第四話 交易都市ベルファミル
『交易都市ベルファミル』
王国マルスプミラ、中立国デトタフデア
軍事国家アクティディニア、マルスプミラの領土内でありながら他国との交流のある大陸一の交易都市である。
ミルマ、クローゼは見通しの良い都市の内部が見える位置までやってきた。
「ベルファミルは大きな壁や門で囲われていない分内部の状況が分かり易いわね」
クローゼが木や草に覆われた高台から都市を見渡しながら言う。
「でもその分見つからずに侵入するのも難しいってことだね。まあ魔族の全滅、都市の解放が目的だから見つかっても問題はないけどね!」
「作戦としては港に敵を追い詰めていく感じかしらね。魔族の数が多くても退路を塞げば戦いやすくなるから、くれぐれも自分達が港側、後ろが海なんてことにならないようにすることね」
三つある入り口の中の正面、真っすぐ向かうと港がある入り口に向かって歩き出す。
人影と共に魔族の姿が見えてきた。
「あれは……足の生えた魚ね」
「え? ゴブリンやオークと違って名前ないんだ……」
「ゴブリンも居るわよ。ついでにこの間の村と違って規模が大きいからかオークも一体じゃないみたいね」
ミルマが瞳を輝かせる。
「やったぁ、今回は私もオークを木っ端微塵に出来るんだね!」
「私そこまでしてないわよ……」
気付かれていない内にミルマが狙撃体制に入る。
入り口付近を徘徊しているゴブリン達を狙い連続で矢を放つ。
「それでは、戦闘開始!」
一匹目のゴブリンが倒れる、二匹目はそれに気付きミルマの方を向くが既に矢が刺さりすぐに倒れた。
三匹目は声を上げようとしたがそれも間に合わず倒れる。
合計五匹のゴブリンが倒れたところで都市全体が異変に気づきざわつく。
「突入するわね、くれぐれも住人を撃たないように!」
「りょうかい!」
正面の魔族をクローゼが次々と斬り捨てていく。
「敵襲!敵襲!人間の反乱だ!」
魔族たちが一斉に建物や港から次々と出てくる。
ミルマとクローゼは都市の中央、ちょうど十字路になっているところで歩みを止める。
「囲まれないようここで受け止めるわよ」
「うん!」
足の生えた魚、大きい槍を持った魔族が声をあげる。
「人間、たった二人で歯向かうとは実に愚かな生き物だな」
「片方を殺せ! もう片方はこんなことをしたことを後悔させる為に生け捕りにし、惨めに奴隷として使ってやるわ!」
魔族の士気が上がり、前、右、左、といた魔族が一斉に襲い掛かってくる。
「なんか言ってるけど、まんまと全員正面からきたわね。ミルマ、あなたどっちがいい? 生け捕りの奴隷? それとも」
クローゼの言葉を遮るように言う。
「その冗談は笑えないよ」
ミルマは火薬のついた矢を一斉に放つ。
その矢は上空に放たれ真上から魔族達に降り注ぐ。
「怖い怖い、敵じゃなくって良かったわ」
クローゼはそう言いつつ一瞬悲しげな表情をして、警戒しつつ降り注ぐ矢を見守る。
様々な魔族が悲鳴をあげる。
十字路の真ん中は放たれた火薬の付いた矢が当たった標的から横の魔族へと次々と火が移り、あっという間に半数以上の魔族が焼かれ、焦げた死体が転がっていた。
その様子を同じく見ていた半魚人が再び先程よりも大きな声をあげる。
「緑髪だ! 緑髪の人間を許すな! 殺せ! 殺せ!」
生き残った半数の魔族、戸惑っていたゴブリンやオークが再び動き出す。
「次は私の見せ場ね、ミルマ!」
合図と同時に火薬の矢がクローゼに向けて放たれる。
それを剣で思いっきり弾き、おそらくこの都市のリーダー格であろう半魚人の方向へ飛ばす。
「あ?」
驚きの声と共に半魚人が燃え上がる。
「黒髪ィィィ!」
燃え上がる半魚人はクローゼの方を睨みながら倒れる。
動き出そうとしていた魔族達がそれを見て再び止まる。
「私は黒髪、なんて名前じゃないわ」
「わたしも緑髪、じゃないよ!」
仲間はおろか、仕切っていたものまで数分で壊滅させられたことで、残りの魔族達の動きが変わる。
「何だコイツ等は、撤退だ、生き残りは砦にッ!?」
他に比べ大き目のオークが声をあげようとしたが、そのオークの喉に矢が刺さる。
「撤退? 何それ、貴方たちには戻る場所なんてないよ、ここで死ぬの、分かる?」
ミルマが普段とは違う鋭い眼光で魔族達を睨む。
それでも交易都市から脱出を図る魔族達を後ろから確実に狙い続けるミルマ。
ミルマの狙っている方向とは別の方向に逃げようとする魔族を追い、剣で仕留め続けるクローゼ。
その光景は街の住人達にとって数分前には考えられない光景であった。
こうして交易都市ベルファミルに居た魔族達はあっという間に一匹残らず駆逐され、ミルマ達は再び街人から感謝され、食料、今晩の寝床を確保したのであった。
夜、寝床にて。
「元々中立国デトタフデアを目指す予定だったけれど、こうしてマルスプミラ周辺の町や村を魔族達から解放して地盤を固めていくのもいいかもね」
クローゼが言う。
「そうだね、色んな種類の魔族も狩れるし良い事だらけだね!」
ミルマが言う。
「あの魔族達、砦に退却するつもりだったらしいけれど、王都を出た時には思いもしなかったほど人間は生きている……」
「一応中立国を近いところだし、予定は変更。砦も開放してからいきましょうか」
「うん、ではでは次の目的地は、エルモール砦!」
「待っててね、魔族達。貴方達が安心して寝れる夜は今日だけにしてあげるから……」
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