第十一話 青き瞳、本気の力

 中立国デトタフデア、領内。


「もうここまで火が回ってる……!」

「ええ、このままじゃ中立国は壊滅ね。急ぎましょう」

「空中の敵は頼んだわよ、ミルマ」

「任されました!」


 領内では中立国の守備兵士達が魔族と戦っている。

 だが、その状況は見てのとおり劣勢だ。

 住人を逃がそうと魔族と戦う兵士が何人も死んでいる。

 クローゼが兵士と交戦中の魔族を数匹一気に薙ぎ払う。

 コウモリ型の魔族をミルマが素早く撃ち落とす。


「中立国の兵士達、魔族の相手は私達がするわ。貴方達は避難誘導をお願い!」

 クローゼの声にどよめく兵士達。

「だ、誰だお前達」

「味方なのか……?」

「うちの兵士じゃないな……」


 しかし、そのどよめきは近くに居た隊長らしき男性の声ですぐに収まる。

「指示に従え! もはや一分一秒も無駄に出来る状況ではないのだぞ! このまま壊滅するわけにはいかんのだ!」


 隊長の号令で兵士達は負傷した兵士や住人達を避難させ始める。

 隊長らしき人物は戦いつつ、クローゼとミルマの方を一度見て。

「どなたか分かりませんが加勢に感謝いたします。その力があればこのじょうきょ……」


 時が止まる。

 隊長らしき男性の首が飛ぶ。

 周囲の兵士達は勿論、ミルマやクローゼもその状況に対応出来ずにいた。

 その元凶はミルマとクローゼの間に入り何も言わずにただ立っている。

 だが、誰も動けなかったのだ。

 最初に動いたのは兵士の一人であった。


「貴様! よくも隊長を!」

 無謀だった。

 兵士の首はすぐに宙を舞う。

 珍しくこの状況に飲まれていたクローゼがようやく口を開く。

「あなたは……あの時の……」


 そこに立っていたのはマルスプミラの城内で二人を逃がしたあの仮面だった。

「ミルマ! 行きなさい! 貴方は魔族をお願い、目的は分からないけどこの仮面は私が止める……!」


 同じく状況に飲まれかけていたミルマがすぐに動き兵士達に声を掛ける。

「皆さんはそのまま避難して下さい! 魔族は私が駆除します!」

「とにかく止まらないで、場に飲み込まれたら終わりですよ!」


 兵士達が仮面を警戒しながら住人を守るようにその場から門の方へと出ていく。

 その間、仮面を付けた人間らしき者は一歩も動かず、ただクローゼの前に立っている。

 クローゼが先に口を開く。

「この間は逃がしたのではなく、今この場に私達を誘導する為だったのね。どうりで都合よく中立国の前に出る道を教える訳ね」


 周囲の魔族を退治し終わったミルマが火が上がる領内を走っていく。

「クローゼ……! わたし、信じてるからね!」

 そして振り向くことなくまだ兵士と魔族が戦っている城へと向かっていく。

 そして仮面とクローゼだけが残った。


 クローゼが仮面に問う。

「誰も居なくなったわよ? そろそろ仮面を外すか何か喋ったらどうなの?」


 仮面は何も答えることなく、持ち手から両方に刃が付いている珍しい剣を構える。

「何も話す気はないのね、そして私を通してくれる気もないと……。なら仕方がないわね。私も忙しいのよ、口を開く気がないなら力づくで退いてもらうわ!」


 クローゼが仮面に向かって踏み込む。

 両者の剣がぶつかり合う。

 仮面は器用に両刃の剣をクルクルと回転させクローゼの剣を弾いていく。

 クローゼは自身の長剣のリーチを生かし相手の攻撃が届かない位置から何度も剣を振っている。


「実戦派ね……。分かってはいたけど、そこらの魔族や七つのなんちゃらとは違うってわけ……!」


 さらに素早く剣を振る。

(焦ったら負ける、でもこの仮面があのお子様の仲間だとしたらコイツの目的は中立国が壊滅するまでの時間稼ぎ……!)

 そして相手の剣が届く位置まで踏み込む。

 仮面はそれを見て一歩引く。


「どうあっても時間を稼ぐつもりね……」

 もう一度踏み込もうとするクローゼ、しかし踏み込む寸前に仮面の方から距離を詰めてくる。

「!?」

 対応が遅れたクローゼの剣が弾かれ後方へと飛んでいく。

 それを確認するまでもなく距離を詰め剣を振るう仮面。

 今、クローゼは手に何も持っていない。

 しかしその直後クローゼの足払いが仮面の膝に当たる。


「!!」

 初めて動揺したように飛び引く仮面。

 クローゼは微かに笑いがこもった表情で腰の短剣を二本取る。

「ふふ、今の私を本気にさせたのは貴方が初めてよ、誇っていいわ」


 クローゼの瞳の色が変わる。

 普段は緑色の瞳が、青色に。

「時間稼ぎ? 上等よ、出来るものならやってみなさい」


 仮面が引いた距離を一瞬で詰め、両手に、逆手に持った短剣を目にも止まらぬ早さで振る。

 仮面は初めの様に武器を回転させ凌ごうと必死だ。

「あら、二度も同じ捌き方が通じるとでも思っているのかしら?」

「残念ね、もっとやるものだ思っていたのだけれど」


 普通であれば重さ的にも短剣が飛ばされるのだが、クローゼの剣撃は仮面の力を物理的に上回っていた。

 弾かれているのは仮面、どんどん壁へと追い詰められていく。

 仮面の背中が後ろの壁に当たった時、ついに両刃の剣が吹き飛ばされる。

 身を回転させ壁から逃れようとする仮面に対し、クローゼは短剣を仮面の両肩に突き刺す。

 刺された衝撃を生かしなんとか門へと飛び引く仮面、追撃を入れようとしたクローゼの耳に再び大きな爆発音がした。

 城の方からだ、見ると中立国の王城が半壊していた。


「ミルマ……?」

 クローゼは決して隙を見せていない、だが殺気が消えたことを察したのか仮面が門から逃げようとする。

 だが、クローゼには追う気はなかった。

「逃げるなら逃げるといいわ、目的は達したんでしょう?」

「ただし、次はないわ、もしも次にその仮面を付けて私の前に現れるなら……」


 仮面は飛ばされた剣を拾う余裕もなく逃走する。

「いい子ね、さてと、私はミルマを追わなきゃ……」


 瞳の色が緑色に戻る。

 飛ばされた自分の剣を拾い、王城へと走り出すクローゼ。

(あの仮面は本当に人間……?私にこの力を使わせるなんてね……)

「なんて、貴方もそう思ってるかしら」

 もう見えない仮面の逃げていった方向を一度振り返り一人呟く。

「まあ、ミルマが居なくて良かったわ。あの子に見られる訳いかないもの」

 そして再び走り出す、崩れた王城に向かって……。


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