第三話 魔族に占拠された村、開放作戦
村へと向かう途中、交戦や妨害もなく以外と楽に村へと着いた二人と村人。
「村はこちらです!」
村の簡易的な門として使われている石壁に隠れ、様子を覗う三人。
「徘徊しているゴブリンが十匹程見えるわね」
クローゼが石壁から少し顔を出しバレないように村の様子を確かめる。
「あ、見て村の人が!」
ミルマが小さな声で言う。
「ああ……。あれはきっと私が戻らないから様子を見て来いと言われているのだと思います。あのゴブリンの指示で私は馬車を動かしていたので」
「確認しておきますね、貴方に指示を出したのはあのゴブリンで、村の入り口はここと奥に見える二つだけですか? それと仕切っていると思われるオークの居場所は分かりますか?」
クローゼの尋ねに男は答える。
「入り口はこちらの門と正面に見える門の二つで間違いありません。ただ村を囲んでいる石でできた壁がそう高くないので身体能力の高い魔族であれば飛び越えられるかと。オークの居場所ですが、オークはこの村を占拠して以降本来宿屋であった店、あの木の看板のかかった家に居座っていると思われます」
そうこうしているうちに先程のゴブリンに連れられ、一人の人間がこちらに向かってきた。
「いい? ここでバレて大声を上げられて乱戦状態だけは避けたいわ。ミルマ、あのゴブリンが門をくぐる瞬間に頭を射抜いて、『あ』の一言も言わせたら駄目よ、出来る?」
「勿論だよ。村人しか門を通過しなかった場合はどうするの?」
「その時は村人が門を通過した時点で私が背後に回って村人を気絶させるから、それと同じタイミングであのゴブリンの頭を撃ち抜いて頂戴」
「くどいけど大事なのはゴブリン、村人共に大声を上げさせないことよ」
「了解です教官殿♪」
クローゼがミルマを一瞬睨む。
そしてゴブリンと村人が歩いてきた。
「さっきの男が戻って来ないぞ! あの人間め、裏切って逃げているようだったらこれで殺せ! 首を持って来たら貴様には褒美をやろう!」
ゴブリンの声。
「あ、あ、わ、わかりました。」
恐怖に囚われた男性の声。
そして門まで村人、ゴブリンの順で通過するその時。
門を一歩出たその瞬間ゴブリンの頭には矢が刺さっており、その場で倒れる。
同タイミングでクローゼは村人の背後に回り口を押え意識を失くす。
そして二人は元の石壁の裏に隠れ直す。
気絶させた村人を指し、案内してもらった方の男に言う。
「この村人を連れて私達と会った石の場所まで退避しててくれますか?」
クローゼが小声で言う。
「わ、わかりました。どうかご無事で」
村人を背負い男は来た道を静かに戻っていく。
その様子を確認した後……
「この後はどうするのクローゼ」
「非戦闘員が居なくなったことでやり易くなったわね。ここからはバレずに、とはいかないだろうからミルマの矢でなるべく数を減らしつつ私が斬りこむわ」
「私のことも守ってね、クローゼ」
「そんな顔で冗談言えるなら守るまでもないわよ」
「いい? ここから見える手前三匹、まずはお願い。もうバレてもいいから確実に仕留めることを前提で」
「了解っ!」
ミルマが石壁から弓と顔を半分出し、構える。
「魔族……貴方たちはこの世界から一匹残らず私が殺してあげる」
三匹の内、一番遠い場所のゴブリンに矢が当たる。
「ギャ!」
ゴブリンの悲鳴、それに気付き手前二匹のゴブリンがミルマの存在に気付く。
「気付いても遅いの。死んで、どうぞ」
続けて矢を放ち、手前二匹のゴブリンが悲鳴をあげ倒れる。
「ホントに魔族絡みになるとおっそろしい子……」
クローゼが小声で独り言。
すると悲鳴に気付いた民家や奥に居たゴブリン達が一斉に集まってくる。
「弓矢だと? 一体だれが?」
その言葉は言い切れることなくそのゴブリンは地面に倒れる。
「知能が低いんだね。一斉に真ん中に集まるなんて、いい的ですよ」
ミルマが喋りつつも連続して矢を撃ち続ける。
半数以上が倒れたところで何匹かが建物の影に隠れる。
「突入するわ、背中は預けたわよ?」
「任されました!」
クローゼとミルマは左回りに村へと乗り込む。
