第七話 謎の仮面
王都マルスプミラ、城門。
「予定より早く戻ることになったわね」
「そうだね、予定とは違うけど家で一泊くらい出来るといいね~!」
一歩先を歩いていたアリュールがこちらに振り返り。
「私個人としては自宅に寄らせてあげたいところなのですが、それは国王との会談の結果次第でしょうか」
三人は城門をくぐり、王都へと足を踏み入れた。
見張りの兵士の横を通り、正面に見える王城へと一直線で歩いてゆく。
クローゼが何かに気付く。
「ねえ、さっきから後ろで尾行している者達はなに?」
城門を潜った辺りから建物越しにミルマとクローゼを見ている者が居たのだ。
「お気付きでしたか、わたくしも気付いては居たのですが、わたくしは尾行を付けるなんて話聞いてないので、国王、または他の手の者でしょう」
久々の王都をキョロキョロ見ていたミルマがそれを聞いて反応する。
「ねえお姉さん、本当に、知らないんですね?」
表情は普通でも雰囲気は威圧的だ。
「万が一にでも私とクローゼを罠に引っ掛ける為に連れてきたなんてことだったら、その時は……」
「ふふ、分かっています、貴方達二人を敵に回す度胸はありません」
そうこうしているうちに王城に着く。
王都の城門の見張り兵士よりも豪華な鎧を着た兵士が一礼した後、王城の門を開ける。
「まさか私がマルスプミラの王城に足を踏み入れることになろうとはね」
「王都住みでも一生入れない人のが多いんじゃないかな?」
ミルマとクローゼの会話。
そしてついに国王との会談場所へとたどり着く三人。
アリュールが扉をノックする。
「グロウ国王様、指令通り二人をお連れしました」
扉の奥から声が聞こえる。
「通してくれ」
扉が開かれる。
「初めまして、かな、ミルマ君にクローゼ君」
国王が高級そうなイスに座ったまま言う。
「初めまして、国王様」
「お初にお目に掛かります」
それを聞いてからアリュールは二人に
「お二人はこちらの席へ」
見ると国王と正面の位置にイスが二つ、周りにはアリュールを含め、七人、ウルスも居る、おそらく七つの剣のメンバーだろう。
二人は言われたイスに座る。
二人が座ったのを見て国王グロウが口を開く。
「君達の噂は聞いているよ。王都を抜け出して魔族を狩っている少女達がいると」
国王は二人を交互に見つつ話す。
「小さな村から港、そして砦までをも奪還し、人々を救っていると。それも圧倒的な力でね」
ミルマとクローゼはお互いを一度見る。
(私はただ魔族を狩りたいだけで救出はついでなんだけどね)
(それ、絶対言っちゃダメよ)
国王は続ける。
「私としても人々を救出してくれているのは大変ありがたいことだ、しかし、君達が魔族を倒せば倒す程我々と魔族の関係の修復は難しくなる。そこでだ、王都からの脱出、魔族の殺害、今までの事を全て無罪としよう」
国王はミルマ、クローゼ、そして部下である七人を見渡し言う。
「代わりに、その力を認め、君達に魔族と人間がもう一度友好的な関係を結ぶ為の架け橋となってほしい」
これまで黙っていたクローゼが国王に問いかける。
「失礼ですが具体的には何をすればよろしいのでしょうか?」
「魔族を殺す事をやめ、魔族の王ゴールに会いに行ってほしい。私からの伝言を書いたこの手紙を持ってだな」
再びクローゼが口を開く。
「殺さずに魔族の王に会いに行く、魔族の王ゴールは王都の次に巨大な城を拠点として周りには数千の魔族がうろついているのにどう突破するというのでしょうか?」
国王は当たり前のように言う。
「君達の実力なら可能だろう。殺さずとも突破するだけであるならば、な」
ミルマが怒りを抑えながら冷静に話す。
「私達を上手くいけば御の字、失敗してもいい捨て駒にするおつもりですか?」
今まで七人とも話を聞いているだけだった七つの剣の一人が席を立ち声をあげる。
「君、口の利き方に気を付けたまえ」
ウルスとは違って見てからに頭脳派な男がミルマに言う。
それに対しミルマはその男を見てすぐに言い返す。
「これは失礼致しました。ですが名も名乗らず急に話に入ってくる貴方も失礼じゃないでしょうか?」
男は一瞬馬鹿にしたように笑い。
「七つの剣が一人、イリアス。以後お見知りおきを」
クローゼはその様子を横目で見ている。
そして再び国王が口を開く。
「今までの罪を全て流すだけではない。成功した際には君達は英雄だ、地位も名誉も思うがまま、悪い話ではなかろう?」
今度はクローゼが一瞬だけわざとらしく軽く笑い。
「罪? 英雄? 地位? 名誉? 笑えない冗談なことで、まず私達は魔族を殺すことが罪とは思っていません。魔族が人間を襲い奴隷の様に扱っているのは許し、それを止める為に力を持って対抗することが罪だと? 酷い扱いを受けているマルスプミラの国民を見て見ぬふりをして王都の平和を守る事だけ考え、偽りの平和を作ろうとしている……」
「一番の奴隷は国王、貴方では?」
そこにいる誰もが驚いた発言、しかし一番驚いているのはクローゼをよく知るミルマだった。
「クローゼ……?」
それは普段のクローゼからは想像出来ない台詞だった。
直後、ウルスとイリアスが立ち上がりウルスは剣を、イリアスは銃を構える。
「所詮は子供、話が通じないようですね」
「やはりここで死刑にすべきだな」
