第九話 深まる謎


 中立国デトタフデア、商店区。


「賑やかだね!」

 周りの様子を見てミルマが言う。


「そうね、中立国ならではね」

 この国は国同士は勿論、現在の魔族との戦争にも一切手を出していない。


「でもなんだが変な状況よね」

「中立国であるデトタフデアから手を出すことはないにしても、魔族が一切手を出さないなんて」

「もしかして裏で繋がってる?」

「ありそうで怖いわね……」

 二人は賑やかな商店区を歩く。

 ミルマが一つの露店を指を指しながらクローゼに話しかける。


「ねね、あのネックレス可愛い!」

 ミルマが目を輝かせながらそのネックレスに近付いていく。

 クローゼは興味なさげに着いていく。


「欲しいなら買ってあげてもいいわよ。束の間の休息だし、魔族以外で興味を持つなんて珍しいし……」

「失礼! 失礼だよ! クローゼ!」

 冗談半分で怒りながら抗議するミルマ。


「ごめんごめん、でも言われてみれば確かに綺麗ね」

「こんにちは、こちらのネックレスを一つ頂きたいのですが」

 クローゼが店主に声を掛ける。

 直後ミルマの声。


「ねえクローゼ、赤と青の二色があるよ」

 店主が答える。

「これはだな、信頼し合う二人が付けることで二人を守ってくれる不思議な宝石が埋め込まれてるネックレスらしいんだ」


 クローゼは呆れた様子で。

「胡散臭いわね……やめましょ……」

「店長! これ、ペアで下さい!」

 ミルマが迷うことなく購入の意志を伝える。


「え? ちょ、二つはいらないわよ?」

「お揃い~~!」

「まいどあり!」

 店主は最高の笑顔で二人を送り出す。


 その後クローゼは早歩きで住居区、宿屋等がある方角へと歩き出す。

「ねえねえ! なんだか急に歩くの早くなった気がするの気のせいかな……」

「そう? 私はいつも通りよ? 決して余計な買い物をしない為に早く歩いているわけじゃないわよ?」

「う、嘘だ~!」

 そうして二人は宿屋を見つける。


「ここが良さそうね」

 いくつかある宿屋の中から外見や料金を見比べ、クローゼが選ぶ。

 二人は宿屋へと入る。

 料金を支払い、部屋に案内される。

 その途中、外から声がした。


「なんだが騒がしいわね」

 外から聞こえてくる声。

「今ここに緑髪と黒髪の女が入って行かなかったか!?」

 声は近くなり、受付の辺りから聞こえてくるようになった。


「んん? わたしたちだね?」

「嫌な予感しかしないわ……」

 クローゼの予想通り、宿へと押しかけている数人の男達はこう口にした。


「今すぐ女二人を連れて来い! さもなくばこの宿を燃やす!」

 ミルマとクローゼを案内していた者が動揺する。

 それに対してクローゼが言う。

「落ち着いて下さい、狙いはどうやら私達のようですので」

「私達が降りていけば宿へ被害は及ばないでしょう」

 案内役が頷いたのを確認して二人は受付へと向かう。


「探してるのは私達ですか?」

 ミルマが先に言う。

 案内役に突っかかっていた男達の視線が一斉にミルマの方へと集まる。

「あの女共だ! 間違えねえ!」

「痛い目みたくなかったら大人しく投降しな!」

 ミルマが笑顔で答える。

「まず、ご用件はなんでしょうか?」

 男達の一人が。

「あんたちには賞金が掛かってる、悪いが従わないなら死なない程度に痛めつけて、マルスプミラに売り飛ばしてやる」


 クローゼの表情が変わる。

「マルスプミラ……?」

 が、すぐに表情を戻し。

「目的が私達なら表へ出なさい、この宿屋は関係ないでしょう?」

 威圧的なクローゼの声。

 そしてミルマ、クローゼ、男達は広場へと場所を移す。


「あくまで抵抗するつもりか」

 男達の一人がそう言う。

 対してミルマが言う。

「ここは中立国、他国や外での事には干渉しない国。ここで争いを起こせばこの国から追放されるけど……」

「あ、あと貴方達に勝ち目はないからね」

 それに対し男が返す。

「お前等を差し出せばマルスプミラでの地位、名誉、金が手に入るんだ、ここから追放されることなんてどうだっていいんだよ!」


 クローゼが外へ出てから初めて口を開く。

「警告してあげる、貴方達が騒ぎを起こしたことを私達と宿屋さんに詫びて、誰が私達に賞金を懸けたのか教えるなら見逃してあげるわ」

「ふざけるな! よし、野郎共! 死なない程度にやっちまえ!」

 号令と共に男達が一斉に動き出す。


「うっわ、頭悪い、正面から来たよ」

 ミルマが驚く。

「せめて数を生かした戦い方をしようよ……」

「まあいっか、来るなら仕方ないね、全員殺してあげる」


「いいえ、逃げるわよ」

 クローゼの提案。

「え?」

 驚くミルマ。

「マルスプミラが出禁になってる今、中立国でも出禁になるわけにはいかないもの」

「外まで来るならそこで首を落としてやりましょう」

「了解! 拠点を減らさない為だね」

 そして門へと走り出す。


「野郎、追うぞ!」

「おう!」

 男達も遅れてついてくる。


「ごめんなさい、少し急ぎの用事が」

 門番の兵士にクローゼがそう言い、デトタフデアから脱出する。