すると左側の民家に隠れたゴブリン数匹がクローゼに正面から襲い掛かる。
「よくもやったな人間め! お前たちは他の奴隷よりもッ!」
言い切る前に口に矢が刺さる。
「そのうるさい口、閉じてくれるかな。誰も魔族の声なんて聞きたくないの」
ミルマが矢を放つ。
その間にクローゼが一気に間合いを詰めゴブリンに斬りかかる。
「これで左に逃げた奴等は終わりかな」
クローゼが周囲を警戒しつつ言う。
「次は右…の必要はなさそうだね、ボスのご登場ね」
男が宿屋と言っていた建物からオークが出てくる。
「随分と騒がしいと思ったら武装した人間か、貴様等は殺さず他の奴隷よりも……」
喋っているオークに向け、ミルマが矢を放つ。
「あら、反応して防ぐとはやるじゃない」
オークは手に持っている二つの斧でミルマの矢を弾いていた。
「でも言うことはそこらのゴブリンと同じなのね。どうせ他の奴隷よりも苦しませて後悔させてやる、とかその辺でしょ?」
オークは明らかに苛立ちを表に出し。
「貴様、もう容赦しねぇ。殺してやる」
「どうぞ、出来るなら、ですけどね」
「随分と安い挑発に引っかかる大将だことで。でも残念、オークさんの相手はこの私なのよ……」
クローゼが剣を向け構える。
「私はゴブリンの掃除? まあいっか、沢山魔族を狩れるし!」
「どこまでもふざけた連中だ、捻り潰してくれるわ!」
オークはクローゼに向かって突進し出す。
ミルマは周囲を見渡しつつ矢を構える。
クローゼは落ち着いた様子でオークを見据える。
「ホントにつまらない台詞しか吐かないのね、あなた」
「ほざけ! 潰れてしまえ!」
オークの斧がクローゼの目の前で振り下ろされる。
しかし振り下ろされた斧は地面を強く叩き砂埃があがるだけで、そこに人の影はなかった。
オークは動揺する。
「感触がない、どこだ!?」
時既に遅し、直後にオークの首が跳ね飛ばされる。
「動きが遅いわね、まあ力勝負でも負ける気はしないけれど」
オークの首が飛んだことを見て周りにいた残りのゴブリンに動揺が走る。
「た、大変だ。逃げるぞ、逃げるぞ!」
ミルマやクローゼの入ってきた方とは逆から逃げようとするゴブリン達。
「逃がさない……。一匹たりともね」
ミルマが背を向けたゴブリンに一気に矢を放つ。
「や、めろ、タスケテ!」
矢は全てゴブリンの後頭部に当たり、村の中にいた魔族はあっという間に居なくなったのである。
「これで村を取り戻せたね」
「そうね、でもいつまた魔族がこの村を襲いに来るか分からない。それでも私達はここに留まる訳にはいかない、なら出来ることは一つ」
「守るのではなく攻めるんだよね。魔族の占拠している村や町を迅速に解放していくことで魔族に取り戻す時間を与えない」
「そういうこと、まあ今日はこの町で休みつつ村人から他の村や町の情報を聞きましょうか」
その後、強制的に重労働を強いられ、自由を奪われていた村人達から沢山のお礼とおもてなしを受け、久々に人に笑顔や希望の表情が戻り、騒がしく夜が明けていった。
そして次の日。
村人から得た情報を元にミルマ達は魔族に支配されているという交易都市へと向かっていた。
「ねえクローゼ、次はもっと魔族が沢山いるんだよね」
「村、じゃなくて中心部にある交易都市って言ってたもの。それはもう、うじゃうじゃいるでしょうね」
ミルマがキラキラした瞳でまだ遠くに見える都市の方角を見る。
「わかってるとは思うけどその分下手に攻め込むと人質を取られたり自分たちが囲まれたりするんだからね?」
「わかってる、わたしはクローゼの作戦にはちゃんと従うよ」
「今回はミルマが作戦考えてみる?」
クローゼが提案する。
「ううん、遠慮しとく! 私はクローゼの立てる分かり易くて完璧な作戦がいいな!」
「私が作戦立てれば必ず上手くいく保証なんてどこにもないわよ。それにミルマあなた本当は頭良いくせに……」
(そうだ、失敗や敗北は許されない、あの時私はこの子の復讐を成功させてみせるって決めたんだから……)
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