第7話 深い緑

背筋をスッと伸ばし、大きすぎない歩幅でゆったりと歩くさまは、さすが貴族サマ。


後頭部のひと房だけ伸ばした髪は、括られていても艶やかなのが分かる。


その色は、貴族の中でも珍しい深い緑。


栄養不足から色が抜けて赤くなり、パサつき、適当な刃物で切り散らかした紅の髪とは天と地ほどの差がある。


生まれも育ちも、生きる世界も違う。本来ならばこんな間近にいることさえもできないはずの相手だということを、些細なことからひしひしと感じる。


そんな看守長の背中を不貞腐れたように見ながら、紅はその3歩後ろを歩いていた。


彼がどこへ向かっているかはなんとなく気づいていたが、気づかないふりをする。


こういう変態は嫌がれば嫌がるほど調子に乗ることは知っている。少しでも早く解放されるためにはできるだけ無反応でいた方が良い。


平静を保つには蒼になり切ればいいだけなので、簡単なことだった。


看守長が足を止め、どこからか取り出した鍵で扉を開ける。


看守長室だ。


「鍵を閉めておけよ」


そう言い置くと、彼は看守長室に入ってすぐの一回り小さな扉へ消えていった。


(逃げるとか思わねぇのかよ…)


拍子抜けして思わず心の中で呟く。


言いなりのようで少し癪に障ったが、言われたとおりにしっかり鍵を閉めてから看守長の後に続いた。


前回訪れたときは気づかなかったが、先ほどの部屋は執務室で、こちらがプライベートな部屋らしい。


ベッドこそ大きかったが、サイドテーブルに小さめの椅子のみという、意外にも庶民的な部屋だった。


先ほどの執務室といい、必要最低限なものしか置きたくない主義なのかもしれない。


看守長はそのベッドの端に腰かけていた。


当然、目が合う。


一呼吸も待たずに目をそらしたのは紅だった。


ドクドクと派手な耳鳴りが聞こえ、顔に血液が集中するのを感じた。


(落ち着け!落ち着け!)


心の中でやけくそ気味に叫んでも、もう遅かった。


クスクスと愉快そうに笑う看守長の声が聞こえる。


叫びだしたいような逃げ出したいような、こんなに落ち着かない気持ちは初めてだった。

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