第6話 ベニ色の眼

「何をしている」


抑揚のあまりない冷たい声が響いた。


その一言で、据え膳状態だった野犬たちは、首輪を引かれたかのようにその場に固まり、凍り付く。


声はモブA、Bの後方から聞こえたため紅からはその人物が見えなかったが、この施設内でこんなお上品なしゃべり方をするのは一人しかいない。


看守長サマ。その人だ。


「お、おれらは別になんもしてねぇっすよ」


「そ、そうそう、ちょっと片づけしに来ただけで…」


モブA、Bも、背後にいる人物が誰か分かったようで、さっきまでの威勢が嘘のように縮こまり、言い訳をしながらお伺いを立てるように振り返った。


その時、彼らの隙間から一瞬だけ看守長の姿が見えた。薄ら笑いを浮かべながらも赤みがかかった瞳はしっかりと紅をとらえていて、どうやら助かったわけじゃなさそうだった。


「なるほど、既定のメニューでは足りないと?」


無機質な看守長の声に、モブA、Bはぶるぶると震える。無駄に図体のでかい二人組が必死で首を左右に振る姿は、もはや野犬というより駄犬だ。


紅は少し俯いて、こみ上げてきた笑いを抑えた。


(モブA、Bじゃなくて駄犬A、Bだな)


ふと浮かんだ名案にまた笑いがこみ上げる。


と、目の前の邪魔な壁が突然消えた。


顔を上げると、モブもとい駄犬A、Bが無様に走りながら遠ざかっていくのが見えた。


よく聞いていなかったが、何かしらのやり取りがあったのかもしれない。


「さて」


道を譲るように脇にどいていた看守長がこちらに向き直る。


赤みがかかった茶色い瞳に、紅の紅い髪が映っていた。

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