 走る速度が圧倒的に上回っていた為、遅れて男達が領土の外へ来る。

「へっ、ここでおしまいだな」

 クローゼは笑いを堪えながら。

「追いついてない上に少し息が上がってるじゃないの」

「もう一度だけ言うわ、今すぐこの場から消えなさい。そうしたら見逃してあげる」


「舐めやがって!」

「ここで終わりだ!」

 男達の声。


 見下すミルマとクローゼ。

「残念だね、クローゼが二度も死なずに済むチャンスをくれたのに」

「私はこの明らかにやられ役っぽいセリフしか言わない悪党は好きよ」

 そう言いながら一歩踏み出し、向かってきた男の首をはねる。


「あ……」

 派手な断末魔すらあげられずに男の首が転がる。

 それを見た他の男達は、一斉に動きを止めて、一転、怯えたように後ずさる。


「なんだこの女やべぇよ……」

「剣を振ったのが見えなかったぞ……」

 度々号令を出していたリーダー格の男がその様子を見て叫ぶ。

「ビビるな! コイツ等をやれば世界が変わるんだぞ!」

「そ、そうだ、俺は変わるんだ!」

「こんな女に負けるわけがない!」


 再び奮起する様子を見てミルマが。

「んー、ならこれでどうかな?」

 矢を連続で発射する。

 一人の男の両腕、両足に矢が当たる。

「うがあぁぁぁぁぁ!」

 今度は大きな声で悲鳴をあげる。


「もーやめときなよ、いくら貰えるのか知らないけど、命を落としちゃお金は貰えないよ?」

 クローゼが険しい表情で言う。

「それに……貴方達の雇い主の用は私達を中立国から出すことで、もう役目は果たされてるみたいよ?」


 すると男達の後ろから身長の低い男が歩いてくる。

「へえ、流石だね、気配を消してるつもりだったんだけど、気付くんだ」

「メ、メスト様!こいつ等、中々やりますぞ!」

 メストは男を見て微笑み。

「君達はよくやってくれた、十分な仕事をしてくれたよ、だから褒美をあげよう」

 男達はホッとした様子、だがその直後。

「え……」

 男の腹には包丁が刺さっていた。

 そして残った男達には短剣のようなものを投げつける。

 男達が全員倒れたことを確認して。

「ご苦労様、君達はちゃんと外へ連れ出してくれたね」


 メストは視線をミルマとクローゼに移し。

「これはこれは、自己紹介が遅れました。僕は七つの剣が一人、メストと申します」

「以後、お見知りおきを」

 わざとらしく丁寧におじぎをする。


「その七つの剣が一人で何の用? さっきのやられ役と違って私、貴方は嫌いなタイプだわ」

 クローゼが言う。


「いやだなあ、貴方達は何かを勘違いしている」

「僕は戦いにきたんじゃなく、君達と一時的な同盟を組みに来たんだよ」

 楽しそうに語る。


「実は国王はまだ生きている。発見が早かったせいか、命に別状はないようなんだ」

「良かったですね、主が無事で」

 思っても無いようにミルマが答える。


 それに対し、ニヤリと笑いメストが話す。

「いやあそれがですね、僕としては死んでくれた方が都合が良かったんですよ。魔族との共存? 甘い考えですよね、もう犠牲者が出ている、なのにこの期に及んで自分だけ安全な場所から指示を出すだけ。ウンザリなんですよ、今の国王のやり方には……貴方も、そう思うでしょう?ミルマさん」


 一拍置いて続ける。

「僕も魔族を全滅させたい、貴方も魔族をこの世界から消したい……。そこで僕は今の立場を使い貴方達に安全な場所と魔族の情報提供をする、後ろ盾のない貴方達にとっては悪くない話だと思うのですが?」


「話はそれだけですか? まあこれ以上話してももう結論は出てるので無駄ですけど」

 ミルマが淡々と言う。

「目の前で捨て駒にされた人間が沢山いるのに貴方と同盟なんて組めると思います?」


 メストは分かっていたかのように。

「そうですか、残念です……。そちらの黒髪のお嬢さんはどうです?」


 クローゼはメストの方を見ることも無く。

「言ったでしょう? 私、貴方みたいなタイプの人間受けつけないの。とっととお家に帰りなさい」


「ふふふ、本当に残念、揃って未来を閉ざしてしまう愚か者だったとは」


 直後、クローゼが剣を抜く。

 が、半分ほどの所で弾かれる。


「あっれぇ、確実に殺したと思ったんだけどなぁ、反応が早いや」

 ノコギリの様な剣を持った男、イーガル。


「ふーん、七つの剣が二人、独断ってわけね」

「クローゼ、大丈夫?」

「ええ、あと一秒でも遅かったら死んでたかもしれないけどね」

 苦笑いで返す。


「イーガル、黒い方は任せたよ」

 イーガルと呼ばれた男は笑いながら。


「ねえ、ぐちゃぐちゃにしちゃっていいんだよね? いいんだよね?」

「好きにして構わないよ」

 メストが答える。


「じゃあ私の相手は貴方ということだね」

「残念、僕は戦わないよ、君の相手は」

 メストの後ろから大型の魔族が姿を表す。


「大好きな魔族だよ」


 二人は王国騎士が魔族と繋がっていたことに驚きつつも、クローゼはイーガル、ミルマは大型の魔族、ミノタウロスと戦うことになった……。

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