第二話 初めての魔族狩り
ついに外へ出た二人。
「魔族に襲われた日ぶりの外の世界…」
ミルマが言う。
「なぁに、怖くなった? まだギリギリ戻れるわよ?」
「むー、いじわるだなぁクローゼは。さあさあ最初の生贄はどの魔族かな!」
わざとらしく張り切って見せるミルマ。
「いい?まずは食料や水が尽きないうちにマルスプミラの領域を超えて中立都市デトタフデアに向かうわよ。魔族に支配されてるのはマルスプミラの領域であって多分平気なはず……」
マルスプミラ王国のある大陸には大きく分けて三つの国がある。
一つがマルスプミラ王国、二つ目が中立国家デトタフデア、三つ目が軍事国家アクティディニア、この内マルスプミラの領土内のみ魔族の存在が許されていた為、王城を除いたすべての町や砦、領土が魔族に略奪されてしまったのだ。
「中立国家までは歩いて約三日ってところかしらね。宿と食料を確保するまであまり魔族と遭遇しないといいのだけれどね……」
(私はいつでも来いって感じで魔族の首の一つや二つ土産にしたいくらいだけど、
言ったら絶対怒られちゃうね)
「今、何か殺意を感じたんだけどまさか魔族と遭遇すればいいのにとか思ったりしてないわよね?」
「え!?うん、してないしてない、してないよ大事なことなので三回……」
「ならいいのだけれど……。直線で行くと三日掛からないけどこのルートは砦があるからダメ、右から迂回するルートは小さな町や村が多いから避けるべきね」
「と、いうことは左からの一番建物のなく見渡しの良いルートを進むというわけですねクローゼ先生?」
「何その呼び方……そうね、ただ見渡しが良いということはあちらからも察知されやすいということだから絶対安全ではないけれどね」
ここ数年マルスプミラの人々は城から出ていないからね、外の状況を把握してる人はいない、気を引き締めていかなきゃ……!
「ねえミルマ?」
歩みを進めながら突然呼ばれる。
「なあに、クローゼ」
「私はミルマの復讐を否定しない、むしろ正しいとすら思うわ。奪われた村での生活、両親は復讐を果たしても帰ってこない。この世界で、それがミルマの一番の幸せならば、私は最後まで全力で協力するからね。だから……やり遂げて」
どこか遠くを見るような感じでクローゼが私にそう言ってきた。
「ありがとう、大丈夫だよ。私には頼もしい親友が居るからね!」
クローゼは少し恥ずかしそうに歩き出す。
出発から三時間程経った頃……
「そろそろお昼にしましょうか」
クローゼは綺麗そうな岩を見つけるとそう言った。
「座って休憩出来そうだね。お昼には腐らないだろうとおにぎり作ってきたんだ!」
「え? 今朝は私がご飯作っていたからいつの間にそんなものを……?」
「クローゼの旅支度中!」
ええ……気配すら感じなかったのだが……この娘は良いお嫁さんになるぞ、同棲みたいな生活を何年かした私が保証する。
今、この時が一番幸せだな……。
「どう? クローゼ、美味しい?」
「ああ、勿論美味しいに決まって」
その時、どこからか物音がした。
「馬車……?」
動かしているのは人で物資を積み乗っているのはゴブリンが数匹。
「クローゼ! 人が! お城の外にも人が!」
「何か情報が得られるかもしれない、予定は変更、あのゴブリンを殲滅するわよ」
「了解、指示通り私はなるべく後方から弓を撃つね!」
クローゼはうなづき、岩から姿を現しゴブリンの乗った馬車の目の前に立つ。
ゴブリンが驚き、そして言う。
「人間!貴様達、一体どこから!」
馬車を操縦していた男性が叫ぶ。
「た、助けて下さい!」
それを聞いたゴブリンは棍棒を取り出し。
「奴隷は黙っていろ!痛めつけられたいのか!」
棍棒が男性に振り下ろされようとするその瞬間、そのゴブリンの頭には矢が突き刺さっていた。
「ギャアアアアアアア」
「汚い断末魔ね、さっさと死になさい」
棍棒を取り出した動きをみたミルマが矢を放ったのである。
「さてさて、お次は誰ですか?」
不気味な笑顔をしたミルマがゴブリン達を睨み付けるように見る。
少し驚いたような表情をしていたクローゼであったが、相手の方を見る。
ふむ、残るゴブリンは三匹、見渡す限り後続や周りに他の魔族はいないようだ。
「さて、では次は私の剣で首を落とされたい奴は誰かしら?」
クローゼが腰に掛けていた剣を取る。
「人間は全て奴隷! 逆らうなら痛めつけて立場を教えてやるか、殺してやる!」
ゴブリン達が馬車の男性を無視してミルマとクローゼに歩み寄る。
「下級のゴブリンさんが言ってくれるね」
「まずはこの黒い髪の女を殺すぞ! 侮辱したことを後悔させてやる!」
棒立ちで待つクローゼにゴブリンが一斉に襲い掛かる。
先頭のゴブリンが棍棒が振り下ろそうとする、だがその前にクローゼの刀がゴブリンの腹に突き刺さる、そのまま左に薙ぎ払い二匹のゴブリンが吹き飛ぶ。
しかしもう一匹のゴブリンがクローゼの後ろから襲い掛かる、がその棍棒が振り下ろされることはなかった。
「訓練通り、いい連携ね」
クローゼが言う。
「三匹薙ぎ払うことも簡単なクローゼがあんな隙を晒すわけないもの、これは訓練で教えてもらった前衛の囮を使った戦術の一つかなってすぐわかったよ」
「ふふっ、なら良かったわ」
馬車を動かしていた男性が大慌てで歩み寄る。
「何者が分かりませんが助かりました!ありがとうございます」
「いえ、元々私達が居なきゃ貴方が殴られそうになることもなかったのでは…?」
クローゼは男の方に向き直りそう言う。
「いえ、動けなくなったら殺される……。そんな奴隷生活を送らされています、なのでどのみちいつかは殺される運命だったと思います……」
ミルマが反応する。
「奴隷生活?この先には小さな村がありましたよね? もしかしてそこの方ですか?」
「そうです! あそこは既に魔族の手に落ちてしまっていますが……」
ミルマが何かを訴えるような目でクローゼの方を見る。
クローゼは男性の方へ向き直り。
「その村には他にも生き残ってる人間が居ますか?」
男性は答える。
「は、はい! ただ村を占拠しているボスらしきオークに皆奴隷の様に働かされてますが……」
「オーク、ね……。その村に案内してもらえるかしら?私達が取り返しますよ」
「ええ!? いいのですか? 危険ですよ、先程の戦闘を見た限り素人ではないのでしょうが、お若い女の子二人がどうにか出来る相手では……」
ミルマが笑顔で男性に言う。
「大丈夫ですよ、私達この国から魔族を一匹残らず殺す為に旅をしているので!」
男性は驚きと恐怖の混じったなんともいえない表情をしたが、口を開き。
「で、ではご案内いたします」
男はミルマとクローゼの目指してた方向と少し斜めの方角へ向かって歩き出した。
「ねえクローゼ、村を取り返せればそこで休憩も出来るし、魔族も殺せる。それに王都以外でまだ生きている人が居るならそれも救える、情報も手に入るかもだしいいことばかりだね!」
クローゼはわざとらしく溜め息交じりに。
「負けることは一切頭にないのね……」
こうして二人は村へと向うとなった。
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