同じく座っていたアリュールがこうなることを予想していたように笑ったのを、唯一クローゼだけが見逃さなかった。
「交渉は決裂だね、もう片っ苦しい喋り方はしなくていいかな? 私は英雄になりたいわけでもないし、地位や名誉も興味がないんですよ、私はただ……」
ミルマは一拍置いて。
「この大陸から魔族を一匹残らず殺せればなんでもいいの! です!」
ミルマとクローゼが席を立ち武器を構え、国王、そして七人の剣を見据える。
ゆっくりと国王が席を立ち。
「そうか、残念だよ」
イリアスが不気味に笑いながら言う。
「君達は生き残れる唯一の道を自ら閉ざしてしまったね。いや、死期を早めたと言うべきかな?」
ここまで黙っていた七つの剣の一人が初めて口を開く。
「この状況、君達はどうする?」
ここは王城の最上階にある会議室、かなり広い部屋だが、九人で戦うには十分とは言えない。
「国王はこちらへ」
アリュールが国王グロウを部屋から退出させ、部屋にはミルマとクローゼ、そして六人が残った。
「ミルマ、覚悟はいい? まあ、こうなることは分かっていたでしょうから聞くまでもないわね」
「勿論だよ、後々邪魔になるんだしここで全員殺しておこう。魔族じゃないけど……」
それを聞いた先程一言だけ喋った一人が
「それが答えか。何か作戦を用意しているものだと思っていたが、最後は正面突破とはね、力の使い方を間違えなければ長生き出来たものを」
その女性は刀を取り出す。
まだ喋っていなかった二人も動き出す。
「魔族を圧倒しているって噂のその力、見せてもらうよ」
「まあ、すぐに死ぬことになるがな」
七人の剣の残る二人の男たちが言う。
イリアスが銃口をミルマに向け。
「国王に背いたことを後悔して、死ぬがいい!」
発砲の音。
しかし、イリアスの銃から弾は発射されていなかった。
全員がすぐに異変に気付く。
「部屋の外……?」
ウルスがすぐに扉を開け外を確認する。
続けてイリアスも扉の外へ出る。
残りの四人は多少動揺しつつも警戒を緩めずミルマとクローゼを見る。
「ま、まさか……」
動揺したイリアスの声。
「こ、国王が! グロウ様が!」
続けてウルスの声。
会議室の扉を出た少し先、倒れている人物ともう一人、仮面を被った人間が居た。
倒れている人物とはグロウ国王だ。
仮面の人間は会議室の扉の方にゆっくりと歩いていき、ウルスとイリアスを両刃の剣で会議室の方へと吹き飛ばす。
それは一瞬のことだった、王国でも精鋭中の精鋭のウルスとイリアスが全く反応出来ない速度であった。
「くっ!」
「ぐあっ!」
二人の悲鳴。
そんなことは関係なしに仮面の人間は会議室に入り、七つの剣の六人をミルマとクローゼを合わせ挟むような位置に立つ。
「仲間? いや、違う、この二人以外に侵入者は居ないはず……」
刀を持った女性が言う。
「これは想定してないわね……」
クローゼはより一層警戒を高め、仮面の人間を含め七人を見る。
「あっちの仲間ってことでもなさそう、でも一般の兵士の実力じゃない」
先程までは余裕の表情でイリアスを見ていたミルマもさすがに驚いている。
七人の剣の中でも一番高齢に見える剣士が仮面の人間に対して言う。
「貴様、誰だ、国王を手に掛けたとなればどうなるか、分かっているだろうな」
剣を抜き対峙する。
が、その時には目の前に仮面の人間が。
振られた両刃の剣はギリギリのところで刀を持った女性が割り込む。
「速い! 一瞬でも気を抜いたら死ぬぞ!」
刀を持った七人の剣の女性が叫ぶ。
七人の剣のアリュールを除いた六人が仮面の人間の方を見た瞬間、仮面の人間はクローゼに向かって何かを投げる。
「?」
クローゼはそれを取り、すぐさまその紙を開く。
「これは……」
「何、なんだったの?」
それは城の見取り図、王都の外へと出る隠し通路が記された地図だった。
「いくわよ、ミルマ」
「罠かどうかわからないけど了解!」
二人は会議室の国王が座っていたイスの後ろ、渡された紙に記された壁を壊す。
するとそこには地下へと続く階段が。
それを見たイリアスが銃を仮面の人間ではなくクローゼに向け。
「逃がすか!」
構えた直後イリアスの銃は宙を舞う。
仮面の人間がイリアスの腕を蹴ったのだ。
高齢の男性が言う。
「二人に構うな! 死にたいのか! 悔しいが今はこの前の仮面人間だけを見ろ!」
六体一でも圧倒する強さ。
仮面の人間は二人が階段へと姿を消したのを確認し、会議室の扉へと一気に飛び戻りそのまま去る。
「俺とルナール、イーガルは仮面の人間を追うぞ! ウルスとイリアスは国王を頼む!」
高齢の男性は指揮をとり走り出す。
一方のミルマとクローゼ。
階段を下り洞窟のような通路を走りながらミルマがクローゼに尋ねる。
「ねえ、あの仮面の人、私じゃ勝てないかな?」
「今までの魔族や七人の剣と違って、正直絶対勝てる、とは言えないわね……」
「私もね」
ミルマは走ったまま。
「クローゼでも?」
「ええ、でもこの通路が本当に王都の外に繋がっているなら敵ではないかもしれない」
二人は走り続ける。
謎の仮面の人間に渡された地図を頼りに。
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