第5話 黒い心

備品室には誰もいなかった。


その代わりに、汚れに汚れた練習用の盾と武器が煩雑に置かれ、汗と泥の強烈なにおいが充満していた。


(きったねぇな…)


心の中で悪態をつきながら、シャレにならない臭さに顔をしかめる。


紅は、少しでもマシになればと扉を開け放ったまま足早に室内へ入り、手にしていた模造刀を同じものが立てかけられているところへ置いた。


そのまま駆け足気味に部屋を出ようとした時だった。


「あっれー、蒼ちゃんじゃん」


「なんでこんなところにいるのかなー?」


モブA、Bが、入口を通せんぼするように立っていた。


おそらく、扉を開けたままにしていたのを目ざとく見つけたのだろう。


「蒼ちゃーん、おサボりはいけませんよー」


ふざけたような口調で挑発してはいるが、ぎらついた眼が危害を加える気満々だった。


奴隷戦士になる理由として2種類あり、金のために職業としてなる者と、犯罪を犯し収容される者とがいる。


蒼は前者で、こいつらは後者だ。


「蒼ちゃん悪い子だなー」


「悪いコにはオシオキが必要かなー?」


しかも罪状は「強姦」だと聞いたことがある。


「か、看守様に呼ばれてたんですよ」


モブA、Bは壁を作るように左右に広がりながらじわりじわりと距離を詰めてくる。


こいつらには目を付けられているようだったので普段から警戒していたのだが、今日は例のドS野郎のせいでそこまで気が回らなかった。


「言い訳はダメでちゅよー」


ニタニタと下卑た笑いが気持ち悪い。


紅が一歩後ろに下がると、そこはもう壁だった。


ダメかもしれない、と、思った。

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