第六話 拭えない不安
ミルマの体を覆い尽くす程の大剣が振り下ろされる、それを細剣で受け流す。
「てっきり、加勢に入るかと思ったのですが動く気はないのですね」
アリュールもまた一歩も動かずその様子を見ている。
「ええ、戦い続ければ勝つのはミルマだもの」
何故か少し微笑むような表情を見せ。
「あの子を信頼しているのですね。なんだが羨ましいです」
今度はクローゼが不思議そうな様子でアリュールの方を見る。
一方その間も戦闘は続いており、ミルマは受け流すだけで、ウルスが攻撃を続けているといった感じだ。
「どうした、小娘、言っておくが俺は体力には自信があってな。疲れ待ちなら通用しないぞ」
大きな大剣をブンブン振りながら言う。
「残念でした! 狙いは……」
ウルスが大剣を横に薙ぎ払う。
「これでした!」
待っていたと言わんばかりにミルマはその大剣に飛び乗り、飛び乗る際に持ち替えた弓でウルスの頭に矢を突き付け、容赦なくほぼ零距離で発射する。
「ぬ? な、なに!」
強固な兜を粉々にし、すかさず首に剣を突き付ける。
「私の勝ちですね。私は魔族なら容赦なく殺しますが、人間を殺す趣味はありませんので、今後私達に剣を向けないと誓うのであれば見逃しますが?」
兜を破壊され、顔を露わにしたウルスからは先程までの威圧感がない。
「こんな小娘に……」
と言いかけウルスが言葉を止める。
「いや、生き恥を晒すつもりはない。俺の負けだ、殺してくれ」
「それは私が許しません」
今まで傍観していたアリュールがウルスに近付き口を開く。
「自分勝手な行動が過ぎましたね。これ以上勝手な行動を取ると言うならば貴方のその首、今ここで落とし反逆者として国王の前に差し出しましょう」
それは今までの彼女の雰囲気からは考えられない、初めから逆らうことを許さない冷たい雰囲気だった。
それから数分後。
ウルスは何も言うことが出来ず、彼女に従い自身の部隊をまとめ王国の方へと退却を始めた。
「貴方、怖いのね。絶対敵に回したくないタイプだわ」
クローゼがアリュールに向かい言う。
それに対して元に戻った優しい雰囲気でアリュールは言う。
「ふふ、ミルマさん、と言いましたか。あの子のが恐ろしいと思いますよ?」
「あれでもウルスは力だけで王都の兵士から今の地位まで上がってきた実力者なのです」
少し離れた位置に居るミルマがクローゼに声をかける。
「どうするの、このお姉さんに着いて王都にお話しにいく?」
クローゼは何かを感じていた、この女性は実力を隠している、王都の精鋭部隊、それどころか今マルスプミラで彼女に勝てる者が居るのか、と。
「ええ、上手くいけば今よりも後ろや拠点を気にせず動きやすくなるから、せっかくのご招待、受けてみようかと思うわ」
「そう、クローゼがそう思ったのなら私はそれに賛成だよ!」
アリュールは笑顔で。
「着いてきて下さるようで何よりです。王都までは魔族が出てきても私が追い払います」
「お二人の安全は保障致しますので、それでは招待致します。王都、国王の元へ」
ミルマとクローゼは中立国に近付きつつも一旦王都へと戻ることとなった。
王都に向かう途中。
クローゼは分かっていた。
魔族との共存を未だ掲げる国王との会談が上手くいくはずがなく、出された提案を拒否した場合今よりも悪い状況になると。
外に出ることを禁止されている王都から出た事、魔族を殺しまくっていること、唯一言い返せるとすれば、村や町、砦を取り戻し、村人や兵士を開放している事だ。
しかしそれ以上に魔族を殺している。
それでも断らなかった理由は、アリュールの存在だった。
(私は警戒を緩めたつもりも油断したつもりもない。でもあの女は急に私達の目の前に現れた、こっちにはミルマもいる、断ってこの場で戦闘になるなら勝てる自信はある、でも無傷で勝てるのか、わからない)
そんなことを考えていると声がした。
「どうしたのクローゼ、なんだが険しい顔してるよ?」
少し表情に出てしまっていたらしい。
クローゼは普段通りの表情で。
「なんでもないわ、それよりさすがね。大剣に乗るとは思わなかったわ」
話題を逸らしつつもアリュールの存在が頭から離れないまま王都に向かうクローゼであった……。
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