止する。
「まさかこれだけの騒ぎを起こして自分だけ無傷で帰れるとでも思ってるのかしら?」
「そうだそうだー! 私達の宿を返せ!」
ミルマがクローゼの後ろから言う。
メストは余裕そうな表情を崩すことなく中立国の方を見る。
「宿、か……。小さいなあ。そろそろ時間だね、僕に構ってる時間なんてないんじゃないかな。魔族よりも人間を殺したい! とか言うなら話は別だけどね」
メストが笑う。
その時、先程のメイスの振り下ろしとは比べものにならない程の衝撃音がした。
「さあ、始まりだ。この世界の状況は大きく、さらに変わる」
爆発音は中立国デトタフデアからで、大きな城壁に囲まれた内部からは大きな火と煙が上がっている。
「魔族!」
ミルマの視線の先には壊された城壁から大量の魔族が侵攻していくのが見える。
「上にも!」
その視線の先、空を飛んでいる小型の魔族と大型の魔族が見える。
クローゼはメストの方を見て。
「お子様の遊びにしては度が過ぎるわね、でもそういうこと……。まあいいわ、今回はお子様には構っていられないわね。ミルマ、行きましょう」
「うん、魔族……絶対に許さない」
メストとイーガルを背に、ミルマとクローゼは大量の魔族と火と煙の上がる中立国へと走り出す。
その様子を確認したメストは。
「じゃあね、お姉ちゃん達。もう手遅れ、中立国は壊滅し、魔族の領地に変わる。そして世界は変わっていくのさ」
「おおっとこのままじゃホントにイーガルが死んじゃう、早く帰らないと」
ミルマとクローゼ、メストとイーガルはそれぞれ反対方向へと向かう。
「次の花火の準備をしなきゃ、果たしてお姉ちゃん達は揃って次の花火を見ることが出来るかな? ふふっ」
メストは不気味な笑いと共に姿を消した。
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